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クーの迷宮(地下 49階 精鋭ミノタウロス&四枚羽根ドレイク)三度目の正直

 夕食後は押し込んであった『飛行石』の加工と回収を行なった。逆さまにした鍋にポコポコと。

「保管しておけないから組み込んじゃう」

 金塊の方は兎も角、鉛で固めた方は優先的に消費すべく『追憶』に放り込んで工房の方の倉庫に移動。素材をこねくり回し、まず『ホルン』の一番重い部位である盾と装甲の裏地に宛がうことにした。

 結果、ミスリルの如く軽くなった重装甲を獲得。これによってサブアーム等の機構の負担軽減にもなった。飛行に関しては重力の影響を排除できた効果は絶大。上昇、飛行時の相対出力は急上昇、燃費もよくなるだろう。が、降下時は逆にスラスターを吹かせなければ運動性能を維持できなくなった。運動面での設定の見直しは急務であった。学習機能の範疇を大きく超えてしまったから。

「いっそゼロにしてしまうか」

 それはそれで面倒ごとが増えてしまう。装甲を外したら部位がプカプカ浮いて工房の天井に張り付いてしまったりしたら困りものだ。蹴飛ばしたらとんでもないところまで飛んで行ってしまったりしたら……

「笑える」

 いや、そうではなくて、やはりメンテナンス要素も重要である。ただ、作業用の機械を使わなければ脱着できなかった重いパーツを剥がしたりする苦労も軽減できるならばと思ったのだ。

 そこでパーツ一つ一つを検証。予てより考えてきたことでもあるので難しいことではなかったが、強度的な影響が出ないところでバランスを調整するのはそれなりに難しかった。

 仮組みをした段階で、重量はかつての三分の一。軽過ぎると甲板に出した途端、風に飛ばされそうなので、さすがに無茶はしなかった。

 重力軽減専用パーツで、完全に重力ゼロ機体を造っても面白いだろうが、あちらの世界で見る『飛行船』等を見る限り、運用が楽かといえば如何ばかりか。

「なんとなくできたな」

 飛ばすの怖いわ。絶対これまでと感覚違うはずだから。

 上昇し易く、下降しにくい機体。スラスターで制御するから最終的には落ち着くだろうが。

「どんな感じだろう」

 テストパイロットが駄々を捏ねて「自分がやる」と、言う前に試させて貰おう。


「見た目は変わらないな」

 僕は一歩踏み出した。

「おお!」

 なんと軽やかな出だし。こりゃ関節駆動にほとんど負荷が掛かってないぞ。摩擦の影響のほとんどは重力と機体の自重負荷によるものであるからして、掛かっているのはほとんどトルク分ということに。

 関節部のレベルダウンも可能となるが、こりゃ調整が厄介だぞ。近接で使うならそもそも機体重量を軽くするのは悪手であるし。飛ぶだけなら軽いにこしたことはないが、ガーディアンの仕様は多岐にわたる。ちょうどいいバランスとは……

 ヘモジにも使えて、僕の狙いにも嵌まるような仕様ともなると……

「外装自体をオプション化するしかないな」

 それにしても我ながら奇天烈な物を作り出したものだと感心する。

 一般常識とは真逆の試み。装甲板を落とした方が機体が重くなるなんて、これは笑える。ロメオ爺ちゃんが爆笑しそうだ。

 機動性重視で序盤は遠距離主体。弾切れになったら近接戦闘という仕様にできるかもしれないが、うちのヘモジは弾切れまで待ってくれないからな。

 でもそれだと外した外装が空の彼方に飛んで行ってしまうし……

「どうしよ」

 何がベストなのか、もうわからない。前人未踏の領域である。

 取り敢えず、次の段階においてはベースの骨格重量は作業性を考慮する程度に抑えることにした。外装パーツも若干の重さを残して様子を見ながら妥協点を見いだすことに。

「いやー、装甲付けまくってるのに、この動きは異常だよな」

 そもそもミスリル装甲であるから『ニース』のようなぼってり感はない。

 あれもミスリルを利用するようになって大分スリム化できていたわけだが。

「装甲、増し増しで」

 なんて注文が将来出てくるかもしれない。

 空を飛ぶとなったら質量の増加は多分に問題になるから限度はあるだろうが、地上特化の機体には恩恵が大きいはず。それこそ背中に武器背負い放題だ。



 数日後『ホルン』は外見自体の変更をほぼすることなく、改修を完了した。が、パラメーターはまったく異なる機体となった。近接戦における重量問題には新たな武器を用意することで対応した。

 それは『魔装ブレード』なる特殊兵装。わかり易く言うならば、魔力特化の魔剣である。切れ味を魔力に依存する方向に偏重したのである。

『飛行石』でボロ儲けしようと思ったのに、半分を物々交換する形で、予備も含めてオリヴィアに造らせることにした。もちろん重しにしていた金は回収させて貰うが。

 通常兵装にも『強化』等の付与が付いてることはよくあることなので、珍しいことではなかったが、旧来のブレードの切れ味と強度を最低限の基準にしてとなると結構無茶な依頼であったようだ。

