整理整頓
僕はオリエッタを連れて倉庫に赴いた。
「あちゃー」
回収品が勝手に減ってくれるわけもなく、昨日の『サンドゴーレム』、『タイタン』、宝箱と増えた品でさらに置き場がなくなっていた。
核を持ち出したときには既に限界に達していたので、想定はしていたのだけれど、僕たちは呆然と立ち尽くす。
「どこから手を付ける?」
取り敢えず、今日の主要案件である問題の品を回収、作業場に運び込むことに。
そして『土の精霊石』は神樹の根元に。
僕たちは一旦家に戻った。
これですべての精霊石が揃ったことになる。妖精族の往来もこれでまた増えることだろう。
「ミント様々だな」
僕たちはすぐさま踵を返した。
「そうか、どうせ昼時に一旦帰宅するんだった」と、先走ったことを後悔する。
楽しみは取っておいて、足場の関係上、溜まりに溜まった鉱石や魔石から処分を始める。
「誰だよ、こんなに」
自分たち以外にはいないのだが。
さすがに生物は処分されていた。
「そういえば『鏡像物質』もあったな……」
オリヴィアに頼まないと。すっかり忘れていた。
早い方がいいな。嵩張ってるし。
僕は転移して、商会に飛んだ。
なかなか作業に取りかかれない。
ご当主は来客中で忙しく、待たされそうだったので、時間が空いたらと頼んでその場を後にした。
店の客や、町の者たちと視線が合う度に意味深に頷かれるので、大伯母のもくろみが成功したことを知る。
倉庫に戻ると面倒な仕事から始めた。ただ、なるべく外周から処理しようと思っただけだが。
まずは嵩張るゴツゴツの鉱石をインゴットに精製していく。
ミスリルだけは精製だけして子供たちのために残しておく。
銅、銀、鉄、金……
分離した不純物だけで木箱がいっぱいになった。これも使える物とそうでない物があるので、後で再処理が必要だ。
午前中が丸々潰れそうだった。
この調子だとコアに手を付けられるのはいつになることやら。
でき上がったインゴットはオリエッタに鑑定させて、肉球マークの検定印を押していく。
それを棚の前に積み上げていった。
「また溜まってきたな」
「いいこと」
「まあね」
ヘモジも農作業を終えると合流した。が、魔石の整理を勝手に始めた。
「土の魔石を全部がめる気だな」
畑の土作りには欠かせないから、別にいいんだけど。みんなの財産だから、僕が代わりにその分損することになる。
鉱石類は保管スペースがいっぱいになり次第、放出することになっているが、現在は空きが多いのでそちらに。
「トーニオが四つ。ジョバンニが四つ。フィオリーナも四つ……」
それぞれ回収者の棚の前に成形し終ったインゴットを置いていく。
ミスリル以外のインゴットの分配を終えると、今度は魔石だが、小さな物は十把一絡げで屑石用、小石用の箱の中に。今回はやたらと大きな石ばかりなので、小石に関しては大雑把だ。
それでも手慣れたもので、なんとなく見ただけで魔力の含有量がわかる。微妙な物は本来オリエッタに回すのだが、今回は省略。多めの石に当たったら運がよかったということで。
中、大サイズはさすがにオリエッタが線引きをしていく。なぜなら本日は大サイズから精製作業を入れていくからだ。中サイズを箱売りというのは滅多にやらないのだが、我が家の倉庫事情がそれを許さない。先の遠征で、砦の備蓄が一気に減ったこともあるので、社会貢献ということで。
大サイズは肉球マークで保証するので、僕が完璧に仕上げる。純度を規定内に収めつつ、形も整えていく。
小サイズの魔石をテーブルに転がし、規定値に満たない場合、嵩増ししていく。
「ナナーナ」
土の魔石を先にしろと言う。
「別にいいけどね。所有権者のリストはちゃんと書いたか?」
「ナナナナナ」
ミミズがのたうったような字で専用の黒板に数が列記されている。そこには我が家の冒険者たちの氏名が事前に刻まれていて、その脇の空欄に棒線と斜線で数字が記入されていくわけだ。
僕は黒板に本日の日付を入れる。
子供たちは特に属性にこだわらないので数さえ合っていれば問題ない。ヘモジががめた分は他の属性で補えばいいだけだ。時価で考えるとこの町では水の魔石の次に高価な属性になるが。
分配はさておき、ヘモジが持ち出す数だけはしっかり確認しておく。
「ナーナ」
子供かよ。子供だけど。目を輝かせて、僕の作業を横目に見ている。
「できたぞ。持っていきな」
そう言うと、サイズ関係なく頭陀袋に一緒くたにしていった。
「ナナナナナ」
また新しい畑が造れる? それはよかった。
「ヘモジもうお昼だぞ」
「ナ、ナーナ」
畑道具が収まっている倉庫に置いてくると言って、飛び出していった。
「行っちゃった」
オリエッタは呆れた。
「さあ、切りのいいところまでやってしまおう」
ラストスパートを掛けて調子がよくなったところに、オリヴィアが「ごめんね。本家から客が来ててさ」と汗を拭いながら現れ、転がっている大量のインゴットと魔石を見て絶句した。そして。
「ちょっと!」
挨拶もそこそこに、なんとなく存在感を醸し出している物体に手を当てた。
「…… アレよね?」
