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クーの迷宮(地下 49階 精鋭ミノタウロス&四枚羽根ドレイク)あの砦を落とせ1

 カードを大伯母に見せても「わからん」の一言で済まされた。

 よくわからないものに子供たちも興味を示さなかった。が、ドラゴンを召喚獣にできたらという話題には熱狂していた。

「で、明日の作戦なんだが」

 僕は早々に介入することを子供たちに伝えた。これまでも何度かあったことだが、まず見ること。そこからだということを子供たちに説いた。


「ドレイクは逃げられないようにすれば、倒せるかもだよね」

 僕のいないところで探究心を発揮する子供たち。

 居間のすぐ上にいるから密談する声がよく通る。

「『王様三世』って、そんなに強かったの?」

「ナナーナ」

 ヘモジは久方ぶりの好敵手を両手を広げて賛美した。

 そして「最初に倒すのは自分だから手を出すな」と、別の意味で釘を刺した。

 まあ、奴の収束弾を一発でも食らえば、全員で張った多重結界も綺麗さっぱり吹き飛ぶだろうから、現象としてはわかり易かろう。

「うへー、まじか」

「ヘモジで互角って無理ゲーじゃね?」

「大丈夫なの?」

 一緒に食堂の窓から覗き込んでいたラーラも心配して聞いてくる。

「ドレイクに関しては、機動力以外は普通のドラゴンだからな。子供たちでも運がよければ狙えるかもしれないな。漁夫の利も狙えたら最高なんだけど。でも、王様の方は無理だな。ルートを完全に塞いでるし、五十層到達への最大の障害になるな。ルート外に誘導できたり、こっそり抜けられる裏道でもあればいいんだけど…… 今の手札じゃ…… 限界かな」

「ガーディアン使っても駄目なの?」

「機動力ではヘモジより遅いからな」

「射程外から圧倒できれば一番なんだけど。奴の遠距離攻撃も結構長いんだよ。ロングレンジライフルと特殊弾頭があればなんとかいけるかも知れないけど、ヘモジに当てるようなものだからな、当たるかどうか。中古のガーディアンが三機だけじゃ、手数が足りないだろうな」

「あの子たち結構操縦うまくなってるわよ?」

「ヘモジが操縦をやめたぐらいだからな」

「そうなの? へー、じゃあ、わたしも手合わせ願おうかしら?」

「空間ごと横薙ぎして終わりだろうに」

「わたしも一度見てみたいものだな」

 大伯母が酒瓶を片手に肩越しに覗き込んできた。

「アレと互角にやり合える相手など滅多にいないからな」

 視線は小粒な豆小僧に向いていた。

「今度一緒に潜りませんか?」と、談笑しながら女ふたりは上のラウンジに消えていった。

「あのペアに比べたら…… 強敵に思えなくなってきたな」

 圧倒的暴力の塊であるふたりに比べたら、僕もヘモジも上品なものだ。

 大味な戦い方をさせてやることもできなくはないが、もっと身体ができてからじゃないとな。

 子供たちは可能性の追求を遅くまでしていた。お菓子を摘まみながらの楽しい談笑ではあったが。

「急ぐことはない。諦めなければ、必ず突破できる時は来る」

 そう遠くない未来に。



「おおおおおおおおおッ」

「島が浮いてるーッ」

「すっげー」

 入場早々、目の前の吊り橋より飛び込んできた遠景に子供たちは心を奪われた。

「思ったよりおっきい」

「『飛行石』ウハウハだよ!」

「掘るの大変そう……」

 そう言えば、在庫のこと話してなかったな。


「これ渡るの?」

 最初の障害は長ーい吊り橋であった。子供たち史上、最長と思われる。

「師匠、ガーディアン出して」

「いきなりかよ!」

「だって!」

 両サイドの手摺りを掴めない年少組にはつらいことはわかっていた。

 子供たちは早速、深く考えずに足場と両サイドを固め始めた。

「大丈夫?」

「う、うん」

「下覗くなよ」

「言わないでよ。気にしないようにしてるんだから」

 こういうところは年相応で可愛らしい。

「さっさと固めちゃおうぜ」

 さあ、失敗の始まりだ。

 案の定、子供たちの手と足は橋の中頃で止まった。

「無理かも……」

 そのことに気付けただけでも及第点だ。

「トーニオ、これ、対岸に誰か行かないと無理だ」

 安全確保のため、ヘモジが先に対岸に渡っている。

「俺たちが向こう側から固めるから待ってろ」

 想定通りの展開になった。


 地に足が着いていることを感謝しつつ『万能薬』を垂らしたジュースを飲み干す子供たち。

「疲れた」

 風に軋む橋の音を背にしながら、視線は前に。

 その先には雲海に浮かぶ山の稜線が頂まで延びている。砂漠にいては一生拝めぬ神秘的な光景だ。


 狭い尾根の上を進む一行。

 やがて難関の一つが目に飛び込んできた。

「さあ、砦とドレイクの――」

 突然、足元からピーピーと雛の鳴く声が聞こえてきた。

「な」

「何?」

「なんの声?」

 全員が動揺する。

 見れば、先日の雛が足元からこちらを見上げていた。

 なんで、今になって?

