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クーの迷宮(地下 50階 ドラゴン戦)重力魔法実験4

 いよいよ本日のラストバトル。

『カースドラゴン』戦であるが、子供たちは足場のどうしようもなさから、きっぱりギブアップした。

 いよいよ僕の出番かと思いきや、大伯母がやると突然、言い出した。

 どうやら一日頑張ったご褒美をくれるようだ。


 結界を張って、一人火口に降りていく。

「ここを降りるのかー……」

 全員、呆気にとられる。

 僕ですら躊躇する高温の台地を易々と……

 そして結界の拡張と共に、一瞬で払いのけられる周囲の熱気。霧掛かって何も見えなかった一帯が透けるような青空に変わった。

 中央に鎮座していた『カースドラゴン』もこれにはびっくり。長い首をもたげて、咆哮を上げた。

「凄い」

「『領域支配』だ」

 リーチャさんとミケーラ先生が呟いた。

 付与魔法に属するが、要は結界による囲い込みだ。テリトリー丸ごと都合のいい環境に置き換えたわけだ。

 これ『お仕置き部屋』の匂いがするんだが…… 

「あれ?」

 音が。

 次の瞬間、何かが『カース』に突き刺さった。

「やべー」

「何したの!」

 全員、言葉を失った。

 リーチャさんにしてもミケーラ先生にしても一角の魔法使いだ。僕だってそれなりに。

「さすがは師匠。探求に余念がないようですわね」

「これが…… 元筆頭魔道士の力」

「大師匠、半端ねーッ」

 我らが師匠は遙か高みにいた。

 音が消えたのは風魔法で火口内の大気を抜いたせいだ。

 大気を抜いてしまえば、自由に飛び回ることはできなくなる。羽ばたきで灰が舞うこともない。ブレスですら、吸い込む大気がなければ燃焼を助長することはできず、威力が減衰する。

