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クーの迷宮(地下46階 タイタン戦)順調?

「今回はハンマーか」

 太陽を背に、高々と振り上げる。

 距離があると侮っていたら、踏み込み一発で射程圏内だ。

 しかし風がなくなったせいで子供たちは自由度を増し、飛び散るように散開した。

 トーニオが使い捨ての結界で一撃を受け止めると、ジョバンニが薙ぎ払って軌道を逸らした。

 振り下ろされたハンマーが地面を叩いた。

 地響きが上空の空気をも震わせる。

 僕は砂煙を一蹴した。

 子供たちが『衝撃波』と『魔力探知』を使った直接接触と『解析』魔法を駆使してコアの位置を探る。

「ない!」

「こっちもない!」

 死角になるような場所にコアはなかった。

「胸の真ん中」

 オリエッタが僕に囁いた。

 僕は万が一に備えて、いつでもコアを射抜ける位置に移動した。

「今日はハズレだな」

「ナーナ」

 真っ正面はやりづらいよな。

「あった! 胸の真ん中!」

 ヴィートが背中から感知した。

 そしてお土産一発。

『サンドゴーレム』はわずかによろめいた。

「背中からいくのは無理そうだな」

 攻撃目的で二発目の『衝撃波』を叩き込んだようだが、逃げを急いだせいで力が拡散してしまっていた。

 ミスは兎も角、肉厚の薄い正面からでないと修復が勝ってしまうことはわかった。

「もしかして本体も強化されてたり?」

「さあ。そこまでは」

「ナナーナ」

「両手が邪魔だな!」

 頭上を通過したジョバンニが不平を洩らす。

 子供たちはハンマーを握る手をまず封じる手に出た。

 兎に角、ハンマーの射程が長過ぎて、制空権を確保できないのだ。

 コアの位置が判明したので無理に接近する理由はもうないのだけれど、敵の硬さを考慮すると少しでも近距離から撃ち込みたいのだ。

 子供たちは柄を握る指を集中攻撃して、一本ずつ破壊していった。

 ハンマーが手から転げ落ちた。

『サンドゴーレム』はチョロチョロ飛び回る子供たちにあっという間に修復した拳で対応する。

「上位ゴーレムはほんと再生能力、半端ないな」

 落としたハンマーを拾う隙を与えない綺麗な連係攻撃。感情があるのかないのか、段々大振りになっていく巨大な拳とが交錯する。

「そろそろとどめ」

「飲まれてるな」

 消極的になっている。フィニッシュに持ち込めるところなのに、綺麗に型に嵌めようとして無駄なことをしている。

 突然、ハンマーが動いた!

