クーの迷宮(地下 49階 精鋭ミノタウロス&?戦)四枚羽根のドレイク
ミノタウロスが要塞から放った一撃はまさかの『光弾』だった。
バランスを失ったドレイクは足掻きながら地上に落下した。
そこは浮島。衝撃で島が倒壊して真っ二つに割れた。巨大な鎖も引き千切られて、島は落下する物と浮き上がる物に分かれた。
ドレイクは浮き上がる島の塊の上にいた。
運はまだ奴にあるようだ。
浮き上がってくる島が要塞と肩を並べる。
ドレイクは長い首をもたげて頬袋を膨らませた。
そして衝撃波ブレス!
要塞の一角が基礎ごと吹き飛んだ
「……」
「これって冒険者が介在する要素ある?」
もはや神話レベルの大戦争だ。お互い、もはや尋常な強さではない。
エリートミノタウロス兵も今までとは一線を画す強さがあった。あの攻撃を受けても絶命している者は落ちていった者だけだ。
装備のレベルが高いだけでなく、武器も光っている……
「付与を発動させるだけの魔力はあるみたい」
暢気そうに曰うオリエッタの声が心なしか震えている。
突貫するミノタウロス兵。
浮島の高度がこれ以上上がってしまったら、太刀打ちできなくなる。その前に浮島に飛び移る。
味方だったら勇敢さに賛辞を送るところだが、これが敵ではなんとも…… 匙を投げたくなる。
『光弾』の援護射撃が放たれた。
ドレイクの身体が回復待ちしていた羽ごと大きく抉られた。
ちょっとなんなの、その命中精度!
叫び、荒ぶるドレイク。
『光弾』は投入しないんじゃなかったの、ゲートキーパーさん。不具合、直ったの?
反撃を試みようと首をもたげたところにミノタウロス兵のフライングアタック。
結界があっという間に消失。無数の刃先がドレイクの硬い鱗に突き刺さった。
兵士が尻尾に薙ぎ払われ、ワラワラと奈落へと落ちていく。
浮島の表土もボロボロと脱落する。
そのとき、島がガクンと大きく傾いた。
大きな欠片が空に昇っていく。
『飛行石』の一部が島から脱落したせいで、傾いた地表から投げ出されるドレイク。必死に爪を立てしがみつく。が、巨体が災いして奈落の底へ。
「……」
「回収できないね」
「ナーナ」
「いや、まだだ」
ヘモジと目を合わせる。
一瞬でこちらの意図を汲んで頷くヘモジ。
僕たちは転移する。為す術なく転がり落ちるドレイクの元に。
そして飛びだしたヘモジが、ドレイクにとどめを刺した。
見事なアクロバット。
ヘモジは勝手に召喚を解除して消えた。
そして意図していたシーンとは異なるが、初披露目である『追憶』を発動。ドレイクの骸を回収すると頭上にある岩塊に転移した。
「もう一回!」
砦と距離を取るために、元いた辺りに再ジャンプ。
そしてヘモジが再登場。
「ナーナーナァー」
久しぶりのポージング。
決まったな、ヘモジ。
満足そうで何より。
「土産ができたな」
「ナーナ」
「解体屋に送る?」
「勿論」
異空から取り出して、専用タグを貼り付ける。
砦の方が光った。
と思ったら『光弾』が頭上を通り過ぎていった。
急いで、転送した。
「ガーディアン、持ってきちゃ駄目かな?」
「『追憶』のなかに入れてくれば、持ってこれるんじゃない?」
失念していたな。
「禁止事項にならないかな?」
「やってから言う」
何かあれば、ゲートキーパーが介入してくるだろう。
「じゃあ、午後からな」
今はそれどころではない。勇猛果敢なエリート兵がワラワラと。
「ナーナ」
今は目の前の砦を落とすことに集中すべし。
「序盤から大変だな、こりゃ」
残る『光弾』の砲台は一つのみ。迎角はこれ以上下がらない模様。
僕たちは駆け出した。
「ナーナナーッ!」
バトルジャンキー大好きシチュエーション。あれだけ死んでも、敵はまだまだ残っていた。
「うへ」
結界で防がれた。
「その装備、人間サイズにしてよこせ!」
「猫サイズもついでによこせや!」
オリエッタも精神支配を試みて、敵の一部が混乱状態に突入。攻撃が一拍遅れるだけでも、僕とヘモジには充分過ぎる援護だ。
装甲の厚い敵には『衝撃波』 装備に隙間が見えたら、叩き切る。
ヘモジが楽しそうに無双しているが、見る余裕はない。
僕は砦に侵入すると、砲台のある上層に向かって駆け上がった。
ヘモジの邪魔になりそうな吹き抜け二層の敵を一通り排除すると、さらに上層に。
さすがに敵は少ない。
屋上に出た。
いきなり殴られたが、敵のメイスは空を切った。
僕は防具の隙間に剣を突き刺す。が、阻まれた。
「不味い!」
脇を締められた。
鎧の狭間で切っ先を押さえ付けられ、そこに拳が。
折られる!
