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クーの迷宮(地下 50階 ドラゴン戦)その肉は食えない

「面白いように効いたな」

「ナナーナ」

 多くいたドラゴンたちが悉く僕の陽動に嵌まっていった。ただの見せ掛けとバレてしまっては意味がないので撃てる時には撃ち込んだが。結果、混乱に拍車を掛けることに成功した。

 ヘモジにしろ、ピクルスにしろ、相手とがっぷり四つに組むタイプではないので、この点もうまく歯車が噛み合った。

 やばい。癖になりそう。

 鈍感な相手にも使えるようにちょっとゲートから顔出し的なことで応用できるようになったら…… それだと転移したことになってしまうか。

 あまり当てにしないでおこう。


 魔石を回収して先を行く。

「山頂に着いちゃう」

 ピクルスは歩き疲れて肩の上。

 オリエッタも前を向いているのに飽きて、僕の後頭部を背もたれにして欠伸する。

「熱い」

「お前、黒いからな」

「黒いの関係ない」

 氷をくれてやったら、ピクルスも欲しがった。

「ナナ」

 わかってるって。

 並んで歩くヘモジにもプレゼント。

 氷で作った器に氷片だ。

 ほっぺた膨らませて楽しそう。

 風向きが変わる度に熱風が吹き込んでくる。


 ようやく着いた火口の縁から中を見下ろした。

 溶岩は見えないが、落ちたら駄目だとすぐわかるほど蒸気でくすぶっていた。

「いるね」

「予想外。まさか頂点にいるのが『カース』だなんて」

 ゾンビだから明確な行動意欲はない。ただ地縛霊のように生前愛着のあった場所には縄張り意識があり、奪われることに強烈な拒否反応を示す。

 まさかお山のボスがゾンビ化するとはね。しかも身内が排除し切れないとは。

 揺らめく大気の向こうを狙えるか。僕は銃口を向ける。

 さすがにここではヘモジは戦えない。ピクルスは問題ないが、恐らくこの距離からでは不意打ちにはならない。

『一撃必殺』は通る。でもどんな敵かわからないまま終らせてしまってはここまで来た甲斐がない。

 とは言え、安全な足場がないこの状況下で、上から目線で挑むのは愚行であろう。

「空中戦、やってみるか?」

 他のドラゴンが介入してきたら対処できなくなるので緊急脱出の準備は必須。でもピクルスはまだボードが使えないから地上に残すことになる。

『カースドラゴン』はゾンビ竜だから飛行は苦手だ。あれ相手なら掻き回せるに違いないが。先の傷付いたドラゴンたちを見ると断定していいものか。

 正直『レッドドラゴン』ベースの『カース』なんて、滅多にお目に掛かれない。

『一撃必殺』が機能するので、お手上げということにはならなさそうだが……

「むー。やってから考える!」

 ピクルスが矢を放った!

 あ、ボード、まだ!

 ピクルスの髪の毛が逆立っていた。

 なんと『チャージ』付き『ツーショット』スキルが発動。二本の矢が同時に大空に放たれた。

 そしてさらに矢筒に小さな手を突っ込んで追撃。

「……」

 思わず笑ってしまった。

 自分には久しく忘れていた発想だったからだ。『下手な鉄砲数撃ちゃ当たる』とは、かつてこの世界にいたというご先祖様たちが残した言葉だが、目の前のちびっ子は今、躊躇なくそれをやっている。

 どうせ効果がないと思うのは僕のなかの経験から導き出された結果に過ぎない。ピクルスも同じ、と考えるのは傲慢だろう。

 次々空に放たれる爆発矢。

 一撃でも通れば、戦況は変わる。問題は致命傷でなければ回復されてしまうところだが、ピクルスの攻撃は威力も充分。

 敵の多重結界は今回も容赦なく無視されるだろう。百発百中の連続攻撃をこの強敵がどう捌くのか。耐え切るのか。

 案ずるより産むが易し、考えるだけ無駄だったという結果になりはしないか? だったら端から『一撃必殺』でよかったんじゃないかと。

 念のため、僕も加勢できる体勢を取る。

 目的は低空に釘付けにすること。ダメージを蓄積させること。そして敵の手の内を見ることだ。何もないならそこで終わりにするが。

 たぶん、そうはならないはずだ。

 巨大な翼が広げられた。

「黒いね」

「黒いな」

 敵は吠えた。

 猛烈な空気振動。ただの矢なら軌道が変わる。が、ピクルスが撃ち込んだ矢は目的地を登録済みだ。

 結果、敵は全弾正面から受けることになった。広げられた翼のおかげで的もでかくなった。

 爆発と羽ばたきによって舞い上がる粉塵で結果が見えない。

 そんな中、オリエッタは目を見開いて粉塵の先を見詰めた。

「くそ」

 火口のなかには奴の魔力残滓が充満している。

 それが粉塵とともにカルデラ内に散乱して目眩ましのようになっていた。

 生きているのか死んでいるのか?

