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クーの迷宮(地下48階 ソウル戦)『闇の信徒』再び

「いきなり金貨五十枚。幸先いいね」

「ナーナ」

「帰りに焼き鳥、買う?」

「気に入ったみたい」

「へー、珍しい」

「ナナーナ」

「『(ポロ)がおいしい』?」

「え…… そっち?」

「ナナーナ」

「『全部、葱でもいい』って」

「それもう焼き鳥じゃないだろう」

「ナナーナ!」

 ヘモジが足を止めた。

「罠!」

 オリエッタが鼻をヒクつかせる。

 この感覚は……

「状態異常系か?」

 状態異常なら装備付与で対抗できている。

 が、気持ち悪いので解除しておきたい。

「どこだ?」

 オリエッタが頭上を見上げた。

 天井に銀色に輝く魔法陣があった。

「範囲は広くなさそう……」

「でもこの状況は」

「ナーナ!」

 来る!

 バチン!

 壁の横から杭の付いた壁が出てきて、接近中のソウルを押し潰した。

「あ」

「ナ……」

「アナクロに引っ掛かった」

「あいつらにはアナクロの方が有効なのかな」

「ナーナ……」

 穴だらけになった装備は売り物にならない。

「ミスリルなら転送するけど」

 近付こうとしたら、音がした。

「また来た」

 ガシャガシャ、ガシャガシャ……

「うわ、重そう」

 見るからに硬そうな装備だった。分厚い盾。ドラゴンの尻尾攻撃さえ容易く防げそうな実用一辺倒に見えるフルプレート装甲。そして巨大な大槌。

「ナーナ!」

 ヘモジが駆け出した。

 大槌が床を叩いた。

 石畳みが粉砕され、破片が飛び散った。

 ヘモジの足が止まった。

「!」

 横薙ぎされてヘモジが飛んでいった。

「軽ッ」

「呆れるほどの質量差」

 それでも壁は陥没した。

「なんで、反撃の体勢が取れるのかねぇ」

 ヘモジは壁に叩き付けられることなく、壁にしっかり着地していた。

 追撃が来る!

 速い。

「ナーナァ!」

 大槌が陥没した壁を更に穿った。が、ヘモジはソウルの兜を蹴り飛ばして、背後に回り込んだ。

 そして。

 ミョルニルでやられたことをやり返した。

 横薙ぎされたソウルの分厚い兜は陥没、吹き飛んでいった。

 そこにさらに上段から追撃!

 ソウルは大槌でミョルニルを受けた。

 敵の足が深く床にめり込んだ。

 ヘモジの二撃目を防いだか。

「やるね」

「でもヘモジ、まだスーパーモードになってない」

「まあ、好きにしてくれていいんだけど」

 頭の欠けた全身甲冑が槌を捨て、拳をヘモジに見舞った。

 剥がした!

「あのデカブツ、無手の心得もあるのか」

 懐に入られ易いという弱点は織り込み済みということか。手強いな。

 それにあの鎧の重量は敵を押さえ込む際、有効に効果を発揮するだろう。

 それがわかっているから、ヘモジは深追いせず距離を取った。

 そして。

「ナーナーナーッ!」

「武器が本体!」

 オリエッタが叫ぶ。

 ヘモジは大槌のありかを一瞬、見失った。

 槌はヘモジの死角に転がっていた。

 敵は隙を見逃さなかった。

 大盾を前面にかざしたタックルがヘモジを襲った。

 が、そこは鈍重である。

 ヘモジは巧妙に身をねじり、回転によって生み出された力で大盾を弾き返した。

「無茶するな」

 ミョルニルじゃなきゃ、間違いなく折れてるところだ。

 なんにしても敵の足は止まった。

「このまま見ていたいけど」

 そうもいかない。

「そろそろ」と言い掛けたところで、ヘモジが飛び出した。

 フェイント!

 ヘモジがミョルニルを振るタイミングをずらした。

 身構えた敵が一瞬、躊躇し、力を緩めた。

 そこに前回より重く強烈な一撃が!

 巨体が今度こそ吹き飛んだ。

 本体は健在だが、立ち上がろうとする胴体の動きがおかしくなった。

 膝の歪んだ関節部が正しく機能しなくなったようだ。

 ヘモジは仏頂面をしている。

 今ので決まると思っていたらしい。

 全体のダメージが一定値を超えれば、本体が健在でも勝敗は決する。圧倒的勝利を目指したのだろうが。

 要するに圧倒するには力が足りなかったわけだ。

「ナーナ……」

 消えた!

 次の瞬間、くの字に折れ曲がった大槌が床から跳ね上がった。

「切れた」

「切れたね」

 今度こそ勝負あった。

 ムッとして、ヘモジは槌を蹴り上げ、次の瞬間、足を抱えてしゃがみ込んだ。

「痛かったみたい」

「何やってんだか」

 バン!