 でもヘモジに簡単に折られるようではお金がいくらあっても足りなくなる。しっかり投資しておくことにした。一生物となるなら安かろう。

 でき上がった物は完全に僕の嗜好に合ったものだった。さすがオリヴィア、わかってらっしゃる。

 増えた魔力消費量も、積載荷重に余裕ができたおかげでテコ入れができたから、どんとこいなのであった。



 さて四十九層と五十層、攻略対象をどうするか、考えなければならないのはヘモジも同じであった。

 が、再戦を願って裏口から入る手は悪手であった。

 なぜなら入場と共に城中の敵がこちらを標的にしてくることがわかりきっていたからだ。

 あの王様がこちらの接近を見逃すはずがない。

 情報の伝達速度との競争になる。

 間に合えば、周囲からの攻撃は防げるかもしれないが、現場は狭いし、ふたりの戦いが始まったら倒壊しかねない。

 やはり周囲の敵から潰していくことが理想なんだが…… かと言って、砦を一つずつ潰していくのも面倒だ。

「出口を出たら、転移して、まず城壁に移動する。浮島に繋がる回廊を落として、雑魚敵を殲滅する」

「ナナ?」

「いや、ヘモジは側近をやれ。魔法使いの方な。遠距離が二人いるのは面倒だからな。もう一体の側近はできればでいい。詰みそうになったら、出口に飛び込んで、僕が周りを片づけるまで待ってくれ」

「ナナナ」

「『プライマー』使う?」

「それだと、一番魔力の大きい王様を倒しちゃうかもしれないだろう」

「ナナナナ!」

「わかってるって」

「通常攻撃でなんとかするよ。オリエッタは攪乱よろしく」

「じゃあ、頑張っていこー」

「深刻さがないよね」

「三度目だからな」

「ナーナ」

 僕たちは隠遁しながら四十九層出口から周囲をそーっと観察した。

「卵はなさそう」

「王様倒したら現われるかな?」

 敵はいない。が、すぐ上の階には奴らがいる。セーフティーゾーンから一歩でも踏み出したら。

 見付かる前に転移した。

 場所は城壁、昨日子供たちが隠れていたポイントだ。

 僕は周囲にいる不特定多数の敵を一気に氷漬けにして、後方を見下ろし、城に繋がる回廊を吹き飛ばした。

 これで増援はない!

「戦闘開始だ!」

 僕の合図と同時に敵が反応した。王の間の壁が内側から吹き飛んだのだ。

 ヘモジは駆け出した。

 僕もヘモジを追い掛けた。

 魔力反応!

「ヘモジ!」

 敵の収束弾が舞い上がる土煙越しに飛んできた。

 破壊された瓦礫が爆風と共にヘモジを襲う。収束弾を避けても瓦礫に当たる。

 結界の範囲を広げつつ、僕は瓦礫を撃ち落としていく。

「クソッ」

 いきなり魔力を使わせてくれる。

 魔法使いの側近が倒壊した壁の前面に出てきた。

「ナナーナ」

 今日は後ろに控えていないんだな。殊勝なことだ。連戦連敗の汚名を返上しようというのか。

 もう一体いたはず――

「!」

 頭上にいた。

 大斧を振り上げて、ヘモジではなくこちらを狙っていた。

「急にやる気を出しちゃって」

 オリエッタが言葉を発し終る前に、敵は僕を見失った。

 そして落下地点に到達する刹那、片足を失い頭から地面に激突することになった。

 転がる巨体。

 手放された斧が跳ねて壁の向こうに落ちていく。

 兜は明後日の方を向いていたが、念のため、鎧との隙間に剣を突き立てておいた。

 魔力反応ッ!

 収束弾がこちらに飛んできた。

「間に合わなかったな。部下は戦死だ」

 王様の目が怒りに燃えていた。

「威圧は効かないから」

 オリエッタは素っ気なかった。

 魔法使いが王の間から地面に落ちていった。

 王様が目を一瞬、逸らした隙に、ヘモジに屠られたのだった。

 距離的にヘモジの方が近かったが、敵はまず狙いをこちらに定めてきた。

 遠距離から潰すのは、敵にとってもセオリーなのだから当然の行動とも言えた。

 ヘモジは近付いてきたら倒せばいいと安易に考えたのだろう。

 だが、敵の収束弾は命中する手前で弾かれた。

「予測調整済みだ」

 多重結界を張ってはいるが、一枚だけで弾き返してやった。まあ、一枚は剥がされたわけだが。

 王様は一瞬驚いて手が止まった。

「遠距離職の防御が手薄と誰が決めた?」

 ヘモジは見逃さなかった。

 王様は吹き飛ばされ、片腕がちぎれ飛んだ。

「手助けした格好になっちゃったかな?」

「気にしてない」

 でも、こうなったらもうこちらなどかまってはいられまい。

「やれやれ」

 行き場を失った残党たちが見晴らしを求めて、壁の上に現われ始めた。

 そして自分たちの王様を見て、上ってきた階段を大急ぎで下り始めるのだった。



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