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クーの迷宮(地下47階 ギーヴルドラゴン戦)防衛拠点突破作戦

 ミノタウロスの防衛ラインである渓谷に辿り着いた。

「敵が山ほどいるぞ」

「『ギーヴル』も出るんだよね」

「で」

 僕は子供たちの顔を見回す。

「結論は?」

「師匠がまだ行ってないって言うから」

「地下ルートにしまーす」

「お祭りしたかった」

「自信過剰は禁物よ」

「まず安全に『ギーヴル』とやれるか確認しないと。ドラゴン相手に三つ巴とかないから」

「ミノタウロスもむっちゃ多いんだよね」

「称号欲しい」

 このフロアで『ギーヴル』と『コモド』を倒すことは称号取得の近道であるが、子供たちはまだそのどちらともやり合っていない。いや、『コモド』とはやったのか?

 詰まるところドラゴンのあの多重結界と回復力とを相手にしなければならないのである。人数がいるので結界は砕けるだろうが、回復より大きなダメージを与え続けられるかが問題だ。おまけに空に逃げることも可能。

 そこに横槍など入れられたら、倒すどころではない。

「理想を言えば、潰し合いが終ったところで参戦したいところだけれど…… 少なくとも魔力消費はそれなりにあるだろうからな」

「この際、魔石の大きさは気にしない方向で」

「称号のためにまず倒す」

 言葉尻を持っていったオリエッタに子供たちは頷いた。

「ナナナ」

 敵の姿が目に入った。

 ここで騒ぎを起こしては一大事だ。

 さあ、どう攻める?


 子供たちは身を低くしながらギリギリまで近付いていく。

 そして一瞬で仕留めた。

 倒れた拍子に兵士の首だけが砕けた。

「精度高いことしてるな」

「末恐ろしい」

「ナナーナ」

 子供たちは頭部だけを凍らせたのだ。

「何体相手にするかわからないから」

「省エネで」

 子供たちは同じ調子で見張りを数体相手にした。そして坂の途中の祠の穴から内部に潜入した。

「暗い」

「『魔力探知』あるでしょ」

「そうだった」

「こら、しゃべってないで。そこにいるぞ」

 倒す要領は一緒である。外傷は与えず頭の中を凍らせる。

「その内ばれるよ」

「そのときは穴を塞ぐまでよ」

「えーと、方角あってる?」

『魔力探知』した結果を繋げていくとおのずとルートが導き出される。なんとなくあっちかなと。

 子供たちは進む。

 そもそもミノタウロスのサイズの穴なので圧迫感はない。

 壁を掘ってその土砂で壁を造ってやれば、やり過ごすことも可能なレベルだ。

 おまけにミノタウロスには穴が狭いせいで武器を振り回すことができない。怖いのは短剣と弓ぐらいだろうが、短剣を使うミノタウロスなんて見たことがない。て言うか、それもう大剣だから。思わず含み笑い。

