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クーの迷宮(地下48階 ソウル戦)攻略最終日の一服

「結構広いね」

 未踏エリアに降り立つと、周囲はまだまだ広く感じられた。敵の反応も転移と共に一気に増えた。

「午後、出直す?」

 さすがに片手間に攻略するのは無理そうだ。

「気分はもうお休みモードだったのに」

「じゃあ、やめる?」

 考えた末、子供たちは続行することを選んだ。小腹が空いたらおやつでもかじることにして。


「このチーズケーキ、酸っぱいよ」

「そういうチーズなの」

「いつものがいい」

「買った物だから文句、言えないのよ」

 通路の両端を塞ぎ、陣取った。

「例の菓子屋?」

「もう、うちで菓子類は自作しないって。ラーラ姉ちゃん、言ってたよ。おじさんのお店に出す分の余りとかは別だと思うけど」

「勝手に作る分には何も言わないよ」

「そのためにもあの店の商品を完全制覇して、見極める必要があるのよ」

「このチーズケーキなら、自作する方に一票」

「そう? おいしいと思うけどな……」

「あんたはなんでもおいしいんでしょ」

「そうとも言う」

「ソウル、来たよ」

「近付かれる前に――」

「やるわよ」

 チーズ味に全力集中している間は詠唱できない。とんだところに魔法使いの弱点が。

 年長組が壁に穴を開けて、覗き込む。

「ちょっと、いつまで食べてるのよ!」

「すぐには動けないよ」

「じゃあ、なんで食べるの」

「なんで進むんだよ」

 まったくもう、愉快すぎる。

 オリエッタも髭にチーズを付けながら呆れている。

「ナナーナ」

 武器を構えるヘモジも野菜スティックを頬張って、口の中が騒がしい。

 ケーキを無理矢理、頬張って重い腰を上げる年少組。

 敵もちょうど姿を現した。

「気を抜くなよ」

 一応、注意喚起するが、子供たちに抜かりはない。


 未踏エリア最後の部屋に辿り着いた。

「うわっ、三体いるし」

 念のため手前に沼を造って、それから音を立てて誘い込んだ。

「弓、来た!」

 弓兵が一体、まず姿を現した。

 弓の射程に入ったところで足を止め、矢をつがえ始めた。

 足の早い一体と交錯する。

「土壁、土壁!」

 結界でやり過ごしながら、矢の軌道を塞ぐ壁を通路の先に拵え、今ある壁を取っ払う。

 遅いのがもう一体。敵には相変わらず隊列の概念がない。盾役がいつも最後尾である。


 子供たちは苦もなく、軽装の相手を力業でねじ伏せ、盾役を沼に嵌め、最後にゆっくり弓兵を調理した。

 回収品はどれもまあまあ、可もなく不可もなく。ミスリル製は少なかった。

「わッ、これ銅だ。銅の盾だよ」

「マジかー。ここ四十八層なんですけど」

 なんとも年期の入った盾だった。素材にするのも惜しまれる、ある意味レアな一品であった。


「扉、発見!」

 突き当たりに、外側から既に発見されている一方通行の扉に辿り着いた。並んでいる扉は全部で三つ。そのどれもが反対側からの入場を拒んでいた。

「三つもなんであるの?」

「建築中に余ったんじゃない」

「マジかー」

「この扉だけ違わない?」

 一つだけ閂が掛かっていた。

「これはもしかして?」

 外してしまえば、次回以降、外側から入れるということだろうか?

 念のため、すべての扉をヘモジに潜ってもらうことにした。

「ナーナ」

 一つ目の扉は想定通り一方通行だった。

 閂を外した扉に回り込んでヘモジはこれまた想定通りに戻ってきた。

 そしてその足でもう一つの扉に突入。

「ナナナ」

「終ったー」

 ヘモジが閂の扉から戻ってきたところで、マップ制覇完了。探索は終了した。

 そして……


「いた」

 最後は巨大なミミック戦である。

 ヘモジは簡単に仕留めたが、子供たちは苦戦した。触手攻撃とその頑強さに手を焼くこととなった。

「まだ壊れないの!」

「なんで触手が生えてんだよ!」

「宝箱のくせに!」

 子供たちの不平が募るほどに、ミミックは弱体化していった。

「数の暴力、サイコー」

 オリエッタが台詞を棒読みする。

 ほんと敵が気の毒になるな。

 ミミックは善戦していたが、回復する魔力を失うと一気に瓦解した。

 ヘモジが生死を確認し、子供たちは雄叫びを上げる。

「なんか出てきた」

 昨日はスカだったが。

 箱を開ける子供たち。

 いらないスクロールがぎっしり詰まっていた。

「ゴミ箱かよ」

「火の魔法の初級だ、これ」

「僕たち、スクロール使わないんだよね」

 同じ魔力を消費するなら、自分で詠唱した方が応用が利く。それが我が流派。でも魔法使い以外の職種にはそれなりに便利な物であるが、如何せんレベルが……

 四十八層でなぜ初級迷宮で出るような寸足らずな物が今更……


 その理由がわかったのは大分後になってからのことだった。

 まず『禁断の金床』がクエストの一種で、予想していた通り、誰もが発見できるものではなかったことが一因だった。そして、オーダーを頭のなかで念じて発注するやり方は、僕たちのようなイメージ先行型の魔法使いにしかできないことであった。

