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クーの迷宮(地下47階)南区を行く

 その後、勝者が決定した。

 なんと最後に立っていたのはミノタウロス兵だった。

 まず『ちょこちゃん』が『ギーヴル』の身体の一部を石化らせることに成功した。

 ミノタウロス兵たちの攻撃で結界が解除されたタイミングにうまく連携したのか、たまたまだったのか、地上に落とせたことが転機となった。

 僕たちは「へー、石化入るんだー」とか「ちょっと甘過ぎないか」とか、餡子の甘さに舌舐めずりしながらぼけーっと成り行きを見守っていた。

 ミノタウロス兵と『ちょこちゃん』はこの時とばかりに猛攻撃。

 でも、敵の敵は敵。『ちょこちゃん』は近付く者すべてに容赦なく毒攻撃を敢行したのだった。

 そのせいでミノタウロス兵は『ギーヴル』に近付けなくなり、結果『ギーヴル』は石化した部位以外を復活させることに成功した。

「毒はあまり効いてないね」

「毒持ちだからな」

 怒りのブレス攻撃。

『ちょこちゃん』は直撃をもろに受けて灰になった。自業自得とはまさにこのこと。

 が、落ちた場所が再起して間もない『ギーヴル』の羽の上だった。

 その衝撃で石化していた『ギーヴル』の片翼が見事に折れた。

 石化した根元から先は回復することはなく、飛ぶことはもうできないようであった。

 結果『ギーヴル』はミノタウロス兵に一方的に攻め立てられることになる。

 昨日の子供たちとの一戦のように、多重結界も数には抗えなかった。ブレスを溜めている余裕もない。

 徐々に傷が増していき、やがてその傷も再生されることはなくなった。

 そして魂の残り火を空に撒き散らしながら、その首は大地に転がったのである。

 勝利と言っても、残るミノタウロス兵はわずかに四体。

「全部バーサーカーだし」

 それも『ちょこちゃん』の状態異常攻撃の影響で、こちらも風前の灯火。

 甘い大福をたらふく食べ、疲労を回復させたヘモジが意気揚々と駆けていった。

 そして数分後、お尻をフリフリ踊らせながら、空に向かって奇声を発していた。

「ナナーナ、ナーナンナッ!」

「まさに漁夫の利」

 僕とオリエッタは地味に魔石の回収に勤しんだ。

「『万能薬』飲むなり、再召喚すれば、あいつ動けたんじゃないのか?」

「ヘモジにも安息は必要」

 リュックの上で安息もないもんだが。

「リオネッロの側にいることが大事」

 そう言われると悪い気はしない。


 ルートの接続は成ったので柱に戻り、南下を再開した。

『ギーヴル』の巣を離れるに従ってミノタウロスの姿がチラホラ増してくる。

 が、僻地の様相は拭えない。

 相変わらず投石機が空を狙っていたけれど、どれも戦意を失ったまま朽ちかけていた。

「見捨てられた大地か……」

 だが、南区との境界に近付くに従って、再び様相は変化してくる。

 どうやら海路のおかげで南方は思いの外、栄えているようだった。

 巡回する兵士たちの姿が目に入る。が、その足元には――

「道がない……」

 遂に東から延々と延びていた環状道が途切れた。

 南区は海に面しているので、そちらを回った方が効率がいいのだろう。

「中央の城壁も遠いな」

 とっくの昔にバリスタの射程圏外だ。

 ここ南西区は『ギーヴル』の支配領域であるせいか、土地だけはやたらに広い。

 さすがのミノタウロス兵もこの広いエリア全体はカバーできないのだろう。

「他に住める場所がないではないし。余計なものを呼び込む危険を考えれば、移動経路を海路に限定するのもありだ」

 四十七層自体が廃墟群ではあるのだが。

「灯台だ」

「お」

 エルーダの灯台は、落書き現場全般に言えるが、中ボスを召喚するための重要な施設だった。

 システムが変わったから、もはや本来の意味合い以外、含むところはなさそうではあるが。

 なーんにもない平原ではよく目立ついい目印であった。

『ギーヴル』に止まり木にされてないのが不思議なくらいだ。

「転移しちゃうか」

 ふたりは頷いた。


 僕たちは灯台まで跳んだ。

 そして建物に踏み込んだ。

「ナナ?」

「防人は?」

 灯台の火が灯るのかは夜にならないとわからないが、機能してないんじゃないか?