 そもそもゾンビだから生きてはいないのだが。

 明らかに膨らむ魔力。

「ブレス!」

 オリエッタの言葉と共に、僕は結界を強化する。

 ヘモジは動かない。

 ピクルスは狙っていたかのように、次の矢を放った。

 ここまで周囲の魔素が乱れては、敵もこちらも…… いや、奴はゾンビだ。『魔力探知』は使わない。奴が使うのは『生命探知』だ。

 他のドラゴンたちの敗因はそれか! 僕は気付いた。

 火山灰が溜まったこの火口のなかでブレスの撃ち合いをすれば、結果として視界を損なわない『カース』が有利となる。

 そして『レッドドラゴン』たちが負った傷跡から察するに……

 ヘモジの口角が上がった。

 ヘモジは駆け出した。

 そして灰色の粉塵のなかに飛び込んだ。

「『衝撃波』!」

 僕は全方位に向けて一撃を放った。

 こんなことしなくても念話を繰り返しながらオリエッタがヘモジを導いている。

 目の前のベールが剥がされた瞬間。牙を剥き出しにした黒いドラゴンが。

「無理だ」

 僕の結界が接近を許さなかった。

 ブレスだったら、障壁が何枚か剥がされただろうが。押し合いだけなら耐えられる。

 灰色の世界に輝く閃光。

 勝ちパターンというものができ上がってしまうと、人もドラゴンも無意識にそれに頼ることになる。今までの相手は当然同種のドラゴン。多重結界持ち同士の戦い。ブレスの撃ち合いでは勝負が付かないから、当然、殴り合いになる。飛行が苦手な『カース』が『レッドドラゴン』に勝つための必勝法は。状態異常を含んだ爪と牙だ。

「悪いな。接近戦は得意なんだ」

 ヘモジが、ブレス攻撃に切り替えようとしていた『カース』の頭にミョルニルを叩き込んだ。

 が、当たり所が悪かったのか、うまく回避されてしまったのか、首をよって威力を軽減されてしまっていた。

 まさに腐ってもドラゴン。

 そこにピクルスの放った矢が満を持して戻ってきた。

「全弾命中!」

「まだ生きてる!」

「しぶとい!」

 ラストショットは……

「『一撃必殺』!」

「ナーナー、ナンナーッ!」

「ピクルス・ボンバーショット!」

 過剰攻撃になった……

「……」

 オリエッタが静かに僕を見据える。

 いや、今のは僕のせいじゃ……



「熱いな」

 火口の真ん中まで落ちていった骸の上にいた。

「結界の外に出るなよ。灰を吸い込むからな」

 よく見ればピクルスの最初の連射で『カースドラゴン』の全身は穴だらけになっていた。

 僕たちと戦闘に及んでいたわずかな間に、大分回復したようだが、そのせいで魔力供給が間に合わず、結果としてブレスを撃つタイミングを逸したのだろう。

 誰がとどめを刺したのかは物が丸っとなくなっているのでわからない。

「状態異常攻撃を受ける前に終ったし、御の字だな」

「そろそろ」

 骸が消えるタイミングだ。

 僕は降り積もった火山灰を固めて階段を拵え、足場を変えた。

 すると待っていたかのようにタイミングよく肉塊が消えた。

 僕たちは足元から熱が伝わってくる前に魔石を回収して転移した。

「……」

「子供たち、やれる?」

 オリエッタが聞いてくる。が、なんとも答えようがない。敵が次回も同じ癖を持って登場するか謎だったからだ。

 飛ぶのが大好きな『カースドラゴン』かもしれないし。

「取り敢えず状態異常対策の装備確認は必要だろうな」

 子供たちにとっては自由に空を飛ぶ『レッドドラゴン』の方が脅威になるだろう。少なくともあいつらの手数はピクルス並みに多いのだから。

「ところでピクルス、ボンバーショットって何?」

「格好いいから付けた」

 自慢げに笑みを浮かべる。

 突っ込もうと思ったが、満足しているようなので僕は次の台詞を飲み込んだ。


 本日のノルマ達成。

 気付けばすっかりいい時間になっていた。

 灰が降ってこない場所で、ギルドに提出する書類をしたためる。

「臨場感を忘れないうちに」

 その間、ドラゴンが火口に飛来すること数度。

 厄介者がいなくなったことに歓喜したのか、周知のためか、空に向かって吠えている。

 ああ見ると、ただの生態系の一部なんだけどな。

「ナナナ」

「『こっち来る』って」

「礼でも言いに来たのか」

「違うみたい」

 上空にてホバリング。口元からブレスの炎が漏れ出していた。

「ナナーナ」

「せっかく書いた書類が燃やされるのは困るな」

 僕たちは消えた。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] カースドラゴンが落とす魔石は闇の魔石? それとも元になったドラゴンと同じ?
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