 心臓が一瞬、凍り付いた。新手の罠か! 完全にノーマークだった。

 僕は咄嗟に『魔弾』を放り込もうとした。

 が、ヘモジの暢気な顔がそこにあった。

 太いハンマーの柄を軽々持ち上げ品定めをしていたのだ。

「ナー……」

 素振り一発。

 ドーン。何かを引っ掛けた。

「ナナ?」

 振り向くとゴーレムの足が薙ぎ払われていた。

 ミョルニルなら粉砕していただろうが、ゴーレムのハンマーは足を引っ掛けただけだった。

「あーッ!」

 呆気にとられる子供たち。

「ナナナ!」

 ヘモジは頭を掻いた。

『サンドゴーレム』は仰向けに転倒し、空を見上げた。

「ナナナナナ!」

 事故だとアピールするが、子供たちはそんなことどうでもいい。

 千載一遇のチャンス。転がり込んできた好機は逃さない。

「起き上がる前に畳み掛けろ!」

 子供たちの全力の一撃が胸の一点目掛けて降り注いだ。


 ゴーレムは大地に寝そべったまま動かなくなった。

「ナイス、ヘモジ!」

「ナナ?」

「ゴーレムは転がす。基本、忘れてたな」

 ヘモジのわざとらしいミスを額面通り捉える者はいない。

 でもオリエッタと僕は知っている。

「振ってみたかっただけだから」

「当たったのはたまたまだよな」


 最高の出来ではなかったけれど、報酬は満足のいくものになった。

 金塊にミスリル鉱。金銀財宝が山ほど出た。

 子供たちの口はあんぐり。

「もう少し効率よかったらインゴットが手に入ったかもな」

 精製前の鉱石は半分不純物のような物。インゴットで貰えるかどうかで、実質回収量は倍ほど違う。

「倉庫整理が地獄だな」

 整理している時間がない。『鏡像物質』ですら放置したままだ。

 因みに鉱石を精製する修行は今も尚、続いている。

「半分はインゴットにしたいよね」

「なんか気が重くなってきた……」

「なんでお宝目にして落ち込んでんだよ」


 さて『サンドゴーレム』討伐が終ったら、地下への入口探しゲームだ。

 概要をおさらいだけして、答え探しは子供たちに任せた。

「いい気分転換になる」

 子供たちは影追いを始めた。やり方さえ知っていれば難しいことではない。

 子供たちは嬉々として、答え探しを続けた。

「こっち行き止まりだよ」

「どっかに分岐あった?」

「こっち続いてるよ! ほら木の枝の影」

 子供たちがちょこまかと遺跡中を飛び回る。

 そしてゴールを見付けたところで。

「休憩するぞ」

「お昼だ。お昼」

 戻っている時間はないので、本日はお弁当である。

 ピューイとキュルルを召喚する。

「ピュイ?」

「キュルル?」

 見たことのない景色に戸惑いキョロキョロと周囲を見回す。

 新調したミスリル製の首飾りが目に入る。

 大伯母特製の『防御力強化』と『状態異常軽減』が付いた優れ物である。

「午後からは一緒だよ」

 子供たちは自分たちのリュックから小分けにして運んできた無翼竜用の食事を取り出し、ふたりに与えた。

『陸王竜』に進化したせいで火を吐けるようになったふたりとスケルトンの相性は悪くない。倒せはしないだろうが、経験値稼ぎはできるはずだ。

 そういうわけで、子供たちとレベル差が広がりつつあるピューイとキュルルの底上げを行いたいという申告を受け入れたのだった。

 ただ鱗が硬いとは言え、レベル差があり過ぎるので大伯母に助力願ったのである。当然、仲間の結界も必須であることは言うまでもない。

 既にヘモジとオリエッタが先輩面してちょっかい出している。

 子供たちは食事しながら、編成をどうするか話し合った。

 最前列は罠に備えてヘモジが先頭。ピューイとキュルルは炎攻撃が当たる距離ということで、すぐ後ろに配置。子供たちはその後方だ。

 戦闘は接近される前に倒すのではなく、結界で押し留めながら仕留める方法を取る。ひとえにピューイとキュルルのためだ。

 ヘモジは防御はすれども参戦せず。不測の事態に備えるのみ。ただし三体以上が同時に現れた場合はその限りではない。

 ルートは先日開拓した最短コースである。


 食後、地下へと進むとまず『開かずの扉』を開けた。

 先日と同様の薬を回収。

「地図はなさそうだな」

 既に所有していると手に入らないようだ。複製すれば同じことなので別に構わない。

 子供たちは長い直線通路を進む。

「スケルトン一体、発見!」

 急襲せず、気付いて近付いてくるのを待った。

 相変わらず骨を軋ませゆらゆらと。

 こちらに気付いた途端、シャキッと背筋を伸ばして駆け出した。

「速っ!」

