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クーの迷宮(地下48階 ソウル戦)制限解除、攻略す。

 子供たちが上がってきて、今日の成果を早く見せろと催促してきた。

 清書前の紙束を取り上げると、勝手知りたる風にぺらぺらめくり始める。

「『闇の信徒』の情報は?」

 なんだ。知ってたのか?

「あれは別件。もうギルドに書類は提出しちゃったよ」

「なんだ。つまんない」

「ねー、ヘモジ。敵、強かった?」

「ナナーナ!」

 ヘモジが身振り手振りで解説しようとし始めたのでやめさせた。

 ヘモジは急いで食事を喉に流し込むと、椅子を蹴り上げ、隣のテーブルに移って身振り手振りで語り始めた。通訳を入れながらの解説なので、ヘモジ以外は熱くならずに冷静に聞き入ることができていた。

「でも今日のアレは強かったかも」

 オリエッタが呟いた。

「詰めが甘かった」

「リオネッロ以外だったら、やられてた」

 殴られたとしてもアクセサリー類のおかげで、オリエッタは傷付かなかっただろう。オリエッタの装備品は小さくても誰より金が掛かっているのだ。

「公園の連中はよく生き残れたよな」

「多勢に無勢だった。たぶん」

 誰、目線だよ。

「うへー、マジかよ」

 全部の結界が剥がされたくだりまでヘモジの話が進んでいた。

 なぜかその後、ヘモジが助けたことになっていたが。

「二本挿し、やべー」

「僕たちも注意しないとね」

 いやいや、出会っちゃ駄目だろう、逃げないと。


 デザートのプリンをオリエッタと分けながら、本日の復習をヘモジによる解説で済ませることにした。

 いよいよ話は終盤、金床まで話が進んできた。

 専属通訳としてフィオリーナが採用され、子供たちはその声に聞き入っていた。

「ちょっと甘さが足りない」

「やっぱり、そう思うか?」

「そこ、うるさい!」

 ここは食堂なんだから。君たちがどっか行こうよ。


 お茶が出てきた。

 夫人たちもここで話に割って入るのも無粋と手をこまねいていた。

 ラーラだったら容赦なく入っていくところだが。当人は上の階から僕たちを含めた全体を俯瞰していた。

 僕はお茶の匂いを嗅ぎながら、話が終るのを待った。

 オリエッタはいつの間にか退散して、梁の上の定位置に収まって欠伸していた。


 長話が終った。

「ご苦労様」

 僕はフィオリーナをねぎらった。

「わたしたちも早く見たいです」

「すぐだよ」

「はい」

 用が済んだ子供たちは、ジュースを求めて台所に雪崩れ込んだ。

 夫人に小言を言われながらも、全員グラスになみなみウーヴァジュースを注いで戻ってきた。

 僕も立ち上がり、散らかされた書類をまとめると自室に戻って、清書に取り掛かるのだった。



 翌朝。『禁断の金床』の所に先に行こうか悩んだ末、子供たちは我慢する選択肢を選んだ。自分たちの力で到達するまで現場を知る楽しみは取っておくと。その方がモチベーションを維持できるからと。

 僕は内心、置いてきた装備がどうなっているのか、いないのか、早く確認したかった。受取の待ち時間がフロアのリセットタイムなのか、実時間で丸一日掛かるのか。あるいはもっと長いのか否か。

 子供たちと一日作業しても丸一日を越えることはなさそうなので、帰りに確認すれば最低前者か否かはわかるだろう。

「薬、補充したか」

 納戸の詰め替え用の大瓶を新品と入れ替えておいた。

「何味?」

「蜂蜜とマンダリノ味」

「前のと混ぜて平気かな?」

「わたしは別々にキープする」

「ヴィート、試しに混ぜて飲んでみてよ」

「なんで、俺が」

「じゃあ、ミケーレに頑張って貰う」

「ぼ、僕ぅ?」

 結局、混ぜてもいい派と駄目派に分かれた。

「『万能薬』をテイスティングする子供なんて世界であんたたちだけよ」

 ラーラに尻を叩かれ、玄関を後にした。

「ラーラ姉ちゃん、機嫌よかったね」

 ご依頼のワインテーストの『万能薬』をプレゼントしたせいだろう。

 念のため『飲み過ぎ注意』の警告文を添えさせて貰った。



「うわっ」

 子供たちがまた転んだ。敵の動きに翻弄されて足を取られることが多くなってきたからだ。

 普段より接近されることが増えてきた。理由は周囲一帯にある『避雷針』のせいだ。直接的な罠が減った分、間接的な制限がいつもの戦法を無効化していた。

「当たんねーッ」

 すぐそばに敵がいた。ばれずに『避雷針』を潰したかった。

「ナナーナ」

「ヘモジはボウガンじゃんか!」

「ナナナーナ!」

「そっか『必中』も使いようか」

 スリングの弾に付与を施しても魔力は消失するが、すぐに無力化されるわけではない。むしろ『避雷針』は動き回らないので追尾する必要がない。軌道修正は放たれてすぐ行なわれる分だけで充分だった。

