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クーの迷宮(地下47階 ???戦)お宝万歳!

 僕たちはもう一度、城に飛んだ。

 城の無残さは先日の比ではなかった。

 三分の二あった城壁の高さは瓦礫だけになっていた。

「いやー、飛んだ、飛んだ」

 煤だらけの子供たちが現われた。

「こっちだよー」

 城壁の外で手を振る子供たち。足元には巨大なドラゴンの骸。

「楽勝、楽勝」

 そうは見えないがな。

「なるほどね」

 周囲を見渡すと何があっても壊れない宝物庫が細い回廊と共に、不自然に空に浮いていた。

「あれも回収しなきゃな」

 僕はドラゴンを解体屋送りにした。

 解体屋の職員もきっと驚くだろう。アールヴヘイムのドラゴンが送られてきた日には懐かしくて涙を浮かべること間違いなしだ。『モナルカ』も送ったから別の意味で泣いてるかもしれないが。

「煤を払ったら、行くぞ」

「どこに?」

「『開かずの扉』だ。ただし――」

「ゴーレムの秘密が眠ってるんだよね」

「じゃあ、行かない方がいいね」

 子供たちは同行を遠慮した。

「いいのか? 見る権利はあると思うぞ」

「いいよ。面倒ごとはもう少し大人になってからでさ」

 子供たちの総意だった。

「じゃあ、代わりにいい物を見せてやろう」

 僕は子供たちを全員集めて宝物庫に飛んだ。


「うわッ、今にも壊れそう」

 細い回廊一本で支えているのだから、普通なら有り得ない。

「宝物庫ってのは相応のセキュリティーで守られてるからな。天変地異にも耐えられるように大概できてる」

「これ、大概なの?」

「さすがに現実的ではないな」

 ヘモジが鍵を開ける。

「じゃあ、あっちを見てくる間、ここで待っててくれ」

「わかった」

「行ってらっしゃーい」

 念のためヘモジを置いていく。

 オリエッタと違ってヘモジはゴーレムに関心がないので、快諾してくれた。

 手ぶらで跳ぼうとしたらヘモジに呼び止められた。

「ナナーナ」

『迷宮の鍵』を忘れるところだった。これがなければ始まらない。



 扉を入ると暗闇が。徐々に明るくなっていくのは壁に光の魔石が埋め込まれているから。

「相変わらずスカスカだな」

 エルーダの物と中は余り変わっていない。

 奥のテーブルに微かな光。

 部屋が広過ぎるせいで周囲の発光が遅れてくる。

「図面発見……」

『ゴーレム・コア』の設計図面だった。ゼロから造れと言って、造れる物ではないのだが。それとサンプルの本物が一つ。

 それでも『ロメオ工房』の秘中の秘だ。

「他には……」

 ゴーレムのバラバラになったパーツが転がってるだけ。それもスタンダードな大きさの小さな物ばかり。

 オリエッタの『看破』を駆使して、部屋の隅々まで見渡したが、持ち帰る価値のある物は先の二つだけだった。

「子供たちと合流しよう」

「なんもなかった」

 さすがに転送するわけにはいかないので、二品をリュックに収めた。

「隠す必要なかったな」



 僕とオリエッタは宝物庫の扉の前に降り立った。

 子供たちは退屈しのぎに豪華な装いを争っていた。

「凄いな。みんな驚くほど似合ってないぞ」

「えー、ひどい」

「だから言ったろう? 俺たちにこんな格好、似合わないんだって」

「それは子供だからだろう。大人になれば」

「益々似合わなくなるー」

「なんだと」

「そんなに似合わないかな」

 ヴィートが宝の一つである姿見の前に立った。

「下手くそが描いた看板みたい」

 カテリーナの言葉は言い得て妙だった。

 本人以外、全員、爆笑した。

「王冠はないよな」

「ずり落ちそうだし」

「それはティアラ。女性用よ」

「フィオリーナのそれはいいな。似合ってる」

「うんうん。お姉ちゃん綺麗」

 フィオリーナが真っ赤に頬を染めた。

 それはただの厚手のショールだったが、落ち着いた色彩でいて、人目を引く見事な色合いだった。

