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クーの迷宮(地下 49階 精鋭ミノタウロス&四枚羽根ドレイク)ちんちくりん

「魔石回収完了」

「宝箱開けるよ」

「どうせ弓矢だろう」

「ナナナ」

 大正解だった模様。

「いらねー」

「今日使うんだから、回収しなさいよ」

「使うのか?」

「物は試しにね」

「射るチャンスあるかな」

「弓苦手ー」

「爆発範囲広いから、へっぽこでもたまには当たるでしょ」

「へっぽこ言うな」

「師匠、お願いします」

「はいよ」

 僕は回収した弓と矢を預かった。


 子供たちは次の砦に向かって歩き始めた。

「もうお腹たっぷんたっぷんだよ」

「だから、飲むんじゃなくて舐めろって言ってるじゃないの!」

「だけど飲んだ方が早いんだよ」

「お昼ご飯食べられなくなる」

 オリエッタがぼそっと呟くと、ヴィートの顔が渋くなる。

「そもそも飲み過ぎじゃない? まだ第一砦だよ」

「マリー、二回舐めただけだよ」

「わたしも」

「前に出過ぎなんだよ」

「そのうち、へたれるわよ」

「いつも通りだね」

「スタミナ考えようよ。たまにはさ」

「序盤は頑張って貰いましょう」

「なんだよ、みんなして」

「一人だけ無理したって、つらいだけよ」

 フィオリーナがやさしく頭を撫でる。

「自重する……」

「肩の力、抜きなよ」

「まあ、焦る気持ちはわかるけどな」

 取り敢えず僕は『万能薬』の増産を決めた。

「中毒になった話は聞かないけど、効力が薄れるという話はあるからな」

 そこまで金銭的にがぶ飲みできる物ではないので、臨床はほぼ一門のみの統計によるものだが。



 第二砦は前回のように襲撃されてはいなかった。

 雛がいてもイージーモードにはならなかったと一応の結論を得ることになった。そこで雛を戻そうかどうか考えた末、オリエッタ預かりとなった。

「お、重い……」

 オリエッタの小さな頭とほぼ変わらないでかい雛の尻がその上にボテッと載った。

「ま、前見えない」

 みんなで馬鹿笑いした。

「しょうがないなぁ。オリエッタは」

「オリエッタのせいじゃないし」

 僕のリュックの蓋にはオリエッタやヘモジ用の首出し口とか諸々あって、今はそこにふたり揃って収まるのであった。雛には装備がないので、鉄壁装備のオリエッタが万一の時かばえるようにだ。

 召喚獣よりお前の生存の方が大事なのだが。

「猫と雛って危ない関係だよね」

「食べちゃ駄目だからね」

「グルメだから! 食べないから!」

 ミートボールで満足するグルメがいるかよ。


 第二砦の構造は第一砦と基本的に差異はない。

 さて、今回も力業で行くのかな?

 そう思いきや、子供たちは隠遁しながら壁に近付くことを選択した。そして障壁が機能しているのか、軽く魔法を放って確認する。

「魔力、切れてるね」

 魔法を放ったミケーレが言った。

「てことは『光弾』もなしってことだね」

「見張り、来るよ」

「壁の上にいるのはまだスルーだからな」

「中に侵入して上を取るぞ」

「おー」

 壁に穴を開け始めた。

 魔法使いじゃなく、ベテランの工兵のようだった。

「この程度の壁、恐るるに足らず」

 子供たちはチーズを熱で溶かすかのように穴を掘っていくのであった。

 もうちょっと穴を大きくしてくれないと師匠は通れないんですけど……

 勝手知りたる敵の根城。階段を気付かれないように上っていく。

 そして最上階を取ると……

「野郎共、皆殺しだぁあああ」

「皆殺しだぁあー」

 うわー、教育的指導だぁあああ。

「もっと上品に! 海賊じゃないんだから!」

「しょうがないなぁ…… じゃあ」

「フッ、恐れを成して散るがいい!」

「そして大地を赤く染めるのだぁああ!」

「同じじゃねーか」

 ゲラゲラゲラゲラ。

「ナナナナーナ!」

 ヘモジが階段から上がってくる一団を一人で食い止めていた。

「ごめんね、ヘモジ。男たちが馬鹿で」

「醜い豚よ。跪きなさい!」

「牛だけどね」

「……」

 子供たち、なんでハイテンション?

