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クーの迷宮(地下 49階 精鋭ミノタウロス&炎竜)ヘモジ 当て外れ、巨城に至る

「またか……」

 三つ目の砦と遭遇。

 回避したい。

「ナー……」

 野菜サラダをせしめたヘモジはもうやる気がない。

 場所は二つ目の砦よりさらに高い場所にある第三砦。

「!」

「何か来る!」

 空の彼方に反応が!

「まさかドレイク、二体目?」

 炎が砦に浴びせ掛けられた。

「炎竜ゥウウ?」

 ここに来て四十九層、本家本元、火竜の元締めが登場か。

「楽ちんか!」

「炎竜、万歳」

「ナナーナ」

 僕たちは漁夫の利を狙えると岩陰で小躍りした。


「『光弾』は?」

 いつになっても反撃がない。バリスタはちょくちょく飛んでいるが。

「潰された?」

「ちょっと! 相打ちしてくれないと困るんですけど」

「ナナーナ」

 理不尽な怒りがふたりを駆り立てる。

「うーん。増援もなさそうだし、完敗っぽいかな」

 城の中の反応がどんどん減っていく。

 もはや火竜とやり合える戦力ではなさそうだ。

「ナナーナ!」

「あの弓矢を使えって?」

「さすがに届かないだろう」

 ヘモジがまた弓を欲しがった。

「やっぱりガーディアン持ってくるべきだったかな」

「ナナーナ」

 僕の弓と回収した魔法の矢束を持ってヘモジは前進を開始した。

「攻め方変えるのか?」

「ナナーナ」

 完全隠密プレイ?

「それ一発撃ったら、ばれるだろう」

「完全隠蔽プレイだよね。見た者は生かして帰さない」

「ナーナ」

 馬鹿にするなと口を尖らせた。



「あのヘモジが隠れて何する気だ?」

「楽しみ方は色々あっていいと思う」

 使いようがあって弓矢を持っていったんだと思うが。あの矢を使って隠遁プレイは無理だろう。

「不気味だ」

 もうすぐ砦のなかは空になる。反応はあとわずか。

 なるほどこのまま行けば誰にも見付からないだろうが、その前に炎竜の方が飽きてきた模様。

「ナーナ」

 テコ入れ?

 おもむろに、引き上げようと背を向けた炎竜に弓を引いた。

「隠遁するんじゃなかったのか?」

 炎竜の尻尾が爆発で吹き飛んだ。

「おいおい、結界はどうした?」

 舐めきっていた炎竜は結界を薄くしていたようだ。そこへ想定外の手痛い一発。

 尻尾がなくなるとバランスを取るのが難しくなって空の上でジタバタし始めた。爆発で羽が穴だらけだ。羽ばたけど高度は落ちる一方、ついに土煙を上げた。

「ナナーナ」

 好機の訪れに兵士たちは息を吹き返した。誰が矢を放ったかなど、思いも馳せずに。

 地上戦となれば、とんでも付与装備を着込んだミノタウロス兵にも勝機はある。残り数体の兵は仲間の敵とばかりに突貫した。

 炎竜は負ける気など毛頭なかった。だが、こちらは知恵が回った。ミノタウロス以外の何かがこの狩り場にいることを本能的に察知したのだ。故に焦った。早く起き上がって警戒態勢を。

 だがミノタウロスはそうはさせじと脚を、翼を折りに来る。

 が、見えない敵に怯えるあまり炎竜はミノタウロスの手痛い一撃を胸に食らった。

 気付いたときには大斧が鱗を貫通して突き刺さっていた。

 悲鳴を上げる炎竜。炎を吐くにも敵が近過ぎる。

 いつの間に近付かれたのだと、過去の自分に問い掛ける。が、答えを返す過去などどこにもない。

 あるとしたら僕の肩の上の猫又ぐらいだろうか。

「何かしたね?」

「ちょっとだけ」

「それにしてもヘモジは動かないな。今ので動くと思ったんだけど」

 鼻、ほじってるし。

 何を考えているんだか……


「何分、経った?」

「まだ三分ぐらい」

「いい加減、けりを付けて欲しいな」

 双方、弱体しつつも天秤は傾かず、力は拮抗していた。

 決め手が欲しいところだね。バリスタが残ってればまだなんとかなったのかもしれないが。

 ミノタウロスの骸が魔石に変わり始めた。

 ヘモジを見るも、こちらも変わらず。

 溜め息が出る。

 こっちは戦闘を尻目に魔石を回収することにした。


 しばらくすると後ろで風を孕む羽音がした。

「決着付かずか……」

 お互い決め手なく、疲労だけ残して双方痛み分け、互いに距離を開けつつ、なかったことにするようだ。

「今更、倒しても碌な魔石は手に入りそうにないしな」

 せっかくの炎竜だったのに。

 ミノタウロスの骸が変化した魔石(大)を手に取り、僕は呟いた。

「生き残りが帰ってくると面倒だ」

 ミノタウロス兵の方は魔石の回収の邪魔になる。

 せっかく生き残ったのに悪いが。

「ナナナ」

「何考えてる?」

 僕が言うより先に、オリエッタは尻尾で目の前の何かを払いながら言った。

「ナナーナ」

 生き残った兵にとどめも刺さずにヘモジは見送るように指示した。

 生き残りは高台に上っていく。

「今更『光弾』でも使うのか?」

 動かしたのは『光弾』の砲台ではなく、狼煙だった。煙を布で遮っては外しを繰り返して、何やら信号に置き換えている様子だった。

 そして一仕事終えたと兵たちが安堵した瞬間、永劫の眠りが訪れた。

「何考えてるんだ?」

 とどめを刺したのは他でもないヘモジである。

「ナナーナ」

 次の砦に行けばわかるだって?


