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クーの迷宮(地下48階 ソウル戦)倉庫整理

「やっと抜けた!」

 僕たちは光のランタンに照らされている通路に出た。

 それは地図情報にも合致していた。

 そして目の前に今、報酬だとばかりに大きめの宝箱が置かれてあった。

 どうせスカスカだろうに。

「地図ゲット!」

 七枚目を手に入れた。が、そこには明らかに普通ではない表記が含まれていた。

 迷路ではない何か、神殿のような構造物が描かれていたのであった。

「意外にやさしい」

 恐らく金床はそこにある。

 でもこの地図がどこに繋がるかがまだわからない。

 消化できたエリアは地図二枚分に過ぎず、完全に攻略できたマップはまだない。どれも継ぎ接ぎだらけであった。



 ヘモジとオリエッタは僕の肩の上にいる。

 脳内の興奮物質も枯れ果て、眠気に襲われていた。

「昼飯食い過ぎたんだ」

「ナナナ」

「違うから」

 反論する元気は残っているようだ。

 また一つ扉を開ける。

「……」

 僕は『解析』魔法を放つ。

 明かりで気付かなかった相手もさほど高くない自分の『解析』魔法には反応を示してくれる。

 相手のスペックも知れて、なおかつ向こうから寄ってきてくれるのだから有り難い。

 ヘモジが自主的撤退を選んでからは、もう『衝撃波』一択になっていた。

 面倒なのは僕も同じ、面制圧あるのみだ。

 子供たちの前では見せられないズボラ戦法。

 また一体、網に掛かった。

 僕は剣を構える。

 敵もこちらが魔法使いだとは思っていないようで、鍔ぜり合いすべく突き進んでくる。

 一瞬の硬直。

 こちらが剣を振るう前にソウルは石畳みに沈む。

 結界が矢を捉えた。

「まったく」

 隠遁スキルを持つ間接職は見付けにくい。

 僕たちは一旦距離を開いて、索敵スキルをかます。

 既に見付かっているのだから遠慮はない。

「ナナ」

 たまに思い出したかのようにやる気を見せるヘモジは自分のボーガンを取り出して構える。

 敵に遅れて発射。

 敵の矢は結界で減速、僕が薙ぎ払う。

 ドサッと梁の上から落ちる音。そしてシャキン!

 罠が発動したようだ。

 警戒しながら骸に接近する。

 床から生えた鋭い棘の束が鎧を貫いていた。

「あーあ」

 傷付いた装備品は廃棄だ。素材に還元するのも、罠から剥がすのも面倒だ。無事な装備だけを回収する。

 そして『解析』スキルで見付けた別の反応に近付く。

「オリエッタ見てくれる?」

「にゃに?」

 寝てたな。

 起きていれば目の前の箱が僕レベルの『解析』能力では読み取れないことに気付いていたはずだ。

「百回唱えよ」

 どんな夢見てた?

