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クーの迷宮(地下47階 ギーヴルドラゴン戦)出会いは突然

「宝箱あってよかった」

 あれから越境してすぐ、宝箱と遭遇したのだった。

 平原のなかにぽつりとあった石積みの祠のなかに、ご神体のように神妙に鎮座していたのだ。

 でも、それがミミックで、ぼーっとしていたヘモジが噛まれた。

 あれだけの戦いをした後だから、気が抜けていたのもわからなくはないが、ああも容易く噛まれるとは情けない。

「ナナナナ……」

「お前の『一生の不覚』は何度あるんだ?」

 僕とオリエッタは笑った。

「しかも、噛まれたのお尻だし」

「あと一歩逃げるのが遅れたら、丸飲みになってたな」

「歯形まだ残ってる?」

「ナナーナ!」

 確かに回復薬を飲んだから、傷は残っていないだろうが。

 噛まれたときの逆上ぶりといったら……

「あそこまで壊れた宝箱は見たことないな」

「バラバラ殺人事件」

「ナナナナ、ナーナンナッ!」

 先に行ってしまった。

「からかい過ぎたか」

「ボーッとしてたヘモジが悪い。反省しないとだから」

 確かに自慢できる話ではない。笑い話だから。

 鬼気迫るヘモジの顔が脳裏に浮かんだ。

「だめだ」

 再び笑いが込み上げてきた。



「そう言えば。バンドゥーニさん、どうなった?」

 コインが手に入った僕たちは早々に脱出して、家路に就いていた。

 坂の途中から港を振り返る。

 僕の問い掛けにオリエッタは空を見上げ、感覚を研ぎ澄ませた。

 港に入港している船はちらほら。でも高速艇は見当たらない。

「子供たちは家にいるけど……」



「夕方になるって」

 家に帰ると、マリーが素っ気なく答えた。

「そりゃ、残念」

「しょうがないよ。風任せだから」

「僕たち、ご飯食べたら学校に戻らなきゃ」

 お皿をテーブルから回収しながらミケーレとニコロが言った。

「後は任せて、勉学に励みなさいな」

 出迎えはモナさんと大伯母がしてくれるようだ。間に合えばラーラとイザベルも出迎えるという。大歓迎だな。

 コインは手に入れたし、僕たちも今日はもういいかなと思ったのだが。西区の柱がどうなっているのか、確かめないわけにはいかない。

 子供たちがバタバタと出ていった。

 校庭から生徒たちの遊ぶ黄色い声が聞こえてくる。

 向こうもちょうどお昼休みだ。

「すぐそこまで来ているのに、大変ですわね」

 夫人が言った。

 実際向かい風であろうと船は進む。フライングシップであるから『浮遊魔法陣』の角度を変えることで無風であっても低速で進むことは可能だ。ただ魔石の消費は馬鹿にならないが。

 兎に角、前進はしているはずだ。

 僕たちも食事をして、家を出る。


 ヘモジは未だに噛まれたお尻を気にしていた。ゲート前に並んでいる間もしきりともぞもぞしている。

 薬を飲もうと再召喚されようと、噛まれた痛みは現実のものであり、確固とした記憶として脳に定着している。

「痛かったか?」

 笑ったことを少し後悔した。

「ナナナ」

 ヘモジはくすぐったいだけと言って笑った。

 僕はヘモジの頭を撫でた。



「さあ、何もないエリアを進むとしましょうか」

 西区の柱に転移した僕たちはその場で立ち尽くした。

「ないにはないんだけど……」

 平原を横断する巨大な渓谷。

「えー、どうやって向こうに渡るの?」

「ナナナ」

 全く以て想定外。

「ここに来て、断崖絶壁とは」

「もしかして『ちょこちゃん』の巣はこの下にあるのかもな」

「どこまで深いのかな?」

 鬱蒼とした樹木の先端が見える。

「ナナナ」

「フライングボードで下りてみるか?」

 ふたりして頷いた。

「小物の反応が大量にある」

 小動物の天国のようだ。

「大物はいなさそう」

「大物は『ちょこちゃん』の餌になるから、寄りつかないんだろうな」

「巣はどこだー」

「ナーナンナー」

 地上に降りると原始の森が広がっていた。

 曲がりくねった大樹の根や枝が駆け巡って絡み合っている。

 思わず息を呑む。

「観光スポットになりそうだな」

「『ちょこちゃん』が留守ならね」

 さすがにこのまま行くと明後日の方角に進んでしまう。

「探索はまた今度だな」

 角兎がいた。丸々太って毛並みのいい狼もいた。色鮮やかな野鳥も鳴いている。

「苔で転ぶ前に行くぞ」

 僕たちは空の光に向かって舞い上がった。


「やっぱり殺風景だ」

 上の世界は低草が生い茂るだけの相変わらずの景色だった。

「危なッ!」

「ナーナ!」

 目の前に突然、大岩が現われた。

 結界にかすっただけで済んだ。

 投石機の標的になった?

「どこだ?」

 高く舞い上がり過ぎたか?

