クーの迷宮(地下48階 ソウル戦)手練れたちとの共演
「宝箱発見!」
「地図出ろー。地図出ろー」
ヘモジが慎重に近付いた。
「!」
魔力反応!
「アーッ」
ミョルニルでぶっ叩いたら飛んでいった。
ガランガランと通路に大きな音を響かせた。
「あちゃー」
思いの外、軽かった模様。今まで巨人サイズの宝箱を漁ってたからな。
「お馬鹿」
オリエッタが尻尾を震わせヘモジに抗議する。
近付いてくる反応が三つ。
通路は正面の突き当たりで二股になっていた。右から一、左から二。左の一体は鈍重だ。重装備だろう。
連携を取られたらやりづらい相手だが…… 早い者勝ちみたいな?
一番足の早い軽装の兵士が突っ込んできた。
「装備足りてないし」
剣を持たない方の片手がない。『ソウル』であるから装備がないというわけだが。
その分、打突が速い!
でも、僕たちの方がもっと速い。
僕は敵が受け止められる程度の威力で斬り掛かった。
敵はまんまと一撃を受け止めた。
そしてヘモジの強烈な一撃も。
「緩急は近接戦闘の基本だよなぁ」
ヘモジの一撃は唯一の腕ごと敵を粉砕した。
「本気を出せば、最初の一撃で倒せたと思う」と、回りくどいことをする僕にオリエッタは呆れる。
でも見た目は似ていても初めての相手をするのだから、いろいろ探りも入れなければならない。あいつの一撃を明日、受けるのは子供たちだ。
鑑定する間もなく次の一体が来た。
装備は鋭い穂先が特徴の槍、フラメア。
「シンプルすぎて好きじゃないんだよね」
深く突き刺さったら抜けないし。魔物相手には穂先が軽く感じられてしまうのだ。
が、敵の一閃、薙いだ穂先がかすっただけで人の表皮などパックリ裂かれてしまうほど鋭く磨かれていた。
しなりを活かした返しにも慣れておかないとスパッとやられる。
軽い長柄であるが故に、その穂先の力と速さは剣のそれを軽く凌駕する。
勿論、扱える能力あってのものだが。
「ナーナ」
「中々やるね」
このフロアの敵は連携できない落第兵士ばかりだが、個人技で目を見張る者が多い。
ヘモジも僕もそれが楽しいのだが。
でも、舌舐めずりするほどじゃない。
今度は僕が、切られる前に懐に入って首を刎ねた。
「さて、厄介なのが来たぞ」
反応の重さからわかっていた。
「大盾装備の重装歩兵」
一番厄介な相手だ。
いきなり突っ込んできた。
重装にありがちな強引さ。
「この脳筋が!」
こちらが軽装だと思って体当たりすればなんとかなるとでも思っているのか。
こう見えてサーコートの内に着ているのはドラゴン装備だぞ。
それに……
お前たちの弱点は魔法だ。
「鉄は熱しろと言うが」
ヘモジがぶっ叩いた。
七色の壁が弾けた!
「結界だ!」
「当たり装備!」
オリエッタが外野で跳びはねた。
「どの装備だ?」
当たりがあるとなれば、それは傷付けないように避けなければならない。
「どれだ!」
「盾ーッ!」
オリエッタが叫んだ。
「大当たりだ……」
盾に結界付与なんて。売値のケタが二つは上がる! 子供たちの将来のためにストックしておいてもいいな。
でも本体が盾に宿ってると、それはそれで面倒なんだが。
取り敢えずヘモジに防戦させている間に、連続で雷を落とした。
「一回」
「二回……」
貫通した!
三撃目で結界突破。と同時に敵の全身を『雷撃』が駆け抜けた。
重装歩兵は糸が切れた人形のようにその場に崩れた。
「ナーナ?」
オリエッタが寄ってきて鑑定だ。
「本体あっち」
ガントレットか。それは傷だらけの年期物。錆が浮いてんじゃねーか。
「お土産できた」
回収、転送。
残りの二体分も検分。軽装の方は得るものなし。フラメアの方はフラメアがよさそうな付与が付いていたが、これを使う冒険者がいるかどうか…… 残りも素材用に転送。
そして吹き飛ばしたミミックの宝箱も急いで確認する。
「お?」
「剣だ」
「んんん?」
それは今僕が使っている細身の剣によく似た、しかも付与効果の高い片刃の剣だった。
僕の剣は爺ちゃんから貰って以来、ずっと使い続けてきた名も無き両刃の剣だが、付与効果が飛び抜けていい。以来、これ以上の剣とは巡り会えず、今でも使っているわけだが……
ここで手に入れたものだったのかな?
剣の名は『魔道士の魔剣』
「ほんと、似てる……」
オリエッタも感心する。
素材は今使っているミスリルと同じ。『魔道士の剣』というくらいだから、魔力通しのいいミスリルが使われているのは当然のこと。
「重ッ」
意外に重い。これはミスリルの重さじゃない…… 鉄とも違う。ミスリルの軽さを帳消しにするこの重さは…… アダマンタイト? 剣の芯にアダマンタイト? ミスリルとのハイブリッドなのか?
