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クーの迷宮(地下47階 キメラその二戦)日進月歩も成り行きで

「今日はもうちょっと歯ごたえのあるステーキが食べたかったかも」

 勝手なことを言いつつ、午後の部開始である。

「すげー」

「あれ、お城?」

「ミノタウロスのな。近付き過ぎるとバリスタの矢が降ってくるぞ」

「えーッ」

「マジで?」

 さすがに及び腰になるか。

「建物の陰に隠れていれば大丈夫だ」

 不意打ち且つ、直撃でなければ問題ない。

「オルトロス、いた!」

 道沿いの屋根の上からオリエッタが声を上げる。さすがに猫にバリスタはない。

「どっちから来る?」

 今歩いている通りか、並行して走っている裏通りからか。

「まっすぐ」

 正面からか。

 子供たちも反応を捉えている。

「あの樽を越えたら、やるぞ」

 子供たちが杖を構えた。


 肉塊がカーブを曲がれず壁に突っ込んだ。

「気付かれた! ミノタウロス、裏から三体来る!」

「ナーナ」

 この辺りにいる外勤のミノタウロスは神妙に接近するということを知らない。どいつもこいつも地鳴りを伴いやってくる。

「ニコレッタ、カテリーナは左から行け。ジョバンニはヴィートと右だ。中央は僕とミケーレがやる」

 陣形は横陣、横一列、真っ向勝負だ。

「マリーとニコロはわたしと結界担当よ。三重に展開するわよ」

「了解!」

 足すことの、僕の結界。



 順調順調。

 最初の橋まで戻って、駐屯地前の二股を北上し、エリアの境界まで辿り着くのにさしたる時間は掛からなかった。

「ナナーナ」

「こっち、こっち」

 次のエリア地区へと続くルート入口である窓枠を越え、全員、崩れた建物のなかに入った。

 瓦礫の隙間から光が差し込んでくる。光はより白く、闇はより黒く映る。

 ヘモジを先頭に一行は進む。

 そして脇道に逸れては宝箱を開けていく。

「おわっ」

 割れた床板が跳ねて埃を舞い上げ、ヴィートがのけぞった。

「忘れた頃に、缶詰だ」

 一缶だけだが、おやつにちょうどいい。

「ケホケホ」

 床に近い年少組が手で埃を払った。

 宝箱のなかには他に硬貨と短剣が一振りあった。水属性の付与が付いていた。

「いらないな」

 みんな既に自前の短剣がある。

 売却目的でリュックに収めた。

 オルトロスの気配がした。

「団体さんだ」

 ヘモジは足を止め、子供たちは身構えた。

 咆哮と幾つもの光が交錯した。



「出たーッ」

「ま、眩しい!」

「溶けるーッ」

「馬鹿やってないで、早く行きなさいよ」

 全員青空の下に出た。

「涼しい……」

 昨日と変わらぬ景色。でも賑やかなせいか、景色が若干色付いて見える。

「音がするよ!」

 ミケーレが言った。

 子供たちは行く手を阻む瓦礫を容赦なく吹き飛ばしながら、音がする方角を目指した。

 キンコーン。キンコーン。涼やかな音色が待っていた。

 涸れ井戸のある広場に目的の金属柱が立っていた。

「よく見えない」

 子供サイズではないので、子供たちは勝手に土を盛り上げて踏み台を拵えた。

「コイン置く所がある」

 僕たちが昨日やったのと同じく、子供たちは検証作業を行なった。

 が、実行に移すのはやめさせた。なぜなら、この場所のコインがないからだ。僕たちのようにもう一度境界線の廃屋巡りをする羽目になってしまっては二度手間だ。

「このまま進めばいいの?」

 僕は頷いた。


「ゴーレム!」

 子供たちは不意打ちしてくるゴーレムに苦心した。勿論ただのゴーレムに後れを取ることはなかったが、段々及び腰になってくる。

「なんだ!」

 子供たちは異常を察知し、慌てた。

 周囲の魔力反応が怒濤のようにうねり始めたからだ。

「何?」

「イベント?」

「『キングキメラ』?」

 子供たちはオリエッタのいる屋根まで続く斜面をあっという間に構築して駆け上がった。

「ミノタウロスが走ってる」

「あっちだ!」

 そう言いつつ、トーニオの足は止まっている。迷っている。このまま屋根の上の段差を飛び越えながら進むべきか、一旦下に降りるべきか。年長組と年少組で意見が分かれることを察したのだ。