「あそこ!」

 二発目の岩がセッティングされていた。

「野郎ッ!」

 高度を下げた勢いで加速した。

 あっという間に敵の懐に飛び込み、装置を破壊した。

「バーサーカー、なし!」

 踵を返すと、先にヘモジが飛び降りた。

 僕も地上に滑り降りて、ミノタウロス兵のなかに飛び込んだ。

「ナナナナナー」

「オラオラオラー」

 叩いて叩いて叩きまくる。

 斬って斬って斬りまくる。

「あっという間に屍の山」

 オリエッタが壊れた投石機の上でくしゃみした。


「えーと……」

 地図で現場確認。

「そろそろ草原が終りそうだな」

 あれから二つほど集団を処理して地図の端に達していた。

 待つのは肌色に染まった岩場であった。ゴツゴツした岩場だらけの荒野が広がっている。

 飛行を再開した。

「あの丘怪しい」

 敵が隠れるには持って来いの高台の一角。

 魔力反応あり。

 後方の岩盤が砕けた。

 いつの間にか巨大な槍のような矢が地面に突き刺さっていた。

「はー、あそこから届くか」

 降下して物陰に隠れた。

「三体だけ」

「弓兵邪魔だな」

 銃を取り出す。

「『魔弾』で仕留めるぞ。頭出すなよ」

「ナーナ」

「よろしくー」

 岩の上に銃口を載せて構える。

「いた」

 でも、遠いな。

 照準を合わせる代わりに『一撃必殺』で代用する。発動と同時に撃てば当たるのだ。

 敵が隠れていた岩場ごと吹き飛んだ。

「あら?」

「ナナ?」

「やり過ぎ?」

「いや、奴の手を離れた矢が、頭上の岩場に当たって砕けただけだ」

「なんだ自爆か」

「ナナーナ」

 そうそう面白いことがあってたまるか。

「二体、来るよ」

 遠くの坂をえっちらおっちら下りてくる。

「待つか?」

「どうせ現場検証するから」

 そうね。

 こっちから出迎えることに。でも急いだりはしない。

「石斧?」

 兵士じゃないのか?

「ただの野良」

「山賊の類いか?」

 ヘモジに簡単にボコられた。

 逃げ出したもう一体は魔法で吹っ飛んで貰った。

 奴らの根城に向かった。


 見晴らしのいい場所だった。が、奥は大岩に塞がれていてその先はなかった。

「寝床があるだけか」

 弓兵の弓が瓦礫に埋まっていた。

「『ちょこちゃん』に見付かったら一瞬だろうに」

 見晴らしがやたらといい場所だった。

 進む先もよく見えた。

 次のエリアは凄いな。

 巨大な渓谷の急斜面に巨大な建物が密集していた。

 あのどこかに『ギーヴル』がいる。

 豪華な別荘地帯もドラゴンが住み着いたことで廃墟と化していることだろう。

 いるのはミノタウロスの兵団のみ。

 エルーダでは『ちょこちゃん』が越境してきていたが、こちらの『ちょこちゃん』はどうか?

『ケルベロスキメラ』の縄張りに介入していたけど、こちらにもちょっかい掛けてくるのだろうか?

 今日のところはもうご存命ではないので、確認のしようがない。

「さーて」

 ここまで来たら欲も出るのだが、越境するにはまだ距離がある。

 残り時間で次のコインに辿り着くのは難しいか……

 転移を繰り返して横着する手もあるが。

「コインだけでも見付けるか」

 下手をすると明日、子供たちに先を越されかねない。コインが一度に二枚出たことはないし。

「探索は後でできるから」

「ナーナ」

 視界に入れば跳んでいける。


 というわけで、手頃な場所に一気に跳んだ。

 地図上の境を越えて、渓谷に一番近い高台である。

 周囲を見渡す。

 エリア越えした街道は蛇行して右手から谷間に沿って左に伸びている。

「一旦、下りるようかな?」

 谷を覗き込む。

「うむ」

 谷底に橋が架かっている。

「あれで向こう岸に渡って」

 向かい側の断崖に長い上り坂。明らかに人工の坂だ。傾斜はほぼ一直線、崖を抉ってできていた。

「やることが大雑把だ」

 ついでに側面の壁を掘り込んだ祠がいくつも並んでいた。

 まるで貧民窟だな。太陽の光はしっかり届いているので貧相には見えないが。

 崖の上の豪邸に比べてしまうとね。

「道なりに行かないと、宝箱を取りこぼしそうだ」

 祠やら、谷底の川沿いに建っている小屋など、素通りできない所が散見された。

 取り敢えず下り坂まで目立つ場所はなかったので、手前の岩の陰を次の転移ポイントに定めた。


 視界に入らなかった坂の途中に頓所があった。

 いきなり草むらから出てきたオルトロスに吠えられた。

「ナーナ」

「駄犬が!」

 気付かれてしまった。

 ミノタウロス兵がゾロゾロ出てきた。

「三体…… えーと」

 ほんとにゾロゾロ出てきた。

 下り坂の途中にも祠のような住処があって、そこから坂を埋めるほどの兵士たちが。

「大きな岩の塊、落としてやろうか」

「ナーナ」

「それがいい」

 僕は巨大な丸い岩を拵え、坂に沿って転がしてやった。よくあるベタなトラップだ。

 丸い球体を見た途端、兵士たちは一斉に踵を返した。

 叫び続けていたオルトロスも黙り込んだ。


 祠に引っ込んだ奴らの魔力反応は残っていた。が、大量のミノタウロスが岩に踏まれて圧死するか、崖下に転落していった。

 それでも数はまだ残っていた。

 ここはミノタウロスの巣窟か?

 対岸の絶壁から弓が届く距離ではないが、大騒ぎになると後々厄介になるかもしれない。

 速やかな排除を。

 前進しながら祠を凍らせていく。

 耐えられなくなれば飛び出してくるので、そこをヘモジが叩く。

 祠のなかがどうなっているのか覗いてみた。

 するとすべてがなかで繋がっていることがわかった。

 これって…… 塹壕か?

 よく見れば奥の穴を塞ぐために大岩が配置されていた。

「ここって……」

 触れると崩れる脆い岩壁。このキラキラ光る成分は…… ドラゴンの巣で何度も見た。ガラス形質。

「まさか?」

 この岩場の一帯…… 

 いや、今日はもう中ボスはいいって!

 目の前が突然、赤く染まった。



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