 その一方で見えないあれ…… 恐らく『雷撃』だ。発光現象が見られなかったのか、目に見えないほど速かったのか。

 放電することなく完全に収束した一撃だった。

 音もしない状況では大伯母の挙動と傷痕から類推するしかないが、頭部の一部に焦げた跡が残っていた。

 個性的過ぎる手法であるから、あまり参考にはならないと思われるが……

 否、魔法使い九人編成の子供たちなら或いは。

「子供たちには甘い気がする」

 オリエッタの言葉に同意する。

「甘々だよ」

 ギブアップした子供たちに、打開策をあっさり与えるなんて、あの大伯母にしたら気の迷いもいいところだ。

 ミケーラ先生の付与魔法が打開するための一助となるのか。

「……」

 まさか、このタイミングで彼女がここに来たのって……

「偶然だよな……」


 どちらにしても孫弟子には大甘だ。

 付与魔法など流派的には本来、不要なものだ。

 あの手のものを排除するためのイメージ発動型なのだから。

 でも、基本を身に付けることは間違ったことではない。実際、ミケーラ先生の魔法はリーチャさんにも見劣りするものではなかった。

「今日はいい勉強になったな」

 一時はどうなるかと思ったが、実のある一日になってよかった。

「不利な環境をも有利なものに変えることができてこその一流だ。そういう意味では――」

 横目で僕をチラ見して、口角を上げる。

 いつもの僕を挑発するときの仕草だ。

 どうせまだまだ二流ですよ。

 そっか、僕のためでもあったのか。

 どうやら慢心があったようだ。

 転移魔法一つ、追い越したぐらいで。

「高みはそんな場所にはないぞ」と、言われた気がした。

 でも後味が悪くならずに済んでよかった。

「こいつはどうする?」

「どうするって……」

 それは特大サイズにわずかに満たない大きな『闇の魔石』であった。

 大き過ぎて、有用性が甚だ疑問な一品だった。

 この魔石が空になったとき、誰が補充するのだろうと、考えたら持ち帰ることが危ぶまれた。

「預かっておくよ」

 転送すると、転送先で他の魔石に悪さするかもしれないので『追憶』に放り込んでおく。

「……」

 特に問題ないみたいだな。


 寝る前に『闇の魔石』に魔力を補充して、なるべく使い切るように子供たちも心掛けていた。

 魔力容量がそれで増えるのだからやらない手はないわけで。おかげさまで我が家やギルドハウスの照明は消えたことがない。

 これも子供たちの部屋のあるフロアの階段脇にでも設置して……

 いや、こんなでかい石、しょっちゅう移動できないし。そもそも使い道がない。

「船に備え付けておくか……」


 全員を外に送り届けた僕はヘモジたちを連れて再び迷宮に戻った。

 ヘモジも僕も不完全燃焼でうずうずしてたまらなかったのだ。

 大伯母が見せたものはそれ程までに完璧なものだったのだ。

『名人ほどその行動はさりげない』とは、よく言ったものである。

 四十九層の『三世』をぶっ倒して、ついでにピクルスの矢の補充をすることにした。

『追憶』を広域展開して囲い込む…… なんだか昔似たスキルがあったような…… 『牢獄』? そう、大伯母の前の筆頭魔道士だった大伯母の師匠だった人。遠縁なんだっけ?

 スプレコーンの古城に縁の人が今も住んでいるんだよな。

「そっか。大伯母の前にも優れた先人はいたんだな」

 思い知った。

 子供たちの師匠であると同時に、僕はまだまだ『ヴァンデルフの魔女』の弟子だということを。



「今日も浮島ごと破壊に成功」

「それをやり過ぎと言う」

「ナナーナ!」

「次はピクルスがやりたい。『三世』もっといっぱい出るようにして欲しい」

「怖いこと言うなよ」

 五十層の雪山の方に向かった方がよかったかな。


 帰宅したとき、家には誰もいなかった。

 夫人も留守だったので、たまたま居合わせた妖精族に尋ねると、まだ帰ってきていないと言う。

「ナナーナ」

 懇親も兼ねてどこか寄り道しているのだろう。



 リーチャさんの船に載せて貰ったと子供たちは大騒ぎしながら戻ってきた。

 造りがまったく違う船だったから面白かったようだ。

「船のなかに鍛冶屋があるんだよ」

「実戦で使ってるガーディアンも見せて貰った」

「山岳仕様の狙撃銃かっこよかった」

「『必中』攻撃特化ライフルなんだよね」

「普通のライフルじゃん」

「違うよ。時限式で弾が炸裂するんだから」

「凄いんだよ。自動的に敵との距離を測って、変数を割り当ててくれるんだって」

「照準器覗くだけでいいんだから便利だよね」

 範囲魔法を仕込んだ魔法の矢を敢えて使わないこだわりはなんなんだろうな。

 趣味人たるところが、彼らが『愉快』たる所以ではあるが。

「山の影からでも狙えるっていう超長距離照準器も見せて貰った」

 あれは『魔力探知』とそれを補助する特殊な術式が組み込まれているんだ。視覚に強く働き掛けてくるから、人によっては実像と見間違えてしまうらしい。しっかり『必中』と連動しているから、手前の山肌を射貫いたりはしないそうだが。

「魔力たくさん使うからって、魔石の補助スロットが四つも付いてるんだぜ」

 そう言えば、昔、ブリッドマンが嘆いてたような……

 大抵の冒険者は『魔力探知』を持っているから中距離までならいらぬ仕様だが、スキルの及ばないロングレンジではあの照準器付きライフルは無敵だ。

 まあ提供したのは、うちの工房なんだけどね。

 なかには『必中』と紐付けできない不器用な連中もいるし。

 ブリッドマンのお気に入りの一品である。

 中身は船に積んであるゴーグルと変わらないんだから、ありがたがる必要はないぞ。むしろコンパクトに収まっている分だけゴーグルの方が優秀だ。


 リーチャさんもミケーラ先生もさすがに夕飯までは付き合いきれなかったようで、船で解散したと言う。

 大伯母は自室に戻り、早速、重力魔法術式の修正作業に入っている。

「こりゃ、夕食時には現われないな」と、僕たちは料理を取り置くことにしたのだった。

 料理当番を除いた子供たちは料理が並ぶまでの間、フライングボードを持ち出した。夕食までちょっと飛んできたいそうだ。

 場所はお隣の学校の校庭。

 他の子たちもまだ遊んでるんだから気を付けるように。



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