 雛は羽を必死に羽ばたかせながら、僕の足にしがみ付こうとするが、その度にボテッと地面に落ちた。

「お腹空いたかな?」

 僕は雛を抱え上げる。

 すると雛は身体を震わせ、さらに大きな声で鳴き始めた。

「ちょっと! 敵にばれちゃうよ」

 砦に声が通る距離ではまだなかったが、突然の出来事に僕たちは焦った。

「!」

 何か、声がした。

 僕たちは視線を空に向けた。

 雲海の彼方から風音に混じって確かに何か聞こえてくる。

 影が見えた。

「どういうこと?」

「ピーピー」と雛は鳴き続ける。

 それに呼応するかのように空の彼方に反響が……

「ド、ドレイク?」

「来たーっ!」

 いよいよか。でもこっちの雛をどうにか……

「あれ? なんか…… こっち来てない?」

 確かに砦ではなく、こちらの方角に向かってきているような…… いないような……

「や、やばくね?」

「なんで?」

「師匠、そのひよこ」

「昨日、話したろう? カードのあれだよ」

「やっぱ召喚獣?」

「いや、召喚してないし」

 ヘモジだって、最初は行儀よかった。

「それじゃないの? ドレイク呼んでるの」

「ナナナ」

「なんか言ってる」

 ヘモジとオリエッタがしゃがみ込んで雛の言葉に耳を傾ける。

「言葉通じるの?」

「気持ちは伝わる」

「ナナナ」

 敵意はないだって?

「攻撃はしちゃ駄目だって……」

「ええーッ」

「マジですか?」

 無茶振りもいいところだ。接近してくるドレイクに手を出しちゃ駄目って。

「お前たちは下がってろ。念のため用意は怠るな」

 子供たちは距離を取って、結界を張り、尚且つ、脱出用の転移結晶を握り締めた。

 僕は雛を抱えたまま一歩前に踏み出してデカブツの到着を待った。

「ナーナ」

 もし敵対しても、至近距離なら、こちらもやれる。ここはお互い様だ。

「ピーピーッ」

 突然、魔力が吸われた!

 ヘモジが振り返るほど唐突な出来事だった。

 僕の手の中の雛が急にズシリと重くなった。

「ピーッ、ピーッ」

 鳴き声が力強くなったかと思ったら、身をよじりだした。

 手の中で暴れていたそれはみるみる膨らんで、ヘモジよりもあっという間に大きくなった。

 そして…… 綺麗な四枚の羽が背中に生え揃うのだった。

 急に手の中が軽くなった。と思ったら、雛は羽ばたいた。

「そんな……」

「ドレイクの子供!」

「ナ……」

「ブオー、ブオー」

 鼻息だけで吹き飛びそう。

「ピー、ピー」

「どうなってんの?」

「誘拐犯に間違われたら襲われるんじゃない?」

「召喚獣じゃなかった」

「ナーナ」

 雛は親元まで飛んでいくと、何やら説得し始めるのであった。

 するとドレイクは猛烈な怒りを込めて咆哮を轟かせた。が、こちらにではなかった。

「あれ?」

「行っちゃうの?」

 親子は連れだって、僕たちに背を向けた。そして子は親の背に止まり、空の彼方に消えて行ってしまった。

「あの…… 漁夫の利は?」

「なんだろうね。障害が一つなくなったのに、嬉しくない」

「雛、可愛かったね」

「召喚獣にできたらよかったのにね」

 このとき誰も気付いていなかった、彼らの向かった先を。

 僕たちは、それより自力で余分に砦を攻略しなければならなくなった事態に一抹の不安を抱くのだった。



 山の稜線をひたすら歩く。子供たちにはこれだけでも苦行である。リュックを背負うために『身体強化』を常に働かせていなければならない。空気も薄く、おまけに結界も順番に展開させていかなければならない。

 足場の悪い中で、白い息を吐く。

「景色がいいことだけは救いだよね」

「師匠、リュック持ってー」

 カテリーナが言った。

「だーめ。いつもより軽いだろう?」

 長距離移動、しかも上り坂が多いので、今回、既に必要性の低い物を『追憶』に預かっているのだった。

 普段、弱音を吐く子ではないのに……

「!」

 僕は振り返る。

 そしてカテリーナをよくよく覗き込む。

 いつも以上の発汗。頬も赤い。

「風邪引いたか?」

『万能薬』のおかげで病気とは基本、無縁なのだが、探索は一日置き、飲む機会も一日置きだ。

 掛かり始めか。

 オリエッタが症状を確認し、僕は『万能薬』を飲ませた。

 だるさはしばらく残るから、即復活とはならない。が、それも数分のこと。

 念のため他の子たちにも薬を舐めさせた。

 カテリーナはほっと胸を撫で下ろす。

「風邪引いてたんだ。びっくりした」

 びっくりしたのはこちらである。

「お姉ちゃんたち咳き込んでたから、移ったのかも」

「帰ったらお姉ちゃんたちにも飲ませた方がいいかもな」

 彼女たちは『万能薬』の価値をよく知っているから滅多なことでは使おうとしない。「こちらが遠慮するな」と言っても、過去の負い目が過分に倹約に走らせるのである。

 カテリーナは立ち上がった。

「もう大丈夫」



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