 盾持ちのソードマンだ。盾をかざし、剣を後方に構えた姿勢のまま突っ込んでくる。

 独特の戦闘スタイル。

「ピューイ。キュルル。行くよ!」

 フィオリーナが珍しく音頭を取る。

 そして結界に正面から突っ込みのけぞるスケルトン。

「攻撃開始ッ!」

 ピューイとキュルルが炎を吐いた。案の定、ボヤ程度だった。が、続いて着弾する子供たちの炎攻撃は盾を吹き飛ばしあっという間に粉砕した。

「あんまり燃やすと回収品の価値が落ちるぞ」

「加減は追々」


「おっ!」

『闇の魔石』が出て、子供たちは驚いた。

 装備品はまるっと回収。選別は後でゆっくり決めたいという意見に僕は賛同した。


 順調に子育ては続いた。

「ゴーレム、ぶっ飛ばす」

「ナナーナ」

 ゴーレムとスケルトンの混成部隊を駆逐した。

「ピュウー」

「キューッ」

 嬉しそうに尻尾を揺らした。

「ナナナ」

「レベルアップしたって」

「再召喚する?」

 ピューイとキュルルは力強く頷いた。

 要望に応えてすぐフィオリーナとミケーレが再召喚する。

「でかっ!」

 二体が一回りでかくなって再登場を果たした。

「首飾りが!」

 今にもはち切れそうだった。

「ナナナーナ」

 ヘモジはサイズ変えても装備品がどうこうなることはないよな。

「『使い熟れて愛着が湧けば身体の一部になる』だって」

 今はまだ身体にフィットしていないから、不純物として意識されているらしい。

「まだ『自分の物』になってないってことね」

 フィオリーナとミケーレは首輪の革バンドを緩めた。

「次に再召喚するときは外しておいた方がいいかしらね」


 そうこうしながら探索は続く。

「何かいる!」

 ニコロが言った。

「『闇蠍』だ」

「げー。またあいつかよ」

 僕は周囲をより明るく照らした。

 するとカサカサと逃げる影が見えた。

「いた!」

 迷宮の通路は基本つるペタなので隠れる場所は道の曲がり角ぐらいしかない。

 お互い正面からぶち当たるしかないようになっているので隠密行動主体の『闇蠍』にはつらかろう。

 力の差を自覚していればの話だが。

 突進してきた!

 狙いは先頭のヘモジ。

 一番狙われ易そうなのが先頭にいればそうなるわな。

「でもその前に」

 子供たちの結界が前進を阻んだ。だけでなく周囲を囲い込んでしまった。

 結界同士のせめぎ合いだ。が、そこにピューイとキュルルの炎が以前より増した勢いで襲い掛かった。

 逃げようにも『闇蠍』は動けない。

 子供たちの攻撃が加わって、あっという間に闇の結界は砕け散った。

 そして丸焦げに。『闇蠍』は伝説になった……

 念のため、ヘモジがとどめの一撃。

「ナーナ」

 結界がなくなればただの大蠍だ。ごつくて見た目怖いけど。

 ピューイとキュルルが食べたそうにしているが、毒持ちは食うなよ。

「あ、まただ」

 ピューイとキュルルは大フィーバー。どんどんレベルが上がっていく。

 召喚カードを確認すると二十台だったレベルがもう三十台に。

「大丈夫か? 急激にレベル上げて」

「ナナーナ」

 ヘモジは問題ないと言った。

「ナーナ」

「『そこまでデリケートじゃない』って」

「……」

 仲間のレベルが上がれば、全体の士気も上がる。

 こうなるともう子供たちは無敵だ。

『ロックゴーレム』が団体で押し寄せようと、スケルトンに包囲されようとも、余裕で捌ききった。

「お前らおかしな集団スキル、身に付けてるんじゃないだろうな」

『仲間が集まれば攻撃力が一・五倍』とかいうスキルは存在しないが。

 気は力。魔法の攻撃力が軒並み上がっていた。

「罠発見!」

 全員がピタリと止まった。

「ナナ?」

 ヘモジがミョルニルで指定された床を叩く。

 ボワッーと炎が舞い上がった。

「炎尽くし」

 オリエッタにも冗談を言う余裕が。

 ヘモジは罠ごと床を破壊した。

 そしてとうとう螺旋階段が目に飛び込んできた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 何だか若様ご乱心のカード効果みたい(^^; お子たちは集団だから そんな効果あったら楽しいね
[一言] ということは、兄ヘモジはすぐに装備品に馴染んでたんですね。 お気に入りのバックとか、後から装備したのに本来のサイズになっても壊れない&紛失しないからちょっと不思議でした。 エルリンの剣は魔…
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