「サービスだ」

 僕は子供たちの前に転移ゲートを開いた。

 ヘモジが飛び込んだ。

「やった!」

「師匠、大好き!」

 子供たちが次々飛び込んだ。

 転移を繰り返しながら、見晴らしのいい場所を転々とした。

「これ以上はバリスタが来る」

 地上の大穴が射程限界を示していた。

 戦いが勃発していた。

 ミノタウロスの兵団対『キングキメラ』だ。

 戦力は互角に見えた。が、降ってくるバリスタの矢が味方を援護するどころか、邪魔をしていた。

「あのキメラ、落ちてくる所を予測してるの?」

「山羊の頭だ」

 山羊の頭だけ、常に空を見上げていた。

「ただの飾りじゃなかったんだ」

 明後日の方角を向いているものだから、そう思われてもおかしくない。が、そのせいでミノタウロスの兵士たちはうまく同士討ちさせられていたのである。

「僕たち参加しなくていいの?」

「何、あの中に混ざりたいの?」

「そういうわけじゃないけど!」

「もう少し数が減るか、天秤が傾くまで待機だ」

「はーい」

 大規模戦闘を見ながら、子供たちは水筒で喉を潤す。

「また尻尾にやられた!」

「あの尻尾つえー」

「あれのせいで死角がほぼないわけだからな」

「このままじゃ、ミノタウロス負けちゃうよ」

「テコ入れするか?」

「どうやって?」

「昨日話したろう」

「あー、あの山羊の頭?」

「なんかあいつだけサボってるよね」

「いいや。あれが一番働いてるんだ」

「ナーナ」

 かと言って、ここからでは攻撃は届かない。もう少し近付く必要がある。が、これ以上進むとこっちもバリスタの射程に入ることになる。

 今日はボードを持ってきてはいなかった。

 獅子の前足がまとめてミノタウロスを踏み潰した。

 近付いたらこうなるぞと子供たちを脅しているかのようだった。

 勝負は七三でキメラ有利。だが、バリスタ一発でまだ形勢逆転もあり得る。

「あっちの建家に移るか? あっちからなら狙えるかも知れないぞ」

「あっちは城壁から丸見えだよ」

「あーもうどこからいけばいいの!」

「て言うか、なんでバリスタが当たらないのよ。下手くそッ!」

「姉ちゃんが切れた」

「切れてない!」

 ないないづくしのパーティーでは往々にしてあることだ。

「好機を待つのも攻略の内だ」

 とは言え、僕もこの先何が起るか予測できない。

 バリスタにも投射角がある。壁に限界まで近付けば、いずれ槍の雨は止む。その後は通常の矢が降ってくることになるだろうが。ミノタウロスの弓兵が放つ矢だから、キメラは兎も角、僕たちには充分効力があった。

 キメラはなぜに城を目指すのか?

 そこに壁があるからか?

