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クーの迷宮(地下48階 ソウル戦)迷路は続くよ、どこまでも


 開放されたマップエリアは先行した僕で三分の二。子供たちでちょうど半分だ。単純作業になりつつある状況で、いつまで飽きずにいられるか。子供は兎角、飽き易いもの。

「神殿ってどんな所だと思う?」

「神殿って決まったわけじゃないぞ」

「でもこの絵だとそんな感じだよね」

 確かに地図には大きな四角に、円い柱が何本も並んでいるような描写がある。

「『置き土産』で装備がパワーアップする仕掛けがあるんだよね」

「誰にも言うなよ。一応知る人ぞ知るトップシークレットなんだから」

「魔法装備以外あんまり興味ないからね」

「わたしも」

「どうせ子供サイズとかないし、どうでもいいよ」

 淡泊だねぇ。売れば儲かるってことなんだけどな。

 そのからくりは『ソウルの置き土産』の魔力残滓の量次第でより強力な物に改修できるというものだ。

 その神髄は、ドロップ品故のランダムな付与の組み合わせを、任意に望む形に変えられることにある。

 売るとなると必然的に定番の組み合わせとなるが、やはり自分だけのオンリーワンを望む人向けのからくりだと思われる。

 もっとも、その仕掛けを使えたのは、あちらの世界でも爺ちゃんたちと一部の上級冒険者ぐらいなものだった。何せ、迷宮内の町の鍛冶屋の棟梁だったか、に依頼しなければならなかったからだ。

 既に最高の装備品を着こなし、それすら結界によってほぼ無傷という子供たちにとって、今一興味を引かない案件だった。

 実際問題、子供たちには鍛冶屋たちの拵える物に勝る物はない。迷宮のドロップ品が好まれる理由は魔石で魔力補充ができる点であり、それは魔力量が基本的に少ない種族が所有するからこそ意味のあるものだった。

