クーの迷宮(地下48階 ソウル戦)続『禁断の金床』
投稿日、一日間違いました。m(_ _)m
「なんでこうなった?」
本日の探索を終え『禁断の金床』の元に向かう段になって、子供たち全員が心変わりしたのだった。
ヘモジの有様を見て、人生はいつ何時終わりを迎えるかわからないと自覚したせいなのか、単に好奇心に負けたのか。
「熱い!」
昨日より場の空気が猛烈に上がっていた。周りの石材も熱を含んでいた。
「信じらんない」
「すげーッ」
「神殿みたい」
「神殿でしょ。どう見ても」
「イフリートのフロアの地下神殿みたいだな」
お、同じ感想を抱く者がいたか。
「えー、どう見てもただの石切場じゃないの?」
「まあ、美しさには欠けるかな」
「無骨よね」
「実利一辺倒って感じ」
僕は石棺の前に立った。
昨日の探索終わりの時間は遅かったから、まだ一日は経過していない。
「さて……」
僕は石棺に手を掛けた。その途端、目の前に真っ赤な数字が浮かび上がってきた。
「うわっ」
「どしたの?」
「みんなには見えないのか?」
代わる代わる石棺に触れさせたが、特に何もなかったが、ヘモジとオリエッタのときだけは違った。
「これ残り時間だ」
「ナナーナ」
「どうやら、中に入れた物を回収する権利のある者には見えるようだな」
「パーティー単位ってこと?」
「だろうな」
「でもまだ取り出すまで三時間ある」
「そんなに?」
「夕飯、食ってから出直すか」
「そうしよう!」
子供たちも戻って来る気らしい。まあ、いいけどね。
「来るとき次に入れる装備も持ってこようよ」
「一応一式揃ってるけどな」
「それは今日獲れたばかりの得物から選んだ奴でしょ」
「帰ったら厳選しましょう」
「そうなると、ついでに倉庫整理だな」
子供たちは嫌そうな顔をした。
そんなわけで倉庫に向かうと、暇を持て余していたモナさんが、手を付けてくれていた。
子供たちが参加すると倉庫のなかが一気に賑やかになった。
「ボツ」
「これもボツ」
「こっち終った」
モナさんのおかげでミスリル装備の分別が早く済んだ。溶かす物と残す物。
分別の終った者はガレージ側の壁に並べた売り物のなかから、金床送りにできそうな物を全身分チョイスする作業に取り掛かった。
「これ、どう?」
「さっきの方がよくない?」
「付与はこっちの方がいいみたいだけど」
「デザインはどっちもどっちね」
「これって、傷とか直るのかしら? この傷、目立つんだけど」
「まだわからない。エルーダでは鍛冶屋の役目だったから、直ってたみたいだけど」
やってみなきゃわからないものは、わからない。
ワンセット分を頭陀袋に納め、僕たちはその場に置いて帰宅した。
「熱くないよー」
炎に焼かれた火事場の熱量が完全に消えていた。
「むしろ冷えるわね」
「師匠、早く」
「そう急ぐなよ」
「わくわく」
「どきどき」
「ナナナナ、ナナナナ」
石棺が苦もなく空いた。
「バラバラだ……」
「回収した寄せ集めを収めただけだからな」
「どんな感じ?」
オリエッタが前に出た。
僕は石棺に収める前のデーターを記したメモを取る。
オリエッタの目が爛々としてきた。
「凄い!」
「それだけ?」
首がちぎれるほど、大きく縦に振った。
朗々と装備品のスペックを公開するオリエッタ。
子供たちはここでも『解析』魔法を乱射しまくった。
「すげー」
「こんなの見たことないよ」
「国宝級じゃね?」
「国宝級、見たことないでしょ」
「でもすげーだろ、これ」
「師匠の剣もソウル装備だったのかも?」
「そうかもな」
「売るの勿体ないよね」
「でも一日ワンセットが限界なのか…… 『お土産』付いた装備、結構あるのに」
「同時にいくつまで行けるか、まだ試してないけどな」
「アクセサリーは?」
「ソウルが宿ったアクセサリー、見たことないんだけど」
「あ。そうだった。ただのアクセサリー入れても駄目なんだった」
「今日のところはワンセットだけね」
「あれ、置けない」
「なんで!」
子供たちが装備品を石棺に並べようとしたら、悉く弾かれて石棺の外に放り投げられた。
「あ、肝心なことを忘れてた」
「何?」
「注文を出さなきゃいけないんだよ」
「?」
「普通のお店みたいに、これをどうしたいかって伝えながら収めないと」
「じゃあ、まずそれを考えないと駄目ってことか」
子供たちは話し合った。一品一品、どういう付与が望ましいか。
「じゃあ、兜は物理耐性がもうあるから、魔法耐性強化で」
「胴体は」
メモに記録しながら一品一品、注文を記していく。
