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リオネッロ、穴を掘る

「はははははっ!」

 副団長が声高らかに笑った。

「さすがは団長殿の弟御様だ」

「そりゃ、どうも」

「なるほど。タイタンクラスを使役して濠を掘り、壁を築くか」

 ようやく光明が見え始めたようだ。

「十体も操れるのですか?」

 若い出撃部隊の隊長さんはゴーレムの仕組みを知らないらしい。

「難しいのは初期起動と修復だけです。あとはゴーレム本体の魔力が尽きるまで命令を実行してくれますから」

 タイタンクラスともなるとそう簡単に息切れすることはない。ただその分、初期起動と修復には膨大な魔力を消費することになるが。

 裏事情を知ってる者は工房関係者のなかでもあまりいない。

 昔はこのクラスになると爺ちゃんでも死にかけたそうだが、今では技術革新のおかげで安全性は格段に増している。もはや急激な魔力不足で卒倒することはない。ただ、こちらの世界の魔素のなさを考えると消費自体は当時ととんとんか、それ以上である。


「いいだろう。作戦を許可しよう。こちらにも『万能薬』のストックはある。足りなければいつでも言うといい。補充が条件だがな」

「自分でできるでしょう?」

「お前程、暇じゃない」


 取り敢えず了承を取り付けた。タイタン様々だ。

「俄然面白くなってきたわね」

 ラーラが拳を握り締めた。

「入り江の貫通は大穴を開けた後だぞ」

「わかってるわよ。でも特殊弾頭は駄目だったわね」

「どうせこっちの世界じゃ向こう程の威力は期待できないんだから、構わないさ。多少は楽できただろうけど」

「穴の規模に関しては何も聞かれなかったわね」

「そうだな」

「穴の直径が計画航路の九割だって言わなくてよかったのかしら?」

「工期短縮を考えるなら、どこかで手を抜かないと」

「やり過ぎだって言われるわよ」

「水の上が安全だと言うなら、非常事態に備えて広めに確保しておいて損はないだろ? むしろ道理だ」

「でも開拓できる土地が減るのは」

「その分魚の養殖でもすればいいよ。それよりミントの方はどうなってる? お仲間はいたのか?」

 ラーラは首を振った。

「後は山の向こうだけ」

「じゃあ、残りは上陸してからだな」

 ミントの仲間を大規模開発に巻き込むわけにはいかないので、偵察がてら救出活動を行なっている。ミントも一日中必死に飛び回っている。が、今のところお仲間は見付かっていない。



 いよいよ、姉さんの船ともおさらばだ。

 長いアームが僕たちの船を釣り上げる。

 昨夜の宴会で大人たちは皆、怠そうにしている。

元気なのは子供たちだけだが、今は船の中央で一塊になっている。

 姉さんたちはこれから立地のよさそうな場所に防衛ラインを敷くらしい。敵の襲撃ルートを潰すべく、最短コースになる南側の崖の谷間を一つ破壊して、そこに一つ。北の高地側にも敵を大回りさせるべく壁を築き、見張り台を置くらしい。東はだだっ広い荒野なので見張り台を置くだけとし、機動性のある船団を配置する。