 今の子供たちには自立する魔力がある。魔石に頼る装備は保険ぐらいにしかならないのだ。

 魔石で動く魔道具の方が何倍も好まれるだろう。

「四十八層、楽しいか?」

「すげー楽しい!」

「やっぱ手頃なサイズってあるじゃん」

「ただでさえ俺たちチビなのに、なんでいつもあんな馬鹿でかいの相手にしなきゃなんないんだってのあるし」

「だよねー」

「小っちゃいのがいいよ」

 それでも大人と子供だけどな。

「視界に収まるし」

「今は無理でも将来着られる装備が出るかもしれないし」

「もっと明るくて視界がよければ言うことないんだけどな」

「罠が半端ないけど、ヘモジが潰してくれるしね」

「たまにマジで引っ掛かってるけどな」

「それでも無傷なんだから。凄いよねー」

「僕ももっと速く動けたらなぁ」

「『身体強化』だ! 地金を鍛えつつ、膨大な魔力で己をカバーするのだぁ」

「膨大な魔力ね……」

「『万能薬』の減り、一番多いわよ」

「無駄撃ちしない」

「加減覚えて」

「防御もしっかり」

「ちゃんとやってるって!」

 ジョバンニがいいようにからかわれる。

「でも不測の事態には一番頼りになるよ」と、トーニオ。

「初動の速さは随一だもんね」と、フィオリーナも持ち上げる。

「無駄な魔力消費のおかげで攻撃力もそこそこあるし」

 ニコレッタは褒めてるのか貶してるのか。

「でもチームのエースとしては、どっしり感がないよね」

「でもどっしりしたジョバンニ兄ちゃんはやじゃない?」

「トーニオ兄ちゃんがしっかりしてるから、ジョバンニはあれでいいよ」

「あれってなんだよ」

「別に貶してないだろ!」

「ヴィートぉお、お前はいつも一言多いんだよ」

「なんで俺だけ!」

「迷宮のなかでも賑やかそうで何よりね」

 夫人も呆れて溜め息をつく。

「ちゃんとやってるし」

 マリーの返答にカテリーナも頷く。

「心配するのは親の特権よ」

 そう言ってふたりの頭をやさしく撫でる。

「全員分、心配するのは大変だけどね」

 そう言って、フォークで人参を突き刺したのはラーラだ。

 その目は「あんたもよ」と言っていた。

 最近、貫禄付いてきたよな。王女っぷりが板に付いてきた。

「まあ、あんたがいれば大丈夫でしょうけど」と言って、文字通り吊し上げられるのは、ポリポリ野菜スティックを食べていたヘモジであった。

「ナナナ」

「いらないわよ、食べかけなんか」

 そう言って新品のスティックを一本かすめ取った。

「噂になってたわよ」

「何が?」

「我が家の倉庫の内情」

「尾ひれが付いていろいろね」

「うちのお客にも聞かれたわよ。工房の地下はとんでもないことになってるんだろうって」

「見せるんじゃなかった……」

「『闇の信徒』でしょ。しょうがないわよ」と、ラーラが言った瞬間、ヘモジは思い出した。

「……」

 が、さすがに執着は希薄になっていた。

 ポリポリ……


「はー、食ったーッ」

「ごちそうさま」

「時間まで休憩」

「師匠、『携帯薬セット』できてたら、ちょうだい。今最強セットしかないから」

 最強セットとは『完全回復薬』と『万能薬』のセットのことである。日常で使うものではないことは今更言うべくもない。

 食後の一服を昼寝等に費やして元気を取り戻した子供たちは装備を担いで家を出る。



 単調さは迷宮における最大の罠である。繰り返される戦闘に慣れてきたとき、予想外の些細な出来事がベテラン冒険者の足でさえ掬うのである。

 繰り返される行為は常識として冒険者たちに蓄積されていく。でも、それは非常識と対峙するときのための大いなる布石。

 今まで散々、馬鹿の一つ覚えのように扉を叩いていた敵が、ピタリと動きを止めている。

 明かりをかざしても敵は襲ってこない。

「嫌な感じ」

 勘が働くようになってきたら一人前だ。

「地形的なトラップはない」

 マップ通り単純な構造だ。部屋の扉が並んでいるが、そのどれも入ったところで行き止まりである。が、マップ上、奥には空白がある。

「いない」

「いない」

「いない」

 三部屋、続けて空振りだった。

 通路の反対側の部屋も順番に開けていく。

「いない」

「いない」

「ナナ!」

 ヘモジが扉のノブに振れようとした瞬間、内側から鋭い槍が突き出してきた。

 槍の先端は斜め下方、明らかにヘモジを狙っていた。

「敵だ! 罠じゃないぞ」

 誰もいなかったはずのすべての扉から敵が現れた。

 僕たちは一瞬で囲まれた。

 敵の一斉攻撃!

「どこにいたんだよ!」

 答えを言うなら、それぞれの部屋は隠し通路で繋がっていたのである。扉を開けて、見ただけではわからない。壁に近付いて丹念に見なければ気付かないような巧妙な隠し扉が、それぞれの突き当たりの壁と繋がっていたのである。

 敵の存在が悟られなかったのはどの部屋にも魔力障壁が張られていたからだ。今までの雑多な構造からは想像できない巧みな結界がみすぼらしいそれぞれの部屋に施されていたのだ。

「気付かないよな。普通」

「突然、罠が知的になった」

 罠のベクトルが変わったのである。

 物理的な仕掛けが減少していく一方で、意識しなければ気付かないような高度な仕掛けが増えてくる。その最初の起点がここだ。

 子供たちの多重結界が初めてすべて消失した。

 絶体絶命。六体のソウルによる一斉攻撃。それぞれ異なる相手が狙われているから、いつもの方法では立ちゆかない。一対一に近い戦闘である。サポートに付けるのはタゲられていない三人だけ。でもそれすらもいつ矛先を向けられるか。一旦引いて態勢を整えることもできない。その場に留まりワンオンワンだ。

「問題ない!」

『衝撃波』で対抗する年長組。

「落ち着いて!」

 一方、にらみ返し結界を掛け直す年少組。違いは次に何を想定していたかによる。戦闘に入ったときの役割分担が次の一手に作用したのだ。

 サポート役が年少組を守るように『衝撃波』を放って敵を遠ざけた。

 多重結界はすぐさま修復された。

 が、子供たちの心臓が早鐘のように鼓動していた。

 敵はまだ生きている!

 今までなら息の根を止められていたはずなのに。

「部屋に結界があるから」

 たまらずオリエッタが助言した。

 隠遁を助ける障壁だけではなかったらしい。

 詰まる所、たまたまであれなんであれ、部屋に逃げ込めた個体は助かったのだ。

「ズルい!」

 こういう時、物理手段を持たないと困るんだよな。

 子供たちはお手上げである。岩を落とすにも天井が低い。敵が出てきてくれるのを黙って待つしかないのである。

 ヘモジが目の前にいる一体を蹴り倒した。

 生き残っている敵は二体。

「どうすれば……」

 トーニオが『衝撃波』を部屋に向かって放ってみた。当然の如く弾かれたわけだが、それが正解。

「結界は一枚だよ!」

 その通り。ならやることは一つ。

 結界を消失させるのに一人、敵にとどめを刺すのに一人だ。

 が、障壁破壊と敵殲滅に四発連続の『衝撃波』……

 完全なるオーバーキル。八つ当たりである。

「なんなの、これー」

「なんなのと言われても、こういう罠もあるってことさ」

「僕たち物理攻撃ないんだよ」

「今回は強引に押し切れたけどさ」

「こういうときに例のあれが役に立つんじゃないの?」

 オリエッタが言うアレとは?

「ああ! 『結界砕き』!」

 そういうことか。執拗にあんな物がドロップしていたのは…… このための布石か!

「でも、全部、送っちゃったよね」

「しくじったぁー」

「あれがあればもっと簡単だったのか」

「でも僕たちの攻撃でも破壊できたし」

 それぞれの部屋を遅ればせながら漁る。

「あった」

 隠し通路を発見する子供たち。

「こっちもあった」

 壁に張られた護符と備えられた魔石。

「この護符、使い回せるのかな?」

「転送してみてよ」

 僕は部屋の壁から剥がされた護符をまとめて倉庫に転送した。ギミックなら倉庫に転送されることはないが、転送されるようなら、結構いい値で売り物になる。

「部屋を覗いたときは気を付けた方がいいね」

「そればかり気にしてたら、隠し通路から一撃されちゃうからね」

「攻撃を無効化する結界より、むしろこっちの方が心配だよ」

「全然、気付かなかったもんね」

「『魔力探知』だけじゃ駄目ね」

「結界が発動すれば、魔力消費はあるんだぞ」

 助言しておく。が、察知できるかはメンタル次第と言ったところか。


 それから子供たちは扉を覗いて中に何もなくても、一々壁をチェックするようになった。

 ちなみにこの程度の仕掛け、オリエッタには難なく看破された。

 僕も『解析』魔法を駆使して調べたが、レベルは上昇すれども結果は得られず。だが、経験値が入ってくるということは仕掛けがあるということなので、逆説的な意味で看破できたのであった。

「もっと修行しれ」

 オリエッタの肉球が僕の後頭部を叩いた。

 新たな脅威によって程よく緊張が増した子供たちは、飽きることなく先を進むことができた。

 たまに現われる強者がアクセントを加え、付与されているスキルに一喜一憂しながら奥へと足を運ぶのであった。



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