「こ、これ貰ってもいいかな?」

 子供たちは全員ニコリと笑った。

「いいに決まってる」

 ニコレッタが肩を叩いた。

「あんた普段から遠慮がちなんだから、もっと主張していいんだからね」

「これなんかもいいんじゃない?」

「却下。フィオリーナにはもっとこう繊細な感じの物がいいのよ」

「じゃあ、ニコレッタにやるよ」

「どういう意味よ!」

 どうやら努力に見合う報酬となったようだ。

 キンキラキンの宝飾品のなかで、負けず劣らず輝いている子供たちをどこかうらやましいと思う自分がいた。



「ぎぁあー、倉庫がまた爆発してるーッ」

 子供たちは各々絶望を体現して悶えた。

「ちょっと嵩張ってるんで、よろしく」

「よろしくって数じゃないよ!」

「夕飯まででいいから」

「ほんとにもう!」

「馬鹿、師匠!」

「誰が馬鹿だ!」

「なんでこんなに毎回回収してくるの!」

「それは目の前に転がっているから」

「飼い犬がスリッパ盗んでくる感じだね」

「飼い主はありがた迷惑」

「お前たちの分も半分あるんだぞ」

「わたしたちの分は九等分。残り全部、師匠のでしょうが!」

「お姉ちゃんたちのも少しあるよね」

「師匠に比べたら、かわいいもんだよ」

「そもそも大きい物は転送できないもん」

「都市を維持するためには相応の対価が必要なんだよ」

「金を掘ってるのと同じようなものね」

「スラグが出るのも同じだね」

「オリエッタの指示通り選別して、溶かす物はそっちの箱に」

「じゃあ、わたしたちは宝石を分離しちゃうか」

「外したのは加工する?」

「そうだな。避けておいてくれ」

「りょうかーい」

「『ビアンコ商会』の人、来るよ」

「ん? 馬車か?」

「いつもの」

「でも二台くるよ」

「解体屋から当たりを付けられたかな」

「販売棚に物あるか?」

「いつもの分はあるけど。二台分はないよ」

「馬車に何人乗ってる?」

「五人かな」

「一人は鑑定士だな。宝物庫の商品を先に分けた方がよさそうだ」

「わるい、フィオリーナ、こっちを先に手伝ってくれ」

「マリー、カテリーナ、手を貸して」

「はーい」

「お前ら自分の欲しい物、今のうちにキープしとけよ」

「とっくにやってる」

「いつの間に」

「あんたは現金の方がいいんでしょ」

「そうとも言う」

「すいませーん」

『ビアンコ商会』の丁稚たちが現われた。

「いつも毎度ありがとうございまーす」

 子供たちが全員、元気に出迎えた。



 子供たちを先に帰して、僕とオリエッタは持ち帰った『ゴーレム・コア』を検査機器に掛けた。

「これで一機、組めるな」

 慣れた手つきでちょいちょいと……

「あれ…… 計器壊れた?」

 オリエッタも覗き込む。

 手順を戻して再チャレンジ。

「……」

「……」

「ちょっと。これ、普通、見落とすだろう」

「わかる人にしかわかんないね」

 僕たちは見つめ合った。

「大当たりだーッ!」

 ふたり抱き合った。

 基礎パラメーターが大幅にアップした、まさに掘り出し物! 絶対有り得ないと思っていた物が目の前に。

「出力が二倍二倍!」

「いや、一・五だし」

「反応も二倍!」

「一・五だし」

「一緒に感動しよう?」

「してる」

「四捨五入したら」

「一倍」

「……」

 オリエッタだってソワソワしてる癖に。

「関節部位に負担が掛かるから。控え目」

「強度を上げると重くなるからな…… 取り敢えず、載せ換えよう」

「夕飯は! 帰らないと怒られるよ」

「…… しょうがない。楽しみは後に取っておくか」

「それがいい」

「混ざんないように仕舞う」

「棚に放り込んでくるわ」


 機体の改造は『飛行石』の導入とセットで考えよう。既に述べたように関節強度など負荷が増える分の補強が必要で、現行それは既に限界に来ている。装甲をぺらにすれば、可能だが、ガーディアンはあくまで対タロス戦用兵器である。

