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クーの迷宮(地下 49階 精鋭ミノタウロス&?戦)難易度上がり過ぎ

 そして夕刻。明日のための金塊を用意するために、白亜のゲート前広場で現地解散し、僕は改めて倉庫に向かった。

 まずは脳内で理屈の確認。

 基本『飛行石』の浮力を失った浮島は奈落へと落ちていく。そのため計画的に減った浮力分の重量を廃棄していかなければならない。

 まず一番大きな鉱脈を探す。そしてそこに寄せるように周囲を掘っていくのだ。このとき島の一番深い所から掘っていくのが基本である。空いた空間に土砂を埋め戻していくことは元より、カウンターの土砂はできれば地表ではなく島の底に貼り付けていくのがよい。

 兎に角、基本、どこをどう掘るにしてもチビチビ削ってはカウンターを当てたり、対称にある石を掘ったりしてバランスを維持するよう心掛けねばならない。

 本来、穴を掘る鉱夫は外が見られない。外を見る監視役との連携が何より重要だ。掘り出す『飛行石』の位置は元より、掘って出た土砂の置き場も島のバランスを壊す大きな要因になるので、作業は慎重且つ丁寧に行なわなければならない。

 大事故に繋がるケースで最も多いのが、島の転覆であることを忘れてはならない。

 が、何事にも例外がある。

 言わずもがな、爺ちゃんである。

 ユニークスキル『楽園』を使用したチート行為だ。

 複雑な工程を、相当分の土砂を異空に一時保管することで問題を容易くしたのであった。

 しかも島全体のバランスを常に意識して土砂を採掘するポイントを調整したり、戻したり、移動させたりと本来苦慮するところを、爺ちゃんは島が転覆しようが、まるでお構いなしだった。

 要は浮いてさえいれば、どっちが上を向いていようが構わなかったのだ。

 それどころか、島ごと回収して、僕たちを驚かせて悦に入っていたこともあった。

 僕たちはたんこぶを拵えながら、それをアトラクションのように楽しんだものだった。

 要するに作業工程は既知のもの。大胆且つ、でたらめにやりたい放題。方法は既に心得ているということである。

「島ごと消すのはやってみたいね」

 みんなもきっと目を丸くして驚くに違いない。

 明日は我が『追憶』の初デビューになるが、さて、さてどうなるものか。

 取り敢えず、攻略が先か、穴掘りが先か……

 掘れそうな浮き島を見付けたときに考えるとしよう。



 翌朝。子供たちは妖精族の団体ツアー客を尻目に元気に出ていった。

 僕たちも家を出るが、見た目以上にリュックが軽い。だが我が家が所有するすべての金塊を今、僕が所持しているのである。

 前回回収した分だけでは船の改造には全然足りなかったが、今回は船の四隅の一角ぐらいは軽く回収できそうである。

「わくわくする」

「高い所、好きだもんな」

「スーパー猫の宿命だから」

 スーパーいらないだろ。いや、猫でもないし。

「実際問題、明日が心配だよ。正直、高所での戦闘をさせてよいものかどうか」

「転移結晶持ってるから大丈夫」

「浮島同士を吊り橋で繋いでるような所もあるからな…… あいつらの体格だと手摺りが手摺りとして機能しないかもしれないし」

「無理なら自作する。立派な石橋を造って大手を振って渡ると思う」

「まあ、やるだろうな」

 いつもの魔力の無駄遣い。遠慮がないから成長が著しい。



 降り立ったのは安定した大地。山の頂の祠である。

 そこから別の安定した大地に吊り橋が架かっている。そちらは山の峰で、山道が山肌をさらに高い頂に向かって伸びている。

 そしてその先に見えるのが……

「雲が掛かってるな……」

 白い霧のベールに包まれていた。

 魔力反応はない。

 まずは環境に慣れろということか。幸い高山病の心配はない。環境はいつも通りだ。が、強風が下から吹き上げてくる。

「寒ッ。ふたりとも飛ばされるなよ」

 早速、吊り橋を渡る。

 ここで立ち往生する冒険者は意外に多い。高さのせいもあるが、重装備の冒険者には床板が薄く、手摺りのロープが心細く見えるのだそうだ。

「子供たちは隙間から落ちそうだな」

 子供たちが怖がるのは両サイドの手摺りに両の手が届かないからだ。橋は大人サイズにできているので、手を目一杯広げても同時にしっかり掴むことができない。そうなると片側の手摺り頼りになって、当然、吊り橋の床は傾くことになる。余程しっかりした吊り橋なら兎も角、取り敢えず足場を造りました的な物だと、足が竦んで動けなくなること請け合いだ。

