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クーの迷宮(地下47階 キメラその三戦)珠玉の一戦

 子供たちの動きに呼応して異常を察した一団は、頭をもたげて周囲を警戒し始めた。

 その内の一体の頭が突然、吹き飛んだ。

 慌てふためく敵二体の頭も続け様に吹き飛んだ。

「計画通り!」

 オリエッタが肉球を握り締める。

 だが、次の瞬間、子供たちは震え上がる。

 結界三枚が貫通され、ジョバンニの脇の地面に巨大な斧が突き刺さったのである。

 ジョバンニだから避けられた。これがもしマリーやカテリーナだったら……

 勿論、僕の結界が控えているので、そうはならないが。

 虚を突かれた。

 子供たちはリズムを崩して連携が一瞬滞った。

「気を付けろ! 一瞬で三枚持っていかれたぞ!」

「ごめん。気を抜いたかも」

「こっちはいつも通りだって!」

「あいつ『結界砕き』持ちだッ!」

 つまり一枚は不可抗力。二枚が自力ということか。

「集中しろ! 来るぞ」

 投げた当人は仲間の落とした別の斧を拾い、次の投擲モーションに入っていた。

 子供たちは六重の結界を展開した。

 誰言うことなく、得体の知れない相手に防御をまず優先させて、様子見だ。

 攻撃担当はジョバンニ、ニコレッタ、ヴィートの三人のみ。その三人は全力でもう一体を潰しに掛かった。

「一撃で仕留める!」

 戦い慣れてくると勘所というのがわかってくる。どちらを先に潰すか。その判断一つで、戦況は大きく変わってくる。

 三人はまだ仕掛けてこない遠い方に狙いを定めた。未だ動かぬ一体に子供たちはより大きな脅威を感じたのかもしれない。こればかりは理屈ではない。

 だが、三人の攻撃は飛んできた大斧によって遮られた。

 次の瞬間、ヘモジが前に出る素振りを見せた。

 一瞬で敵の配置が入れ替わる。

 射程外にいてやる気を見せていなかったその一体が、刹那のうちに攻撃を受けて弾かれた大斧と交錯したのだ。

 子供たちはその突進を真っ正面から受けた。

 飛び散る結界。

 ノックバックが起きて陣形が崩れると判断したフィオリーナは敢えて表層の数枚を犠牲にする判断をした。その判断に即応しちゃう年少組も大概であった。

『結界砕き』持ちは最初に投げた斧を拾い上げ、半歩遅れた位置から、満を持して、そのときが来るのを待ち構えた。

 そして結界が減った子供たちを一網打尽にすべく大斧を目一杯全力で横に薙いだ。

 決定打になると確信しての一打だっただろう。

 が、斧は空高く舞い上がった。

 六枚張った結界の三枚がまず剥がされ『結界砕き』によってさらに一枚持っていかれた。残りは二枚。

 だが、今度は油断も抜かりもない。フィオリーナの指示の下、子供たちは表層を犠牲にしつつ、余裕を持って、次のローテに移行していた。

 内側へ内側へと障壁を生成しながら次々結界が再構築されていく。

 最近は一人多重結界もできるようになってきたらしく、移行するタイミングでもたつく様子はなかった。

 ソフトに受け切ったことで、子供たちは誰一人ノックバックの影響を受けなかった。

 敵が期待した詠唱の中断、そこから派生する混乱は起きず、再構築はなった。

「絶対に抜かせないッ!」

 攻撃組の三人はそれを見て奮起する。

 目の前ででかい顔をしている相手に無心で全力を傾注した。

 顔面から後頭部へ突き抜ける、ユニコーンの角の如く鋭く尖った氷の槍。

 あまりの鋭さに、氷柱が頭に突然生えたのかと思った。

 巨体が結界に沿ってずり落ち、膝を突く。

「来いやぁああ」

 まだ赤目をランランと輝かせているもう一体が拳をぶつけてくる!