その間、僕とオリエッタは改修されたセットの付与効果の確認作業を念入りに行なった。
「注文通りだ」
数字的な問題は魔力残滓の影響があるから、望み通りとは行かなかった物もあるし、むしろ望んでいた数字を超えている品もあった。
しかし、すべて昨日、頭のなかで望んでいた通りの結果となっていた。
あのふわふわした感覚はそういうことだったのだろう。
となると、新たな懸念が。注文は一人からしか受け付けないのか否か。
早速、試すことになった。
まずは一人一品、手に取り石棺に収めところから。
「置けた!」
最初の一つは収まった。
「次だ」
次が問題だ。重い胴鎧を手にしているのはトーニオだ。ゆっくりと恐る恐る腰を落としていく。
「入ったぁ!」
どうやら複数人が持ち寄っても可能なようだ。
「ここで同じ部位を投入したいところだったんだが……」
「ナナナ!」
ヘモジが部屋の外に飛び出していった。
遠くで、ガンガラガッシャーン。金属が四散する音がした。
そして戻ってきた。手にはガントレットが握られていた。
「『お土産』付き」
オリエッタが即断した。
「じゃあ、次、ガントレット」
フィオリーナが抱えていた腕装備は収まった。
そしてそこに同じ部位の採れ立てを一度付与を成功させている僕が収めようとした。
「…… なるほど」
子供たちが石棺に収められなかった事態を、身を以て追体験することになった。置いたつもりが、棺の外に。
これって…… 空間をねじ曲げられている?
兎に角、僕たちは一つの結論を得た。
「二個、同時は駄目だな」
「一日一セットが限界ってことね」
「他の冒険者も使うようになったら、早い者勝ちになっちゃうかもね」
それはどうかな。これがクエストの一環なら、この金床の仕組みは他の冒険者には見付けられない。『陽気な羊牧場』と同じだ。同じであるなら、招待した者は利用が可能になるのかもしれないが…… それもいずれ検証する必要が出てくるだろう。
取り敢えず、今日の用事は済んだ。
子供たちは装備を一品ずつ抱えて、倉庫に戻るのだった。
「うーん」
「どうしよー」
「うーん」
「これ、師匠が狩ったもんなんだから、師匠が決めればいいんだよ」
「売るには出来が良過ぎるんだよなぁ」
「オークションに掛けるレベル?」
「オリヴィアに預けるか」
「そだね」
「ナナーナ」
人任せにすることにした。
帰宅すると報告を待っていた女性陣に囲まれた。
こんな時ばかり。温かい紅茶とケーキが提供されたのだった。持て成されてしまっては嫌とは言えない。子供たちは起きたことを包み隠さず報告した。
「なんで現物持ってこないのよ!」
「オリヴィアに任せるんだから」
「ギルドに回しなさいよ」
ラーラの言うギルドとは『銀団』の方である。
「軍票より何か現物で貰った方がいいだろう」
「欲しい物なんてないでしょう」
「ケーキ!」
「ケーキと交換する馬鹿なんていないわよ」
大人げなくマリーを上から見下ろすラーラ。
「一年間、食べ放題とかあるじゃん」
ヴィートがマリーを庇った。
「一生食べ放題にしても割合わないわよ!」
睨み合うふたり。
「子供相手に怒るなよ」
「常識を教えてるの! あんたが教えないから!」
とばっちりだ!
「兎に角、値が付けられない物を市場にポンポン流すんじゃないの。世の中はバランスで成り立ってるんだから」
王女様がそう言うんだったら、姉さんの手に渡して、報償の足しにでもして貰おうか。
はぁ、軍票いらねー。
「どういうこと?」
子供たちはわかってなかった。
「価値ある物とは基本、レアな物だということだ。希少性が何より重要視される。つまり、それが世の中に溢れだしたらそれはもうお宝じゃないということだ」
大伯母が言った。
「興味本位で高級品を大量に市場に流してしまったら、相対的に全体の武具の相場が下がってしまう…… そうなったら武具を扱っている商人や鍛冶屋はどうなる? オリヴィアならその辺は心得ているだろうから、任せること自体は否定しないが。やり過ぎれば、ただの迷惑行為だ」
「力ある者は追々そういうことも考えていくようにしないと、恨まれるわよ」
子供相手に辛辣だなぁ。
「じゃあ、鋳つぶす?」
「鋳つぶしたらどうなるのかな?」
「ミスリルはミスリルなんじゃない」
「質のいいミスリルになるかも!」
「高く売れるかも!」
「明日の分、回収したら、試しに一個鋳つぶしてみようよ」
冷たい視線が僕に集まる。
「管轄外だ!」
「管轄内よ」
次回は28日0時の予定です。