「先急いでるんだから」

 小さな口で大きな欠伸をする。

「当たり。ミミック」

「ナナ!」

 ヘモジがミョルニルを振り下ろした。

 すっかりミミックキラーに変貌していた。


 箱を開けると地図が出てきた。

「八枚目だ」

 地図を即席のテーブルに並べる。

「おー」

 繋がった。一気に四辺がバラバラの地図と連結された。

「あらー」

 随分歩いたつもりだったのに……

「でも目処が立った」

 残り四枚だ。空きスペースもほぼ確定した。


 それから長めのおやつタイムを取って、ラストスパート。

「取り敢えず半分の六枚分ぐらいは走破したな」


 転移広場には一仕事終えた冒険者たちが、くつろいでいた。一日の成果に歓喜したり、反省会でうな垂れていたり。

 ヘモジとオリエッタは急に元気になって、坂道を駆け上がっていった。

「倉庫整理は後にするか」

 さすがにもう遅い。空は薄闇。幾つもの星が瞬き始めていた。


 家に帰ると朝の騒動は鎮静化していて、子供たちは団らんを楽しんでいた。

「お帰りなさーい」

「すぐお食事にしますか?」

「あ、はい。お願いします」

「今日はどうだった?」

「大変だったよ」

「ナナーナ」

「よく寝た」

「……」

「大変だった…… の?」

「後で地図見せてやる」

 僕の知らない一日が彼らの口々からこぼれ落ちてくる。

 温かいシチューが出てきた。

 具がゴロゴロ大きい。

「たまには大きな具が食べたいというので」

 夫人は頬を赤らめて言った。

 依頼主は旦那か。

 当人は未だ帰らず。冒険者たちの一日の終わりは、商売人の書き入れ時でもあった。


 子供たちの朝の顛末を聞いた。

 至極簡単、同日同月、別の講師が授業を担当することになっただけのことであった。

 なんというか、その日の授業を受ける予定の子供たちは、うちの子たち以外は若干名だけだったので大伯母が受け持つことになった。

「どの階層が面白そうだ?」

 僕に聞くなよ。

 迷宮に潜る気満々じゃないか。

 風魔法だけで切り抜けられるフロアをご所望なようだが。基礎講座だったよな。

 せめて初級迷宮の方に行って欲しい。


 腹を満たすと僕は再び外出した。

 暇な子供たちも付いてきた。明日の相手の外見だけでも拝みたいと言って。


「へー、これが……」

 ぶらんと二の腕とガントレットが肘当てで連結されている腕パーツを拾った。

 子供たちと対比するに付け、ほんと、素手で殴られただけでも死にそうだよな。

 子供たちは『解析』魔法の特訓を始めた。

 オリエッタが教官よろしく、子供たちの周りを闊歩した。


 積み上がる廃棄品。目減りしていく商品候補。

「チェックきびしくないか?」

「素材の方が今いい値段で売れるんだよ」

「それに今日中にスペース空けないと、明日も増えるんだから」

 目処が立つと、子供たちは廃棄用の装備を組み立て、マネキンに着せ、明日の練習と言って、魔法の的にし始めた。

「傷付けないようにするなら、やっぱ『衝撃波』かな」

「加減をしっかりしないと丸ごとお釈迦になるからな」

「結界付与の付いた盾とか、取っておくの?」

「欲しいならやるぞ。いらないなら」

「大盾って使う?」

「うーん」

「でも結界付与付いてるんだよね」

「レアなんでしょう?」

「凄いレアだよ」

「盾持ってる魔法使いっているよね」

「でもなぁ」

 さすがに今装備するには大盾は大き過ぎる。検証対象は将来の自分。

 そこにそれは必要か?

「うーん」

 最後まで悩んだのはやはり剣士になりたいヴィートと体格のいいジョバンニだった。が、最終的にデザインが気に入らないということで無理矢理納得させたようだった。

 それを見ていたフィオリーナは保留棚に入れることを進言した。

 保留棚とは子供たちの思い付きで設置した、個人用の保管庫の空いたスペースのことである。将来、マリーの兄弟ができるかもしれないし、居候が増えるかもしれないという理由で設けてある余剰スペースだが、ただの空きスペースにしておくのは勿体ないので、売るのに悩むような物を一時保管するためのスペースとして用いている。保管期間は満タンになったら一年間とするらしいが、まだまだ余裕があった。

 取り敢えず決定を先送りにして、その件は片付いた。

 残るはガラクタの処理である。


「鉄のインゴット~」

 歌いながら次々鉄の塊に還元していく子供たち。

 ミスリルですっかりレベルの上がった子供たちに鉄の加工は容易かった。

 型に嵌めてはポイ。ポイ。ポイ。

 重さを量って最終確認。


「それ売り」

「じゃあ、こっちは?」

 選別の難しい商品の分別はオリエッタ任せ。

 別動隊は回収した商品を棚に並べる。

 値段設定は一応マニュアル化してあるので、ある程度の計算ができるのであれば任せてもよい。ただ、耐久値や防御力等を基礎に付与効果の魔力保持量やら効果やら計算が結構面倒臭いので子供たちは誰もやらない。

 子供たちは大体この辺りかなという場所にホイホイ置いていく。

「置く所なくなっちゃった」

「安い奴、ご奉仕品に入れちゃう?」

「そっちももういっぱいだよ」

「効果の被ってる商品は在庫があることだけ書いて、後ろに下げちゃいなさいよ」

「これは?」

「これじゃわかんないわよ」

「武器の余り。置いておいちゃ駄目?」

「荷台の空きスペースに乗りそうな物なら多めでいいわよ。でも大きいのは駄目。荷台の大きさは決まってるんだからね」

「りょうかーい」

「こっちは終ったよ」

 インゴットの加工精製は終了した。

『万能薬』をチュウチュウする子供たち。

「お前ら、これから寝るんだから飲むなよ」

「喉渇いた」

「水飲め、水」

「工房の冷蔵庫見てくる!」


 雑多に置かれた物のなかでもやはり目に付くのはミスリルのインゴット。

 こちらは人型の魔物からの回収とあって、量は揃わない。

 巨人からなら例え一日一つであったとしても、本日の量を簡単に上回ることができるわけだけど。何事にもメリットデメリットが存在するってことだ。

 陳列棚には並べず、奥の保管スペースに運び込む。半端な量を並べても、いろいろ面倒なだけだ。この手の物はまとめて一括で卸した方がお互いやり易い。

「ありがとう。助かった」

「お礼は『万能薬』のレモンすっきり味で!」

「えーっ。甘いのがいい!」

「お菓子、食べたい。買っていい?」

「お菓子は夫人の管轄だ」

「だから言ってるの」

「帰りにまだ店が開いてたらな」

「やった!」

「急いで帰ろう!」

「戸締まり確認急げ!」

「ラジャー」

 何語だよ。

「今学校で流行ってんの。異世界古語だよ」

「ふーん」


 ソルダーノさんの店のおやつコーナーに駆け込んだ。

 大半の商品棚にはソールドアウトの札が載っていた。ソルダーノさんは既に帰宅していて告げ口の心配はない。店番は倉庫の棚卸しにもやってくる顔なじみの若い丁稚が一人。

 子供たちは思い思いの商品を買い物籠に詰めていった。



 それを夫人に見付からないように自分たちの部屋にこっそり運び込む。

 隠遁スキル、マックス展開。

 気配を感じ取った大伯母とラーラがラウンジから覗き込んだ。

 僕はごめんと手で合図を送る。

 理解したであろうふたりは呆れつつ首を引っ込める。

「この距離で見付かるようじゃまだまだだね」

 オリエッタが曰う。

「ナーナ」

 飲兵衛たちを尻目に自室に戻ると、本日の攻略情報を揃える。

 頃合いを見計らって訪れる子供たちにそれを渡して、僕はベッドに横になる。

 小一時間ほど読書をして眠りに就く。

 本日はこれにて終了。

 傍らには寝息を立てるヘモジ。

 オリエッタは…… 屋根の梁のどこかで寝ているだろう。

「こら、いつまで起きてるの。早く寝なさい」

 遠くに夫人の声がした。



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