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クーの迷宮(地下46階 タイタン戦)偉業をなすも……

「この下がタイタン部屋だ」

 子供たちの緊張が増した。

「降りるだけでも疲れるからな。転移するぞ」

 僕は子供たちを地の底へ運んだ。


「扉だ……」

「脱出ゲートがある」

「扉開けて平気?」

「ヘモジに任せろ」

 万が一に備えて開扉はヘモジに任せた。当然、最初にゲートに飛び込むのも。

 安全が確保されたところで、全員一旦外へ出た。

 このゲートの使用権を得るためである。このゲートが使えれば、いつでもタイタンとやり合える。

「時間も時間だし、ここで切り上げてもいいんだけど」

 空を見上げる。

 まだ青いな……

「師匠!」

 時間的に白亜のゲートに並ぶ者はいなかった。子供たちは再入場の順番をすぐさま確保して、僕を手招きする。

「今行く」

 敵はタイタンだっていうのに…… 怖いもの知らずというか、なんというか。

 僕たちは『第四十六層 タイタン部屋前広間』に舞い戻った。

「前もって言っておくが、今日はこれを試す」

「うん。わかってる」

「『精霊石の核』だよね」

「そうだ」

「普通に倒すの?」

「いや、こいつで何が起るかわからないから、今回は最善を尽くしたい。みんなには悪いが、僕たちも参加する。さっき通ってきたゲートで再戦はいつでもできるから、みんなの本番は次回、改めてな。なんなら明日の放課後でもいいぞ」

「僕たちは別にいいけど」

「俺たちも核がどうなるか興味あるし」

「何が起るか楽しみ」

「ヘモジちゃん、がつんとやっちゃってよ」

「ナーナ」

「コア探しはオリエッタがやってくれるの?」

「ああ、こっちでやる。今日のところは敵の動きをしっかり見ることだな。でも結界剥がしには付き合って貰うぞ。枚数は五。ドラゴンと一緒だ」

「再生能力もドラゴン並なんでしょう?」

「『サンドゴーレム』をごり押しで倒したお前らならなんとかなる。でも、今日のところは結界の強さを実感して貰うのが第一目標だ。再生の速さという別のベクトルの強さを知って欲しい。そうだな。早く剥がせたらコアを破壊してもいいぞ」

「いいの!」

「それって……」

「師匠とオリエッタちゃんがコアの位置を見付けて、わたしたちが結界を破って、全員で攻撃して倒せたら倒しちゃってもいいってこと?」

「でも無駄に欠損させるのは駄目だぞ。回収時のランクが下がると判断したら途中でも撃ち込むからな。『待った』はなしだ。『一撃必殺』が通ることの意味は知ってるな?」

「いつでもやれるってことだよね?」

「そういうことだ。急に敵が動かなくなっても驚くなよ」

「ふぁーい」

「結界も本体も回復が早いんでしょう?」

「五重結界なら五人で一斉に攻撃すれば一発だよ」

「弱過ぎたら一枚も破壊できないんだよ」

「むー」

「どんくらい?」

「投擲鏃の二倍ぐらいの威力があれば一枚剥がせる感じかな。でも気を付けなきゃいけないのは再生の早さだ。下手をするといつまで経っても突破できないからな」

「そんなに……」

「やり過ぎぐらいがちょうどいい」

 オリエッタが言った。

「お薦めは二、三枚同時に削れるぐらい気合いのある一発を当て続けることだな。結局、普段より強力な一撃が必要になるけど、飽和攻撃は得意だろう?」

「いつものでいいの?」

「調子がいいときのな。防御も忘れるなよ」

 子供たちが安堵した顔を覗かせる。

「結界を破った後は全員で全力の一撃を当て続ければ、悪くても一巡するまでには終るはずだ。タイタンのでかさは『サンドゴーレム』の比じゃないけど、今更驚かないよな。四大精霊のなかで唯一見慣れた相手だ」

