クーの迷宮(地下47階 コモドドラゴン×2戦)王様討伐
「『避雷針』!」
王の間に下りた途端、目に飛び込んできたのは部屋の四隅に据えられた立派な『避雷針』だった。
ヘモジは前に出るのを一瞬、ためらった。
が、見付かってしまった。
立ち止まるわけには行かない。オリエッタを置いて、まずは避雷針を破壊する!
巨人が武器を抜くよりも早く、最寄りの『避雷針』に飛び込んだ。
魔力が吸われる。今叩かれたら、結界が一、二枚多めに壊されるだろう。
ヘモジの動きに影響が出ては困るので、そちらにも注力する。
「ナナナーッ!」
ヘモジがフルスイング。
魔力の減衰を考慮してか、全力で叩いたらバラバラに砕けて四散した。
飛び散った破片が側近を足止めした。
飛び散る瓦礫の下をヘモジが突破して、次の一本に飛び込んだ。
間に入ろうと側近が身を挺す。
遅れて僕も一本目を破壊し、二本目に向かう。
内循環させる分には魔力損失はない。
『身体強化』を厳にして、目の前を封じる剣士風の側近の胴を薙いだ。
そして二本目をほぼヘモジと同時に破壊。
効果が切れた瞬間、重圧から一気に解放された。でもほっとしている余裕はない。
この状況下でなんでいるのかわからない魔法使いタイプ。杖の先端にはいつもの『魔石モドキ』が装備され紫色に怪しく光っていた。
出番が来たとばかりに魔力が増大中。
でもごめん、僕もヘモジも同じ場所にいつまでもいないから!
と思ったら、ヘモジはパワーファイター風の斧持ちに足止めされていた。
剣士風のミノタウロスは僕の一撃を浴びて膝を突いている。僕がやるしかない。
フリー状態の魔法使いは我が世の春とばかりに杖を掲げた。
ヘモジも僕も同じ行動を取った。ふたり揃って玉座を背にしたのだ。
タイミングを逸した魔法使い。
「こういう時こそ精度がものを言う」
『氷槍』というより圧縮した『氷のナイフ』を十本ほど相手に叩き込んだ。
数本で結界は破壊。残りで魔法使いの息の根を止めた。
魔法が暴発して部屋の一角を吹き飛ばした。
思いの外、ヘモジが苦戦している。
僕は瀕死の剣士風に対峙する。
その後ろで玉座に座っていたミノタウロスの王が大きな錫杖を握り締め立ち上がろうとしていた。
あ、この位置取り……
『衝撃波』を問答無用でぶっ放した。
三体を同時に巻き込んだ。
剣士風は弾き飛ばされてそのまま動かなくなった。
ヘモジのお相手は大きく横によろめいた。
王は衝撃に押し込まれて、浮かし掛けていた尻を再び玉座に沈めた。
ヘモジは隙を見逃さなかった。
パワーファイター風のミノタウロスの腰を砕いて、二撃目を以て、とどめを顔面に叩き込んだ。
王は立ち上がろうとしていたが、脳震盪状態。ふらついて手足に力が入らない様子。
僕は剣を水平に構えた。
「終わりだ!」
喉元にとどめの一撃。
「!」
ヘモジが横から飛び込んできた。そして目の焦点が合っていない王の顔面にミョルニルを叩き込んだ。
その下で僕は王の喉元に剣を突き立てる。
「ナナーナ!」
王の魔力反応がしぼんでいく。
僕は突き刺した剣を引き抜く。
「敵、もういない」
オリエッタが早速、倒した王の懐を物色し始めた。
「鍵、あった!」
当然、オリエッタには持てないサイズ。
ヘモジが引き摺り出している間に、僕とオリエッタは出口の扉の痕跡を探す。
「ないなーい」
「ここじゃなくて寝室か?」
エルーダではほぼほぼどちらかにあった。王を襲撃した場所によって変わるようで、王の間で倒すと王の寝室に、王の間以外で倒すと玉座の後ろに扉が出現するようだった。
「ナナーナ!」
ヘモジが救援を求めてきた。
魔石に変わる時間が迫ってきている。
「ナナナナ、ナーナンナ」
尻と背もたれの間にあるらしいが、ヘモジの怪力をもってしても無理らしい。
僕は魔法で骸と背もたれの間に土の塊を挟み込んで、隙間を強引にこじ開けた。
「どうだ?」
「ナナーナ!」
「持てるか?」
「ナーナンナ」
鍵は大剣程度で、担げる冒険者なら運ぶのは容易そうだった。当然、ミョルニルを振り回すヘモジにも造作なかった。
ヘモジは何食わぬ顔をしながらそれを担いだ。
見た目ヘモジの体重の方が軽く見えるから、重心がおかしなことになっている気がするが、ミョルニルで見慣れているので僕もオリエッタも今更驚きはしなかった。
鍵束にまとめられていたらその限りではなかったが。
鍵は単独。磨かれていて錆一つない。キーホルダーのつもりなのか何色かの糸を縒った縄に勾玉が付いていた。
「混ぜればいいってものではなかろうに」
灰色、暗赤、深緑、カラーコーディネートがひどい。と思ったら手垢で変色していた。
ヘモジが持ちにくいと言うので、その場で焼き切ってやった。
三体の側近からは何も取らずに魔石だけを回収した。
唯一、魔法使いの杖の先の『魔石モドキ』だけは需要があるので、別に転送した。もちろん王様の魔石も。
三階に戻り、執務室を抜け、手前の見張りを四体ほど順番に屠って、その先の王族の居住スペースに踏み込んだ。
王族の生活空間と言っても、いるのはいつも王様だけ。つまりここは無人だ。
「カーテンの裏にあるはず」
オリエッタがエルーダにもあった仕掛けを探し始める。
探索スキルに引っ掛からないので、僕たちも天井から垂れる装飾用のカーテンを一々めくりながら仕掛けを作動させる飾り紐を探した。
「……」
天井から延びている飾り紐はどこにもなかった。
「ないなーい」
今回は別の仕掛けということか?
