表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
410/553

クーの迷宮(地下47階 キメラその三戦)ロックゴーレムキメラを狩る

 翌朝、ヘモジとオリエッタと僕はタイタンを倒してから『ファイアコモドドラゴン』とミノタウロス兵が死闘を繰り広げていたポイントに転移した。

「お、まだ戦闘は起きてないな」

 焼けただれた荒野だと思われた場所は、市街地のなかにある緑豊かな公園広場だった。

「コモドドラゴン、張り切り過ぎ」

 オリエッタも尻尾を丸める。

「ナーナ」

 僕たちは外周を振り返り、渓谷の先にあるドラゴンの巣を見遣った。

「まだいるよな」

 時間的に前回より大分早い。戻っても、まだ巣にいる可能性が高い。

「肉、取りに行く!」

「ナーナ!」

 決定事項かよ。

 周囲にはミノタウロスが、ちらほら。

 ルート的には現在地からの方が、次の北区エリアへ向かうのに近いのだが。

「また跳んでくればいいか」

 転移スキルのないパーティだったら、こうはいかない。行くにも戻るにも、あそこには柱がない。

 子供たちのために一度お手合わせ願おうか。


 僕たちは跳んだ。

 そして巣の前の草原に降り立つ。

「いるな」

 巣の中に気配があった。

「どうやって仕留めるか」

 所詮コモドなので、恐れることはないが。それでも火を吐く厄介者だ。

「ナナ」

「やりたいの?」

「ナーナ」

「空に逃げるようだったら落としてやろうか?」

「ナーナンナ」

 ミョルニルは投擲も可能だから手出し無用と、背中を向けて渋くポーズを決める。

 何、笑わせたいの?

「ブレスの威力だけは知っておきたいんだが」

 勿論、子供たちのためだ。

「ナナナ」

 コモドに聞けって?

「じゃあ、頑張って」

 僕とオリエッタは見学だ。

 ヘモジが巣に飛び込んでいった。

 僕たちは一拍遅れて、巣を支える大木の枝に跳んだ。

 が、敵は逃げ出した。

「どこ行った?」

 転移早々、見失った。

「上にいる!」

 コモドドラゴンは巣の中で戦いたくなかった様子。手前の草原に侵入者を誘導すべく、衝撃と共に舞い降りた。

「くそッ」

 僕とオリエッタは近くで観戦するべく再び転移した。


 ヘモジが巣の中から出てきた。

 小っこい身体で思い切り振り回されている。故にご立腹であった。

 そんなヘモジだからか、コモドは小者を見下した様子で、近付いてくる小人をじっと待つという悪手を選んだ。

「逃げれば助かったのに」

 ヘモジがブレスの射程に入ると、コモドは喉袋を膨らませ、余裕の一撃を放った。

「いきなりの先制攻撃!」

 が、そこにヘモジはもういなかった。

「ブレスの範囲は想定内だな」

「威力もこれなら大丈夫」

 ブレス攻撃は継続ダメージが入るから、真っ正面から受け切るのは難しいのだが、こいつは肺活量があまりない様子。ローテするまでもなく、子供たちでも保たせることができそうだ。元々コモドじゃないドラゴンを相手にすることを想定して日々訓練しているのだから、しょぼいブレスにたじろぐことはない。

 コモドドラゴンが息を吐き切る前に草原に突っ伏した。

 スーパーモードで額に一撃。

 脳震盪を起こさせたところで、ヘモジは余裕の二撃目を叩き込んだ。

「一撃じゃ、逝かなかったか」

 ドラゴン種としての矜持は見せたということかな。

「でも、もうちょっと抗って欲しかったな。飛ぶとか、尻尾攻撃とか」

「ナーナ」

 やった本人も不満そうであった。


 骸を解体屋送りにして、僕たちは入場してきた場所まで遡ることにした。前回も先程も転移しての移動だったので、地に足着けて探索しながら戻ることにした。

「渓谷は飛び越えさせて貰うけどね」

 さすがにこの谷を下って上っては面倒だ。


 対岸は既に市街地の郊外で田園風景が広がっていた。

「得る物はなさそうだな」

「ミノタウロス来た!」

 畦道をオルトロスを連れた一体のミノタウロスがやって来る。

「オルトロス……」

 でかい獲物を狩ったばかりで食指は伸びなかったが、それはこちらの都合。あの馬鹿犬はいつだって全力である。

「頭二つあるんだから話し合え!」と言いつつ、間髪入れずに凍らせた。

 ミノタウロスが「うちのペットに何するだ!」と、鍬ではなく斧を振り上げ迫ってきた。

「ナナーナ!」

「そうだ。そうだ」

 ヘモジは「いい物をドロップできるようになってから、出直してこい!」と、迎え撃った。

 のどかな景色であるが故に、時たま居合わせる敵の存在が煩わしかった。


 そうこうしている間に、高い建物が居並ぶ景色へと移り変わり、遠くを見通すことができなくなりつつあった。

 そしてようやく拓けた場所に出たとき、本日のスタート地点が視界に入った。

「ひたすら上り坂だったな」

 振り返ると渓谷の先に焦げた野原があった。

「道なりだよな」

 地図を広げて確認する。

「ずっと町並みが続くみたい」

 だが、一軒一軒の建て付けは段々大きく、立派になっていくようであった。

 北に待っているのは神殿区画。景色からして『古のゴーレム』が番人をしていそうなエリアであった。



「いない!」

 一目瞭然。エルーダでは大剣を大地に突き刺し、大岩に鎮座する洗練された巨大ゴーレムがいたのだが。

「ここじゃないのかな?」

 今のところ各区画ごとに中ボスが配置されているので、何かしらはいると思うのだが。

「大きな反応はないよな」

「ない、なーい」

「ナ、ナーナ」

「なんだろうな」

 エルーダ準拠のこの迷宮だが、この四十七階層に限っていえば、そもそも方角と登場する中ボスが合っていない。登場する順番はほぼ合っているので、強い順ということなのだろうが。そうだと仮定すると最強の『古のゴーレム』の出番はまだ先だ。

