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クーの迷宮(地下 50階 ドラゴン戦)重力魔法実験3

台風に注意を削がれて 投稿忘れる……

 時間切れ、お昼タイム。

 子供たちはサバサバと戦闘を切り上げ、戻ってくる。

 リーチャさんもミケーラ先生も子供たちの淡泊さに驚いていた。

 普通ここまで来たなら、昼食を我慢してでも粘りそうなものなのに、子供たちは我が儘一つ言わなかったのだ。勿論、子供たちは僕がいれば、すぐ戻って来られることを知っているからだが。

「じゃあ、帰るぞ」

「はーい」

「お腹空いた」

「さっき食べたじゃない」

「マカロンが腹の足しになるかよ」

「いいから早く」

 僕が開いたゲートに次々飛び込んでいく。

 結局、リーチャさんの出番はなかった。

 最後の一人が通過すると、僕は空間をゆっくり閉じた。


 リーチャさんとミケーラ先生を招いての昼食会になった。

 ミケーラ先生はまずエントランスの先の大木に驚き、そこに屯する妖精族の団体を見て失神し掛けていた。

 彼女は『ペルトラ・デル・ソーレ』の存在をまだ知らなかったのだ。

 街中で結構見掛けるはずだが、余所者だと警戒されていたのかもしれない。

 暢気に構えていると、珍獣扱いされて誘拐されちゃうかもだからな。

「…… 神樹? 妖精?」

 そしてノソノソとやって来たピューイとキュルルの登場に悲鳴を上げた。

「大丈夫だよ、召喚獣だから」

 普通の家は召喚獣を放し飼いにしたりしない。

 料理も彼女には見慣れない物だった。

 本家の異世界食材をふんだんに使える我が家では、他では見掛けない料理が当たり前のようにテーブルに並んだ。

 本日はドラゴンステーキをワサビ醤油で。

 ミケーラ先生が年配なこともあり、あっさり目の物が用意されたようである。

 がっつり行きたい子供たちはデミグラスソースの缶詰をねだった。

「ヘモジが丹精込めて作ったワサビの味がわからないとはねー」

 ラーラに馬鹿にされていた。

 ヘモジが気をよくして、ラーラの皿にワサビを追加するが…… さすがにそれは無理だろ。



 そして午後の部。

 フロアを選択してスタート地点に戻ってきた一行は、僕が開けたゲートに続け様に飛び込んだ。

 午前中に攻略したルートを歩いて移動するものだと思っていたご婦人ふたりは絶句。午前の終了地点まで一瞬で戻れたことに驚いていた。

 転移で連れ回せる人数は優秀な者でも数人がせいぜい。そもそも単身で跳ぶことすら、普通の魔法使いには難しい。

 大伯母でさえ、この人数を移動させようと思ったら、付与装備を付けた上で二、三回に分ける必要がある。

 増え続ける魔力量と練度の上昇によって僕は日々、転移魔法の進化を目の当たりにしてきた。ここまで転移魔法を極めた人間もいないだろうと自負するところである。


 子供たちの深呼吸と共に『レッドドラゴン』との戦いが始まった。

 勢い勇んで始まった戦いだったが、手練れのドラゴンにいいようにあしらわれる展開となった。

 ダメージを負ったら距離を取られ、再起されてはブレスを撃ち込まれ。不味い循環に入り掛けていた。

 重力魔法の支援もない。リーチャさんはおろか大伯母さえも動かない。

 僕が何かするのを手ぐすね引いて待っているような気さえする。

 が、僕のフェイントは既に何度か入っている。それでも決定打を与えられないでいるのである。

「足場が悪過ぎるんだ」

 子供たちは動けなかった。足を踏み外せば、奈落の底が待っていた。逃げる相手を追い掛けようにも追い掛けられない。一方敵はどこまでも逃げられる。

 氷魔法で翼を凍らせようとか、周囲にばれてもかまわないと雷を落としてみても、敵はのらりくらり。こちらが疲弊するのをただ野生の忍耐力を以て、じっと待っていた。

 普通の魔法使いなら、とっくに魔力切れを起こしているところだ。

 ここはもうピクルスしかいないが。