 炎竜はもう探索外に逃れていた。

 あれだけ痛手を負っては巣に籠るしかあるまい。

 僕たちは再び山の稜線を進んだ。

 高度はしばらく下がっていくようである。

 降り始めた雪もここまでは届かなかったようで足元は乾いていた。



「砦発見! …… あれ?」

 オリエッタが首を傾げた。

「どういうことだ?」

 敵の数が激減していた。その数、わずか十体。

 特筆すべきは砦が浮島の上にあったことだが。今までのように駐屯部隊が大量にいたら、数少ない上陸ポイントである吊り橋の辺りで激戦になっていたことだろう。

「へー。まさかこうなると踏んでたのか?」

 権謀術数とは無縁だと思ってたんだが。

「逆、逆」

 オリエッタがクスクス笑った。

「ヘモジ、敵が増えると思った。なのに外れた」

「はあ?」

「狼煙で増援が呼ばれて、もっといっぱいの集団と戦えると思ってた」

「ナナーナ!」

「炎竜を倒すのは今だとばかりにみんな奴の巣に進軍して、却って手薄になってしまったと?」

 オリエッタはゲラゲラ笑い、ヘモジは地団駄を踏んだ。

「ナナナーナ!」

「『弱いのにいなくなってどうする!』」

 オリエッタは腹を抱えた。

「採掘してたら戻ってきそうだな……」

「もう『飛行石』置いておく場所ないし」

「それもそうだな」

「このまま通り過ぎたいけど」

「そうもいかない」

「ナーナ」

 本日は偵察を兼ねている。

「さっさと済ませよう」

 鎖を切って、島のバランスを壊してやった。勝負はそれで決した。

 ほとんどの兵隊は奈落に。残りはどこかに頭をぶつけて気絶した。

 僕たちは浮島を安定させるべく、地面の一部を掘って、バランスの調整を行ない元の状況に戻し、急いで探索を行なった。

「慣れてきたな」

「回収できないのが恨めしい」

「『追憶』のなかに放り込んでおけば、いいだけなんだけどな」

「そうする?」

「いや、何が入ってるかわからなくなるようなことはしたくない」

 遠方で火の手が上がった。

「炎竜の巣はあっちか?」

「思ったより近いな」

「ナナ?」

「今から行っても勝負は付いてるだろう」

「ナーナ」

「戻ってくる前に先に進もう」

 宝箱はなかった。ついでに『光弾』用の魔力貯蔵壺の中身も空っぽだった。もしかして、先の砦も撃ち出す弾がなかったのやもしれぬ。

「この道どこまで行くのかな?」

 僕たちは先に進む。

 朝からずっと歩き詰めである。雲海は雄大だが、さすがに何もないでは飽きてくる。


 不満が届いたのか、突如、山道がカーブを描いた。

 僕たちはすっかり雲の中、視界は閉ざされていた。

 霧が目の前を猛烈な勢いで流れていく。

「結界がなかったら、足を踏み外しそうだな」

 結界をワイドに展開して視界を確保しているが、突然予想外の物が視界に入ってきたら驚くに違いない。

 しばらく歩くと雲が晴れてきた。

 延々と続いていた稜線の終着点が目に飛び込んできた。

「絶景だ」

「ほえー」

「ナーナ」

 三人、目を丸くした。



「雲海に浮かぶ難攻不落の空中要塞」

 いくつもの浮島がしっかりした回廊で遙か上方彼方まで繋がっていた。

 四十七層の城に勝るとも劣らない巨城が頭上に浮いていた。

「面倒臭ッ……」

 急にエンカウント率が跳ね上がりそうだ。

 ここからでも敵の数の尋常のなさが掴めた。

「迷宮も五十層に近付いてきたからな。さすがにハードだ」

 隠遁しながら、進むしかない。が、時間を要することになる。

「せめて地図があったらな」

 それがないから今ここにいるわけで。

 入り組んだ地形。回廊も地表だけを繋いでいるわけではなく、浮島の脇腹を貫いていたりして、要するに島一つにしても複雑だ。

「破壊するだけなら難しくはなさそうだけど」

 それぞれの島を繋ぎ止めている鎖を切ってしまえばいい。その内の一個を軽くしてしまえば、一番上の城まで運んでくれるだろう。『光弾』で島ごと破壊される可能性はあるが。

 でも今は地図職人だ。チマチマ攻略しつつ、間取りを記入していくしかない。

「罠は少ないな」

「多分生活空間になってる」

「ナナーナ」

 確かに戦場とは様子が異なった。が、だからと言ってスカートをはいたミノタウロスがいるでなし。どこにいても武器を手放さないところがミノタウロスと言ったところか。


 僕たちは巨大な城門の前にいた。山道の突き当たり。左右には何もなく山の勾配があるだけ。

 鉄扉の上に番兵が四体…… 客など来るはずもないと呆けている。

 その奥から右に旋回するように回廊が延びていて、数珠繋ぎになった浮島を渡っていくようだ。所々、フレキシブルさを維持するために吊り橋や、跳ね橋が儲けられている。

「こりゃ…… 普通に行っちゃ駄目なパターンだな」

 冒険者が攻略するなら、先に述べたプロセスで行くのが常道だろう。初見なので、まだなんとも言えないが。一つ一つの関所が嫌らしく機能していそうだった。

「転移がなかったら、辟易してただろうな」

 極力戦闘は避けながら、対岸に転移。潜入。調査記録して、次の浮島に。

 この手のことは今に始まったことじゃないが、やはり疲れる。



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