 順番でいったら『ロックゴーレムキメラ』か。

 このまま街道を行くと城の正面に出そうである。

 正面突破できるなら、そこから城内に突入することができるだろうが、そこはミノタウロスにとっても要所である。レイドパーティーじゃないんだから。ごり押しは有り得ない。労力の無駄である。

「まずは柱とコインと地図だ」

「柱は見付けた」

「はぁ?」

「あれ」

 真っ正面にそびえる神殿に付随する噴水広場のど真ん中にあった。

「うわーっ。これまた面倒臭い場所に」

 僕はいい。転移できるのだから。問題は子供たちと来たときだ。

 神官風の衣装を着けたミノタウロスが…… あれは『魔石モドキ』…… 杖の先に大きな球体が収められていた。

「また倉庫が嵩張りそう」

 オリエッタの耳が垂れた。

「魔法職相手というのは面倒だな。数も大分いるし」

 段差のある地形のせいで、進入ルートは限定的なのに敵の見張りからは見通しがいい。

「こりゃ、アサシンモードで行った方が楽かな」

「宝箱は?」

「勿論、そっち優先。コインを先に手に入れないと柱に辿り着いても意味ないからな。どういうルートで行くか……」

 最も高い位置にある神殿から町の段差が螺旋状に下ってきている。最も低い位置には柱のある広場とは別の巨大な噴水施設があった。

「セオリー通り行くなら高い所から攻めるべきだろうな」

 右回りでまず神殿に向かい、そこから螺旋状に下って行こうか。

「こりゃ、昼には帰れないな」


 索敵を全開にしながら、僕たちは隠密行動を取った。

 神官ミノタウロスの背後に忍び寄り、息の根を止めつつ、周囲の探索を進めた。

「この上が神殿エリアか」

 段差を一つ乗り越えたらそこはもう清浄な神殿区画だ。こんな場所で殺生はしたくないのだが。

 宝箱が一番置いてありそうな場所ということで、僕たちは神殿に踏み込んだ。

 必要の無い殺生は避けつつ、要所要所では容赦せずに突き進んだ。

 カチッ。

「ん?」

 ヘモジが持っている『迷宮の鍵』が何かに反応した。

「近くに何かあるぞ」

「扉か、宝箱か……」

 あった。

「この奥、空洞だ」

 建物の基礎石の奥に、地下へと続く果てしない階段を見付けた。

「絶対こんな所にないよ」

「同感だ。でもこういう怪しい場所ほど、足が進んじゃうんだよな」

 僕たちは罠に注意しつつ、長い石の階段を下っていった。


「大理石だ」

 最下層にあったのは巨大な祠だった。

「邪神でも祀ってそうだな」

 大きな篝火、火が灯っている。

「人の出入りはあるようだ……」

 この場合ミノタウロスだが。

「嫌な予感」

 神殿とは思えない不浄な雰囲気。

「『ロックゴーレムキメラ レベル六十七……』」

 オリエッタが囁いた。

 ロックゴーレムことサンドロックトードのキメラが闇の奥にいた。

 武装した岩の鎧の隙間から無数の触手が伸びている。その触手一本一本が忌まわしい蛇頭であるから厄介だ。

 メドゥーサの如く石化攻撃を仕掛けてきそうだが、こいつの攻撃手段は接着剤として定評のある例の粘液を撒き散らしての拘束、そこからの牙攻撃と質量攻撃だ。

「蛇と蛙、天敵。キメラにした人、ジョーク冴えてる」

「あー、やりづらい」

「ナナーナ」

「焼くぞ。早々に片を付けるからな」

 粘液を踏んだら動きを拘束されてしまう。結界に神経を注いでいないと文字通り足元から掬われるわけだ。そして無数の蛇頭によって集中砲火を浴びて、あっという間に昇天だ。

 本体が岩の鎧を着込んでいるせいで動きが緩慢なので、遠巻きに攻める分には脅威ではない。が。

「ちょっと場所が狭いんだよな」

 敵にとっても天井高はギリギリなので、蛙跳び一つできない。


 と言うわけで壁で覆い、火に掛けたら一発だった。

「蒸し焼きのでき上がり」

「不味そう」

「ナーナ」

「相性が悪かったな」

 近接戦闘主体のパーティーなら苦労しただろうが、魔法使いに掛かってはただの茹で蛙だ。

 僕たちは魔石に変わるのを待った。


 突然、地下の暗闇に眩しい光が差し込んできた。

 僕たちは物陰に咄嗟に隠れた。

「何だ!」

「あそこの壁、開くの?」

 取っ手の類いは見当たらない。まさか壁一面が扉だったとは。

「外からだけ開けられるんじゃないか?」

 神官風のミノタウロスが入ってきて、キメラが死んでいることに気付いた。

 ミノタウロスは慌てて踵を返した。

 僕はミノタウロスの首を『無刃剣』で反射的に刎ねた。

 応援を呼ばれては困る。

 ちょうどキメラが魔石に変わった。

 ヘモジは急いで回収すると、それを僕のリュックに押し込んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >「蒸し焼き爬虫類セットのでき上がり」 蛇は爬虫類だけど、蛙の方は両生類な件。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