「ナーナ、ナナナナ、ナーナンナーッ!」

 ミョルニルが稲妻を纏った。

 振り下ろされた一撃が砦の半分を吹き飛ばした。

「!」

「なんだ!」

「何?」

「何が起こったの!」

 一撃を放った本人も驚いている。

「ピ、ピ?」

 雛の頭にピシッと小さな稲妻が。

「ピーピーピーッ」

 騒ぎ始めた。

 ヘモジは胸に忍ばせていた雛の召喚カードを取り出し、覗き込んだ。

 わざとらしく驚いた顔をこちらに向けた。

「お前ら、どういう仕組みになってるんだ?」

 召喚獣が召喚主になったことで、何かあるんじゃないかと思っていたが。人と召喚獣がそうであるように、繋がっているということなのか? しかもその関係性は一方通行ではなく…… 相乗効果だったり?

「ピピ……」

 まさか。すっとぼけた顔をしてお前……

「オリエッタ、雛のレベルどうなってんだ?」

「再召喚されるまでレベル上がらないから……」

 ペロッと鼻の頭を舐める。隠し事か。

 あ、お前も共犯かぁ!

「お前らのテンションが高い理由って。わざと特攻かましてる理由って」

「ばれたか」

「ヘモジ、やり過ぎなんだよ」

「でも今の一撃で一気に上がったんじゃない?」

「レベル六十九の敵を結構倒したからね」

「ジャイアントキリング。経験値ボーナスも付くんじゃない?」

「ピューイとキュルルもこの手でレベル上げちゃえば?」

「駄目だよ」

「嫌よ」

 飼い主ふたりが拒絶してくれて、僕はほっと胸を撫で下ろす。が。

「ヘモジ……」

「怒らないで上げて」

「全部作戦なんだから」

「作戦って?」

「王様を倒す作戦」

 子供たちの顔が輝く。

「まさか」

「ピクルスの力を借りるのもどうかと思ったんだけどさ」

「ピクルスも新人だし。いいよね?」

 よくないよ!

 食事、どうすんだ!

 一回の食事でドレイクがどれくらい食うかわからないんだぞ。そもそも再召喚する魔力が足りるかどうかも。

「今、レベルいくつよ」

 今すぐヘモジの懐に収まっているカードを覗きたかったが。邪魔者たちが反攻に転じてきた。

「うわっ」

 でかい斧が飛んできた。

「それぐらい弾いて見せろよ。ピクルスに笑われるぞ」

「自分がやればいいじゃん!」

「ピ、ピ」

 ちょっと。また雛が放電してるんですけど。ミョルニルの影響では?

 うなじがチリチリするんですけど!

「あ!」

 オリエッタが声を発した。

「なんだ」

「雛、消えた」

「え?」

「……」

 お前も勝手に帰る口か……

 そしてそれは勝手に戻ってくるのであった。

 うげー、魔力が…… 雛のときと段ちだ。

 頼むからドカ食いしてくれるなよ。

 ヘモジが戦っている一方で、再召喚のための魔力が吸収されていく。

 でかいクレーター並かよ。

 僕も剣じゃなくて杖を持たなきゃいけなくなるかも。

「キターッ!」

「キタキタキター」

「ナーナンナ!」

 新たな仲間の降臨である!

「……」

「え?」

「あれ?」

「ちっちゃい」

「四枚羽根はどこ?」

「ドレイクだよね?」

「ピピーピッ。ピーピッピーッ!」

「!」

 そこには見慣れたポージングを決めるもう一体のヘモジの姿があった。

「どういうことなのかな?」

「ナ……」

 ヘモジは持っていたミョルニルを床に落とした。

「子は親に似るって言うけど。同じはないよね」

 オリエッタが皮肉交じりに乾いた笑みを浮かべた。

 所々羽毛に包まれて、女の子っぽい差異はあるけれど…… サイズ感はぴったりそのまま。

「なんか女の子っぽい」

「雌だったのかな?」

「それよりなんであの召喚ポーズ知ってるの?」

「アレ必要なの?」

「召喚獣ってなんなの?」

「俺に聞くなよ」

 こっちにも聞いてくれるな。

 ピクルスが戦闘を余所に瓦礫を伝って、てくてくと階下に下りていく。

「危ないよッ!」

 案の定、敵の標的にされた。

 が、ミノタウロス兵の巨体は何かに弾かれて空高く飛んでいった。

「し、衝撃波ぁ?」

 まさかヘモジの魔法使い版とか……

 やめてくれる? こっちの魔力、いくらあっても間に合わなくなるから!

