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クーの迷宮(地下 49階 精鋭ミノタウロス戦)シナジー効果

 翌朝、身動きが取れないと思って目を覚ますと、ヘモジとピクルスが僕の上に覆い被さっていた。

「困った奴らだ」

 二度寝にチャレンジしようとしたら、起きたヘモジに踏み付けられた。

「ナナナ……」

 畑仕事ね。行ってらっしゃい。

「ナーナ」

 ヘモジがピクルスの頭を撫でて出ていった。


 額を叩かれた。

 目を開けるとピクルスが僕を見下ろしていた。

「ごはん」

「…… おはよう」

「おはよう?」

 ピクルスはそそくさと部屋を出て行った。

「師匠、起きた?」

 マリーの声だ。

「起きた。涎出てた」

 余計なこと言わんでいい。

 涎の跡を鏡で確認。

 お前らの涎じゃねーか!

 僕は寝間着を浄化して服に着替えた。

 食堂に向かうと、子供たちがピクルスの髪に合う櫛の選定を髪をとかしてやりながら行なっていた。テーブルには家中から掻き集めてきた様々な櫛が並んでいた。

 ピクルスはどこぞのお嬢様のようにされるまま気持ちよさそうにしていた。

 選ばれた櫛が誰の物だったかは関知しないが、ピクルス専用として後日、結構な額の請求が来たことは明記しておこう。



 本日は四十九階層の続きの攻略である。第二砦を突破した所からだったが、改めて最初からということになった。

 理由は当人たちがピクルスのことで浮き足立っていて、よく覚えていないから。だそうだ。

 前回は僕を出し抜いてピクルスのレベル上げを企んでいたせいで、攻略に意識が向かっていなかったらしい。

 今更感はあったが、ピクルスの矢はいくらあってもかまわないので、僕は了承した。

 本日はピクルスも正式に戦列に加わる。位置取りは……

「なんで、そこ?」

「みんなと一緒」

 それがおかしいと言っている。

「大丈夫?」

 オリエッタも子供たちに確認する。

「大丈夫。修行だから」

 理由になってない。


 攻略が始まってみれば『光弾』も飛んでくることなく、圧勝で終った。

 敵の射程外から圧倒する姿はまさに圧巻であった。

 敵の遠距離にはピクルスが、近付いてくる近接には子供たちが対応した。

 結果、結界に触れさせることなく、砦一個分の敵を壊滅させることに成功したのであった。

「もう飲めねー」

「だから飲み過ぎだって」

 さすがに魔力は何度も底を突きかけたが、結界でガードすることもしっかり忘れなかった。

「そう言えばドレイク来なかったね」

「ピクルスちゃんがいるから、サボったんじゃない?」

「お腹空いた」

「……」


「宝箱あったよー」

 あんなに嫌がっていた矢筒集めを嬉々としてやる子供たち。

「目的意識って重要だな」

「やった。五十本確保」

 矢筒にして二セット分。

「こっちもあった」

 ほぼ一つ分を空っぽにしたので『追憶』のなかから一セット取り出し、回収した物は後でリサイズするため、放り込んだ。因みに以前から回収しておいた分は既にリサイズ済みである。

「結構消費するな」

 身近に弓使いがいないので、正直な感想であった。

 使用しているのが再利用ができない爆発矢なので、尚更そう思わせた。

 ミノタウロスの精鋭は衝撃耐性の装備を着ているので、威力が抑えられている嫌いはあるが、それでも通常の矢で鎧を射貫くよりはマシだった。

「こっちにもあった!」


 矢と魔石の回収を終え、次の砦に移動する。

『飛行石』を回収したくもなるが、ここは我慢、目的を見失ってはならない。



 ヘモジが欠伸するほど暇な展開。

 今回は隠遁を駆使つつの前進である。

 なんども攻略しているので内部構造は把握済み。スキルレベルがまだ上がっていないピクルスには僕がサポートしつつ、最後尾から通常の矢での参戦である。

「にゃ!」

 またヘッドショットを決めた。

 ミノタウロス兵の鼻面を捉えるようにちょこまかと動きながらナイスショットを連発した。

「頭でかい。楽ちん」

 確かにでかい的である。

 が、そこに通常の矢を通すことは余程の強力でないと無理である。僕だって身体強化をそれなりに上げないと。しかも簡単に敵の防御結界も貫通しやがるし。

 ときには足元に牽制、子供たちの動きをもしっかりサポートする。

 ピクルス恐るべし。

 二種類の矢を山嵐のように腰にぶら下げながら付いてくる。

 よくよく考えるとヘモジが手を貸しているようなものだから、これくらいの成果があっても不思議じゃない。

 その点、子供たちも障壁破壊用と殺傷用の二種類の魔法をうまく使い分けている。


「上にいるぞ!」

 二発の魔法が連続して命中。

 砕け散った結界の先に血飛沫を撒き散らす首なし死体。

「いいタイミングだったわよ」

 マリーとカテリーナを褒めるニコレッタも結界をしっかり彼女たちの手前に張っていた。

 その歳で二重結界、完璧か。

 攻撃担当が自身に張ってる分も含めると、それだけで三重である。他の子供たちも結構広い範囲をカバーしているので、場所によっては五重、六重にもなっていた。

 子供たちは順調に制圧エリアを拡大していく。

 壺も見付けて破壊した。

 砦の障壁が機能していないことから予想はしていたが、中身は今回も空っぽであった。が、そこで手を抜くわけにはいかない。万が一にも『光弾』を撃たせるわけにはいかないのだ。