 子供たちは隊列をリセットして結界を五枚。攻撃を四人に瞬時に戻した。

「『無刃剣』ッ!」

 ニコレッタの攻撃がとどめを刺した。

 振り上げた大斧が天を指したまま動きを止め、代わりに首が一つ大地に転がった。


「ふうーッ」

 皆、大きく息を吐いた。

 わずか数秒の出来事に全員、肩で息をし、棒立ちになった。

「はぁ、はぁ……」

「くそ。やっぱ強ぇな」

「なんだよ、あの突進。ヘモジのスーパーモードみたいだったじゃん」

 ヘモジもあそこでよくこらえた。

 この一戦は子供たちの自信に繋がる珠玉の一戦となった。

 もしあそこでヘモジが手を貸していたら、いつもの一戦と変わらぬものとして記憶の隅に追いやられたことだろう。

「コモドより強いって、おかしいよね」

 普通のパーティだったら、空飛んで炎を吐く相手の方が倒しづらいということなのだろう。

 でもさすがに四十七層。危うい場面が増えてきたな。



 北東区の柱にようやく辿り着いた僕たちは一旦外に出て、お昼休みを取ることにした。

 家に帰るとケバブサンドが待っていた。

 夫人は既に店に戻っていて、ベランダには子供たちの洗濯物が風になびいていた。

「バーサーカーのせいでなんか疲れた」

「二個食べていい?」

「何個あるんだ?」

「適当みたいよ」

「ラーラたちは食ったのか?」

「食べちゃっていいんじゃない」

「伝言板に全部食べていいって、書いてあるし」

 最近不規則になりがちな住民のためにモナさんが、夫人の依頼で黒板を設置したのだった。

「やった!」

「わたしは一個でいいわ。代わりにサラダ貰うから」

「ナナナ」

「ありがとう、ヘモジ」

 ピューイとキュルルは先に食べたようで、ベランダからちょこっとだけ顔を出して挨拶すると、池に戻っていった。

 さて、この後どうするか。北区に行っても恐らくコインを取りに行くだけで今日は終わりになるだろう。キメラ同士の戦いも既に始まっているだろうから、見られないだろうし。

「でも今日中に取っておいた方が、次回は楽かも知れないな」

 コインを取ってから柱に戻るのは二度手間になってしまうから。

 次の柱の位置がわかっていれば、北の柱を無視して先に進んでしまえたんだが。

「午後はコインを手に入れる所までだな」

「遠いの?」

「移動で時間半分だな」

「残りは戦闘かぁ」

「敵が多いの?」

「序盤は魔法使いが相手だから、勝手が違うだろうな」

「『魔石モドキ』!」

「そう言えばいたね。そんなの」

「鏃で射程外からやる?」

「そうね。使い切っちゃいたいわね」

「無理に使い切らなくても次回だってあるんだぞ」

「次を生産したいの」

「魔鉱石じゃ、もうレベル上がらないんじゃないのか?」

「ふふふっ。現在、我々は『紋章学』を上げているのです」

「鏃の大きさじゃ、それも限界だろう?」

「数をこなせばまだもう少し上がりそうだから」

「熱心なことで」

「『鉱石精製』スキル欲しいもんね」

「『細工』も上がるから将来『紋章記述式』も狙えるし」

 おいおい、大師匠の十八番を習得する気か?

「でも両方は手に入んないんだよね?」

「今のところはな。何が原因か未だにわかってないから。できれば僕も両方欲しいんだけど…… なかなか両方の条件を揃えられる人がいないから検証もな」

「ねーねー。バンドゥーニさん、あと何日で帰ってくるの?」

「あ、そうだ」

「もうすぐだね」

「予定だと」

 全員、カレンダーの方を見た。

 昼下がり、窓から心地いい風が吹き込んできた。



「おー」

 戻ってきました北東区の柱。

「街は未だ健在」

「ナナーナ」

「道なりにまっすぐ」

 オリエッタが僕の頭に腹を乗せて指差した。


「ミノタウロス!」

 屋根の上から降ってきた!