 一体しかいない敵をピクルスが仕留めては意味がないと、通常の矢で牽制を入れるのみ。

 必死に倒す手段を模索する子供たち。

「地の利が悪過ぎるよ」

 さっき聞きました。

 フライングボードを使う手もあるが、子供たちにはあれとやり合うだけのテクニックがない。斜面で使うのはかなり危険だし。落とされて退場するのが関の山だ。

「急に勝てなくなりましたね」と、ミケーラ先生が囁いた。

 練度の高い敵とはそういうものである。

 勝ちを急がず、互いにほころびを冷静に見極めようとしている。

 でも、そろそろ動き出す頃合いか。

 こちらの弱点にはもう気付いていることだろう。

 足場の悪い状況下で身動きが取れないこと。射程に限界があること。近接戦に脆いことだ。

 パーティーの外縁にいて一番小さくひ弱に見える個体を狙う。

 大きく旋回し始めた。

 狙いはマリーかカテリーナのどちらかだ。

 遠距離攻撃を仕掛けてこないヘモジはそもそも眼中にはないようだ。

 何度目かの揺さぶりの後、突貫攻撃……

 一気に来る!

「ブレス来るわよ!」

 子供たちもわかっている。

 今度こそと身構えた。

 ブレスによって容赦なく削られていく結界障壁と視界。

 青ざめずにはいられない。

 こちらからも「今度こそ」と総攻撃だ。

 見ているだけなら拍手喝采、血湧き肉躍るシーンだ。

 やってる当人たちは溜まったものではない。

 うっとうしい小者をまずは一体。これを繰り返せばいつか圧倒できる瞬間が来ることをドラゴンは経験則で知っていた。

 そう遠くない先に……


 突如、地面から突き出した巨大な棘に『レッドドラゴン』は腹を串刺しにされ、悲鳴を上げた。

「結構、得意なんだよね」

 マリーとカテリーナが舌舐めずりをする。

 ドラゴンは必死に身をよじるが腹に刺さった巨大な棘は抜けない。

「呆れるわね」

 棘の先に返しを付ける余裕が二人にはあった。

 恐れ入る。

 茎にヒビが入ってもすぐ再生されていた。

 そして追加の棘が容赦なく襲い掛かる。

 マリーとカテリーナはようやく一息付いた。

 万能薬を舐めて魔力回復だ。

 そして動けなくなった相手にトドメの鬱憤晴らし。

 相変わらずのオーバーキル。ようやく頭を吹き飛ばして終了だ。


「満身創痍だな」

 午後の部、開始早々、全員へたり込んだ。

「限界かもしんない」

 大伯母が笑っていた。

 褒めるでもなく、ただただ楽しそうに。



 子供たちは次の遭遇で、敵が複数現れたところでギブアップを宣言しようとした。

 が、ここでようやくリーチャさんが重い腰を上げた。

 そして大伯母張りの力業で敵をねじ伏せた。

 おかげ様で、子供たちはあっさり勝利を掴んだのであった。

 僕もようやく魔法陣の解析を終え、術式を手に入れることができた。

『浮遊魔法陣』とプロセスが似ていることに僕はこっそり驚いた。大伯母の思考の癖のようなものを差し引いても。進化の過程で自然発生した『浮遊魔法陣』と、タロスが進化して得た魔法陣がこうも似通うとは……

『反発』と『吸引』 ベクトルが逆なだけで同系列の魔法なのではないかと思うぐらいだった。


 次の相手はいよいよ手負いの集団。『カース』に痛めつけられた一行様だ。ここさえクリアしてしまえば、集団戦はたぶんもうない。

 足場は悪くないので、ギブアップはお預け、チャレンジタイムとなった。

 大人たちは子供たちの限界を悟ったようで、手を出すことにしたようだった。

 大伯母もミケーラ先生も援護射撃を躊躇しなくなった。

 僕の誘導が必要ないほど、呆気なくけりが付いていく。

 重力魔法の重ね掛けの容赦のなさを経験するいい機会となった。

 しかし、今更、ようやく有用性に気付いてももう遅い。子供たちは目で盗む機会を失ったことにようやく気付いたのだ。

 何とバーターにされるか知らないが、そのときが来たら大伯母に売って貰うんだな。



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