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クーの迷宮(地下 49階 精鋭ミノタウロス&四枚羽根ドレイク)ヘモジは行くよ、どこまでも

 すると山頂に先に見たような砦がそびえていた。

「ドレイク出てきてくれないかな」

 反応の多さに呆れた。

「ナーナ」

「行くしかないね」

 砦の向こうに鎖に縛られた浮島が見えた。

「あっちにもいる」

「こりゃ、採掘するにも大変だな」

 エルーダとは様相が大分違うようだ。

 マップが広い分、拠点は一極集中していて、尚且つ、浮島も限られているようだ。

 序盤から穴掘りは難しそうだ。

 先の崩壊した浮島がスポットだったと言えなくもないが。横にあの砦があるとなると……

 身を潜めながら前進する。転移して一気に寄ってもいいのだが、ここは明日の予習も兼ねているので、横着はしない。

「見張りが邪魔だな」

 外におびき出してチマチマやるか、進入して一気に制圧するか。キーは『光弾』だが、対空兵装だというなら問題はない。

「やってみないとわからないな」

 敵の反応は前回よりも大分多かった。

 ドレイクに削られていないので、常駐要員は先の二倍ほどいた。

 ソロでここを正面突破するのは余程の馬鹿だな。

「ナナーナ」

「……」

 殲滅する?

「ナーナ、ナーナンナ」

 まあ、予習を兼ねてるからね。

「見落としがない方がいいのはわかる」

「ナーナ」

「了解」

「中に入るまでは大人しくな。陽動するから」

 城壁にいる見張りの位置を把握。要塞の右側面に魔法を放って、軽い土砂崩れを誘発する。

「今だ」

 こちらを探知できる位置にいた兵がいなくなったのを確認すると、正面扉の番人を仕留めた。

 一気に壁に貼り付いた。

 気付かれていないか上下左右を確認。

「大丈夫」

 門は閉じられていて、門番の合図がなければ開かない模様。

 土を盛り上げ一気に上昇する。

 上がる先には陽動に引っ掛かって余所見している兵士たちが数体。他の反応も慎重に――

 僕は足元の勢いを落とした。

 が、ヘモジは様子を窺うことなく飛び出した。

「……」

 消えた。

「気が早い……」


「生きてるか?」

「ヘモジ以外はみんな死んでる」

 オリエッタが言った。

 もう遠くにヘモジがいた。

「見付かる前に倒してるから、あれもステルスと言えなくもないが……」

 壁の上の見張りはほぼ制圧完了。

 でも、そろそろ見付かる感じだ。

 階下から兵士たちの足音が駆け上がってくる。

 僕たちは発見を遅らせるため、階段の入口を届く範囲で潰していった。

「あっちは無理だな」

 ヘモジに近い辺りは建て付けがわからない。どこに階段があるのか。

 砲台は事ここに至るも未だ動く気配はない。やはり大物狩り用の対空兵装として位置付けられているのか。

 来ないなら壊すだけですけど。

「あっちからも来る!」

 さすがにばれた。

 遠巻きに位置する複数の階段から兵士たちがワラワラと現われた。

 ヘモジは既に城壁の上にはいない。

「なすり付けられちゃったかな?」

「たぶん何も考えてない」

 まあいいけどね。

 集まってくれたらくれたでやり易くなる。

 敵が僕たちを包囲するのを待った。そして一定範囲にほぼほぼ収めると。

「聖女直伝『氷結爆裂(フリーズブラスト)』ッ!」

 城壁に巨大な棘花が咲いた。

「溶かすの大変」

「魔力、込め過ぎた」

「大技も使っていかないと勘、鈍る」

 自分で道を塞いでしまったので、僕たちはヘモジを追い掛けるために一度塞いだ別階段から階下に降りた。

「敵、来る!」

 気付かれなければ、脳を凍らせて終わりだ。

 たまたま対峙した一体が棒立ちになったところを蹴飛ばした。

 肉塊は階段を転がり落ちていく。

 敵の動きは把握済み。

 敵兵はヘモジのいる方に次々流れていく。落ちていった肉塊は誰にも発見されることはなかった。

 そんなわけで僕たちは背後から敵を静かに葬っていく。

 それにしても。

「数が多いな」

 普通の魔法使いならとっくの昔に魔力切れを起こしている。

 さすがのヘモジも包囲されつつあり、闇雲に前進することはやめたようだ。

「宝箱、二つ、あった!」

「後でな」

「わかってる。下から来る」

 次の階段を上ってくる先頭の一体の頭を吹き飛ばした。

 味方の身体が通せんぼする。

「でかい身体が災いしたな」

 一体が上り下りするのがやっとの狭い階段だ。足元に転がられてはどうにもできまい。

「チビでよかった」

 応戦することもできず、次々倒れていく増援を目の当たりにしながら、猫又にしてもまだ幼い猫又は言った。


 ヘモジは群れを外れた敵を狙って各個撃破、包囲網に風穴を開けるべくまだ奮戦していた。

 増援はまだまだやってきていたが、当初の勢いはもうない。

 ヘモジが視界に入った。

「やっと追い付いた」

 ニッコリ笑うヘモジは可愛い。

 ヘモジは進行方向を変え、集団に的を定めた。

「ちょっと」

 ニヤけるヘモジ……

 競争するつもりか?