 というわけで『飛行石』を入手するまで本格改造はない。あくまで載せ換えるだけだ。それだけでも出力を中心に大きく改善するはずだ。同じ数字でも無理に底上げするのと、余裕をもって動かすのではやはり違うものだ。優雅な動きが益々優雅になる予感がする。

「タイタンなんか相手にするより、効率いいかもしれないな」

 ヘモジは嫌がるだろうけど。

「子供たちには内緒?」

「言ったら騒ぐだろう?」



 帰宅したら、もう食事は始まっていた。食器の音がカチャカチャと。

「師匠、おそーい」

「ごめん、ごめん」

 装備を下ろし、浄化魔法を掛ける。

 本日の夕食はドラゴンシチューと、相変わらずの芋サラダである。

 子供たちはドラゴンの角切り肉をバンズに挟んで野菜と一緒にがぶり。

「僕はフォークとスプーンで」

「はい。ただいま」

「デミグラス・ササミ・スペシャル!」

 そんな料理はない。

 オリエッタが自席に飛び乗った。

「ナナナ」

 ヘモジは既に完食間近。

 ちょっかい掛けるなよ。

「宝物庫の中身完売したんですって?」

 ラーラが聞いてきた。

「メインガーデンが今、特需らしい。嗜好品はなんでも売れるってさ」

「あっちはタロスの脅威が減ったからね」

「オリヴィアの所の話じゃ、あと二、三回は余裕で買い手が付きそうだってさ」

「そりゃ、豪気ね」

「まあ、今まで飾る余裕なんてなかっただろうしな」

「そりゃそうよ。造ったそばから壊されるんだから、散財する気になんてならないわよ」

「もう勝った気でいるのかね」

「南部の侵攻うまく行き過ぎたものね」

「突っ込むほど、補給線が間延びするし、不安も募る…… 散財する暇があるなら踏み出すべきなんだが」

「稼いだお金で自分でやれってことね」

「散財もまた貢献か」

「命を賭けられる人ばかりじゃないものね」

 魔素が世界に充満するほど敵も強くなるという背反がなければ、ここまでモヤモヤしなくて済むのだが。こちらが強くなった分だけ敵も強くなる。その力関係はこのまま平行線で行けるのか、どこかで交差するのか。最後の一体を滅するそのときまで……

「明日は城内探索だな」

「ナナーナ」

「出口がエルーダと同じ場所にあればいいけど」

「今日吹っ飛んでた」

 母屋の半分は宝物庫に繋がる回廊と共に残っていた。

 吹っ飛ばない場所だよな。普通。

「鍵も王様が持ってるのかね」

「今日は死んでたかも」

「…… 玉座か、寝所か。鍵の掛かった扉を探すことになるのかな」

「中庭に襲いに来るドラゴン倒さないと駄目かも」

 コモドなら放っておいても討伐されてくれるだろうが『ファイアドラゴン』だとどうだろう。

「ミノタウロスには頑張って貰いたいね」

 本日のデザートはスイートポテト食べ放題。

 あまりの芋尽くしにさすがに子供たちもうんざり。

 でも甘い物はいくらでも入ってしまうらしい。

「一人二つまでだからね!」

「ハッ!」

 ヘモジを警戒するオリエッタ。

 でも本日のヘモジはもう限界。自分の分をそっと差し出すのであった。

 オリエッタはほっと胸を撫で下ろすが、よく考えよう。なぜ自分の腹がまだ満たされていないのか。最初に見たデミグラス・ササミ・スペシャルは空きっ腹を余すような量だったか?

 大人たちが全員一つずつ余らせた結果、子供たちはじゃんけんをすることなく、一つずつ多く手にしたのであった。


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