咄嗟に剣を引き抜く。と、同時に。
『身体強化』!
片足で踏ん張り、もう片足で拳を落とす。
抜けた!
もう一度踏ん張り、とどめは鎧越しの『衝撃波』!
「か!」
効かない!
『四枚羽根のドレイク』対策か!
「『雷神撃』!」
属性を切り替える。
身を引くと同時に、轟雷が兜の上に落ちた。
「使わせるなよ」
言ってみたかった。
「強かった」
他人事かよ。
オリエッタはいつの間にか安全な場所で背中を丸めていた。
砲台、発見。
「お持ち帰りできるかな」
早速『追憶』のなかに放り込もうとしたが。
「あ」
質感が明らかに違った。
これはギミックだ。
「…… 無理だな」
持ち帰れないことはわかったが、破壊しておかないとヤバそうなので破壊する。
「あれ? 自爆装置がないぞ」
「いや、自爆装置じゃないから」
魔力を溜めておく壺がない?
砲台から伸びるケーブルを伝っていくと壁の中に潜っていった。壁を崩すと導線は下へと伸びている。
僕たちはそのまま床に穴を開けて二層分、下に落ちた。
「ナーナ、ナナッ!」
ゴム鞠のように飛び跳ねながら問答無用で装備ごと相手を叩きつぶしていく小人が、猛烈な勢いで通り過ぎていった。
「……」
僕とオリエッタは気にせず導線捜しを継続した。
まだ下へと伸びている……
「地下?」
「ある?」
さらに床を抜く。
「そろそろ魔石に変わり始めるぞ」
「ナーナンナッ!」
聞いちゃいねぇ。
ヘモジは地下への階段を見付けると、間髪入れずに飛び込んでいった。
地下が阿鼻叫喚の渦に巻き込まれている間、待つこと一拍。
僕たちも穴に入る。
「終ったかーい」
「ナナナ」
五体ほどいたが、既に息はない。
「あった、あった」
ラインは見たことがない装置に繋がっていた。
「…… どうやら逆止弁という存在に思い至ったようだな」
いつもの自爆装置、もとい、壺との間に見慣れぬ装置が噛ませてあった。
これで逆流がなくなり、自爆も起こらない。
「タロスを超えた……」
オリエッタが感慨深そうに吐露した。
が、これはタロスの未来のようにも思える。タイムリミットを超えたとき、勢力の天秤が傾く要因になりかねない。そう思うと気が沈む。
「特に新しい発見はなさそうだな」
「魔石、回収しよう」
「ナーナ」
魔石を大量入手。
「いくつあった?」
「二十九個」
あれだけ奈落に落ちたのに。
「もしかしてこのフロア、魔石の入手スポットになる?」
砦を一つ落としただけで魔石(大)が山盛りだ。それだけ攻略が難しいとも言えるが、こっちにはジャンキーがいるからな。
特にこれ以上見るべき物はなさそうなので、先を行くことにした。
空からの襲撃者はエルーダ準拠なら今日はもう湧いてこない。後は地上戦だけのはずだ。
ただ敵陣に『光弾』の砲台があるとなると、何が何でも先に探知せねばならなくなる。
が、何も生えていない場所だから見晴らしはいい。
稜線をてくてくと行く。
「ピクニック、ピクニック」
オリエッタの尻尾が揺れる。
「ナーナ、ナーナ」
ヘモジもご機嫌。野菜スティックでエネルギー補充。
眼下に雲海。
「敵、来た」
向こうの稜線から敵の一団が近付いてくる。砦同士を巡回する兵士か。
対『衝撃』装備、着てるんだろうな。
久々にライフルを取り出す。
「結界張ってたら、残念ってことで」
通常弾を撃ち込んだら、あっさり倒れた。が、他の兵士たちは警戒して結界を展開した。
僕たちは岩場に潜んで敵が近付いてくるのを待つ。
そして『雷撃』を連射、結界が薄くなったところでヘモジが飛びだした。
「楽勝、楽勝」
オリエッタは喜んだが、半数が斜面を転がり落ちていったことに僕とヘモジは落ち込んだ。