それはどんな名工にもできなかった技…… というより、諦めと共に挑戦するドワーフもいなくなって久しい。
この剣の存在を知れば、息を吹き返すかも。今のところ一振りしかないから、あげないけどね。
自分の剣を鞘に戻し、僕は抜き身の剣に持ち替えた。
「重……」
アダマンタイトの分だけ重かった。今までの剣と重心も違う。
「なんか入ってる」
「ナーナ」
宝箱からヘモジが別の何かを拾い上げた。
「ナナナ」
ヘモジがそれを持ってきた。
それはメモ書きだった。
『残魂を以て変異せしむ『禁断の金床』が迷宮の奥に眠っている。探し出せ。欲深き者よ』
「……」
「これって、もしかして……」
「鍛冶師のご隠居が金床になった?」
身も蓋もない言い方。
「ナ?」
でも益々楽しくなってきた。
バチン。
「あ」
ヘモジが床に張られたワイヤーを引っ張って罠を発動させた。
天井から落ちてきた丸太がヘモジの頭上を通過した。
「ナナーナ」
「はいはい」
メモメモ……
固定罠かは次回来た時わかるから。
僕たちは先に進んだ。
「ん」
気配がする。隠遁スキル高めの相手だ。
子供たち大丈夫かな。昨日はスキル爆上げだったらしいが、あれを果たして発見できるだろうか?
天井の梁の上、光の届かない闇のなかにいる。
近付かないと下りて来なさそうだな。
アサシンタイプの速そうな相手に投擲等では避けられる。ここはエテルノ式『雷撃』で。
一瞬で弾けた。
弾けて床に落ちたところをヘモジがドン。
「ナナ!」
突然の弓攻撃。狙いはヘモジ。
ヘモジは大きくのけ反り矢を躱すが、耐えきれなくなってそのまま後方にでんぐり返り。起き上がったところを二撃目に襲われた。
もう一体いた!
矢は構えたミョルニルのヘッドに遮られて弾かれた。
早過ぎる攻防。
当てる方も当てる方だが、ピンポイントで弾く方も弾く方だ。
僕も夜目は利くが、敵の隠遁能力のせいで像がぼやけている。そこから放たれる矢のコースを咄嗟に絞り込むなんてできない。
でも今の攻防でタイミングは掴めた。
次、矢を向けられたとしても同じように対応できるだろう、と言いたいところだが、保険に結界を展開しないではいられない。強靱な意志と覚悟の浪費はなるべく後回しにしたいところであった。
兎に角、隠れている者は為す術がなくなった。別の梁の上にいても何もできない。もう下りてくるしかないのであるが。
「速ッ!」
着地する瞬間、矢を射られた。
そして着地するより早く地面を蹴って方角を変えられた。着地の瞬間を狙っていたら完全にタイミングを外されていた。
敵は足を曲げながら降下して、着地の瞬間蹴り出したのである。
本来、着地の衝撃を吸収するために逆の動きをするものだが、まさに瞬間芸。吸収と緩和。反発を同時にこなす。もちろん音など立てない。
そして次の矢をもう番えている。
あっという間に間合いを詰められるヘモジ。
ヘモジが後手を踏むか。
まさに弓のようにしなやかで強靱な身体あっての賜だ。
一瞬の三連射。
並の冒険者なら簡単に仕留められただろう。だが。
プツン。
糸が切れる音。
ヘモジの頭上を尖った木の杭が通り過ぎた。そしてそれは見えない敵に突き刺さった。
「ナナ?」
ヘモジが足元を覗く。
わざとらしい。
わかっていてその位置から動かなかったのだろうに。端から引っ掛ける気で。
「胴鎧がいい物だったら台なしだな」
そこは完全にスクラップであった。
鑑定の結果、足装備が優秀だった。
「消音効果が付いてる。まさにアサシンのためにある装備だ」
でも効果は人の手による付与に比べると若干低い。
「それ、本体」
「お、これか?」
なんとかの金床を見付けたらチャレンジしたいのでキープということで。
「宝箱あった」
オリエッタが見付けた。
「そういや分割された地図もあったんだっけ?」
「あった」
勿論、エルーダでの話。家人が完成させた地図を既に持っていたから、何分割だったか、よく覚えていない。
「このフロア、マップに載ってない隠し通路、結構あるんだよな」
あっても情報が追加された状態の地図を持っていたから意味なかったけど。新鮮な今は脅威だ。
子供たちと潜る明日に備えて、しっかり調べておかないと。
「やっぱりゼロからの攻略って、楽しいよな」
「ナーナ」
「何を今更だから」
蓋が開いた。
「ナナーナ!」
取り出したるは、紙片一枚。
「出た、十二分の三」
「てことは今回は十二等分ということか」
宝箱二つ目で出たということは、確率的には悪くない。開錠の難易度もそう高くないようだし。
「最低でもあと十一個、あるってことだよね」
「一日で攻略する広さじゃないよな。きっと……」とは、思う。
が、やらねばならない。
最近のあいつらは戦い慣れてきたせいで進度がやたらと速くなってきてるからな。
調査が済んでいないと言って、途中で切り上げさせるのは本意ではない。
「ようし、がんばるか」




