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クーの迷宮(地下47階 キメラその二戦)南東から東、東から北東へ

 結局、焦燥感だけ伴って広場の柱に戻ってきた。既に午後の部、開始から一時間。

 仕方がないので先に進むことにした。

「きっとこの先にある。中ボスの所か、東区と接触する境界線辺りに」

「ナナーナ」

 町の様相は複雑化していた。

 倒壊した家屋が天然の迷路を構築していたのだ。町並みはどこも似たり寄ったりで、ともすると立ち位置を見失う。方角だけは空の片側に常に高い城壁があったから間違うことはなかったけれど。

 敵の襲撃より、単調な地形に嫌気が差してきた僕たちは、屋根の上で溜め息をついた。

「転移しちゃうか?」

「ナーナ」

「ここは我慢」

 にわかに空気がざわめき始めた。

 雑多な魔力反応が次々一点に集約されていく。

「なんだ?」

 ミノタウロスの大移動か?

 ミノタウロスの兵隊たちが巡回仕事を投げ出して、次々街外れに向かって駆けていく。

「中ボスが湧いたか」

 エルーダよりマップが小さくなった分、展開が早くなっているようだ。

 僕たちは流星の如く通り過ぎていった魔力の束を追い掛けた。


『キングキメラ レベル六十七』


 キメラはキメラでも先刻のキメラとは異なる、異形種である。山羊の頭を加えた二頭が正面に配置されている。そして尻尾には相変わらずふてぶてしい大蛇の頭が。鎌首をもたげて見下ろしていた。

 今度のキメラは灰被りではなく、雨に洗われたかのように毛並みが輝いていた。

 ミノタウロスとの間で既に戦闘が始まっていた。

 ただでさえ瓦礫と化した町が、更地になっていく。

 空からバリスタの矢が降ってきた!

 キメラを串刺しにして、地面に固定しようというのだ。

 が、降り注ぐ杭はミノタウロスの墓標にしかならなかった。

 ドン、ドンと深く大地に突き刺さる。

 先のキメラより結界の扱いを知っているようだった。というか、首が三つもあれば上空監視もやり易いというものだ。

 担当は山羊頭か。

 僕はロングレンジから山羊の頭を撃ち抜いてやった。すぐ再生されるだろうが、監視は途切れる。

 巨大な身体が不測の事態に固まった。

 そこへ折良く矢が空から降ってくる。

 背中がくの字に曲がった。

 貫通した矢が地面を串刺しにした。

 獅子の頭は悲鳴を上げ、蛇の頭はとぐろを巻いて痛みを表わした。

 ミノタウロスの兵士たちは歓声を上げた。

 そして巨大な標本目掛けて次々武器を突き立てた。

「ナーナ」

 出番はなさそうであった。

 僕たちは空を見上げる。

「これ以上城に近付くのはやめておこう」

 今、ミノタウロスに見付かるのはよろしくない。

 目下、僕たちの関心事はコインと地図の行方だけだ。縄張り争いに興味はない。

 とは言え、一向に見付からぬ。

 何か見落としているのか?

 そうこうしている間に戦闘の方はけりが付いた。

 ミノタウロスの圧勝であった。

 兵士たちは骸をそのままにして散っていった。

「回収していかないのか?」


 骸は時間切れで消えてしまった。心臓を分離しなかったせいで肉は残らず、魔石になった。

 多少の権利はこちらにもあるとは思うが、何も全部置いていかなくても。それともキメラの肉は口に合わないとか。

 僕たちは空に注意しつつ、魔石を回収してその場を去った。

「おっと、忘れるところだった!」

 周囲の探索である。宝箱があるとしたらこの辺りだ。


「なんもなーい」

「畜生。どこにあるんだ」

 せめて地図だけでもあれば。

 僕たちは北に進路を取った。

 通りに面した家々が、多層化していく。

「この辺りは被害を免れたようだな」

 二階建て、三階建て…… 物件は健在だった。が、生活感はどこにもなかった。

 そして突然、町並みは切れ、ブレスで焼き払われたかのような瓦礫の荒野が眼前に広がった。

「うわっ」

「…… 嫌な感じ」

「ナナーナ」

 こんなことができるのはドラゴンだ。

 襲撃を受けたらどこにも逃げ場はない。瓦礫は一角に寄せられ、進むにあたり障害とはならなかったが……

「城壁の目は…… 大丈夫そうだな」

 発見できてもバリスタの射程は越えているはずだ。

 進路を北から東に変えた。

 塹壕のような谷間をすぐ見付けたので、僕たちはそこを進むことにした。


「あった!」

「ナーナ」

 塹壕の中に僕たちは念願のコインと地図が入った宝箱を見付けた。

「やった、やった」

「ナーナ、ナーナ」

「ちょ、ちょっと騒いだら敵に見付かるぞ」

 手遅れだった。

「あ」

「ナ……」

「ほれ見ろ」

 駄犬のくせにやたらと張り切るオルトロスに周囲をぐるりと囲まれてしまった。

 バリスタの射程圏内だったら泣くぞ。

「うーん」

 柱のある広場に一旦戻るべきか、このまま進んで北の境界を目指すか。

 考えている間に、包囲網がどんどん狭まってくる。

「転移する!」

「ナーナ」

 ふたりが僕の肩に乗った。

 僕は柱のあった広場に転移した。

 また振り出しである。



「二つしか置けないんだよな」

 先の実験から置くべきコインが行き先を示す物だったことはわかっている。

 でも何故二つ?