机の下、本棚、クローゼットの奥など探したが、それらしき仕掛けはない。
扉を塞いでいるであろう壁はすぐ発見できたのだが。
でかい天蓋付きベットに遮られた向こう側の壁である。
扉の位置だけは変わらないんだな。
ゴットン。
突然、壁の中から音がした。
続けて歯車が動いているような音と振動。合わせるようにズズズズ…… と、目の前の壁がスライドしていく。
オリエッタを見たが、何もしてないという素振り。
ヘモジを見たら、足元に白磁の壺が転がっていた。
置かれていた床に加圧板が仕込まれていた。
壺の重さがなくなったことで、作動したようだ。
壺の中に金塊を発見したオリエッタが、ヘモジと一緒に取り出しに掛かった。
「ちょっとおチビさんたち」
壁がスライドして扉が現われた。
「出口、発見!」
バリン!
「ナナーナ」
ヘモジが鍵で壺をぶっ叩いて、金塊を取り出した。
そのまま何も言わず、扉の鍵穴に鍵を突き刺し、体重を掛けてひねった。
ドガーン。
感じたことのない凄い揺れが僕たちの足元を襲った。
ベッドに思わず寄り掛かる。
金塊を急いで回収すると、僕たちは大急ぎで部屋を出た。
そして僕たち三人は目を見開く。
扉の対角にあるはずの廊下の壁が吹き飛んでいた。
「うわっ!」
「壁ない!」
「ナナーナ!」
一瞬、日光が遮られた。
頭上を何かが通り過ぎたのだ。
「ドラゴンか!」
だが次の瞬間、ブレスの火炎は足元の中庭から放たれたのだった。
「なんだ!」
ミノタウロス兵より遙かに大きな魔力反応が二つ感じられた。一つは建物の陰になって遮られている空の上から。もう一つは崩れた足元の床に遮られて見えない中庭の隅から。
「二体いるぞ!」
僕たちは身を隠す。
上空を旋回して姿を現したのは……
「ナナーナ……」
『コモドドラゴン』だった。前回不在だと思ったら…… 同伴者を連れてきたようだ。
「食べられる肉でよかった」
残る足元の一体がここからでは見えない。
僕たちはちょうど身を隠すのによさそうな城壁の一角に転移した。
ドスンと飛んでいた『コモドドラゴン』が崩れることのない宝物庫の屋根に止まった。瓜二つの存在が中庭で暴れている。
「『コモド』が二体……」
「一体のときよりハズレ感があるのはなんでだろう」
ミノタウロス兵は必死に戦っていた。バリスタの矢も既に幾本か『コモド』を捉えていた。
「中庭の方が弱っているな」
既に翼を損傷して飛べないようだ。回復が追い付いていないようで、もう一歩といったところだった。だがもう一体が登場したことで、ミノタウロス側の攻撃力は分散、徐々にドラゴンの回復力が上回りつつあった。
「地力の差が出たな」
所詮『コモド』されど『ドラゴン』。
「ナナーナ」
『コモド』じゃ、やる気、起きない? そりゃ、こっちも同じだよ。
「肉の質も違うから。二倍残念」
大体なぜ、昨日の『ファイアドラゴン』と違うドラゴンがそれも二体、現われるんだ?
「一つは魔石に、もう一つは肉にしよう」
「でもミノタウロス、残すと面倒」
そうなんだよな。この数の兵隊を個別に相手していては日が暮れてしまう。
「魔石が小さくならないうちに、共倒れして欲しいところだね」
崩れた城の中からゾロゾロと増援が現われる。
ミノタウロスもこのままでは終らない。
投げ槍が中庭のドラゴンの目に突き刺さった。
発狂するドラゴン。辺り構わず火を吐いた。
「いいぞ、もっとやれー」
オリエッタが僕の肩の上で飛び跳ねた。
「あっちの翼も折っておくか?」
空から一人だけ安パイというのはズルかろう。
こちらの位置を知られないようにエテルノ式で近距離発破、魔法をぶち込んだ。
「一丁あがりだ」
宝物庫から滑り落ち、別棟を圧壊させた。鍛冶場の火が木造家屋に燃え広がった。
さあ、ちょっと隠れて経過観察するとしようか。