 上階を取った後も通路を塞いだりしながら、子供たちは淡々と安全エリアを構築していった。

 敵も異常を察知して慌ただしく動き出したが、時既に遅し。気付いたときには全員、砦の外に追いやられていた。

「砦を乗っ取るとはね」

「ナナーナ」

 僕たちは呆れた。

 ピクルスが加入しただけで、こうも化けるとは。

 恐ろしいほどコンパクトに見事な連携が取れていた。まるでこちらがどこかのエリート部隊かのようであった。

 歪な動きが一切なかった。大人でも中々こうはいかない。

 すべてはピクルスを気遣ってのことだろうが、何が奏するかわからないものである。

 そのピクルスが最後の引導を渡した。

 爆発矢を敵陣中央に放ったのである。


 陣形以外にも子供たちの動きに明確な変化が見て取れた。

 何人かが『衝撃波』を盾代わりにして敵の動きを止め、味方に攻撃するチャンスを与えたのである。

 盾スキルの『バッシュ』のような使い方だった。

 子供たちとピクルス、相互作用の勝利であった。

 横目で子供たちの動きを目で追いながら、ヘモジが何やら考えている。

「バリエーションがまた増えるな」

 僕やヘモジの戦い方にも今後影響が出てくるだろうと確信する。



 三つ目の砦が目視できるポイントに到着。周囲には雪が残っていた。

 しばし脱線。子供たちは雪を手に取った。

「煙が見えるよ」

「また」

 前回子供たちと来た時には第三砦は完全崩壊していた。

「煮炊きじゃないよな」

 空に閃光が走った。

『光弾』だ!

 子供たちは手に取っていた雪玉を落とした。

 空から巨大な質量が落ちてきた。

 着地の衝撃で砦の隣の浮島が崩壊、砕けた大地が重力に引き裂かれた。

 かろうじて残った島の半分が鎖につながれ倒立する。

 それを衝撃波のブレスが邪魔だと破壊する。

「ドレイクだ」

「元気だなぁ」

「ここって炎竜じゃなかった?」

「あれ、四枚羽根だからドレイクだよ」

「ランダムなんだろう」

「ドレイクがいなくなるまで待機」

 理由は以前述べた。将来、召喚獣として新たなピクルスを迎え入れる可能性がある以上、その親への攻撃は避けるという。

 この距離だと『光弾』がこちらを狙ってくる可能性もあるが、それどころではないだろうと察する。

 それより進入経路が崩壊して瓦礫が邪魔してくる事態を警戒する。

 僕たちは山の尾根を利用して身を隠す。

「ちょうどいい。休憩しよう」

 僕たちは斜面をならし、そこに『追憶』に仕舞っておいた椅子やテーブルをぶちまけた。

 おやつはオーソドックスなパニーニとステーキサンドだ。

 ステーキサンドは昨夜の余り肉を甘辛ソースに絡めて、カヴォロの千切りと一緒に挟んだ物だ。

 遠くの喧噪を余所に僕たちはそれらを豪快にかぶりつく。

「おいしい」

 ピクルスも満足。

 寒い山の上で飲む温かい紅茶も実に……

 眺望も最高。

 昼食前に食べ過ぎた感はあったが、雪山ではちょうどよろしかろう。

 喧噪も静まったところで、僕たちは腰を上げた。

「どうする?」

「このまま山肌に隠れて進んで壁に穴開ける?」

「『光弾』がどうなったか、ここから確認できないかしら?」

 数名が望遠鏡を持って、峰まで登っていった。

「破壊が目視できればよし。できなければ」

 戻ってきたジョバンニの報告では目視は無理だったとのこと。とは言え、壁が壊れている段階で言わずもがな。魔力残量は無きに等しい。障壁が機能していようといまいと、正面からの進入は可能であるとのこと。第三砦は浮島の上に載っている。隣の浮島ほどではないが、地盤が傾いているらしく、地上との架け橋がどうなっているか。


 後片付けを済ませて子供たちは前進を開始した。

 そして浮島の下まで簡単に辿り着くと、吊り橋を探した。

 橋は健在であった。

 地盤に打込んだ鎖が仕事をしっかりしたようである。

 子供たちにとって最大の障害である吊り橋を越えると、崩れた門扉の隙間から難なく内部に潜入することに成功した。

 疲労困憊したミノタウロス兵の警戒心はもはや笊であった。

 防壁一面が見張りと共になくなっていることをいいことに、子供たちは外側に階段を拵えて一気に壺の保管部屋を急襲した。

 案の定、壺の中身は空っぽだった。

 一行は残党狩りへと移行した。

 急ぐ必要はなかったが、作戦は電撃的な早さで終了した。

 腹をしっかり満たした子供たちは気力充分。疲弊した敵に圧勝したのであった。



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