 遠くで罠が発動する音がした。

「回収して、移動するぞ」

 ヘモジに急いでヒールを掛け、素材にしてくれと言わんばかりの分厚い鎧を回収した。

「ワンセットで、普通の鎧が二、三セット造れそうだな」



 本日午前の部、二十五戦全勝。その内、敵、罠による自爆五件。ヘモジによる討伐、十五件。残り五件が僕のカウントだ。

「もうちょっと出てきてくれないかな」

 一体一体はどんどん癖が強くなってきているが、数は減ってきている。

 対応できなければ苦労するだろうが、散々エルーダで戦い続けてきた実績がある。小手先の敵に後れは取らない。

 まだ数で襲ってきてくれた方が、ランダムな状況で戦いができるのに。

 その分、高価な装備が手に入るのはいいことだが。

「ナーナ」

「もうすぐお昼」

「いったん帰るか?」

「あ、見付かっちゃった」

 一旦脱出しようとしていたところにソウルが現われた。

「……」

「なんだ?」

 なんともやる気がなさそうな一体。大剣を引き摺りながら、ゆらゆらトボトボと近付いてくる。

「……」

「ちょっと」

「ナァ……」

 あれ、剣士じゃないよな。内包する魔力があふれ出している。魔力に特化したタイプか。

「目が赤い!」

「いや、ソウルに目なんてないから!」

 一瞬の邂逅。

 僕たち全員が吹き飛んだ。と思った。が、結界が攻撃を防いでいた。

「『衝撃波』 撃ってきた!」

「イレギュラーだ!」

「『闇の信徒』!」

「は?」

 着ている物が目に入る。

 信徒のローブだった。

 その鎧はマント代わりにそれを羽織っていた。

 何でまた出るのよ!

「下の階で何やっていやがる!」

「ナナーナ!」

 速い!

 ヘモジの攻撃を剣で普通に捌いた。

 こちらに炎を放ってきた。

 牽制か!

 当然、結界で止める。

 ヘモジが斬り込んだ。

 が、それもいなされた。

 魔法の二撃目がこちらに。狙いは僕ではなく、オリエッタだった。

 僕が庇うことを想定していたようだった。

「頭も回るみたいだな」

 最初の邂逅で僕の動きが察知されたようだ。ということは、魔力の流れが見えているのか?

 ヘモジの攻撃を潜り抜け、今度は僕に向かって斬り付けてきた。

「なんなんだ、こいつは!」

 空きっ腹にこたえる奴だ。

 大剣が容赦なく叩き込まれる。

「ソウルじゃないのか?」

「ソウルだけど『闇の信徒』だから」

「ナーナッ!」

 オリエッタが肩に乗っている以上、全力では戦えない。かといって降ろせば狙われる。

 前回の『ブラッディーソウル』に権謀術数が追加されたような奴だ。

 こちらの弱点が見切られている。

「オリエッタちょっと本気出すぞ」

「わかった」

 結界を強化。身体も強化。

「『一撃必殺』」

 剣を脇に構えたまま、その場に留まり、敵がこちらの間合いに飛び込んでくるのを待つ。

 が、ヘモジの横槍と、結界防御の前に、僕の間合いまで入ってくることはできなかった。

 ヘモジとの追いかけっこが続いた。

 そして、何十手も交錯させた後にようやくできたわずかな隙。こちらに襲い掛かるタイミングを捉えた『闇の信徒』が、牙を剥く。

 結界が三枚砕かれた。

「限界突破の『結界砕き』だ!」

 想定内だ。

 更に追撃で一枚剥がされた。

 あのヘモジが追い付けないとは。まだ光ってないけど。

「さあ、最後の一枚を砕いてみせろ!」

 そいつは脇に挿していたもう一本の短剣を引き抜いた。赤く光った目に歓喜の色が浮かんだ。

「『結界砕き』の二本差し!」

 想定外だった。

 結界を追加するか、反撃するか。

「ままよ!」

 次の瞬間、敵の首がなくなっていた。

『闇の信徒』は最後の結界にぶつかって胴体が跳ねて床に転がった。

 純粋な剣術一本勝負ならこの場合、得物が長い方に分がある。何せ敵は最後の結界を破壊する必要があるのだ。どうしても間合いの外から最初の一撃を放たねばならない。短剣では結界と僕の急所を同時に捉えることはできない。

 最後の一枚、されど一枚。

 結界を自分から離す距離も敵の得物を見ながら、よく考える必要がある。ただ張ればいいというものではないのだ。

 つまり経験がものを言う。

「サンキュー、ヘモジ」

 その前に短剣を弾いてくれたようだった。

「ナナーナ」

 デレなくていいから。

「しかし、何やってんだろうね。こう立て続けに発生させてくれて」

 この階を徘徊してるってことは、自分たちで処理できなかったってことだろう。

「また事務所に顔出さなきゃ」



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