 次の柱に跳んでもコインは回収できるみたいだから、難しく考える必要はなさそうであるが。

 新しいコインのおかげで、次からはこの東区の柱から再開できるだろう。

 遅まきながら発見した東区の地図にこれまでの記憶をトレースする。

「ナーナ」

「ポポラの木? あったか、そんなの?」

「あった」

「ナナ」

 放棄された畑に、ねじれた岩、浮いた支柱に、臭い花、どこまで信じていいのかわからない道標まで記していく。

「却って混乱しそうだな」

 それが済んだら、また実験だ。

 南東でも南でもいい。まず他の地区に転移する。

 僕たちは南東に飛んだ。

 そこで改めて南のコインの代わりに東のコインを嵌めて、戻ってこれるか検証する。

「あん?」

「ん?」

「ナーナ?」

 転移するポイントが増えていた。東以外に一箇所。

「なんで?」

 僕たちは首を傾げた。

「ちょっと待ってな」

 南東のコインを南のコインに置き換えてみた。

「なんか変わったか?」

 オリエッタとヘモジが目を見開いていた。

「消えた!」

 新しく増えたポイントが消えた模様。

 元に戻して、点いたり消えたりするポイントを地図と照合する。

「これは……」

 塹壕があった付近だ。

「ということは? 東区には転移ポイントが二つある?」

「ナーナ!」

「!」

 つまり穴が二つある理由とは……

 コインの順番を変えてみた。まず南東区のコイン、その後に東区のコインを置いた。

「変わんない」

「ナーナ」

「必ずしもポイントが複数あるわけじゃなさそうだ」

 南東区のコインを南区に変えてもみたが、結果は同様であった。

 僕たちはコインの配置を戻して、まず東の柱に。その後コインを入れ替えて塹壕付近に。

 そこは既に北東区との境目であった。

 予定通り東に進んだ先を北に向かえば北東区に繋がる通りに当たる。


「が!」

「ぎゃ!」

「ンナ!」

 即行で隠遁噛まして、瓦礫に隠れた。

 東区二つ目の柱は先刻、逃げ出した包囲網のすぐ脇にあった。

 見たところ焼け野原のど真ん中のようであった。

「北東区の南側半分も焼け野原のようだな」

 北東区の地図はないのでまだはっきりしたことは言えないが、見た限りではそう断定できる。

「あっちか」

 東に舵を切った。


「あーッ」

「まただ」

「オルトロス…… 邪魔すぎ」

「ナーナ」

 すぐ仲間を呼ぶから、手に負えない。声も通るし、視線を遮る物もないから、索敵合戦だ。

 先に発見した方が勝ちみたいな。

 僕はライフルを構える。

「『一撃必殺』」

 タンと、頭を撃ち抜いてしばし待つ。近くに仲間がいないことを確認して接近。

 魔石の回収は忘れない。忘れてもいいけどね。


「次の柱だけでも見付けておきたいよな」

 東の渓谷まで降りてきた。

 南東区のスタート地点に似た景色。緑の多い谷を越えてくる空気はおいしい。

「のどかー」

「あ」

 道に出てきたオルトロスと目が合った。

「……」

「ナ!」

 僕たちを無視して草むらに逃げていった。

「逃げたよ」

「鼠くわえてた」

「野良やってるなぁ」


 次のエリアに入った。

 東区の地図はここまで。北東区は峠を越えた所から始まる。

 丘を越えるとそこに広がっていたのは深い谷間だった。肥沃な斜面が勾配を作って海まで達していた。

「休憩するか」

 絶景をスパイスにお茶を啜る。

 オリエッタが鼻をヒクつかせながら柱を見付けようとしていた。

「道なりだろうな」

 変に迷い込んでも見付かる物も見付からない。地図とコインもこれまでのレイアウトを考えるとおかしな場所にはないはずだ。

「!」

 僕たちは慌てて立ち上がった。

 そして三人草むらに飛び込んだ。

「ナーナ!」

「飛んでたぞ!」

『ファイアーコモドドラゴン』だった。レベル六十五」

 内地の丘と外周の谷間を横断していった塊は鳥にしては大きかった。

 僕たちは急いで食器を回収すると、森を背に下っていった。

 まっすぐに北に進むと思われた街道は急な勾配を回避するために西に曲がり、ドラゴンから遠ざかっていった。

 あの焼け野原が再び左手に見えてきて、また嫌な気分になった。

 野営地を見付けた。

 焼け野原を過ぎた先の森の廃墟にミノタウロスの一群がいた。

「様子が変だよ」

「ナー」

 装備が貧弱だった。見るからに敗残兵。四肢の一部が失われている者もいた。

 でも妙に警戒心を煽る物がある。今までのミノタウロスにはない凄みのようなものが感じられた。



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