「ピーピ」

 立ち止まって、キョロキョロしだした。

「宝箱だ!」

 オリエッタが驚きの声を上げた。

「あそこに宝箱なんてなかったのに」

 ヘモジが飛び降りていって宝箱に接近、鍵を開けた。

 襲い来るミノタウロス!

 またもや『衝撃波』で吹き飛ばした。

「ピッピッ」

「ちょっと。待って」

 オリエッタが飛び上がった!

「神器だ!」

 小さなピクルスが手にした物はこれまで通りの弓だと思いきや、見るからに小さな子供サイズの、それでいて神々しいものだった。

「『スリュムヘイムに残されし弓』だって」

「名前、長っ」

「効能は『勝手に命中』」

「ただの必中の弓かよ」

「『「防御貫通」 容易く防御や結界を打ち破る』だって。因みに魔力消費、一回に付き二百」

「おい」

 弓までドカ食いするのかよ。

「連射しないように言わないとね」

「擬人化じゃなくて、ヘモジ化しちゃたんだね」

「雷帯びてるのもそのせい?」

「弓に特に属性はないから、たぶん」

「まあ、巨大なドレイクにならずに、ちんちくりんになってくれたことには感謝するよ」

 戦闘は続いている。

 僕の結界内に子供たちは収まっているので、傍若無人に戦っていても問題ない。そう言えば、結界にも魔力使ってたんだ。注意しないと。

 敵は数をただただ減らしていった。

 怒りが困惑に変わり、焦りを通り越して、恐怖し始めたそのとき。

 ピクルスが宝箱に入っていた例のアレをたどたどしい手つきで放った。

 高威力の爆発が距離の遠くないところで炸裂した。

 放ったちびっ子二号がこてんと床に転がった。

「あ、戻ってきた」

 そして僕をよじ登り、リュックの蓋の上に収まった。

「ピーピーッ」

「『怖かった』って」

「まあ、そうだろうな」

 身体はヘモジと同じでも、中身は生後一日である。

「幼児がまた一人増えるんだな」

「ヴィート、ピクルスちゃんの弓、忘れずに回収してあげて。専用装備みたいだから」

「そうなの?」

「羽根の模様が刻まれてるじゃない」

「量産品じゃないんだ」

「だから神器だって」

「ミョルニルみたいなもん?」

「マジかよ」

「クッキー、食べる?」

「ピピ」

 ちょっと、おチビさんたち、戦闘中にくつろがないでくれます?

「ナナナーナ」

 ヘモジがヴィートの前に割り込んで『スリュムヘイムに残されし弓』を拾い上げると、敵に向かって次弾を撃ち込んだ。

 矢は手前に突っ込んできた敵に照準、勝手に命中、爆発して、ヘモジはピクルスと同様、爆風に飲み込まれた。

「死ぬかと思った」

 ヴィートが自分の張った結界から抜け出してきた。

「怒ってる、怒ってる」

 ヘモジが割り込んできた敵に怒って、地団駄を踏んでいた。

「扱いが難しそうね」

「必ず当たるっていうのも難儀なもんだな」

「適当に撃つからだよ」

 子供たちは思い思いの感想を述べる中、ヘモジも戻ってきた。

 お前が前線抜けて、どうすんだよ。

「ナナナ!」

「これは役に立たない」と不満をぶつけると、弓を僕に渡して戻っていった。

「何しに戻ってきたんだ?」

「自分の定位置取られたくなかったんじゃない」

 僕は自分の肩の上にいるピクルスを見た。

「でも、こらえた。兄貴分として」

 そういうことか。

「オリエッタはここでいいよ。肩の上は譲って上げる」

 背中のリュックの上でいいとオリエッタは宣言した。

 そこなら寝そべられるしな。

「じゃあ、今後はピクルスが左肩だな」

 右肩は当然、ヘモジである。

「ピピ」

 ピクルスが雛みたいに座り込んだ。

 そのでっかいカボチャパンツはアンダーなのか、はたまたアウターなのか?



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― 新着の感想 ―
[一言] ヘモジ化は流石に予想外(笑) >うげー、魔力が…… 雛のときと段地だ。 「だんち」は「段違い」の省略なので、この字はあてられないかと。
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