「みんな、落ち着いていこう」

 トーニオが子供たちの不安な気持ちを肩を叩いてなだめる。

「敵の振り下ろすミンチハンマーの下にだけは入るなよ」

 ヘモジは大扉に手を掛ける。

「ナナーナ」

 扉は若干の抵抗を見せたが、ズリズリと床を擦りながら押し込まれていった。

 巨大な扉であるから、わずかに開いただけで隙間は充分。間を抜けて僕たちは入場していく。

 子供たちは絶句して立ち止まる。

 そこに広がる景色は想像を絶する地下空間だ。今まで見たどの地下空間より天井が高い。それが幾本もの巨大な柱に支えられ、光が届かぬ先まで広がっている。

 たった一体の魔物と戦うために用意、生み出された空間。

「なんかヒドラのフロアを思い出す」

「いやーな感じ」

「この空間が狭く感じるって……」

 最初の衝撃。

 ズンと静かな揺れが足元から、光の向こうから伝わってくる。

 子供たちはそれを目撃した瞬間、遠近感を失う。

 遠くにあるはずの柱がまるですぐそこにあるかのような錯覚。柱に添えられたゴーレムの大き過ぎる手。

「タイタンってあんなに大きかったっけ?」

「ああ、言い忘れてた。作業用のタイタンより、ここのは少しだけ大きい」

「少しだけ?」

「誤差の範囲だけどな」

「嘘だ!」

「全然違うよ!」

「なんか怖いし」

「開けた青空の下で見るのと、閉塞した空間で見るのと、それだけの差さ」

「ナナーナ」

「足の大きさ。地下通路の入口と一緒」

 迷宮の入口と地上を物理的に繋ぐ巨大な螺旋通路。うちの地下倉庫とも繋がっている巨大な坂道の出発点。港湾区にあるそれは、非常事態に備えて鎮座するタイタンの足元にその入口があった。

 当時、僕はいつでも入口を塞げるようにタイタンの足のサイズに合わせて入口を造ったのだ。

「言われてみれば……」

「でも……」

 柱の陰から全身が現れる。

「なんか違うよね」

「あれは味方だったし」

 無口な奴に凄まれると怖いよな。

 ドスン。ドスンと重い足音……

 床から伝わってくる振動だけで、心が折れそうだ。

「やるぞ」

 僕は銃を構えると的を絞る。

「ナナーナ」

「う、うん」

 動き出してしまえば、緊張も消える。それまでの辛抱だ。

「『魔弾』装填。『一撃必殺』……」

 オリエッタも僕の肩の上から敵を凝視する。

 子供たちは僕の後方に一列になってそのときが来るのをじっとこらえて待った。

「頭部にはなし……」

「左足、違う……」

「右肩…… なし」

「右足、違う……」

「見付けた!」

 オリエッタが先に声を発した。

「お腹。おへその位置!」

 僕も銃口をズラして確認。自分の身体を使って子供たちに位置を教える。

 おへそから少し右上。

 子供たちは頷く。

「ナナーナ!」

「前進」

 トーニオの合図と共に子供たちはゆっくりと前進を始める。

「見てるこっちが緊張するな」

 最初の接触はスローモーション。

 ゆっくりと近付いてくるゴーレム相手に。子供たちはまだ攻撃を仕掛けずにいる。

「ナーナーナーッ!」

 ヘモジがミョルニルを振り上げ、味方を鼓舞する。

 その瞬間、子供たちの杖から何色もの光の束がタイタン目掛けて放たれた。

 一瞬の交錯。

 五層もある結界が一瞬で剥がれた。

 タイタンは攻撃する隙も与えられなかった。

 子供たちの数人は継続して魔法を当て続け、結界の再生を防ぎ続けた。

「第二射、撃てーっ!」

 閃光の束がコアのある腹部目掛けて放たれた。そしてその束の威力はどんどん大きくなっていった。

 鳥肌が立った。

 臨界に達したとき、タイタンは動かなくなった。

 百点満点。いや、三百満点だ!

 誰も想像しないだろう。爺ちゃんもこんな子供たちがいるなんて思いもしない。

「…… 終った」

 オリエッタも小さな口をあんぐりだ。

 一瞬の静寂。

「ナーナーナーッ!」

 巨体がまっさらな床に沈む。

 全員興奮が冷めやらない。内側から湧き上がる歓喜。

「倒した!」

「倒しちゃった」

「なんか嵌まった……」

 子供たちは歓声を上げた。部屋中に声が木霊した。

「やったぞー」

「すげー」

「こんなことあるんだ」

「もう一回やろうとしても無理だよね」

「タイミングバッチリだったよ。うー、まだ緊張してる」

「この距離感忘れないようにしなきゃ」

 はしゃぎ回る子供たち。

 ふとタイタンの骸を振り返る。

「なんか忘れてない?」

「なんかあったっけ?」

「精霊石だよ。早く出ないかな。何色かな」

「マリーちゃん、ゴーレムは魔石でないんだよ」

「あああああああッ。そ、それだ!」

「大変だ」

 子供たちがこちらに駆けてくる。

「師匠! 核!」

「核だよ!」

「『精霊石の核』!」

「使うの忘れてるよーッ」

「嗚呼ッ!」

「忘れてた」

「ナナーナ!」

 あまりの見事さに呆けてしまっていた。

 急いで台車をタイタンの骸まで引っ張っていった。

 子供たちも集まってきた。

「何が起るのかな?」

「わくわくする」

「精霊石になる?」

「『精霊石の核』だからな」

 僕が台車から床に降ろすと、ヘモジが蹴飛ばした。

 ゴロゴロゴロ……

 皆の視線が追い掛けた。

 ゴン。

 骸と接触した。

 するとタイタンの骸が金色に輝きだした。

「消えちゃう!」

 巨大な骸が光の粒に還元されていく。

 次の瞬間眩い閃光が僕たちを襲った。

「うわっ!」

「何これ!」

 全員、目を覆った。



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