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クーの迷宮(地下47階 ギーヴルドラゴン戦)乱戦は大福味

「やっぱりか!」

 いきなりの『ゲイ・ボルグ』!

 ブレスを吐く前の急制動に合わせて放たれたそれは、見事なタイミングで命中した。

 何枚貫通した?

『ゲイ・ボルグ』は一瞬の技ではあるが、多数の巨大な槍を一度に放つ魔法だ。子供たちが生み出せる槍の数は最大で九つ。

 防御にも気を使わなければならないので、最大値で使うとしたらこのタイミングだけだ。

 結界に五本食われても、四本が突き刺さる。単純計算ではそうなるところだが……

「ナナーナ……」

 ヘモジが眉間にちっこい手を押し当てた。

「『ギーヴル』…… お前それでもドラゴンか」

 オリエッタがヘモジの心情を翻訳した。

『ギーヴル』はいろんな意味で地に落ちた。

 そして自分の巣まで木っ端微塵に破壊した。

 羽根に四発、命中していた。そして更に一発が横っ腹を、もう一発が首元を穿っていた。

 つまり子供たちの攻撃を三発しか止められなかったということだ。

「舐め過ぎたな」

 こうなるとチビであることはメリットなのではと、ヘモジの後ろ姿を見ながら思ってしまう。

「とどめだーッ!」と、言いたいところだが、落ちた場所が悪かった。瓦礫が邪魔をした。

「ボードだ!」

 全員飛んだ。

 そして瀕死の『ギーヴル』と対峙した。

 そこへ先ほど吐き掛けたブレスが撒き散らされた!

 が、もたげた首は力なく、息も続かず、すぐ萎えた。

 子供たちの結界にダメージはなく、余力を加えた一斉攻撃が負傷した首元に集中した。

 ドラゴンの多重結界が再生を繰り返しながら攻撃を弾きまくる。

 一瞬の合間に無数の攻防が続いた。

 が、数に勝る子供たちが徐々に押し気味になっていった。

 でも子供たちの魔力も打ち止めだった。

 皆、既に全力の一撃を数発ずつ撃ち込んでいる。『万能薬』に手を出したいところだが、今隙を見せるわけにはいかない。

 手を抜けば結界が回復してしまう。

 子供たちは腰の袋に手を掛けた。

 合計三十発以上の魔法が撃ち込まれていた。

 ドラゴンの多重結界は修復の度に破壊され、本体の傷も深くなるばかりであった。

 そして今、結界の再生が完全に途切れた。

 キメラと違って首は一つしかない。押し負けた『ギーヴル』の首がついに根元から砕け散ったのだった。

「……」

 呆気ない最期だった。

「予想外」

「ナーナ」

 子供たちはドラゴン相手に真っ正面から押し切ったのだ。

 これは…… またラーラたちに僕が小言を言われる展開なのかな?


 子供たちは悪い大魔導師のように上空で踏ん反り返っていた。

「だーはっはっはっ! 『ギーヴル』など恐るるに足らず!」

「はーはっはっはー」

 でも戻ってきたときには思いっきりしおれていた。

「疲れた」「『万能薬』飲まなきゃ死ぬ」とか言いながら、腰を落とし、小瓶を飲み干した。

 なんとも勇猛なことよ。

「これで『ドラゴンスレイヤー』の称号に一歩近付いたな」

 僕がそう言うと、額に玉の汗を浮かべた子供たちの顔がニッコリ笑った。

「作戦勝ちだね」

 マリーが言った。

「ブレス攻撃を防いでから攻撃に転じると、魔力量が心配だったのよね。主にちびっ子たちが」

 ニコレッタが言った。

 まさかそこまで適確に分析をしていたとは。

「大師匠が教えてくれたんだよ。後手を踏んだら長期戦になるって」

 ミケーレが僕の耳元で囁いた。

「鏃も用意してたんだけどさ」

「使わなくても倒せちゃったね」

「どうする? 魔石回収したらこの先行く?」

「ごめん。今日はここまでだ。この先はまだ予習してないんだ」

「えー、そうなの?」

 完敗だ。

 まさか、今日一日で地下通路を走破して『ギーヴル』まで辿り着くとは思っていなかったんだ。

「じゃあ、次回はまた『ギーヴル』から?」

「そうなるな」

「えー」

 ドラゴン戦はやっぱり嫌か。

「今回みたく、うまくいくかわかんないよ」

「結界の破壊は鏃でやってもいいんじゃない?」

「折角、造ったんだし。使わないと」

「それならもっと早く倒せるかも」

「結界を破壊したところで『ゲイ・ボルグ』は?」

「それはタイミングが……」

 取り敢えず、子供たちは撤収に同意してくれた。

「首取れちゃったね」

 部位の欠損も気になったが、戦闘で魔力を使わせ過ぎた嫌いがある。

 特大サイズは期待できないだろう。

 と、思ったのだが。

「おっしや!」

 年齢補正か、体格補正か、何がどう功を奏したのかしらないが、特大サイズが手に入った。

 これって…… 全力を発揮する前に子供たちに完全にやり込められたということではないのか?

