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どうしてそんなに?

 少しふくよかなミケーレ少年とヴィート少年の次に小柄なニコロ少年はイザベルたちのガーディアンに興味を持った。

 ふたりは同じ村の出身で、お互い早くに母親を亡くしていた。そして父親を同じ落盤事故で亡くしている。それ以来ふたりは村長の家に引き取られていたが、その村も採掘再開の目途が立たず、閉鎖が決まって、流砂のように流れ流れて養護院に。

「今日は飛ばないの?」

 イザベルとモナさんに付きまとう。

「いつ飛ぶの?」

「明日?」

 お手伝いしたいオーラを出しまくっていたが、団体行動中につき、偵察任務はない。

「いつ動かすの?」

「そのときが来たら」

「……」

 なぜか子供たちの一番人気はモナさんの『ニース』だった。でかくて無骨なところがいいらしい。僕の『ワルキューレ』はそういう意味では人気がない。

「やはり男のロマンは空力を越えたか」

「何、馬鹿言ってるのよ」

 ラーラがクッキーを持ってきた。

「補給物資の方だけど」

 オクタヴィアのクッキー缶か。

「ドックに入れって」

「ん?」

「戦闘が始まるらしいわよ。ドラゴンタイプを見付けたって」

 改修後の試験走行で異常がなければ、このまま外にいる予定だったのだが。

 子供たちも別れの儀式を済ませたというのに…… ばつの悪い話だ。

「姉さんの船よ」

「え? あっち?」

 周囲を見渡すと陣形が変り始めていた。

 大型船が前面に、小型船は大型船に庇われるように後方に。

 僕たちの船も誘導にしたがって移動したら、姉さんの船の脇に付いた。

「釣り上げるぞー」

 頭上の甲板から声が掛かる。

「ええ?」

 姉さんの船から巨大なアームが降りてきて、そのアームと一緒に作業員数人とガーディアンが数機下りてきた。

 船底にドラゴンの皮をなめした大きなベルトを回して固定すると、僕たちの船をいとも容易く釣り上げた。

「『浮遊魔方陣』を全開にしろ!」

 ソルダーノさんは言われるまま船の浮力を最大にした。

 魔石の魔力残量が見る見る減っていくのを見て、慌てて予備のソケットに魔石をセットする。

 今のところガーディアンの力を借りずとも、アームに掛かる力は充分軽減できている。


 子供たちは船の重心が変わらないようにと、船の中央に自発的に固まっていた。

 暴れたところで影響など微々たるものだが、揺れて落ちでもしたら大変なので、そのまま放置している。

 子供たちは呆然と変わりゆく景色を見遣る。

「リリアーナ様の船だ」

「きれー」

「おっきーね」

 舷側しか見えていないのに感動しきりである。

 アームが折れたら全員死ねるな。

 甲板に降ろされると僕はほっと胸を撫で下ろした。

 ワイヤーで固定する作業が始まった。

 こんな面倒なことせずとも、解体ドックの後部ハッチからなら自力で乗船できたのにと思ったら、既に別の船が格納されていた。塗装の最中だった。

 面白い船だ。

 船橋の高さが全長と同じくらいあるのっぽな船だった。

 この『箱船』に収まっているということは直属の船か?

 ガーディアンと作業員は去り、代わりに船員が乗り込んできた。

「船からは降りちゃ駄目よ」

 子供たちの頭を撫でる。

「リオネッロ様には出撃命令が出ています」

 僕は上空を指差した。

「察しがよろしくて助かります」

「ラーラ、後は頼んだ!」

 ヘモジが腰に手を当て斜に構えめて偉そうに行く手を阻んだ。

 オリエッタも獲物を追い込む虎の如く、悠然と尻尾を振りながら階下に下りる通路を塞いだ。

「跨いで行ってやろうか?」

「ナーナッ!」

「ひどい!」

 容姿と合わないところが気の毒なくらい滑稽だ。

 が、言いたいことはわかってる。

「行くぞ」

「ナーッ!」

「ドラゴン退治、たーのしい! プライマー大爆発!」

 ふたりは飛び跳ねて喜んだ。

「ドラゴンと戦うんだよね?」

 乗員も子供たちも首を傾げた。


『ワルキューレ零式』がただ一機、船団の上空に舞い上がった。

 装備は多連装ライフルとブレードだ。どこにでもあるノーマル装備だ。

「姉さん、楽し過ぎだろ」

『ワルキューレ』の大きな翼を子供たちがどんな顔で見上げているだろうかとふと気になって振向いたが、もう小さくてよくわからない。

「見付けた!」

 オリエッタが分厚い雲のなかを指差した。

「ちょっと、一体じゃないのかよ!」

『魔力探知』は大きな三つの光源を捕らえた。

「ナーナ」

 ヘモジが別の方角を見た。

「姉さん知ってたのかな?」

 目標が三体に新手が二体だ。

「あれは知らない、たぶん」

 いきなり五体とは豪勢な。

「ちょっと数を減らしておこうか。ヘモジ、操縦頼む」

「ナーナ!」

「少しは本気出さないとな」

「『プライマー』撃つ?」

「当然」

 ドラゴンが相手なら『プライマー』の方が有効だ。

「ナッ!」

「やった!」

 操縦席から目標に向けて手のひらをかざす。

「『魔弾・プライマー』 エテルノ式発動術式!」

 僕は当初の目標に狙いを定めた。

「ナナーナ、ナーナー、ナーナンナーッ!」

 うるさい、ヘモジ!

