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クーの迷宮(地下47階 キメラその一戦)南東地区

 廃墟になる前はさぞ美しい町並みだったのだろうと思わせる景色が朝日を浴びて輝いている。

 そして渓谷を跨ぐアーチ橋の前に検問が設けられていた。

「オルトロスがいっぱい」

「ナナナ」

 ゴーレムも控えている。あれは飾りじゃない。古のゴーレムほどじゃないが、美術的志向がある一品物だ。名前はただの『ゴーレム』だけど。それが橋の両脇に控えている。

「ナー……」

 ヘモジも気付いている。

「楽しみは取っとけ」

 手前にいるミノタウロスだけでも十体はいる。

「周りからも集まってきそうだな」

 足元の橋台に兵士詰め所が設けられていた。脇の建屋に下へ降りる階段があった。

「ナーナ」

 取り敢えずこちらの位置を悟らせないで数を減らすことにした。

 そのためにはまずオルトロスを排除することが必要だ。

 凍らせた。自分が死んだことも悟らせないほどそっと足元から凍らせて一気に頭蓋まで。

 仲間の静かな死を見た他のオルトロスが動揺して吠えまくる。

 主人たちは異常に気付いて、暴れるオルトロスに鞭を振るうが、地面を叩く前に鞭はしなることをやめた。

 ゴーレムも道の反対側の半数もまだ事態に気付いていない。オルトロスがあれほど吠えていたのに、知らんぷりだ。

「…… 取り敢えずいいか」

「ナーナ」

 橋台部分にある兵士詰め所に潜入した。木製のハリボテだが、ミノタウロスが利用する物件だから、人間が飛び跳ねてもビクともしない。

 エルーダではここに落書きという名の目印があった。スタート地点が固定されていない世界では、自分たちの立ち位置を知るよい指標になっていたが。

「ないな」

 階下に降りて、周囲を見回ったがそれらしきものはなかった。

「宝箱、見付けた!」

「ナ?」

「お?」

 鍵は掛かっていなかった。

 蓋を開けると中から、一枚のコインと紙片が出てきた。

 コインにはかつて見た落書きに似た模様が刻まれていた。丸に点。丸は中央にそびえる城の城壁を意味し、点は現在地だ。どうやら同じ物であるらしい。

 ただその模様だけでは上下はわからず、裏側の模様を見ながら判断しなければならなかった。表裏の上下をしっかり考えて刻印していると仮定すると、指し示す位置は南東。コインは全体マップの南東を示していることがわかる。

 そして紙片の方はこの地域の略図だった。

 地図上で自分たちが歩いてきた足跡も確認できた。

 橋の対岸に矢印の付いた赤い線が所々に書き込まれている。そして線の脇には文字列が。

 ミノタウロスの使っている数字である。ミノタウロスが出現するフロアでたまに見掛けることがあるが、装飾以上の意味は余りなかった。

「巡回コースのようだな」

 文字は兎も角、数字は人間にも読めるものだった。

 丸点が一を表わしてる。それが三行三列に並んでいる。つまりこれは九を示す。『巡回時間は九時』ってことだろうか? あるいは『巡回兵が九人』ということか?

 別のところには横棒が二本記されている。棒の意味するところは二種類あって、一つは桁上がり、これは十を示す。

 丸点が五個以上記されているところが幾つもあるところから棒は五より大きい数字だとわかる。そして文字列は三行、点は三列九個以上存在しないことから。つまり十ということになる。因みにゼロはただの空白だったり白丸だったりする。貝殻の絵図だったり、バッタだったり。余り深く考えていない。

 棒には二種類あると言ったが、今話したのは太い線についてだ。

 当初、細い線に関しては様々な議論を呼んだ。が、導き出された回答は実にシンプル。

「細い線は点三つを略したものだから…… 二本で六」

 オリエッタが言った。

「つまり点三つと二本線で九」

「ナーナ」

 丸点九つと同じ意味を表わしていることになる。

 これによってミノタウロスが使っているのが十進法であると結論付けられているのだった。因みに太線以上の桁を表わす模様は今のところ見付かっていない。

「この橋の巡回は十一時ってことだな」

「今、何時かわからないし」

 ズンと大きな振動が伝わってきた。

 この振動は明らかにミノタウロスのものではなかった。もっと大きな何かだ。

 僕たちは小窓に張り付き、外を覗いた。

「ナーナ!」

 それはキメラだった。獅子の頭に山羊の胴体、そして大蛇の尻尾。火山灰でも浴びたかのように全身灰色だった。通常のキメラより何倍も大きく、対比的にミノタウロスが人のサイズに見えた。