 子供たちの自慢話で今夜の食卓も賑やかになりそうだった。



 翌朝、子供たちは普通に出掛けていった。

「ナナナ」

 一方、ヘモジは朝から収穫作業で大忙しだったらしく、既にボロボロ、よって本日はただ見ているだけの重しとなった。

 本日は『ギーヴル』とやり合うことになるだろうが、それ以外のボス戦は想定していない。

 南区にいるであろう『古のゴーレム』は基本冒険者と敵対することはない。

 ゴーレムコアの設計図だとか、いろいろ興味は尽きないが、正直新たに得るものがあるとは思えない。

「そうだ。『精霊石の核』を当てるという命題があった」

「なんだっけ?」

「ナナ?」

「うーむ」

 悩む。

「『古のゴーレム』って『精霊石の核』落とすと思うか?」

ふたりは首を捻った。

 ふたりは『精霊石の核』の存在を忘れてしまっているようだった。

「『タイタン』のとき、拾って大変だっただろう」

「ああ!」

「ナーナ!」

 思い出してくれたようだ。

 本来、ゴーレムは魔石を落とさない。が、『タイタン』が『精霊石の核』という新アイテムを落としたことで騒動になったのだ。核を使うことで『タイタン』から『土の精霊石』が回収でき、尚且つ、副産物としてガーディアンのコアユニットの基『ゴーレムコア』が回収できたのである。

 召喚用ゴーレムとして『タイタン』と双璧を成す『古のゴーレム』。

「格好良さでは勝ってるんだけど、力強さでは『タイタン』が優位なんだよな」

 機動力の『古のゴーレム』と、パワーの『タイタン』。召喚用ゴーレムとしてどちらを採用するかは術者の好み次第。ちなみに爺ちゃんは前者、ロメオ爺ちゃんは後者だったと記憶している。

 その『タイタン』と双璧を成す『古のゴーレム』に『精霊石の核』が作用するのか。

 前回は子供たちの前で検証した結果、子供たちにいらぬ面倒を掛けた苦い経験がある。

 今回は子供たちに面倒を掛けたくないので、検証作業は僕たちだけで行なうことにする。

「第一の問題は『古のゴーレム』から『精霊石の核』が出るかだな」

「ナーナ」

『ギーヴル』など中ボスクラスを当て馬にしないと、起動すらしないので、大概の冒険者は『古のゴーレム』が稼働することを知らない。皆、巨大な石像だとしか思っていない。

 そして『古のゴーレム』に協力、勝利して初めて『開かずの扉』と対面することができるのだ。そこで最高難易度の扉を開けることが叶えば『ゴーレムコアの設計図』という超レアアイテムが手に入る。

 それにはゴーレムの製造方法のヒントが記されているわけだが、それがどういう物なのか、知っているのはロメオ爺ちゃんやエルネスト爺ちゃん、大伯母を含めて数人しかいない。

 ただ爺ちゃんたちから聞いた話では、知識のない者が見てもなんの役にも立たない物らしい。

「今日のところはルート探索だけでいいかな」

 ヘモジも疲れてるし。リュックの蓋の上で既に船を漕いでいた。



『ギーヴル』の支配エリアにある柱は地図によると巣から大分離れた場所にあった。

「これは予想外だったな」

 これだけ距離が離れていれば『ギーヴル』と戦闘せずに済むだろう。

 ルートを繋ぐとなると戻らなければならないが……

「見るべきものもないんだけどな」

 何せ、オルトロスすら『ギーヴル』にビビって現われないのだから、退屈だ。

「宝箱を漁るぐらいしかやることないね」

 ここはもう転移しながら移動することにした。

 チマチマ歩いていても敵がいないんじゃ、時間の無駄だ。

 設計者は何故、このような緩衝地帯を設けたのか。

「宝箱またあった!」

 敵の代わりか、宝箱だけは頻繁に転がっていた。

 しかもその内、数個がミミックだった。

 ヘモジのお尻はもうむず痒くはならなかった。

 もう少しからかいたかったんだけどな。

 戦わなかった割に、実入りがあった。

 なんというか、ハイリスク・ハイリターンを絵に描いたような地域だった。

『ギーヴル』と遭遇したら、即退場。遭わずに済んだら大儲けだ。

「鍵の難易度はどんな感じ?」

「ドクロマーク付いてる」

 甘くはなかったようだ。

 オリエッタはどれも難易度、高めだと断言した。

「あー、やだやだ」

「倒すなら倒すで、さっさとやってしまいたい」

 いつ遭遇するか、気を揉んで仕方がない。

「あ」

「なんだ?」

「『ギーヴル』が二体飛んでる」

「は?」

「ナナ?」

「いや、あの一体は違うだろう」

『ギーヴル』の巣の近郊で本日の縄張り争いが始まっていた。相手は他ならぬ『ちょこちゃんキメラ』であった。

「うわっ。ひどいな、ありゃ」

 敵も味方もない。

『ギーヴル』も『ちょこちゃん』も『ミノタウロス軍団』もお互いすべて敵だというスタンスで、三者三様、双方に向かって容赦なく攻撃をしているのであった。

「さすがにあの面子で共闘は無理か」

「ナーナ」

「お茶にする」

「…… ここでか?」

「今日は大福だから」

 理由になってない。

「ナナーナ」

 お前、今日は何もしてないだろう。

 何が疲れたときは甘味が至福だよ。

 僕たちは砂糖の入っていないお茶を啜りながら喧噪に目をやり、甘い餡子と餅のハーモニーを堪能するのであった。

「何もしてないのに、前日を超える大儲け。理不尽」

 オリエッタの尻尾が大きく揺れた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 今日は疲れているヘモジ・・・再召喚かければ、精神的にはともかく肉体的には元通りなんじゃ?
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