 よーい。ドン。

 僕たちは跳ねた。

 速度重視の近接戦闘。

 身体が反応できないうちに首を落とされては何もできまい。

「一、二、三……」

 数を数えながら次々倒していく。

『身体強化』にも限界があるんですけど。終ったら筋肉痛予防に薬を飲むことにしよう。


 こちらが十体を超えたところで、制圧は完了してしまった。競争はヘモジの圧勝だった。

 やっぱ、鎧着られるとやりづらいわ。

「ナナナ」

「ボールで一杯でいいのか?」

「ナーナ」

 お昼ご飯を割り増すことで蹴りが付いた。

 ボール一杯分のサラダ、ドレッシング増し増しで。それがお前たちの命の値段だってよ。

「格安プライスに思わず同情しちゃうね」

 下の階に行く前に、上に戻って、魔石を回収する。

 玉の大きさは既に証明済み。サラダボール一杯分の野菜では釣り合わない。

 まだ残っている階下の敵は待たせておく。

「数もそう多くなさそうだし」



 敵を舐めておりました。

 残りは地上階のみと侮ったのが不味かった。横にある浮島に配備されていた一団が、異常を察知して雪崩れ込んできていたのだった。

「ちょっと、数が元に戻ってるんですけど」

「もう次行こう」

「ナー……」

 さすがにヘモジも辟易する。

「範囲魔法で数減らすよ。採掘したいし」

 普段なら『衝撃波』を叩き込むところだが、耐性を考えて、ここは『氷結』魔法を選択した。

「『氷結烈風(ブリザード)』」

 味方が多いときは巻き込んでしまいがちになるのであまり使わないが、敵は壁に囲われた中庭に密集しており、現状、いつも以上の効果が期待できた。

 渦巻くサイクロン。山頂の冷気も相俟って中庭はあっという間に氷に覆われた。

 建屋に逃げ込んだ者が一部生き残ってはいる。が、冷気はまだ継続ダメージを与え続けている。時間の問題だ。

 それでもまだ息のある奴は、白い息を吐きながらヘモジが叩きに行った。

 ヘモジは全属性の耐性付与があるからへっちゃらだ。


「全滅を確認」

 オリエッタのお墨付きが出たので、魔石漁りを行なう。

「大量だぁ」

「雪降ってきた」

「え?」

「ナナ?」

「ちょっと、回収するまで待って」

 中庭に猛火を灯した。

「暖けー」

「ナーナ」

 結界を緩めて暖を取りつつ、骸が魔石に変わるのを待った。


「ナーナ」

 発見済みの宝箱を開けると、中から遠距離攻撃用の魔法の矢が大量に出てきた。

「なんだ、これ?」

 先端の鏃が標準の物より長く筒のようだった。

「ナーナ」

 ヘモジが『追憶』に放り込んだ自分のボウガンを所望した。

「ボウガンじゃ矢は撃てないぞ」

「ナーナ」

「じゃあ」と言って、普段使わない僕の弓を出すよう催促した。

 獣人用のパワー重視の強弓に魔法付与した大弓だが、普通に構えることはヘモジの身長では不可能だ。だが、ヘモジはそのでかい弓を斜めというか、ほぼ横に構え、たまたま目に入った尖塔に向かって器用に放った。

 どがーん。

 鼓膜が破れそうなほどの轟音が僕たちの耳を襲った。

 全員、口をあんぐり。尖塔がガラガラと崩れ落ちる様を呆然と見送った。

「何、これ?」

 我に返った僕たちは魔法の矢の仕組みを探った。

「何これーっ! 『付与の付与』だって」

「はあ?」

「ナナ?」

「何言ってるのかわからないんだが」

 オリエッタ曰く、射程を延ばしたり、追尾するよな特有の付与効果は何もなかったらしい。代わりに付いていた効果が『付与の付与』

 この大きさの鏃ならあれだけの効果があってもおかしくはないのだが…… 効果が『爆発』じゃないのはどういうことだ?

 やはり何か、おかしい。

 オリエッタが爪で鏃を叩いて音を確かめる。

 それじゃ、わからないと僕も一本矢筒から引き抜いて確かめる。

「ん……」

 これ、中に何か?

 見た目とは異なる重さを感じた。

「重くないか?」

 僕たちはその鏃を二つに裂いた。

 すると鏃だと思っていた物は単なる入れ子で、なかから効果の付与された魔石が三つ出てきた。

「これは?」

 三つの魔石にはそれぞれ『爆発』の付与が施されていた。

「威力、三倍……」

 屑石の粉末を混ぜた粘土か何かで魔石を包んで成形したものだ。

「魔石のおまんじゅう」

 よく似たものを知っている。

 爺ちゃんが産みだした投下型の大型特殊弾頭だ。使うところは見たことはないが、天災級のベヒモスを討伐したときに使用したとか。

「手間掛かってるなぁ」

「普段暇なんだね」

「ナーナ」

 何もない山頂の砦だもんな。

「小さな魔石も集めれば、それなりにだな」

「でもこの術式……」

 ミノタウロスには過ぎた代物だ。まあ、ダンジョンはゲートキーパーの差配領域だからな。『光弾』はどうなんだということになる。ミノタウロスはタロスの投影と考えれば、ここで僕たちはタロス戦の予行演習が行えていると考えるべきだろう。奴らに魔石を生み出す能力はないが、お互い火力が増していく未来は想定されて然るべきだろう。

「これはこれ。さあ、お昼まで穴を掘ろうか!」

 屑石を流用などせずとも、僕たちには魔石を加工できるスキルがある。小サイズの石を中サイズにも大サイズにもできるのだ。こんな入れ子に収めずとも。

 ただ、これが敵の弓の能力となると……

 術式は大伯母に進呈するとしよう。


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