 いずれこれらの防衛部隊は村を拠点に展開することになるだろう。


 入り江は断崖なので、当然、船は迂回する。

 船は南に舵を切り最寄りの浜を目指した。

 浜には退屈そうにしているタロスの見張りがいて、こちらを見付けると慌てて駆け出した。

 姉さんの船から出たガーディアンが二機、それらを空から追い掛けた。

 合流する前に叩くのか、集団を見付けてから叩くのかはわからない。

 僕たちは結果を見ずに、誰もいなくなった浜に上がると進路を北に切った。

「見張りを厳重に!」

「気付いたことは速やかに申告するように!」

 男の子たちはソルダーノさんの傍らにいて周囲の警戒に余念がない。

 ヘモジとオリエッタはメインマストの先端にいて、ミントは更に高い所を飛んでいた。

「ミント、結界の外に出るとドラゴンに食われるぞ」

「わたしなんて狙うはずないでしょ。でっかい獲物が側にいるのに!」

 なるほど道理だ。

「でも、普通の猛禽だったら、ちょうどいい餌になるんじゃないか?」

「誰が餌よ! でも、それはちょっと……」

 ミントは高度を落とした。


 僕は大きく息を吐いて、肩の力を抜いた。

「いよいよだ」

「ナーナ」

 ヘモジとオリエッタが武装して現われた。

「首が重い……」

 ここのところ、高価な付与装備は外していたからな。ドラゴンと対峙することはないと思うけれど、何が起こるかわからないから念のためだ。

「ナーナ」

 ヘモジは望遠鏡を大事そうに抱えている。

「じゃあ、行くか」

「行ってらっしゃーい」と子供たちが見送ってくれた。

 船はこのまま入り江に向かい、ラーラの作業を見守りつつ、こちらの作業完了まで停泊する予定である。


『ワルキューレ』でできるだけ高く飛び、大穴の中心予定地上空で周囲の確認を行なう。

「ナーナ」

 東に目的の山を発見。ゴツゴツした禿げ山だが、城塞都市を築くにはちょうどいい大きさだ。

 入り江から建設予定地まで見渡し、予め中心点を定めた測量ポイントを探した。事前に定めた目印があるはずなのだが。

「あの辺か?」

「ナー……」

「あった! あの岩!」

 岩の上に小石が重ねて置いてある。

 空の上から探すには小さ過ぎる目標だった。

「誰だ、あんな目印にしたの!」

「リオネッロ。目印の旗忘れた」

 そうだった。旗を立てておくべきところを忘れて、ああなったのだった。

 一旦目印の側に下りる。

「よし。まずは実証実験だ。それから魔方陣の構築だな」

 使う魔法はただの『爆発(エクスプロージョン)』だ。

 僕は杖を取り出すと、体感で万能薬一回分の補充を行なった。

「では」

 高度を取って小石が積み重なった岩、目掛けて発動した。

 轟音と共に見事に大地が吹き飛んだ。

 空に高々と砂の花冠が開いた。

 が、砂塵が晴れてみれば思った程大地は抉れていなかった。

「うーん……」

 思わず唸ってしまった。この世界の魔力の減衰傾向に嫌気が差す。目標の半分も削れていなかった。

「発動ポイントを深めに設定した方がいいかも知れないな」

 地表面では爆圧が周囲に逃げてしまう。

「爆破深度を下げてみよう」

「了解」

「ナーナ」

 同じ魔力で追実験。魔法の発動深度を山勘で十メルテ程に設定する。

 ドーンと地鳴りがして干上がった地表が浮き上がった。ひび割れた地面の至る所から、もくもくと煙が吹き上がって、やがて棚引いて消えた。

「ナ?」

「終わった?」

「深過ぎたかな?」

「威力を倍にしてみる」

『万能薬』全快二回分だ。

 今度は物の見事に地表ごと吹き飛んだ。爆風が大地を抉りながら周囲に伝播していく。

「いいね、いいね。これだよ、これ!」

「でも全然足りない」

「ナーナナ」

 ふたりは不満そうである。

「百回やってもあっちまで届かない? まあ、そうなんだけど」

 威力は大体わかった。

 後は魔方陣を組んだ段階でどれだけ底上げできるかだ。

 こちら側の装備付与を目一杯上げて三倍。風属性を加味すれば四倍? 『万能薬』十回分の魔力を装填して……

 色々考えると元となる魔素が圧倒的に足りない気がしてきた。

 魔素をなるべく消費しない形で効率的に威力を増すとなると…… やはり上位魔法……

 風属性の魔法は多様だけれど何を使うか。

(ストーム)』系…… は駄目だ。却ってロスが増える。

 やはりアンドレア様流に直線的に『魔弾』で地面を掘る方が早いか?

「うーん。違うんだよなぁ」

 僕は運河じゃなくて湖を造りたいんだよ。

「更に上の『衝撃波』で行くか」

 杖ってどれくらい魔力溜められるんだろう…… ちょっと限界まで試してみようかな。

 せめて二十回分、溜められれば…… 全力の『衝撃波』が撃てそうなんだけど……

「ドラゴンでも大量に降ってこないかなぁ」

「それはない」

「ナーナ」

 即行で否定された。

「わかった。『衝撃波』で行こう。全方位にきれいに拡散してくれることを期待しよう」

「こだわり過ぎ」

「そうか?」

「ナーナ」

「誰が変人だ!」


 実験で凹んだ大地を更に掘り下げ、底を真っ平らに圧縮加工する。金属の板のように滑らかに。そこに魔力増強用の魔方陣を刻んでいく。

 ロザリア様がよく使う『簡易教会』の護符の魔力増強版みたいな物だ。護符と言っても足元に敷き詰める程巨大であるが。護符はそもそも魔石とセットで使うものだからこちらの消費を考えなくてもいいわけで、魔石をあるだけ投入できる。ただし、爆風で破壊されてしまう可能性があるので充填式の魔石は今回に限っては使えない。損耗を度外視すれば別だが。

「二倍にもならないだろうけど。保険だ。保険」

「二重掛けする!」

「重複しないだろ?」

「一個は風魔法」

「ああ、属性強化か」

「ナーナ」

「刻むだけで日が暮れそうだな。みんな心配しなきゃいいけど」

「狼煙上げとく?」

「そうだな。帰りは遅くなるって伝えておくか」

「ナ!」

「あ!」

「薪ない……」

 周囲は魔法で吹き飛ばしてしまったから落ち葉一つない。そもそも砂漠だし。

「久しぶりの簡易食……」

「できるだけ、昼までになんとかしよう」



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