 子供たちは思った以上に順調に進んだ。

「ナーナ」

「『昨日こうすれば、楽だったのに』だって」

「あれはあれで楽しかったろう?」

「ナナーナ」

 それどころではなかったと自分のお尻に触れた。

 どこまで本気なのやら。

「明かりだ」

 注意して接近する。

 明るい場所では隠遁の効果も緩む。

 周囲に敵はいない。


 穴から顔を出したらそこはもう川を跨いだ先の谷の中腹だった。

 換気口なのか、窓なのか。

「結構上ったね」

「僕たちが来た道が見えるよ」

 眼下の坂の途中に転がっている遺体に多くの兵が屯していた。

「見付かったみたい」

「でもまだ進入したことはばれてないみたい?」

「すぐ内部に潜入されたことに気付くさ」と、言ってるそばから騒がしくなってきた。

 出会い頭を避けつつ、ルート検索。

 敵が動き回ってくれるおかげで通路がどう走っているのかよくわかる。

「この先に大きなカーブがある。それで一気に上がれるね」

 螺旋を描きながら上階へ。

「そこからは行って来いだけどね」

 端まで行って、戻ってくる感じになっている。

「縦に移動できたら早そうだけど」

 注意していたら、行き止まりだと思われていたカーブの出口付近で、反応が飛び降りているのがわかった。

「縦穴がある!」

 階段はなさそうだが、ショートカットが設けられている。

「空気穴かな?」

「行けばわかるさ」

 子供たちは突撃した。


 落ちるだけの縦穴だった。

 ここから上には上がれない。徒歩ならば。

 子供たちはボードに乗って、軽々障害をクリアーした。

「敵来た!」

 子供たちは急いで、飛び降り、通路の隅に壁を拵えた。

 こちらの侵入がばれたのか、兵士たちが続々、穴に身を投じていく。

 その分、上にいる兵士はどんどん減っていくのだから、ニヤける気持ちもわからなくはない。

「こっちだよね」

「行くわよ」

 思った以上に敵の展開が早い。が、既に後手を踏んでいる。子供たちの進行するペースの方がそれほど順調だったのだ。

 それもこれも敵の動きを先読みできたからだ。

 子供たちはあっという間に対岸の岩壁の最上階にいた。

「ここから出られるよ」

 ニコロとミケーレが手招きするが、そこは行き止まり。

「岩で封じてるのか?」

 丸い円盤状の大岩が行き止まりの壁に嵌め込まれていた。側面に、円盤をここにスライドして収めろと言わんばかりの隙間があった。岩の底には溝までしっかり掘られている。

 子供たちは円盤を横に転がそうと力を込めた。

 が、魔法のようにはうまくいかなかった。

「だめだー」

「動かないよ」

 僕は黙って見ていた。得意な魔法で簡単に解決できるだろうにと。

「よし、破壊しよう!」

 いや、そういう派手なやり方じゃなくてね。

 溝に勾配をつければいいだけなのに、子供たちは破壊工作を始めた。


 さすがに大騒ぎになるような爆破はしなかった。

 岩をドロドロに溶かして変形させながら通れる穴を拵えたのだった。

 僕たちは日の下に出た。

「空が眩しい」

『万能薬』を舐めながら空を見上げた。

 上層の別荘廃墟群にミノタウロス兵はいなかった。

 完全に『ギーヴル』のテリトリーである。

「敵はドラゴンだ。魔力の放出には気を付けろよ」

 魔力探知するだけで気付かれてしまう。

 故にミノタウロスに紛れて魔力を放出できるチャンスは今しかない。

 位置を特定できればいいが。

「……」

 オリエッタも視線を遠くに泳がせた。

 沈黙が支配する。

 風に揺れる草木が擦れる音が聞こえる。

 僕の耳と鼻は敵の不在を探知した。

「いない」

 オリエッタの意見も同じだった。

「でも巣の位置はわかった」

 この高台に唯一漂う強烈な匂い。餌になったモノたちの腐臭と血の臭いだ。

「まずは宝箱だな」

『ギーヴル』の巣を漁りに行く前に、コインを回収しておいた方が、不測の事態に逃げやすくなる。精神的に。コインがあればやり直しが簡単に利くから。

 前回は崖の崩壊によって土砂のなかから発見されたが、あるとすればおおよそこの辺りだという場所に向かった。

 崖の縁にある一軒家。

「見付けた」

「ナナ!」

「早ッ!」

 オリエッタが真っ先に反応した。

 僕たちは巨大な家屋のなかに入り、小人気分を味わいながら物を発見した。

 物は何かの作業台の上にあった。床からでは望めない。

 ボードで飛ぶにしても、足場を創作するにしても、転移するにしても、魔力を使うことに変わりがない。

「行ってくる」

 オリエッタが名乗りを上げた。

 確かにオリエッタなら上まで到達できよう。

 ただミミックだったら、逃げることしかできないし、下手をしたら…… 物によっては蓋も持ち上げられない。せめて護衛にヘモジが付けば……

 それにこれは子供たちの冒険だ。

 周囲をすがる思いで見た。何かないかと。

 一本の麻縄が壁に掛かっていた。ミノタウロスサイズの物だから強度に不足はないが…… あれは太過ぎて使えない。

 オリエッタにも手伝って貰って、尚且つ子供たちが主導権を握れる方法。

「トーニオ!」

 僕はリュックから常備してあるロープを取り出した。そして作業台の上方を指差した。

 トーニオはすぐ理解した。

「オリエッタちょっと」

 オリエッタと相談を始める。

「あの籠使えるかも」

 野菜入れか何かの籠を子供たちが運んできた。これまたミノタウロスサイズであった。

 子供たちが数人入っても余りあるサイズだ。


 オリエッタはロープを身体に巻き付け、家具から家具へと飛び移りながら天井付近に飾られた魔物の剥製を目指した。

 それを足場にして最後の梁に飛び移った。

「引っ掛けられそうか?」

「大丈夫」

 そう言って、オリエッタはロープを縛り付けたまま梁を跨いで飛び降りた。


 僕たちはロープをオリエッタの身体から外すと、ロープを引いた。

 するともう一端に結んである籠がスルスルと移動を始める。

 体重の軽いヘモジとニコロが乗った。

 作業台の縁まで持ち上げたところで、停止した。

 そして結果を待った。

「あったよ」

 ニコロがコインを落とした。

「ナナナ」

 ヘモジは地図を適当にぶん投げた。

 これでいつでも撤収可能だ。劣勢になっても即やり直しが可能になる。

『ギーヴル』戦に向けて一歩前進だ。

 籠に乗ってふたりがズルズル下りてきたら移動開始である。


「いないな」

 前回は呼んでもいないのにやって来たくせにどこ行った?

「ナー」

「いないなーい」

「巣を燃やしたら帰ってくるんじゃね?」

「むちゃくちゃ怒りそう」

「このまま進む?」

 姿だけでも確認したかったのだが。予行演習にもならないか。

「呼んでみるか……」

 僕は転移した。

 僕の知るドラゴン種だったら探知できる魔力量のはず。

「生きているなら見付けてみろ」

 広範囲に魔力探知を働かせた。

 一瞬キラリと反応があった。

 が、いつまでも浮いてはいられない。

 僕は再び転移して地上に着地した。

 わずか数秒の出来事だったが、充分、撒き餌になった。

「来るぞ!」

「見付けた?」

 僕はニコリと笑って方角を示した。

「配置に付け!」

 子供たちは広い場所に陣を敷き、ドラゴンの登場を待った。

「来た!」

 一目見ただけでそれとわかるシルエット。

「いきなりブレス来そうだぞ」

「先制しちゃう?」

「当然でしょう」

 子供たちの妙なやる気が不安を醸し出した。



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[気になる点] >このフロアで『ギーヴル』と『コモド』を倒すことは称号取得の近道であるが、子供たちはまだそのどちらともやり合っていない。 →コモドは威力過剰の一斉射で倒してるよね?
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