若干、別の汗を掻きつつ『鏡像物質』にペタペタ触れながら言った。
「お願いしていいかな」
「当然よ。これを扱えるのは世界広しと言えど、当商会だけよ!」
そもそも滅多に流通してないからな。
「計画通り、船のドームの開口部に頼む。量がまだ足りないだろうから、優先順位は任せるよ」
「了解。でもこの散らかった状態はなんとかしておいて貰わないと、運び出せないわよ」
「今日中に済ませるよ」
「この武具は?」
「スケルトンだ。四十六層に出たんでね。まだ仕分けしてないけど」
「見せて貰っていいかしら?」
「お好きにどうぞ」
僕がラストスパートを掛けている間、オリヴィアはオリエッタを使って装備品の鑑定を始めた。
そしてお昼。
オリヴィアは買い取り分に値札を付けていった。
僕たちは揃って我が家に向かった。
校庭から給食のおいしそうな匂いが漂ってくる。
「カレーだ」
オリエッタが鼻をヒクつかせた。
それをオリヴィアと見て笑った。
そして玄関を開けるといつもの観光ツアーが神樹の周りにござを敷いて、ランチを楽しんでいた。
オリヴィアはそこで固まった。
「あ」
ばれた。
オリヴィアは頬を引きつらせた。
そう、そこには四つの精霊石が並んでいたのだ。
「説明願えるかしら?」
「大伯母を交えることになるけど……」
言われずとも状況を察した大伯母が地下から現れた。
黙って食堂へと行けとオリヴィアをいざなった。
僕は交差する瞬間、一発小突かれた。
「これって大発見じゃないですか!」
食堂に消音結界が張られると同時に彼女は叫んだ。
「込み入った事情ができてな。いずれ商会にも知らせが行くと思うが、今のところはトップシークレット扱いだ。一切他言無用だ」
「込み入った事情って?」
「入手方法が少し特殊でな。現状、公開できない」
「あれはいいの?」
「妖精族か? あいつらは細かいことは気にしないし、外の世界のことは関知しないからな」
夫人が戻ってきて、出来合いがテーブルに並べられた。
「ナナナナナ!」
ヘモジがジャムを一瓶転がしたので、みんなで処理することになった。
ジャムで汚れた手でヘモジがピューイとキュルルの頭を撫でるものだから、浄化魔法を掛ける羽目になった。
久々の休暇ですっかりだらけている。
オリヴィアと別れて、午後は再び倉庫整理。
なかなかコアの調査ができない。
木箱に収めた一定サイズ以下の魔石をまず販売棚に移動させて場所を作る。
「販売棚がいっぱいだし」
オリヴィアが横目で見ていったから、頃合いを見計らって丁稚を寄越すだろう。
「これはそっちに」
加工済みの大魔石の入った木箱を適当に収納スペースの方に転がす。
そして未加工品の箱と入れ替える。
「魔石のつづきをやるぞ。持ってこーい」
「ナーナナー」
「……」
なんで土の魔石がまだある?
箱売り予定の中からヘモジが、持ち出してきたのだった。
「ナナナナナ」
ヘモジが拝む。
「大サイズもう一個だけ欲しい? 農地を拡張するのに切りがいいから?」
こっちは切りが悪いけどね。
「まあいいけど」
実りのためだ。
中サイズの魔石を合わせて大サイズにして、ヘモジに返却する。
魔石のサイズによって畑の養分になるタイミングが違ってくると誰かに聞いたことがある。兄ヘモジだったかな?
大きくなるほどゆっくり長く、年間を通してジワジワ効果を発揮するんだとか。小さいのを作物の成長過程に合わせてこまめに撒くのとは別に、保険的に使われることが多いのである。
「じゃあ、改めて」
二次属性等は基本分離せず、不純物だけ取り除いて成形していく。それらを再び木箱に収めて、収納スペースに。
「加工終わり」
「終わった」
「じゃあ、分けるか」
「ナーナ」
『闇の魔石』は分配対象ではないので、事前に弾いてある。
収納棚の前に箱を並べると、オリエッタが記録を読み上げ、僕とヘモジが個人用の棚の前に報酬を並べていく。
「風の魔石ばっか」
まあ、そうなるわな。
そうしておやつタイム後、ようやく『ゴーレムコア』の調査に入る。
宝石の加工は慎重にやりたいので、回収だけして後に回した。
「なんとか片付いたな……」
装備品は後で子供たちが欲しい物をチョイスして、残りは流すことに。
「さあ、強化されているか否か、はた又変わっていないか」
「変わってるから」
オリエッタは確信がある様子。
コアユニットを測定する装置を工房から運び込んだら、退屈していたモナさんがおまけに付いてきた。
コアを入れ替え、ユニットに接続、測定を開始する。
するといきなりフリーズ。
「マジか!」
現行の物ではないことは期せずして証明された。
取り敢えず再起動。すると、測定装置の方が勝手にアップグレードし始めた。
「大丈夫かな?」
モナさんが記録を取るお手伝いをしてくれた。
僕はそのままアップグレードが済むのをじっと待った。
ポンポンポンと装置が明滅して反応が消えた。
「……」
「終った?」
「さあ」
稼働ボタンを押した。すると今度は何事もなく起動した。
僕たちは浮かび上がる画面に目を凝らし、新しい項目が増えていやしないかと目を皿にした。