 他の冒険者たちはしばらく解決策が見出せず、金床の前で苦虫を噛みしめることになった。

 それが解消されたのは、僕たちが遭遇しなかったもう一つのキーアイテムが発見され、その情報が流出してからのことだった。

 金床の使い方が詳しく記された文献が宝箱から見付かったのである。

 それは装備品と一緒に、付与したい効果があるスクロールと魔石を一緒に収めることが記されてあったのだ。それによって、装備品に付与が授かるというもので、一時、高級スクロールが買い占められる騒ぎも起きたのだが、結局『お土産』の残量以上に付与効果は加算されないということで、どこまで投入すれば効率的なのかという新たな悩みを生み出したのであった。


 当然、このときの僕たちはそんなこと気付かなかった。なので、そのまま回収せずに、ゴミ箱はゴミ箱のまま、出口階段を降りて脱出ゲートへ向かうのだった。



「昼飯を取ったら、倉庫整理だな」

「えーっ」

「別に明日でもいいぞ」

「幼児虐待だ!」

「それを言うなら、探索に行く前に言って欲しかったな」

「鬼、悪魔!」

「へっぽこ!」

 へっぽこって、なんだ!

「今日はいい物、あまり出なかったから全部素材でいいよ。師匠、溶かしておいてよ。あとでインゴットにするからさ」

「まあ、無理強いはしないよ」

「あ、何か企んでる!」

「いつもの師匠なら簡単に引き下がらないもんね」

「バンドゥーニさんのために一式、装備を揃えようと思っただけだよ。一旦、戻るだけだから気にしなくていいぞ。大丈夫だから」

 僕がほくそ笑むのを見て、年少組は訝しんだ。

「チョロいな」

「チョロすぎる」

 トーニオとジョバンニが隠れて笑う。

「僕たちも行く!」

「わたしも!」

「じゃあ、わたしも」

 うん、わかってた。

「しょうがないな」

「師匠だけじゃ、お守りは大変そうだし」

 フィオリーナとニコレッタも参加を表明。

「俺たちだけ休んでても申し訳ないしな」

 トーニオとジョバンニも合流して、食後はみんなで倉庫整理することになった。

 その前に、帰りが遅れたことを夫人に釈明せねばと思っていたら、既に店の手伝いに消えていた。



 お店に寄って事情を説明して、倉庫整理に向かった。

 子供たちの言う通り、ほぼほぼ素材に還元して回収品の整理は終了した。

 そして興味の本筋、バンドゥーニさん用の装備選定の作業に移った。

「こんくらい大きくないと着れないよね」

「計ってきたんだろう?」

「計ってきた」

 バンドゥーニさんの装備の縦横を大まかに計ってきただけだが、獣人族の、しかもバンドゥーニさんの種族の体格は常識を超えていた。

 胸板だけでも有り得ないサイズ。なので、なかなかいいなと思う品とマッチしなかった。

「……」

 あんなに売り物があったのに、理想とは程遠い結果となってしまった。これでは加工してやっと理想の七割といったところだ。

「消耗品だしな」

 あって損はしないだろうということで、僕たちは当初の予定通り『禁断の金床』に向かった。

 付与はほぼほぼ俊敏性と耐魔法と状態異常耐性に振った。パワー系を省いたことで思ったより余裕だった。

「ちょうどよかったかも?」

「そうだな」

 受け取りは翌日ということで、僕たちはその場を退散。というところで、子供たちのおねだり攻勢が始まった。

 そしていつもの十一階層『陽気な羊牧場』へ。

 こうなるとは思ってたけどね…… 百五十点の褒美ということで、残り時間を有意義に消化して貰うことにした。

 この日、ミケーレは羊レースで同じ羊に賭けて三連勝。魔石を稼いだ。

「屑石捨てるためにやってるのに、なんで増えるの?」

「それは、ほぼ同額をヴィートとヘモジがすってるからだな」

 トーニオの冗談に笑う子供たち。

 四十八層攻略最終日、いい思い出になっただろうか。


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