「室内は蜘蛛の巣だらけ」

 しかも蜘蛛は魔物ではないとはいえ、それなりにでかかった。

「やだ、やだ」

 炎で蜘蛛の巣を焼きながら塔の最上階を目指した。

「確かに、ここに火を灯したら『ギーヴル』の格好の餌食になりそうではあるよな」

 螺旋階段をひたすら登る。

 そして最上階に降り立つと、反射鏡が割れたまま埃を被っている現場を目にした。

「ナーナ……」

 やっぱり機能していないようであった。

「こっち、見て!」

 オリエッタが興奮しながら、階段の出口と反対側の景色を見るように誘った。

 僕たちはなんだなんだと眼下を見下ろした。

 するとそこにはなんと海に面した海洋都市が広がっていたのである。

 灯台は大きな断層の縁にあり、その断崖絶壁の底には大きな町が広がっていたのだ。

『古のゴーレム』が鎮座するにふさわしい白亜の都市の再現である。

 そしてその港町を囲う絶壁の縁の一角にそれはいた。

「『古のゴーレム』……」

 断崖を囲うようにバリスタも配置されていた。

「ナー……」

「凄い」

 ヘモジとオリエッタも口をぽかんと開ける。

「これなら『ギーヴル』も手を出せまい」

 正直自分たちもあの囲いのなかで戦うのは躊躇する。

「こりゃ参ったね。『ギーヴル』と共闘しないと攻略は無理そうだ」

 だが、肝心な『ギーヴル』は既にない。

「この灯台の明かりを使って誘導できるかも」

「ぶつけるのは次回だな」

 城とも海路を使って行き来しているようであった。

 大きな船も港に停まっている。外界と交易があるのか。城にとってもここは要所のようだ。

 さて、普通の冒険者ならここはもうスルーするところだろう。

 いよいよ城の南の搬入港から城内に潜入して、フロアの出口探索を行なうことになる。

「でも、子供たちがいないときに『古のゴーレム』の案件を消化しないといけないんだよな」

 となると、攻略は明後日ということになる。

 となれば、明日はどうするか。

「海岸線をあのまま進んで城の南に着けると思うか?」

 聞いたところでふたりにわかる由はなし。

「断崖を迂回すればいいか……」

 子供たちはそうするとして、僕は転移する。

「行くか」

「ナナーナ」

 時間切れだった。

「午前の部、終了」

 また柱からのやり直しになるが、ここの灯台は遠くからも望めるので、少ない転移で現状に復帰できると予測した。



 帰宅途中のモナさんと出会った。

 顧客が順調に増えてきているようで、忙しそうであった。本日は中古の『スクルド』にオプションを装着しているのだとか。型落ちしたフラッグシップモデルの値段が熟れてきて、更にオプションで操作し易くなったことで、ようやく脚光を浴びてきているらしい。

 自分のニュービーもあれから触ってないな。やはり階層を進めて『飛行石』を掘れるところまで行かないと、あれ以上の改造は無理だ。あるいは『精霊石の核』で性能のいいコアを奇跡的に手に入れるとか。

 そうなったらまた船の改造とかで大忙しになるのだろうな。

「そう言えば『鏡像物質』の補充もしないといけないんだった」

 今日は早く終りそうだし、帰りに砂漠に寄っていくか。

「…… 南区にも柱あるのかな?」

 もしかすると城の柱と共有かもしれない。

 南の中ボスはクラーケンである、エルーダ準拠なら。

 どこかの離れ小島か何かにあったら、むしろ攻略から遠のくかもしれない。

 そもそもこの警戒網のなかでコイン探しするなんて。

「もういらないだろう。クラーケン狩りを楽しみたいなら別だろうが。城はもう目の前だ。別のパーティーに任せよう」

 子供たちがそう望んだときは、改めて考えることにしよう。

 それより城へのショートカット用の柱とコインを探すのが重要だ。

 取り敢えず、飯だ。


 昼食は芋尽くしだった。

「本日、採れ立ての新じゃがである」

 ハッシュドポテトにソーセージ。コロッケに、芋のポタージュに、焼きたてフリコ。

 さすがにやり過ぎ感はあったが。

「採れ立てはおいしいわね」

 ヘモジは鼻高々。

 他の畑も収穫時期を迎え、これからしばらくはヘモジにとって我が世の春となる。

 幸い四十七層も残るは『コモド』だけ。のんびり行こう。



 午後の部は断崖を迂回しながら城の荷揚げ場を目指す。ここまで来たら既に開拓済みの東から入場してもいいのだが、それはそれだ。

 陸路から入れるかは疑問だが、ミノタウロスの小舟も人にとっては大船だし。取り回しに難がある。

 荷揚げ場に入港したら目立つしな。

「道がないなら、それはそれだ」

 が、道はしぶとく延びていた。

 断崖の小島同士を吊り橋で繋ぎ、道は中々行き詰まることがない。


「見えた」

 荷揚げ場のある入り江が視界に入った。

 が、よりによってここでか!

 道は途切れていた。

「泳いで渡れる距離ではあるが……」

「ここまで来たなら繋げろ!」

「ナナーナ!」

 オリエッタも珍しく怒った。

「まあ、転移するにはいい距離だけどな」




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