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クーの迷宮(地下48階 ソウル戦)最後のピース

「……」

 長い下り階段が伸びていた。

 それは繰り返し見た光景。

「デジャビュ」

「ナーナ」

 踊り場には転移ゲート……

「なんでこんな所に出口が」

 念のため、更に降りてみる。



「うむ」

「浮島だ」

 浮島が空に浮いていた。

 どうやら四十九層に間違いなさそうであった。

「ナーナ」

「いよいよ『飛行石』採取だな」

 爺ちゃんのスキルがあったら楽なんだよな。やっぱり修行が必要かな。

 爺ちゃんは物にするのに何日掛かったって言ってたかな。

 僕たちは残ったエリアを攻略するか否か、話し合った。

 爺ちゃんと違って無制限に金鉱石を持ち込めるわけではないので、浮力と相殺する量には限界がある。それこそ両の手のひらでいっぱいである。

 浮島のバランスを維持しつつ、すり替えていく作業は、上陸する人や荷物の重量まで加味する必要があるので計画的に行なわなければならない。

 爺ちゃんの『楽園』のスキルがあれば、緻密な計算など抜きにして、場当たり的な処理が可能になるのだが。

 過去、採掘作業において、島ごと落下させて大量の死傷者や行方不明者を出したケースも、遙か上空まで運ばれて落下死するケースもあった。欲深な依頼者の無茶振りや知識不足が原因だった。

 現在『エルーダ』においては、大規模採取は許可制となり、重課税対象になって転売には向かない商品になっている。大型飛行船等の重要素材になっているので、需要は尽きないが。


 僕たちは肝心な金鉱石を持っていなかった。採集するなら一旦戻らなくてはならず、来たばかりの僕たちには選べぬ選択だった。

「どうせ大した広さじゃないから」

 僕たちはゲートから入り直し、マップの余白を埋める作業を再開した。

 ミミックとの遭遇ポイントまで戻った。

「ナーナ」

 ソウル発見。

「あ」

 消えた。

「隠遁持ちだ!」

 僕たちは息を呑む。

「結構、高レベルかも」

 僕は目で追うことを諦めた。

 オリエッタにはまだ見えているようだが。

 僕は微妙な魔素の乱れを見ている。そして音と臭い。

「本体は左脛……」

「掛かるぞ」

 敵はもうすぐ結界に引っ掛かる。

 ヘモジはわざとらしく見えてないよ、と芝居を打っている。

 結界が砕かれた!

「ナーナ!」

 ヘモジの『魂砕き』が炸裂した。

「『お土産』付きが無傷で手に入るのは有り難い」

 が、たいした付与がない。

「素材もたいしたことないな」

 残念賞だ。


「ん?」

「行き止まり」

 マップにはまだ空白地帯がある。一方通行で開けられていない扉もある。

「見付けてない入口があるな」

 丹念に未走破エリアに接する壁を調べていく。が、神殿前まで戻っても見付けられずにいた。

 さらに逆走をするが……

「参ったな」

 もう一度戻って確認したが見付けられず、埒が明かないと諦めることにした。

「金塊、持ってこようか……」

『身体強化』してても運べる金の量には限界がある。回収できる『飛行石』の量は浮力と相殺できる金の量次第。


 僕たちは探索を切り上げ、倉庫に向かった。

 が、リュックに入れて担げる量の重量では回収できる量は微々たるものであることは自明の理。

 この重さ分の浮力を相殺できる量しか手に入れられないのかと思うと、努力もむなしい。ガーディアンの性能向上分だとしても、なん往復が必要か。以前、宝箱から回収した件はまさにレアケースだった。

「やっぱり修行するか」

 でも『お仕置き部屋』に入るのは中毒性がありそうで怖かった。

 過去、一度だけ成功(?)しているが、膨大な魔力が必要で『万能薬』を数本浪費することもあって、その後、試してはいなかった。

「魔力量は上がってる」

 子供たちを連れて日々転移を繰り返してきた今、僕の魔力はあの頃より随分増えてきている。転移一つに気張ることもなくなった。

 大伯母を探した。

 僕を異界に閉じ込められるのは大伯母だけだ。この際強制的に閉じ込めて貰った方が早いやもしれない。


 大きな溜め息をつかれた。

「ようやくやる気になったか」

 整った顔がこちらを覗き込んだ。

「夕飯を食べてからの方がいいだろう」



 夕食を終え、僕は大伯母の部屋に誘われた。

 深めのソファーに身体を埋めて大伯母の支度を待つ。

「呼び鈴を鳴らせたら、出してやろう」

 すべての指に魔力増強用の指輪を装備していた。

「駄目だったら?」

「無駄な時間を消費するだけだ。死ぬ前には迎えに行こう」

 突然、何もなくなった。

 やられた。心構えをする前に閉じ込められた。

「呼び鈴を鳴らせ」

 呼び鈴に手を掛けるには、この亜空で自由に動けるようにならなければならない。意志は自由に飛ばせるのだが、身体はうんともすんとも。

 それでも一度成功しているせいか余裕があった。

 爺ちゃんのレクチャーを思い出す。

 ここは魔素のスープのなか。物理法則は意味を成さない。故にどんなに筋肉を収縮させようとも身体は動かない。

「苦しくない……」

 呼吸はできている。

 大伯母の裁量なのか、それとも克服できたということなのか?

