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クーの迷宮(地下48階 ソウル戦)野菜炒めでヘモジは釣れるか?

 入口から先に離脱したポイントまで一気に跳んだ。

 健闘が評価されたのか、入って早々、宝箱フィーバーに見舞われた。入る部屋、入る部屋で宝箱と対面するのであった。

「やった。また当たりだ」

 まだ所持していなかった通し番号の地図を二枚も見付けた。これでトータル十枚。残るは二枚のみとなった。

 番号を参考にパズルに嵌め込んでいく。どちらもまだ未踏のエリアだったので、情報を転写する手間はなかった。

 でもこれで例の金床のありそうな神殿区画までのルートがほぼ繋がった。

 一方、ソウル戦の戦果は芳しくなかった。目を見張るような付与装備にはとんと出会えなくなったのだ。

「こういう日って最後にドカンとあるんだよね」

「でも今日は最後までいけないよ」

「こういう日もあるさ。腐るなって」

「お前らいつからそんな贅沢になったんだ。ミスリル装備ってだけで、充分、当たりだろうが」

 ジョバンニの言う通りである。普通の冒険者なら飛び跳ねて喜ぶところだ。

「やっぱ、俺たち、ミスリルをインゴットに加工してから、おかしくなったんだよ」

「加工する度に蒸発させてたもんな。特にお前は」

「そんなことないよ! みんな蒸発させてたし!」

「あれって金額にしたら、どれくらいになったのかしらね?」

「きっと城が買えたぜ」

「肝心な城がどこにもない現実」

「だから自分で造れるように修行してる、の?」

「いや、そう言うことではないんだよ。マリー」

「大師匠みたいに地下に大きなお城造る? みんなでやる?」

「マリー、冗談だから」

「なんだ、やらないのか」

「……」

「そう言えば、水路造る手伝い、誰か頼まれてなかった?」

「はい、はーい。私でーす。明日の放課後、参加しまーす」

 フィオリーナが手を上げた。

「なんだ、お姉ちゃんか」

「なんだって何よ。あんたたちも行くんだからね」

「えーッ」

 カテリーナとマリーが悲鳴を上げた。

「そう言えば、緑地化の速度が遅くなったって聞いたよ」

「土地の標高が町の外縁に行くにしたがって高くなっているから、水車で水位を上げてかなきゃいけなくなったんだって。だから水車の完成待ち」

「北側は順調に広がってるわよね」

「あっちは水源に近いし、滝もあるからね」

「水の神殿もうすぐできるんでしょう?」

「水の魔石を奉納するだけの場所だろう。俺はワタツミ様の祠、祀った方がいいと思うぜ」

「おばちゃん、騒がしいのは嫌だって」

「僕、最近会ってないよ」

「この間、うちで海鮮丼食ってたぜ」

「嘘、いつ?」

「忘れた。宿題忘れて家に戻ったとき、食ってた」

 マジかー。僕もしばらく会ってないんだよなぁ……

「でも、水の魔石って、クラーケンからしか取れないよね」

 いやいやいや、取れるでしょ。カニとかイカとか水牛から。あれでいいのよ。あれで。

「クラーケンかぁ」

「こないだの変なのは強かったから嫌だな」

「あんたたち大物狩ることしか興味ないの? いたでしょ。でっかいイカが。あれでいいのよ」

 それもフロアボスだ。

「大師匠の酒の肴?」

「残念でした。他の飲兵衛にもばれて、あそこ今、人気スポットだから」

「マジで?」

「どの道、僕たちは迷宮走破が第一目標なんだから、魔石集めは先輩たちにお任せだよ」

「あ、いた」

「今度、誰の順番だっけ?」



「結界破られたッ!」

「速いよ。気を付けて」

「やるな、二刀流ッ!」

 躱す躱す。

 見えない『衝撃波』をそのソウルは難なく躱した。

「すげー、ヤバい」

「でもこれでゲームセットだ!」

 子供たちは一箇所に固まり結界を重ねた。次の瞬間、全方位に向けて『衝撃波』が放たれた。

 狭い通路、これではさすがに敵も逃げられまい。

 敵は衝撃に飲まれ、膝を突いた。

「本体、胸!」

 叫ぶ、オリエッタ。

 追撃によって手強い敵は床に沈んだ。


「……」

 ふう。と、子供たちは大きく溜め息をつく。

「むっちゃ、速かったんですけど」

「絶対、付与付きだよ」

 子供たちは念入りに残骸を当たる。

「見付けた。俊敏上げ付き」

「こっちも」

「え? そっちも?」

 短剣。腕装備。ブーツ。それぞれに動きを加速するスキルが加味されていた。

「どんだけだよ」

「ナー……」

 若干一名がじとーっと興味を示している。

「三つ合わせても、ヘモジちゃんの装備の方が上だよ」

 カテリーナに諭されるヘモジ。

 オリエッタに具体的な数字を聞きながら腑に落とした。

「でも売り物としてはそこそこだよね」