「当たった!」

「でも壊れねぇー」

「威力が足んないんだよ」

 目の前の『避雷針』は従来の物より頑丈なようだ。

「くそー魔力が食われなければ爆発させられるのに!」

「食われる前に使えばいいのよ」

 そう言うと、ニコレッタは敵から回収した弓に矢を番えた。

 風魔法を矢を射た瞬間に使って、射速を上げることで結果的に威力を増すことに成功したのであった。

 カーン!

 ドシャンガシャン!

 大音響が通路に響き渡り、そばにいた敵に気付かれた。

「もはや敗北はない!」

 魔法の弾幕が一斉に敵に襲い掛かった。

「次の敵、呼んでくるねー」

 安全地帯を確保した子供たちは、危険地帯にわざわざ足を運ばず、敵を釣ることにした。

 大抵大きな音を響かせれば近場の敵はやってくる。

 今まさに新たな一体が近付いてきた。

 そして通路の角から頭を出した途端、吹き飛ばされるのであった。

「はー。なんとかなりそうね」

「ほんと『避雷針』は邪魔だよね」


 足に違和感を覚えた。急に足が上がらなくなったのだ。

「うわぁあ」

 転ぶ子供たち。

「何これ?」

「重力魔法!」

「タロスの新種が使うような尋常ならざるものじゃないが、俊敏さを売りにしている連中は困るだろうな」

 元々俊敏さとは無縁の者たちである。子供らしいすばしっこさはあるが。

 敵が一体突っ込んできて、罠の範囲に踏み込んできたら、案の定、罠の影響を受けていた。

 動きの鈍くなった敵に様々な属性魔法が飛ぶ。

「土魔法は駄目だ。的はずれた」

「氷も駄目だ」

「水魔法も軌道がズレるわね」

「火はいけるけど、あんまり有効じゃないよ」

「やっぱこれね。『衝撃波』」

「多少はずれてもいけるし」

「じゃあ、この罠がある所では『衝撃波』で」

「りょうかーい」

「罠の目印はあった?」

「あれ」

 オリエッタが指し示した場所には置物が置かれていた。

「蛙だ」

「蛙の置物だ」

 通路の脇に置かれた苔生した台座の上に載っていた。

 昨日は一度も遭遇することのなかった罠だ。ということはランダムにポップしたということだ。

「ナーナ!」

 ミョルニルを振り下ろすと、石製の彫像は容易く砕けた。中から砕けた黒い宝石が出てきた。

「ちょ!」

 僕は急いで割れた宝石を掻き集めた。

 重力魔法の謎の一端を知ることができると思ったのだが……

 念のため、破片を集めて革袋に収めた。明るい場所で調べたらまだ何かわかるかもしれない。

「次、同じ罠が出たら、宝石、確保よろしく」

「えー、面倒臭い」

「倒すの代わってやるから、一回だけ、な」

「じゃあ、いいよ。譲って上げる」

「ナナーナ」

 そう言った途端、ヘモジはミョルニルを担いで、勇ましく前進し始めた。

「重力魔法の罠だけだぞ」

「ナナナーナ」



 重力を操るための宝珠を手に入れた。割れた破片は床にばら撒いて、空いた袋に宝珠を納めた。

「よし」

「後はもう壊しちゃっていいの」

「おう。遠慮なくやってくれ」

「ナーナ」

「お前の出番も終わりだよ」

「ナ!」

 ケラケラ笑う子供たち。

 敵はどんどん強くなっていくが、子供たちもその分、ソウルに慣れていった。

 相変わらず『避雷針』は厄介だったが、それ以外はそつなくこなした。

 安定した戦い方ができるようになってきたので、安全確実に前進することができた。

「『結界砕き』!」

 破壊される前にこちらから結界をぶつけて無力化してしまう戦法を子供たちは編み出した。

「これなら何枚砕けようと、一回は一回だもんね」

 教え子から学ぶこともあるとはよく言ったものだ。

「もう怖くないから」

 ソロプレイだと複数の結界を砕くスキル相手に自ら結界の一枚を手放すことなどなかなかできることではないが、互いの信頼が厚い子供たちにとっては造作もないことだったらしい。

 取り敢えず、制限解除の『結界砕き』対策は、わずか十歳程度の子供たちの手によって攻略されたのであった。



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