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クーの迷宮(地下 49階 精鋭ミノタウロス&四枚羽根ドレイク)決戦再び

 上層に延びる広い回廊もボロボロになっていた。花壇は壊れ、天井は抜け、床には大穴が開いて、ヒューヒューと風音が鳴っている。

「落ちるなよ」

「う、うん」

「突風に気を付けろ」

 ヘモジを先頭に慎重に前進する。

「ここも被害甚大だな」

 ゴンドラも落ちて綱の先には何もない。

 滑車を巻き上げていた連中の姿もない。


 しばらく行くと離れ小島の住居エリアに到着する。

 家屋は吹き飛び、炭になり、被害は甚大であった。なれど、生き残りが多数いた。

 既に復旧作業に入っている様でこちらを警戒する様子はない。

 僕たちは戦闘を回避、メインの通路を障害なく進み、とうとう本丸手前まで来てしまった。

「ナナナ!」

 約束なので仕方がない。ボスの相手はヘモジに任せて、こちらは側近を相手することに。

 問題は子供たちをどうするかだ。ここの敵はまだ大勢生き残っている。壊れた壁の上にも多数いる。一気に来られたら、子供たちでは太刀打ちできない。あくまで各個撃破しか、活路はない。

 王様の攻撃はどこにいても食らうだろうし、できれば射程外にと思うが、それでは浮島の外に出ることになる。一応ガーディアンを持ち込んできてはいるが、藪蛇だろう。

 予定と大分違う展開になってしまったな。そもそもここまで来る予定はなかった。

「大きな反応が見えるか?」

 子供たちは頷く。

「一番大きいのが王様だ。その側の二つの反応が側近だけど、側近を排除してヘモジが王様に取り付くまで、結界を最大にして隠れていろ。側近を倒し次第、戻ってくるから、それまでは何があっても見付かるんじゃないぞ。危ないと感じたら、躊躇なく脱出するんだ。いいな」

 子供たちもことの重大さをひしひしと感じていた。

 それはヘモジの真剣な眼差しだけでなく、場を支配する敵の強烈な圧力を感じていたからだった。

 子供たちは倒壊した壁の隅に隠れて、言われたとおり結界を展開する。

 それを見届けた僕とヘモジは側近の元に転移した。

 ゲートに向かって魔法が飛んできた!

 が、今回、僕が展開した魔法陣はワンランク上の防衛機能付きである。敵の魔法を一切寄せ付けることはなかった。

 爆風が吹き荒れる中、ヘモジは飛び出した。

 前回の反省がある。邪魔者を何が何でも排除するのだ。

 ヘモジは先日同様、魔法使いタイプの側近に向かった。残る一体は僕が。

 ほぼ同時に二体を排除した。

 僕たちの次なる行動は分岐する。

 ヘモジは『王様三世』に、僕は子供たちの前に移動した。

 僕は子供たちを連れて、壁の上に転移する。

 そして周囲を一掃、黒い城壁が一瞬で白く凍り付いた。

 中庭はさながらコロシアムのようであった。二人の剣闘士が対峙していた。

 観客はもはや僕らだけ。

 だが、城外から押し寄せる兵士たち。

「邪魔はさせないぞ」

 子供たちは優位なポジションから大岩を落として進路を塞ぎ、一方的に蹂躙し始めた。

「もういいとこなのに! 邪魔しないでよね」

 足元の壁が大きく揺れた。

「うわっ!」


 ヘモジの一撃を受けて、対称にある壁に王様が叩き付けられたのだった。

「?」

「……」

 オリエッタも違和感を感じたようだ。

 ヘモジもやる気を一気になくしたように見える。

 二撃目もまた対応できずに吹き飛んだ。

 決定だ。奴は明らかに弱体化している。

 先日の馬鹿力がないのだ。ヘモジの一撃に反応はできても、押し返せていないのである。

「まいったな……」

「どうしたの?」

「砦同様、王様も疲弊してるみたいだ」

 お鉢がこちらに回ってこないことを切に願った。


 幸い戦闘自体に退屈していたヘモジはけりを付ける瞬間まで手を抜くことはなかった。というより早く終らせたかった。起死回生の一撃を持つ相手に不気味に粘られることほど厄介なことはない。テンションが上がらないせいで集中できないのに、気が抜けないから落ち着かない。そしてそれは訳のわからない不安となり、術中に嵌まっているのではないかと疑心暗鬼に陥っていく。そして普段しないような大ポカをする。だが、命懸けの戦いの場でそれは命取りである。笑って済まされる問題ではない。