 ヘモジは必殺技よろしく『ワルキューレ』の拳を天に突き出した後、腰にためた。

 ちょっと、ガーディアンまで動かすな。

「尻尾がウズウズする!」

 どうしてお前らはそんなに『プライマー』が好きなんだ。

 見えた!

 雲間を抜けてきたそれを視認した。

「当たれーッ!」

「ナァーナーッ!」

「ぶっとばせーッ!」

 接近するドラゴンの眼前に忽然と現われた七色の光。完全に無警戒だった一体の頭が炸裂した光に飲み込まれた。

 衝撃波が敵後方の分厚い雲まで吹き飛ばした。

 多重結界にあぐらを掻いているからそうなる!

 周囲の二体も巻き込めた。一体は特に反応が鈍っている。が、タロスタイプは思った程魔力を内包していない。向こうの世界なら今ので一網打尽にできたはずだった。

「ナーナンナーッ」

「あ、こら! まだ早い!」

 ヘモジが陣形を崩した相手に『ワルキューレ』を突っ込ませた。

 戦果を確認してから!

 ヘモジはバーストモードを発動させた。

「完全に浮かれてる。心もバーストモード」

 オリエッタも楽しそうに僕の肩を尻尾で叩きまくる。

 生き残った半眼の一体が怒ってこちらに突っ込んでくる!

「接近戦はなるべく控えて欲しいんですが」

「任せたリオネッロが悪い」

「ナナーナ、ナーナンナ!」

 正面は任せて、増援をやれと?

 後ろから接近する二体を『雷撃』で牽制する。

「ナーナッ!」

 正面からブレス!

 高度を一気に落として火炎の下をすり抜ける。

 機体を一回転ロールして、腹の下に潜り込むと、旋回する勢いに任せてブレードを叩き込む。

 敵の結界が一瞬煌めいた。が、貫通して表皮を切り裂いた。

 ドラゴンは痛みに叫んだ。

 多連装ライフルを急旋回しながら傷跡目掛けて連射する。つぶれかけていたもう一体が回復して三つ巴の尻の取り合いになった。

「ナーナッ!」

 機体を強引に旋回させながら予測射撃の雨を降らせて、たじろがせたところに容赦なく剣を突き立てる!

 こっちが死にそう……

 後ろから増援が迫る。

「ナーナ!」

 ライフルを乱射しながらヘモジは距離を取った。ドラゴンの喉袋が膨らみ、凶悪な牙の隙間から炎が漏れる。

 ブレスを撃つタイミングに合わせて敵も追撃の手を緩めた。

「ナーナッ!」

「ご苦労さん」

 増援も含めた四体が一所にまとまったところで、ヘモジは空になった弾倉を落とした。

 管制を譲り受けると僕はブレスより早く『魔弾』を撃ち込んだ。

「プライマーッ! 大爆発ッ!」

「ナナナナナナ、ナーナンナーッ」

 ふたりが小さな拳を突き出した。

 七色の光が四体のドラゴンのほぼ中央で煌めくと、誘爆してすべてを飲み込んだ。

「今度はうまく調整できたはずだ」

 攻撃態勢に入っていた一体の増大した魔力に反応して『プライマー』は弾けた。何倍にも膨らんだ『魔弾』の威力が放射状に襲い掛かる!

 空気が震えた。

 地上に四体のドラゴンが次々落下していく。一体はほぼ跡形もない。

「あれ? まだ足りなかった?」

 一体のドラゴンが回復行動に移っていた。たまたま味方が盾になって直撃を免れたようだ。

「ナーナンナーッ!」

「不満大爆発!」

 ふたりは僕を叩いた。

 どうやら完全なる消滅を期待していたようである。

「しょうがないだろ! 全部消滅させちゃったら報酬はどうするんだよ! ドラゴン五体狩って報酬ゼロでしたって言うのか? ラーラと姉さんに死ぬ程怒られるぞ! いいのかそれで!」

「それはまずい」

「ナーナ……」

「それにだ。まだ終わってない」

 落下ポイントにはタロス兵の一団が。

「運が悪い」

「ナーナ」

 砂煙が舞い上がった。

 死なずに残った一体が半狂乱になって味方と敵の別なく周囲をブレスで焼き払った。周囲にいたのはお仲間だけだったが……

「ナーナンナーッ!」

 ヘモジがダイブ、急降下して、回復される前にミョルニルでとどめを刺した。



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