 それが渓谷の間をのそりのそりとこっちに迫ってくる。

「攻撃した!」

 渓谷をのっそり移動していたキメラ目掛けてミノタウロスが渓谷の四方から矢を射掛けたのだ。

 ミノタウロスの隊列がいる崖下の斜面を尻尾の蛇が叩いた。

 崖が崩れてミノタウロスが次々崖下に落ちていく。

「勝負にならないな」

 橋の上からも攻撃が行なわれた。

 渓谷をよじ登れないキメラの方に決定打はなかった。散々暴れるだけ暴れるとマップの奥に逃げ帰っていった。

「ナナナ」

「なんだったんだ?」

「やっちゃう?」

「そうだな」

 頭上に足音がした。

「ナナ!」

 詰め所に兵士たちが戻ってきたようだ。上階に複数の足音が。

「やることいっぱい」

 こいつらをやるとさっきのキメラへの抑止力がなくなるわけだが。

「ナナーナ」

「まあね」

 ここから出るにはやるしかない。

 ヘモジはミョルニルを抜き、段差の大きい階段を飛び跳ねていった。

 僕とオリエッタもその後に続いた。


「休憩ターイム」

 魔石に変わるのを待つ。土の魔石なので取りこぼしはヘモジが許さない。

 僕は一足先に野外の階段踊り場に出た。

 キメラが見えないかなと思ったが、カーブを描いた渓谷に阻まれて先は望めなかった。

 対岸の道は逃げ去った方角、南方向にも延びていた。


 鼻歌を歌いながらヘモジが戻ってきた。背中には回収した魔石の入った頭陀袋。

 僕はそれを受け取ると自分のリュックに収めた。

「よし、先を行こう」

 地上はまばらになっていた。

 兵士たちが集結していたのはキメラを追い払うためだったのか。相当数こちらが倒したせいもあるが。


 問題のゴーレムが起動せずに残っていた。

「……」

「面倒臭いから起きなくていいわ」

 個人的にはキメラの方が気になった。

 が、一線を越えると奴らは起動した。

 装備が…… 鈍重なゴーレムの持ち物じゃないんだよな。剣と盾とは。

「盾持ちは久しぶり」

「嫌がらせだよな。ゴーレムが盾持ってるって」

 ヘモジは跳んだ。

「お」

「捌いた!」

 対峙したゴーレムがミョルニルを盾で弾き返した。

 もう一体の相手はこっちがすることになるわけだけど。

 衝撃波で盾を腕ごと破壊してやった。

 ただのゴーレムにはコアがない。損耗率で自壊するだけだから、破壊しないわけにはいかない。当然その分実入りも悪くなるのだが、その分倒すのは楽だ。

 足を一本もいだらゲームセット。

 ヘモジもなんとか胴体を真っ二つにして勝負あったみたいだ。

「ナナナ」

 少しは楽しめたようだ。

「早いゴーレムなんて邪道だから」

 大きさからしてまるでガーディアンだった。

 鉱石の類いにしかならない骸はスルーしてヘモジは先に進んだ。

 僕とオリエッタは何をドロップするのか一応確認しなければならないので、ヘモジと距離を取った。

 そして討伐と回収を効率よくこなしながら僕たちは橋を渡り切る。

「スルーするのが正解だったな」

 ゴーレムのドロップ品はやはりただの鉱石類だけだった。


 橋の向こう側にも小さな宿営地があった。

 僕たちは建物の陰に転移した。

「道があっちにもある」

 橋を渡った先は二股に分れていて、宿営地は股の間にあった。

 道の一方は先ほど崩落した南側へ、もう一方は北の内陸方面へ。恐らく城のある中央に向かっている模様。

 全部を一度に回る気はないので、本日は南東部を攻略するだけにする。地図もあることだし。

 崩落した道を避けて、内側を平行に走る脇道を行く。

 橋の見張りは放っておいて、僕たちは建物の陰からさらに奥に向かって進んだ。

 敵はいなかった。

 キメラを追い返したことで本日やるべきことは終了したと言っているかのようだった。

 たまに見掛けるミノタウロスからも明らかに緊張感が失われていた。

 ヘモジもやる気を失うレベルであった。

 そもそもこんな場所に侵入者が来る理由がないからだろう。

 進むほど町並みは閑散としていき、やがて原っぱの先に朽ちた教会がポツリ佇むだけになった。

 怪しい。

 かつては橋が架けられていたのだろうが、今は朽ち果て、往来は途絶えている模様。

「キメラの巣…… だよな」

「ナーナ」

 陰になっている崖側から登ってこられるようになってるのだろう。大きな魔力反応が蠢いている。

 目の前の吊り橋が落ちたことで、キメラは町に上陸できなくなったのか。ミノタウロスがいなければ外周側から回り込むのだろうが、望みは叶っていないようである。

「キメラは倒しておいた方がいいよな」

 ここまで来て何もせず引き返す選択肢はない。建物の中とドロップする魔石の属性だけでも確認しておかないと。

「ナーナ」

 最初のキメラはそう強くはない。追々出会うボス級の方が遙かに厄介だ。


「ナッ!」

 そう思ったときがありました。

 ミョルニルが弾かれた!

「やるな」

 結界持ちとはね。スタートからレベルが高いことで。ミノタウロスとやり合ってるときには結界の片鱗も見せなかったのに。

 手を抜いていたってわけか。

 蛇が地面を這うようにしてヘモジを襲う。

 ヘモジがからぶって地面を叩いた。

 変則的な動き。

 僕は牽制を入れた。蛇の頭は快進撃をやめて本体の尻の方に戻っていった。

「楽しめそうだな」

「ナーナ」

 ヘモジが舌舐めずりをする。

「悪い顔になった」



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