 これは今までにない登場シーンだった。

「屋根の修理でもしてたのか?」

 これが不意打ちにならないところが残念なところだが。

 結界防御からの魔法コンボで簡単に仕留められた。

「うわっ。ゴーレム」

 瓦礫のなかから突然石の塊が起き上がった。

 戦うに値しないとヘモジが叩きつぶした。

「お前ねぇ……」

 確かにタイタンを相手にできる連中が、今更無印を相手にするというのもね。『古のゴーレム』登場の布石のために用意された飾りみたいなものだから、余計だと言うつもりはないが。

 もっともあれを稼働させるには『ギーヴル』か『ちょこちゃん』を当てないといけないから、面倒は面倒なんだよな。幸い勝手に区域を越えてくるから、共倒れさえしないでくれれば目的は達せられるのだが、その前に潰し合いが始まっちゃうから意外に難しい。

 でもそれはまだ数ブロック先の話だ。悩んでも仕方がない。まずはコインと地図、柱の発見が最優先事項である。

 街道を行くと例の聖地に行き当たる。

「うわー。きれー」

「なんか四十階層思い出すなぁ」

「今日はそっち行かないぞ」

「行かないの?」

「コインはあっちだからな」

「そういうこと」

 子供たちは位置関係を理解した。コインを取りに行ってから、一旦外に出て、新しい柱から入り直せばいいということを。

「壁近ッ」

 堅牢な城壁が麓に影を落としていた。

「大回りするから、ちょっと距離が長くなるぞ」

「りょうかーい」

「魔法使い、『ミノタウロススペリア』発見!」

「鏃、連続投射! 射間一秒!」

 まず必要な手数の確認である。何発で相手が沈むか。一秒間隔を開けるのは、無駄撃ちを避けるためだ。絶命し、目標が失われた段階で、鏃は不発となる。

 細かい術式も日進月歩である。

 おかげで魔力は無駄になるが、回収率は上がった。

「三?」

「四発?」

 神官服を着たミノタウロスは錫杖を放り投げて倒れこんだ。

「『魔石モドキ』回収する?」

 僕は頷いた。

 水晶直持ちではなく、錫杖に嵌め込まれていたことに今更気付いた。そのせいで若干小さくなっていた。勿論ミノタウロスサイズでのこと。僕たちには抱える程でかいことに変わりはない。

 魔石を回収しつつ、時に壁との距離を測りつつ、僕たちは北西区を目指して進んだ。

「みんな屋根に上って!」

 オリエッタが叫んだ。

「なんだ?」

「早く!」

 言われるまま僕は子供たちを最寄りの屋根の上に転移させた。

「なんだ?」

「何々?」

「何が起るの?」

「あれ!」

「どれ?」

「あ・れッ!」

 オリエッタが示したのは遠くから接近する何かだった。

「あー、オルトロスだ」

 ワンワン吠えている声が聞こえた。

「戦ってる!」

「ミノタウロス兵と」

「野犬の群れか?」

 どうやら野生化したオルトロスが相手構わず街を襲っているようだった。

「コインの回収急ぎたいんだがな」

 回収さえ済めば、いつでも戦線を離脱できる。そして次回は北区のメインステージからだ。二体のキメラの戦いも余裕を持って鑑賞できる。

「ちょっと数多過ぎるよ」

 バリスタの矢が降ってきた!

 僕たちは振動で浮き上がった。

「えーッ」

「まさか……」

「狙われてる?」

 第二射、第三波が降ってくる!

「当たった。結界に当たったッ!」

「誰だよ、屋根に上がれって言ったの!」

「一旦引くぞ!」

「屋根から下りろ!」

「射程外まで戻るぞ」

「ここ射程外でしょ!」

「あーっ、オルトロス来たよ!」

「いいから撤退!」

「前からミノタウロス!」

「嗚呼ぁ、もう! ハチャメチャだッ」

「ヤバイよッ! あれ――」

 頭上を弾かれた大斧が通り過ぎた。

 ヘモジがミョルニルを振り上げていた。

「バーサーカーだッ!」



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