 取り敢えず、存在することはなんとかできている。ただ、世界に干渉できない。

 ああ、嫌だ。この感覚。

 エンシェントドラゴンが逃げ込んだと言われる異空はまさにこんな感じだったらしいが、この中で戦うなんて正気の沙汰じゃない。

 爺ちゃんの爺ちゃんはもっと凄い人だったみたいだけど。

「同化しろと言っていたな」

 それをどうするのかって話だけど、あの甘美な感覚は意識さえも奪っていくから……



 なんというか、退屈だ。溺れていた頃の方がまだこの中は価値があったような気がする。


『何もないのは何も望まないから……』


 誰!


『何を望む?』


「何も。すべてはタロスを殲滅してから」


『何を望む?』


「与えられた命題を消化してからじゃないと、僕に人生の続きなんて……」


『何を望む?』


「ラーラの生還を。あいつは馬鹿だから絶対に付いてくる。死なせたくない……」


『何を望む?』


「子供たちの幸せを。あいつらやり過ぎるから心配だ。僕が死んだらどうなってしまうか…… 世の中の理不尽さに逆恨みなどしまいか心配だ……」


『何を望む?』


「みんなを救いたい……」


『ほんとうに?』


「……」


『心の奥底に仕舞い込んでずいぶんになる』


「……」


『君自身忘れている望みは何?』


「……」


『思い出して』


「思い出せない」


『恥ずかしいことじゃないよ』


「思い出せない」


『それは生きている者の本能だ』


「……」


『思い出したかい? 遠い昔に心の奥底に仕舞い込んだ君の本当の願い』


「生きて帰りたい。もっと生きていたい」


『ほら、あった』


 目の前に子供部屋が現われた。遠い昔に放棄された…… 無垢な自分の城。裏切りの箱庭。笑顔の両親。

 幼い僕はここから飛びだして、大伯母の元に逃げ込んだ……


『ここには何もかも揃っているよ。さあ、何を望む?』


「退ける力を」


『何から?』


「僕自身の弱さ。心の弱さ」


『大丈夫。僕の後ろを付いておいでよ』


 ルカ!


『僕たちは最高のパーティーさ。遠慮は無用だよ。だから見せてよ』


「何をさ?」


『君はもうあの頃の君じゃない』


「ル、ルカ?」


『見せてよ。君が望むすべてを!』


「無理だよ!」


『一緒に英雄になるって言っただろう? 諦めるのかい?』


「君がいないんだ」


『いるじゃないか。ここに』


「そんな戯れ言!」


『僕はいる』


「……」


『いさせてよ』


「ルカ……」


『だから君の力を見せて! 親友だろう』


「先に逝ったのは君じゃないか」


『君の足枷にはなりたくないんだ』


「そんなことは!」


『君は僕を言い訳にして何も見ていない。ここはまるで君の心のなかだ。君は笑わない。笑えない。だから恐れる』


「笑ってるよ。最近は楽しいことがたくさんあって」


『僕は君だよ』


「ルカ?」


『君のなかの僕はそんなにひどい奴だったかい? 君はそんなにひどい奴だったかい?』


「最低だ……」


『僕は君の背中を押したい!』


「!」


『君も君の背中を押したがってる!』


「やめろ!」


『僕に背中を押させてくれよ』


「でも……」


『許してくれ』


「!」


『許してやれよ』


「!」


『君の新しい力だ。さあ、僕を超えていけ!』


「ルカッ!」


『遠慮は無用さ』


「ルカぁ…… 僕は……」


『自覚あるんだろ? とっくの昔に君は僕を超えているよ。恐れることは何もない』


 目の前に色鮮やかな草原が現われた。

 僕は草原の上に立っていた。

 地面には一振りの剣が刺さっている。

「君の墓に残してきたのに」

 小振りな剣……

「こんな小さな剣を振っていたのか……」

 むせぶような草の匂い。爽やかな風。

 風に乗って幼い笑い声が駆け抜ける。


「『これが…… 最後のピース』」




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― 新着の感想 ―
[一言] 爺ちゃんの爺ちゃん、ヴィオネッティじゃない方の(前作主人公の)爺ちゃんですね。
[一言] 過去に決着をつけ、ついにエルネストの境地に・・・まあ鑑定系が抜けていますが、これはもう猫又居る限り習得することは無いですよね?
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