「ブーツは傷み過ぎてるから売り物にはならないな」

「じゃあ、ポイで」

 暗がりの中、ループコースを連続して攻略した。つまり行って来いを二回だ。

 さすがに現在地を動かないのは精神衛生上よろしくない。

「宝箱も出なくなったしね」

「偏ってんだよ.この迷路」

「次は明るいエリアだ。罠があるんだから気を抜くなよ」

「ふぁーい」

 戦いは順調であった。付与装備を着たワンランク上の敵も現れ出して、子供たちにはいいスパイスになった。

 そして、時間切れ。


「お疲れー」

 白亜のゲート前広場に出てきた。

 うん。昨日よりは早く終えられたな。

 まだ日は沈んでいなかった。

「んー?」

「師匠、誰かこっちに手を振ってるよ」

「ああ?」

 言われて見ると、なるほどこちらに手を振る人がいる。

「あれギルドの人じゃない」

「なんだろうな」

「行ってみよう」

 ゾロゾロとギルド事務所の方に足を運んだ。

 手を振っていたのは冒険者ギルドの職員だった。


「どうしました?」

「助かったぁ」

 まだ何もしてませんけど。

「迷宮内で事故が複数、起きてね。備蓄の薬が足りなくなってきたんだ。近日中に補充して貰いたいんだが。正規ルートで発注すると時間が掛かるんでね」

 なんだ、そういうことか。

「事故って?」

「馬鹿が『闇の信徒』を起こしやがったんだよ。それも二日連続で」

 そばにいた冒険者が代わりに答えた。

「何、やってんだか」

「そいつらのギルドランクは降格しただけで済んだが『信徒』はまだ中で暴れてる」

「ご愁傷様」

「そういうわけなんで薬の詰め合わせセットを十二個ほど頼めるかな」

「『万能薬』ならあるよ」

「悪い。そこまでは予算がないんだ」

「取り敢えずわたしたちの分、渡しておく? みんな使ってないの、ワンセットは持ってるし」

 僕も持ってるから。

「今十セットならあるけど、どうする? 安くしておくけど」

「買った!」

「え?」

 手を上げたのは他の冒険者たちだった。

「俺たちも討伐に行くんだけど、心許なくてな」

 男たちはそれぞれ人差し指を一つ突き立てた。

 子供たちはワンセットずつ、指を突き立てた冒険者に硬貨と引き換えに薬セットを配った。

 ギルドの方には在庫を明朝、届けることで、話はまとまった。



「もしかして需要増えてる?」

「みんな攻略深度が深くなってきてるからね」

「お姉さんズたちはどうしてんだ?」

「お姉ちゃん? お姉ちゃんたちは自作できるから、家でゴリゴリしてるよ。それで大抵、間に合ってるから師匠の薬は手を付けてないみたい」

 思わずなるほどと感心する。

「ヘモジ、薬草の備蓄は余裕あるのか?」

「ナナーナ」

 売るほどあるらしい。

「明日、ギルドに卸すついでにショップにも卸してくるかな」

「僕たちの補充もよろしくです」

 そうだった。放出した分、補充せねば。

 子供たちは『万能薬』一本で済ませてるから、ほんとに非常時のためのストックでしかないんだが。

「そんなに不足してるの?」

「『闇の信徒』が二日続けて出たらしい。討伐隊が組まれたせいもあるんだろうけど。調べておいてくれるか?」

「わかった」

 執政官代理のラーラにお願いしておいた。

 あって困ることはないので食後は多めに薬作りをすることにした。

 久しぶりにヘモジと薬草採取をしたが、いつになく嬉しそうな顔をするので、ああ、ほんとうに土いじりが好きなんだなぁと改めて感心、朝の農作業にもたまには顔を出してやろうかな、と…… 寝るまでは思っていた。



 翌朝、作り立ての薬と入れ替えに在庫を鞄に詰めて持ち出した。それを冒険者ギルドの窓口を通して販売所に持ち込み買い取って貰い、その足で迷宮に潜った。

「ナナナナ」

「お昼は野菜炒め?」

「ヘモジがお願いしたら、作ってくれるって」

「しっかり野菜も取らないとな」

「ナナーナ」

「だから早めに帰るって」

「そういうことか」

 敵の反応があるけど、転移しちゃうぞ。



 一昨日の到達エリアまで一気に跳んだ。昨日の攻略最終地点からまだ大分距離があった。

「えーと」

 地図を確認する。

「あと二枚出てくれるとな」

 地図の空白のせいでルートが二箇所見切れている。その見切れている箇所が、今はないマップエリア全体の攻略に関わってくるのか、素通りできるぐらいで済むのか、それによって今日中に神殿まで辿り着けるかどうかが決まる。後者でギリギリ金床まで行けるかどうかだ。

 野菜炒めに釣られたヘモジがどれだけ頑張ってくれるかが、本日の攻略の鍵である。

 罠さえなければどうとでもなるのだが、乞うご期待だ。



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