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クーの迷宮(地下48階 ソウル戦)ヘモジ、ご乱心

「ナーナナー」

 罠を発動しまくるヘモジ。

 床から飛び出す槍でさえ、持ち前の反射神経で避けていく。

「お腹減らせば、野菜炒め、いっぱい食べられるから頑張れー」

 オリエッタも煽る、煽る。

「敵――」

 言い終わる前にヘモジが瞬殺。蹴りが兜を吹き飛ばした。

「何気にあいつ強くなってないか?」

「尻囓られてから、戦闘以外のスキルが上がってる」

「ナナーナ」

「宝箱見付けたって」

 急いで転がっている装備品を回収。

 それから自慢げなヘモジと合流する。


「でかっ!」

 このフロアでは未だ見たことのないサイズの宝箱だった。これがミミックだったら、ヘモジは尻どころか、丸飲みにされていたことだろう。

「ナーナ」

 自分では箱から出すとき割りそうだったから待機していたと言う。

 中にはヘモジの身長の三倍はある白磁の壺が横たわっていた。

 見るからに高価そうな骨董品だった。

 僕は慎重に箱から出すべく持ち上げると、カランと中で微かな音がした。

「何か入ってる」

 オリエッタが壺越しに中を見ようと目を見開いた。

 カランカラン。無視して壺を傾けると、中で小さな何かが転がる音がした。

「あ」

 それはポトッと床に落ちた。

 僕が光源を近付けると、ヘモジとオリエッタも近付いていった。

「ナナ?」

 指輪?

 ヘモジはそれを持ち上げオリエッタの鼻面にかざした。

「『古代の指輪…… 聖なる結界にて装着者を守護する』だって」

 壺以上に価値あるレアアイテムだった。

「ああ!」

 無言でヘモジが自分の指に嵌めた。が、でか過ぎて、一本ではスカスカ、数本差し込んでメリケンサックにしていた。

 そしてその場でシャドウを始めた。

 お尻フリフリ、きれっきれだな。

 まさか結界を当て込んで、それで殴る気じゃないだろうな。

 ゴン。

 あ。止める間もなく、新品を壁に打ち付けた。

 オリエッタも呆然。

「……」

 ヘモジは無言でミョルニルをホルスターから抜いた。

 傷付けただけかぁ。

 対闇属性効果と、光属性の効能アップにしか効果のない結界だから、然もありなん。

 まあ、今日頑張ってる駄賃だと思うことにした。

 壺は丁寧に梱包して転送した。

「あ」

 ヘモジが勝手に消えた。そして勝手に再召喚。

 まさか、壁ドンでレベルでも上がったか?

「ヘモジ、黙って還るなよ。再召喚には魔力食うんだから」

「ああ!」

 オリエッタが素っ頓狂な声を上げた。

 指差す先にはヘモジの腕にぴったり収まったでかくなった指輪があった。

「ゆ、指輪が…… う、腕輪になってる」

「ナナナ」

 腕輪を見せるようにガッツポーズ。

 もう何でもありだな、あいつ。

「召喚獣専用アイテムになった」

 オリエッタが呆れて尻尾を丸めた。

 まあ、あいつの着ている衣装も還る度にこの世界に脱ぎ捨てていくわけではないからな。あいつの場合、でかくなったり小さくなったりもするわけだし。


 現在位置を地図と照合する。

「ヘモジのおかげで大分進めたな」

「ナナ?」

 ヘモジが地図を覗き込む。

「ナナナ」

 先のルートを確認している。

「ナナ!」

 覚えたらしい。

 ヘモジは背を向け前進を再開した。瞬間、罠を踏んだ。

 僕とオリエッタの眼前にスパイクの並んだ壁トラップがバシンともの凄い音を立てて横から現われた。

「ヘモジ……」

 一人跳び退いて、僕たちの後ろにいた。

 数歩、前にいたら……

「ナナーナ」

 故意ではなく過失だと、頭を掻いてすまなそうにしてるので、今回はオリエッタの罵倒だけで許しておいてやる。

 気を取り直して、僕たちは罠と壁の隙間を擦り抜ける。

「いた」

 ソウル発見。

 近付いてこないので、こちらから迎えに行く。

「ナナ!」

 何を思い立ったのか、ヘモジが駆け出した。

 そして僕の結界の縁まで進むと、ひょいと跳び出した。

 弓矢が飛んできた。

 ヘモジは腕輪をかざす。が、光属性の結界はただの物理攻撃に効果はない。闇属性の本体なら遠ざけることが可能だろうが。

 複合結界と勘違いしている模様。

 故に直撃を食らい掛けて無様に転がる。床の埃を纏いながら立ち上がるヘモジ。

「ナナナ!」

「「不良品じゃないって」」

 オリエッタとハモった。

 二発、三発と射られて頭にきたヘモジがミョルニルを投げ付けた。

「……」

「ナナ?」

 ミョルニルが戻ってこない。

 僕は天井の薄闇に明かりを飛ばした。

 天井にめり込んだミョルニルに敵の手がまさに掛かろうとしていた。

「ナナナッ!」

 叫んでも梁までは遠い。が、敵がミョルニルを握り締めた瞬間、一緒に引き寄せられて飛んできた。そして、ミョルニルの防衛機能が一瞬遅れて発動。雷撃がソウルを襲う。そしてこちらの結界に衝突。

 さらにヘモジの怒りの鉄拳が炸裂した!

