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クーの迷宮(地下46階 タイタン戦)タイタンまでもう一歩

 頂ける物はすべて回収して僕たちは部屋を出た。

「取り敢えず、このまま進んで突き当たりを右だな」

 僕たちは通路をまっすぐ進んだ。

 そしてすぐに甘い考えを捨てることになった。

「長いよ」

「ナーナ」

「長期戦。無理」

 オリエッタの投げっぷりに思わず笑いが込み上げた。

 最初の一本目の通路の長さを地図に記された長さと照らし合わせると、マップ全体の広さが彼の大迷宮の一フロア分に匹敵することがわかった。

 一日仕事だな、こりゃ。

「罠があるかも知れないんだから気を抜くなよ」

「ナーナ!」

 アンデッド発見。

「骨だ。骨」

 スケルトンか。なかなかいい鎧を着ている。

「ナナーナ」

 余裕をぶっこいていたら矢が飛んできた。

「弓だ! 隠れろ!」

「どこへ」

 隠れるには通路の曲がり角まで戻らなければならなかった。それは無理。

 ゴーレムサイズなので道幅も天井高も狭くはなかったが、通路内には身を隠す柱一本ないのだ。ただ平らな石壁と、気持ち程度の燭台と、同じデザインの量産扉が所々にあるだけだった。