 ヘモジはそれを知っている。だからこそ一気にけりを付けようとしているのである。

「ナーナッ!」

 疲弊していても敵は強かった。先日のような頑強さは薄れているが、ヘモジのフルスイングをいなすことはできている。

 こういう状況というのは得てして逆転勝利を生む土壌となる。

 もはや胆力の勝負である。

 が、本日も横槍が飛び込んできた。

 互いの攻防に舞台が保たなかったのである。地面が真っ二つに割れたのだ。

「う」

「ぞ」

 巨大な浮島がふたりの間を分かった。

 そして一方は急激に上昇し始め、一方は落ち始めたのだった。

 勝負は一旦お預けとなった。

 と言うより、むしろ緊急を要する事態となった。

 出口は階下にある。

 全員、中庭の底にある出口に全力で向かった。

 下手をすると出口は『王様三世』と一緒に奈落に落ちていってしまったやもしれない。

 いや、厳密に言うなら、出口がある側の座標は固定してあるはずなので、こちらの地面だけが上昇し続けていることに。逆ならあちらが奈落に落ちていることに。

「ピー、ピーッ」

 先日、卵があった場所に『四枚羽根のドレイク』の子供がいた。

 花畑は綺麗に真っ二つになり、子竜のすぐ側は断崖と化していた。

 そして出口の場所を知っていた僕たちは絶句した。

「出口が……」

 小竜が飛び立った。

 するとすぐ下に巨大な物体が現われた。

「ド、ドレイク」

「乗れって言うのか?」

 昨日の敵は今日の友ってか? そう言えば、漁夫の利を狙ってたせいで敵対していなかったかも?

「行くよ」

「行くのかよ!」

 子供たちの方が判断が早かった。片手に転移結晶を握り締めながら、次々、ドレイクの背中に飛び乗っていった。

 吊り橋は駄目なのにドレイクの背は大丈夫なのか?

「ナーナ!」

 ヘモジも跳んだ。

 殿になってしまった。

 ドレイクは四枚の羽を巧みに動かしてやさしく滑空していく。

 そして再び……

「収束弾、来るぞ」

 ドレイクの結界にこちらの結界を重ねて、予防線を張る。

 攻撃はそれ、こちらからは『四枚羽根』特有の衝撃属性のブレス攻撃が見舞われた。

 そしてその間に僕たちは上陸を果たした。

『四枚羽根』は遠ざかっていく。

 助けるのはここまでだと言わんばかりに。

「ずっと助けてくれてたんだね」

「きっと子供を助けたからだよ」

「最後まで手伝ってくれればいいのに」

「こんな狭い足場であのブレスを食らいたいの?」

 全く以てその通り。

 それはブレスではなく収束弾でも同じだ。

 足場は半分。弱っているとは言え、圧倒的強者から逃げる術はない。

「破壊不可能オブジェクトの出口に入ってしまえれば」

 ヘモジとの第二ラウンドが始まった。

「こっちだ」

 僕は子供たちを出口に誘導する。

 収束弾が飛んでくる。

「ヘモジの隙を突くか――」

 いや、強引だったようだ。間髪入れずに吹っ飛ばされた。

「今のうちだ」

 階段に雪崩れ込む子供たち。

 ヘモジのけりが付くまでここで待機だ。


 戦況はヘモジが圧倒的に優位だった。が、最後の一手で躱されている。

 息が荒いな。

 弱体化している相手に勝てないことにヘモジは焦り始めていようだった。

 優位に立っている者のジレンマだな。

「つらいんだよなぁ」

 負けている方は時間が経つほど相手の動きに慣れていく。余裕が生まれてくる。それは希望となる。

 抵抗は激しく、ヘモジの不安は募るばかり。

「粘るなぁ」

 子供たちもさすがに心配し出す。

「ヘモジに勢いがなくなってきた」

「敵に動かされてる」

 オリエッタがしれっと曰う。

 年期の差だな。こうなるとヘモジもまだ若いと感じざるを得ない。なるほどヘモジ兄に勝てないわけだ。

「らしくないな」

「ヘモジ頑張れー」

 子供たちが声援し始めた。

 この時初めてヘモジはスーパーモードに入った。

「テコ入れしなくて済みそうだな」

 勢いだけでは勝てないと踏んで封印していたのだろうが、敵を見切ったということだろうか。応援に呼応しただけのものならちとヤバい。

『万能薬』は飲んでおこう。

 とは言え、声援が耳に届けば、背中を押されれば、我に返るし不安も吹っ飛ぶ。

 頭が冷えれば、バリエーションが生まれる。次の一手も速くなる。

 敵の王錫を跳ね上げた。

 それでいい。

 直撃を狙う必要はない。数手先を見越して敵を追い込め。連撃を避けるために敵は無理して大きく弾いているんだ。

 二手、三手と続くと、敵はもう受けきれない。

 ヘモジの攻撃を受け続けて、疲弊しないわけがない。

 強烈な一撃が肩口に叩き込まれた。

 敵は錫杖を落とした。

「ナーナーッツ!」

 兜を横殴りした。

 兜は吹き飛び、巨体は床に伏した。

 子供たちは息を呑んだ。

 ヘモジは大きく息を吐く。

 額から大粒の汗が落ちた。

 オリエッタがくすりと笑った。

「噛みしめてる」

 勝利を噛みしめているのか、猛烈に反省しているのか、今日一番、経験が積めたのは他ならぬヘモジであった。

 最近は中々強い相手とやれていなかったからな。

「ナナーナ」

「『次は完璧な時にやっつけてやる』って」

「え? まだやる気なの?」

「付き合うしかないね」

「次ドラゴンなんだから、もういいだろ」

「気に入っちゃったみたい」

「飽きるまで駄目か」

「駄目。諦める」

「帰るぞー」

 巨大な魔石を期待したが、精も根も尽きた王様の魔石は雑魚敵ともう変わっていなかった。

 これでヘモジとやり合っていたのだから、あっぱれである。

「ヘモジが気に入るのもやむなし、だな」

「だね」



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