 指輪の光結界が発動して、本体が煤のように消し飛んだ。

 そしてヘモジの拳大の凹みを付けた胴鎧が…… 足元に転がった。

「ナァアアアア」

 そりゃ、痛いわな。

 腕を抱えるヘモジを内心笑う僕とオリエッタ。

 回復魔法を掛けてやる。

 オリエッタに十回以上「馬鹿」と罵られた。

「でもそれの効果はわかったろう?」

 ヘモジの快進撃は急激にしぼんだ。

 復活するまで代わりに僕が頑張ることにした。が、やることは『衝撃波』を繰り出すことだけ。

 単純作業で欠伸が出る。

 回収品があるから飽きなかったが。

「ナ」

 ヘモジが消えた。

「古典的だな」

 針が敷き詰められた落とし穴だった。

 ヘモジは無様に針と針の間に挟まっていた。

「気を抜くなって言ったろう」

 圧力板は踏んでも反作用があるので咄嗟に蹴り出して躱すことが可能だが、元来落とし穴とは踏んだら抵抗なく奈落の底に落ちるものだ。


 あーあ、甘えん坊モードに入ってしまった。

 ヘモジは僕の肩の上に陣取り、オリエッタと一緒にクッキー缶を開け、食べ始めた。

 あのなぁ、お前が肩の上にいると咄嗟に動けないんだよ、こっちは。

 十連戦中ずっと食べていた。

 お前ら太るぞ。

「あ、そこ、罠ある」

 オリエッタの指摘を受け、魔法を放つ。

 天井に仕掛けられた石が大量に落ちてきて埃を舞い上げた。

 オリエッタが尻尾で僕の背中を叩くので、風を起こして埃を遠ざけた。

 罠を故意に発動させて種類を特定しているわけだが……

 バリバリボリボリ……

 それを地図に記す。その上にクッキーの粉がパラパラと……

「そんなの食ったら野菜炒め食えなくなるけど、いいのか?」

「ナナッ!」

 ヘモジの脳内に雷が落ちた。

 愕然とするヘモジ。

 大袈裟な。

 だがクッキー缶の中身は既に半分。

「暗黒エリアに突入するぞー」

 ヘモジが床に降り立った。

「ナナナナ、ナーナ、ナーナンナ!」

 急いでお腹を空かせなければ、エマージェンシーらしい。

「元気戻った」

 と言うより、切羽詰まってる。

 鬼神の如き素早さで、罠を掻い潜り、敵を吹き飛ばし、回転部屋の開かない扉に激突し、獅子奮迅の働きをするのであった。

「追い掛けるの大変」

 回収品の鑑定もままならず、片っ端から転送する。

 宝箱を蹴飛ばし、蓋を開閉だけすると、次のターゲットに邁進するヘモジ。

「ヘモジよりこっちの方が痩せる気がする」

 付いていくこちらの方が確かに気が気ではない。

 ソウルが今、ヘモジの光結界パンチにどつかれて昇天した。

「ナナナナナナ」

 無駄に敵のいなくなった部屋を駆け回り、次の部屋に早くとせかせる。

 マップ情報を記録するのも殴り書きだ。

「ナーナナーナナー」

「ヘモジが壊れた」

 ソウルが十体屯する大部屋へと突撃するのであった。


「いやー、やればできるもんだねぇ」

 新たなナンバリングの地図も二枚揃って、フロアマップは完成した。そして、あと一日掛かると思われた探索も、この調子ならゴールまで辿り着けるんじゃないかというところまで来ていた。

 野菜炒め食べたらペースダウンは余儀なくされるのだろうが。

 兎に角、当初の予定の三倍の速さで攻略は進んだ。倉庫はそれ以上の勢いで回収品で溢れていることだろう。


 白亜のゲート前広場に降り立ったヘモジは猛烈な勢いで一人、坂を駆け上がる。

「ナナナナ!」

「早く来いって」

「お前なぁ……」

 こっちはお前の動きに付いていくだけでヘトヘトだよ。



 全員揃うまで、ヘモジは一体何回、椅子の上で足をプラプラ振っていたことだろう。

 さすがに見かねた夫人が先に食べましょうと、号令を掛けるのだった。

 大伯母がどこぞで何かに没頭しているのはいつものこと。無視して構わない。

 ヘモジは猛烈な勢いで野菜にぱくついた。

「野菜炒めの添え物に野菜サラダってどうなのよ」

 さすがにラーラも呆れ返る。

「お肉も食べなさいよ」

 頬張り過ぎて喉につかえる。

 介抱するラーラ。

「ナナナ!」

 お代わり自由とはいえ、一体何度お代わりするのやら。

「あんた、もう鍋ごと食いなさいよ」

 野菜が希少品であるこの砂漠の世界において、召喚獣に惜しげもなく食べさせる主人がいていいものか。自分の畑で収穫されたものだとはいえ、思わず考えてしまうほどの勢いだった。



 そして…… 食べ過ぎて午後の部、欠席という醜態を晒したのだった。

「いやー、笑えるわ」

「馬鹿すぎる」

 午後はオリエッタとふたり、価値ある物を求めて、のんびり進むのであった。

「ん?」

 なんだ、なんだ?

「何かいる!」

 どう考えても別格の敵がいた。

「レベル八十!」

 オリエッタが息を呑んだ。

「『闇の信徒』だ」



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