 だが、こちらの想像は裏切られることになった。

 バリスタの攻撃が止んだのだ。

 壁までまだ距離が大分あるにもかかわらず。むしろこれから命中精度が上がっていくはず……

 子供たちは青い空を見上げたまましばらく無言だった。

「何?」

 それまで明後日を向いていた山羊の頭が振り返り、歓喜の声を上げた。

「メーェエエエ!」

 ミノタウロスの兵団は後退りを始めた。そして一斉に逃げ出した。

 獅子頭が咆哮を上げた。

 蹂躙タイムの開始だ。完全に前線が崩壊した。

 逃げるミノタウロスを追って、キメラがこちらにやってくる。

「ち、ちょっと!」

 フィオリーナも動揺を隠せない。

 ミノタウロスはこちらが見えているのかいないのか。

「まさか助けを求めているんじゃなかろうな」

 藁をも掴みたい気持ちはわかるが。

「どうしよう!」

「どうもこうもないだろう!」

「逃げよう!」

「戦うに決まってるだろう!」

「はぁあ?」

 ジョバンニ、何言ってんだという視線が注がれた。

「やることは一緒だろう。穴掘りゃいいのさ」

「でも時間が!」

「こうやるんだ!」

 ジョバンニは空に土の塊を浮かべた。

「『土槍(アースジャベリン)』!」

「何誘ってんだよ!」

「いいんだよ、これで」

 キメラに向かって岩塊を投射した。

 当然の如く外れたが、キメラがこちらを認知するには充分だった。

「あー、なるほど」

 僕もヘモジも納得した。

「どんどん撃て! 材料は足元にある!」

 子供たちはジョバンニの言いたいことをようやく理解した。

「なるほど」

「面白い」

「盛大な陽動作戦ってわけね」

「師匠ごめん、いざとなったら逃げるから」

「ナナナ」

 その前にヘモジが仕留めると言う。

「ハチャメチャだ」

 そう言いながらオリエッタは僕の肩の上で笑った。

「好機到来!」

『万能薬』を舐めながら、子供たちは無数の尖った岩塊を空に浮かべて、キメラ目掛けてうち放った。

 キメラは見事なステップで岩塊を避けていたが、それも一時。同時に降ってくる岩塊はエテルノ式による四方八方からの斉射攻撃。山羊頭、一つでは追い切れない。

「嵌まったな」

 子供たちの策に敵は完全に嵌まった。

 華麗なステップで回避行動を取っているように見えたキメラが右に左に揺さぶられながら一点に誘われている。

 だがそれはキメラにも見えていた。

『土槍』の素材として抉り続けた巨大な大穴。子供たちの目の前に用意された起死回生の落とし穴。

 こちらの意図に気付いたキメラは速度を増した。この際、成果のためには多少の痛みは仕方がないと、割り切ったようだった。

「ヴゥオオオオオオッ!」

「ンメエエエッ!」

 大穴を飛び越え、巨大な前足を子供たちの頭上に振り下ろした。

 ボキリと音がした。

 巨大な肉球の先に付いた鋭く黒い爪の根元があらぬ向きに折れ曲がった。

「飛べないキメラはただのキメラだ」

 ジョバンニ、何言ってんだ。

 キングキメラは子供たちが展開させていた垂直に切り立った結界にぶち当たって、飛び越える予定だった大穴に落ちていった。

「頑張れミノタウロス! 仲間の無念を晴らす時だ!」

 四散していたミノタウロスが形勢が逆転したとみるや、戻ってきた。

「あれ? なんか増援来てるし」

「えー、それは想定外だよ」

 ミノタウロスの兵は蛇頭と闘い始めた。が、もはや勝敗は決していた。蛇の首には無数の傷が付き、子供たちが投げ付けていた岩塊をも利用して討伐を完遂したのだった。

 やるならやってやるぞと子供たちは身構えたが、ミノタウロスの兵たちはキメラの息の根を止めたことに満足して城に帰っていったのだった。

「いらないの?」

「そうみたいね」

 昨日の僕と同じ感想を子供たちは持った。

「キメラの肉まずいのかな」

 それも思った。

「師匠の落とし穴戦略。結界とのコラボレーション作戦成功だ」

「え?」

 ジョバンニは橋の袂の詰め所でした僕の昔話を覚えていた。穴を掘って奈落に突き落とす際、見えない結界を使って飛び越えてこようとする敵を押し返してやる何気ない戦術。

「キメラ相手にやると思うか、普通?」

「でもやれたじゃん」

「ジョバンニの奇策に助けられたわね」

「まあ俺に掛かればこんなもんよ」

「じゃあ、魔石の回収よろしく。わたしたちはミノタウロスの死体漁りするから」

「え?」

 バリスタは打ち止め。安全安心。

「ナーナ」

「疲れた」

 ふたりが僕の肩の上で尻餅をついた。

「見てるこっちが疲れるよな」

 僕は苦笑いを浮かべた。


 魔石を回収した僕たちは大急ぎで北上し、焼け野原を東進、塹壕の中に宝箱を発見して、なんとか日が沈む前に帰宅した。

 展望台広場ではどんちゃん騒ぎ。コモドドラゴンの肉が振る舞われて、プチ肉祭りの様相を呈していた。



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