「ちょっと固めてみるか」

 土魔法で床の揺れを排除するには、たわまないように固定化してしまうことが肝要だ。

 そして安全に配慮して落下防止のための手摺りを構築する。

「……」

 さすがに対岸までとなるとスキルが必要になるな。まず対岸に渡れる奴が渡って、両側から構築するしかなさそうだ。が。

「新しく架けた方が簡単かも」

 桁が架けられないから吊り橋なのであって、要は桁の部分が構築できさえすれば揺れは収まるのだ。

 が、そうなると吊り橋のたわんだ構造はよろしくない。むしろアーチ橋のように中心が盛り上がるように曲線を描かなければ。

 今回は橋の両端が固定化された大地に根付いているので問題ないが、これが浮島だと両端の位置関係が常に変わってくる。

 浮島は基本、鎖に繋がれていて、浮力のせいで常に引っ張られた状態にあるが、ベクトルは常にフレキシブルに変わり続けている。

 しかもこれが浮島同士ともなると、押し合い圧し合いで、もはや橋を架けることもかなわない。場合によっては他の小島が大きな島のサポートや重しになって全体のバランスを維持しているケースもあって、さらに複雑な動きを見せることも。吊り橋が真上に伸びてしまって、吊りばしごになっていたりするともうね……

 故にここでは誰もが程々がよいと、諦めることを覚えるわけだが。そもそも持ち出せる『飛行石』の量には限界があるので、根こそぎ掘り尽くす必要はない。

 無理に危険な場所を掘らなくても、鎖が複数方向から打ち込まれて安定している島だけを狙って掘っていれば転倒も回避できるし、いいのだが。そういう場所には当然のように敵がいるわけで。

「転移があれば楽勝コース」

「まあね。転移しちゃえば、楽なんだけど。マップを作らないといけないからな」

 子供たちも既に別のフロアで吊り橋は経験しているので、渡れないということはないだろうが、ここの吊り橋は揺れるというより、動くからな。

 魔法でどうにかするなら、転移しても同じ気がしないでもないが……

「それだと面白くないからな」

 子供たちはどうするんだろうな。

 取り敢えず僕は足元の床板を固めながら、そのまま吊り橋を渡る。

 効果は切れるに任せて、あくまで移動先のみに注力していく。

「角を立ち上げて床をコの字型にすれば強度も増すし、手摺りにもなるだろう」

「この橋、全員乗れる?」

「ナナーナ」

 大人のパーティーが普通に渡れるのだから、大丈夫だとは思うが。

「傷んでいる様子もないし」

 僕は余裕で渡り切り、山の稜線を伝って更なる高みを目指す。

「ん」

「来た」

「ナーナ」

 こんな見晴らしのいい場所であいつと戦闘かよ。

 空を飛ぶ巨大な影。

「火竜の元締め『炎竜』さんか?」

「……」

 なんだか違う気がして、全員、目を凝らす。

 エルーダではこのフロア最大の敵は空を舞う『炎竜』だったのだが……

「飛び方が違う」

 言われて見れば……

「なんか、戦い始めた」

 これから行く先の雲の上で地上の敵とそれは戦い始めた。

「炎、吐かないな」

『炎竜』なら遠距離からブレス攻撃するはずだが……

「!」

 山の地肌が吹き飛んだ。土砂と瓦礫と一緒にバリスタが谷底に落ちていく。

「あそこに野営地があるのか」

 地上の敵はエルーダ同様であれば、ミノタウロスのエリート部隊だと思われる。

 が、あの攻撃……

「羽が四枚ある!」

 オリエッタが叫んだ。

 それも当然、四枚羽根と言えば、ドレイクだ。ドラゴンが守護する五十層で最初に遭遇するドラゴン種の先兵だ。

「『炎竜』を押しのけていきなり『四枚羽根のドレイク』って……」

 ドレイクと言えば、炎を吐く定番の赤竜であるが『四枚羽根のドレイク』はカラフルでかぶいている。そして吐き出すブレスは炎ではなく、目に見えない衝撃波だ。それも範囲がやたらと広いときている。

 体格も『炎竜』とは比較にならず、倒すのは厄介だ。

 五十層は巨大ではあっても天井のあるダンジョンで、飛ばれても制限があったが。ここではほぼ無制限。

「不味いな……」

 問題は『炎竜』の炎攻撃に比べて射程が圧倒的に長いことと、目視できない点にある。

 最良の攻撃手段は特殊弾頭を使った銃器だ。もはや通常の魔法では奴に命中しない。

 まあ、エテルノ式はその限りではないが。

 それでも結界を突破してとどめを刺すとなると全力で対応せねばならないだろう。

「ここでドラゴンか。どうしようかな」

 子供たちにやらせるべきか、僕が片付けるべきか…… 足場が足場だから、吹き飛ばされたら即退場だ。こちらの結界も下手をすると抜かれるかもしれないし。

「難易度、上げ過ぎだろう」

「ナナーナ」

 珍しくヘモジも匙を投げた。

 それだけここでは地の利も何もないということだ。

 ミノタウロス兵の要害が見えてくる。

「やべ、あっちも城じゃん」

 当然『炎竜』対策用の砦と『四枚羽根のドレイク』対策用では規模も兵装も変わってくるだろう。

 突然、地上より閃光が放たれた!

「な!」

「ナ!」

「まさか!」

 ドレイクの羽が一枚引き千切られるように消し飛んだ。



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