「ナナーナ」

『手抜きだ。手抜き』と、ヘモジが笑う。

「必要なら自作すればいいだけなんだけど」

 結界があるから問題ない。

 僕は矢を受け止めながら、光魔法で浮かべた光源を前方に飛ばした。

 するとスケルトンはもがき苦しみ、そのまま灰になって消えた。

 光源はただの光にあらず。アンデッド対応の『聖なる光』であった。

「こんなのだけならいいんだけどな」

 と、言ってるそばから、魔力に呼応した石像が動き出した。

「『ロックゴーレム』 横道から来るぞ」

 魔法で精製した岩を投げてきた。

 が、天井高のせいで迎角が付けられない。

「射程はかなり限定的だな」

 いざ正面切って戦うとなると、転がってくる岩だけでも厄介だ。

 結界でいなすもすぐ横が壁だ。

 視界も回避行動も限定されてしまう。

「左膝!」

 またおかしな所に。

 ヘモジが岩と壁の間を擦り抜けダッシュした。

 僕たちも追い掛けながら、結界範囲をヘモジの移動に合わせて伸ばしていく。

 ヘモジの俊足の前には意味のない援護であるが、やらないと愛が足りないとか言ってすねるからな。

 あっという間に膝を粉砕した。

「待って!」

 ヘモジに合流しようと思ったら、オリエッタが呼び止めた。

 僕たちはオリエッタの指差す方を振り返る。

「『闇の魔石』出てる!」

「はぁあ?」

 ヘモジを手招きして呼び寄せる。

 確かにフロアレベルに合わせてスケルトンも強くなってると思うが、スケルトンなんぞ雑魚キャラだぞ。巨人族のスケルトンならまだしも……

「もしかしてこのフロアのスケルトン強い? 『聖なる光』で瞬殺してしまって申し訳なかったかな?」

「ナーナ!」

 またヘモジの目が……

 石を拾い上げて確認する。

「確かに小さいけど『闇の魔石』みたいだな」

 どこぞのレイスとさして変わらぬ大きさ。脅威度で言ったら絡め手を持ってる向こうの方が遙かに上だが。

「スケルトンだけならいい狩り場になったかも知れないな」

 こうなるとゴーレムの方が邪魔になる。

 僕は『闇の魔石』を袋に入れてからリュックに仕舞った。


「いやー、ジワジワ鳩尾に来るタイプの迷路は久しぶりだな」

「退屈で死にそう」

「ナナーナ」

 スケルトンと楽しく手合わせしていた時期がありました。

 奴らは確かに腕を上げていた。スケルトン先生はスケルトン大先生に進化してましたよ。

『聖なる光』で掃除してたらわからず仕舞いだった。

「普通に叩いたら骨硬かったし」

「成分教えて欲しいわ」

「ナナーナ」

 ヘモジが僕の言葉に呆れて首を振る。

「でもいい装備、手に入った」

「結構いい物だったな。あれなら売れるだろう」

「ナーナンナ」

「人気スポットになる予感」

 ぐおおおっと接近中のゴーレムがいきり立った。

「うるさい」

「ナ!」

 ヘモジがミョルニルで薙ぎ払った。

「……」

「ゴーレムのほうが柔くない?」

「……」

「……」


 しばらくは暢気な道中が続いた。

 地図があるおかげで、道に迷うことなく出口まで行けそうだ。

『開かずの扉』を開けたのは正解だった。

 脇道にあるであろう宝箱にも惹かれるが、まずは出口までのルートを構築するのが先だと、寄り道を廃していた。

「……」

「やっぱりいるな……」

「ナナーナ」

『闇蠍』を見付けた。が、『聖なる光』が余程怖いのか光源の下まで来てくれない。

 スプレコーンでは結界を突破するための特殊弾頭が申請すれば貰えたが。

 代わりに魔弾で対応した。

 強引に風穴を開け、ヘモジに叩かせた。

 こいつからも『闇の魔石』が出てきた。

 毒嚢以外落とさない奴だったので今までは力業で倒してきたが、工夫が必要になった。

 子供たちがやるときは『闇の魔石』はお預けだな。

 光属性の武器を貸してやってもいいけど、接近戦は怖いからな。



 そうこうしている間に行程の七割を消化した。

「ここからは部屋をいくつか抜けないといけない」

 つまり扉を開ける必要が出てくるわけだ。

 おかしなトラップは感知できないが。

 ヘモジが扉を開ける。

 何もいない…… 一見すると空き部屋のようだが、

「こりゃ、凄いな」

「普通の冒険者、泣くから」

『闇蠍』の巣窟だ。

 光の属性使いがいること前提なんだろうな。

 僕は『聖なる光』を部屋の隅々まで行き渡るように部屋の中央に召喚した。

 敵はテーブルや樽の物陰に隠れようとするが、あいにく光源は動かせるんだ。

 ヘモジの動きに合わせて炙り出してはとどめを刺させた。

『光の矢』も用意していたが、使う暇がなかった。

 ヘモジが硬い外骨格を叩きまくった手を痛そうに振って戻ってくる。

「ミトンするか?」

 ヘモジが首を振る。


 部屋の反対側の扉から出る。そしてまたしばらく道なりに。そしてまた別の扉に。

「お」

 今度はゴーレムの団体さんだ。六体いた。

「どうせなら『闇の魔石』を落とす『クラウンゴーレム』でも出りゃいいのに」

「ナナーナ」

「この部屋だと狭いね」

『衝撃破』をぶつけて動きを止めた。

 半数がコアに直撃を受けたようで、何もしないうちから崩れ去った。

 動きを止めただけのゴーレムもオリエッタの指示の下、ヘモジが片を付けていった。

「鉱石がザクザク。倉庫の中はひっちゃかだな」


「結構、時間食ったな」

 迷宮の大きさを考えれば、破格の勢いだが、それでももう撤収を考える時間だ。

 が、ここまで来てやり直しというのは、半日無駄にするに等しい。

「タイタンを拝まずに帰れるか」

 最後の扉を見付けた。この先に階段がある。

 地の底まで続く長い階段が。

「ナナーナ」

「転移お願いします」

「お前らなぁ……」

 既にちゃっかり肩の上だ。

「今回は螺旋階段になってるんだな」

「まっすぐの方が歩き易かった」

「転移するんだから関係ないけどね」

 光源を落とす。

 そして視界の限界に達したところで転移した。

 三回ほどで螺旋の底に辿り着いた。

 緊急脱出用のゲート部屋が手前に用意されていた。

 タイタンを倒した先にしか本来ないはずの脱出部屋だが、タイタンの強さ故にエルーダでは後付けされた経緯があった。それが既に設置されていた。

 勿論、タイタンを倒さない限り、次のフロアへ入場する権利は得られない。

 が、初顔合わせでタイタンを突破できる冒険者はそうそういない。しかも他の階層と違い、素通りできないのがこのフロアの厄介なところなのだ。

 エルーダではこっちを出口にしてくれと言う声も聞こえていたが、四大精霊をすべてスルーして下の階層にというのは、さすがに調子が良すぎるというものだ。イフリートもクラーケンもガルーダも戦わない選択肢があるが、ここでタイタンもとなればなんのための迷宮か、ということになる。

 正直、必須条件はタイタン以外でお願いしたかったが。

 兎に角、この先に進みたければ何が何でも突破しなければならない相手であった。

 手合わせを繰り返し、仲間同士力を合わせて有効な手段を構築しながら突破するしかないのだ。

 因みに僕やラーラがこのフロアの壁にぶつかった年、この手前のゲートから出ていった者に限り、入場の際、このゲートを直接転移先に選べるように仕様が変更された。

 つまり入口から延々と歩かなくても直接飛んできていつでもタイタンと再戦できるようになったのである。

 ただでさえ辿り着くのに日数が掛かるフロアなので、実にありがたーい計らいだった。

 どの辺りの権力が作用したかはわからないが……

 婆ちゃんが噛んでいたことは確かだ。

「婆ちゃん、このゲートを利用してタイタンと十連戦とかして、倉庫パンクさせてたよな」

「どう考えても孫のためじゃなかった」

「婆ちゃんは深く考えない人だから、偶然、思惑が重なっただけだろうけど…… つくづく」

「つくづく?」

「ナーナ?」

「肉の出ないタイタンでよかったな」

「それはもう……」

「ナナーナ……」

 


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― 新着の感想 ―
[一言] 遺伝子を感じる タイタンは金属や宝石を落とす 上ならね。こっちも同じなら 土の精霊石は土系のカラードを 損傷無しで仕留めるしかないのでは? ヤマダタロウ氏のお茶目でこっちなら タイタンでもあ…
[一言] リオナェ・・・ タイタンが四大精霊の一角だったんですね。 その割に、土の精霊石は落とさなかったと思いますけれども。
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