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事後処理と次なる一手

 姉さんがこちらに顔を出したのは夜も更けてからのことだった。

 魔力を極限まで使い過ぎて干からびていたらしいが、もういつもの姉さんに戻っていた。

「いきなりゲートが四つも開いたときはびっくりしたわよ。それもこっちが手ぐすね引いて待ち構えている包囲網の外によ。おまけに新種まで…… 冗談抜きで全滅覚悟したわ」

 どうやら敵の戦法は南部で行なわれたのと同じものだったようだ。

 違いはこちら側の戦力、とその配置。

「で、どうやって凌いだわけ?」

「凌ぐも何もゲートの座標を土壇場で狂わせてやったのよ」

「そんなことできるの?」

「第二形態がメインガーデンで起こした事件覚えてるでしょう? 町を守る障壁が第二形態の出現に制限を掛けてた事件」

「こちら側に出てこられなくて無敵状態化してた?」

「ゲートを開けさせずに済んだあれよ。似たようなことを咄嗟にやったのよ」

 簡単に言うなよ。

 町の障壁レベルのことを個人でやったって言うのか。

「新種の重力魔法はどうやって?」

「船を特攻させて、魔法をぶち込んでやったわ。ガーディアンに乗り込んでる時間、なかったからね。魔法が暴走した段階で諦めて帰ったか、亜空を今も彷徨っているか…… できればとどめを刺しておきたかったんだけど…… さすがに限界ね」

「敵が砂漠で長距離走している理由は?」

「あれは出現ポイントをできるだけ遠くに、闇雲に弾き飛ばしたからよ」

「やり過ぎだろう」

「咄嗟のことだって言ってるでしょう。できるだけマージンを取りたかっただけよ」

「それで寝込んでたんじゃな」

「面目ない……」

 ハイエルフが気を失う程無茶するなんて、余程の事態だったに違いない。

 体力や魔力は薬で回復できるけど、精神的負荷は……

 起き上がれなくなるとはね。

「もう歳か」

 圧縮された空気が僕の顔目掛けて飛んできた。

「みんなよくやってくれたわ。まさか船が埋まって、立ち往生してるとは思わなかったけど」

 あんな傾いたところでよく眠れたもんだと、口から出そうになったが、先ほどのあれが直撃したらと思って口をつぐんだ。

「つまり、安全マージンを可能な限り遠くにと判断した結果が、現在の緊張に欠けた戦闘の要因になっていると」

 初めて姉さんの本気を見た気がした。

 世が世なら『災害認定』を食らうレベルだ。

 元々エルフは結界魔法に長けた種族だが、出現ポイントを強制的に歪めるとなると、自分を転移させるより遙かに難易度が高い。て言うか、魔力量どうなってんだ?

 重力魔法に対しても『箱船』を特攻させるという無茶振り、否、英断で凌いで見せたし。

 他の船の結界だったら押し潰されてる。

「やっぱヴィオネッティーは怖いわ……」

 気の毒なのは訳も分からず、想定外の遠方に飛ばされてしまったタロス兵の連中だ。

 どこにいるのかもわからず、唯一の手がかりは『太陽石』の反応のみ。

 砂漠のど真ん中に放り出されたら、タロスも人も変わらないってことだな。仲間と合流したいという一念だけが、行動原理になるのだろう。たとえそれが戦果の先にあるものだったとしても。


 味方は既に掃討戦に入っているが、突破してきた感じだと、巻き込めた戦力は南部程ではなかったような気がする。

 機転がよ過ぎたかな。

「心配して損した」

「そんなことはない。明日は例の壺を地下から運び出さなきゃいけないからな」

「え?」

「いやー助かった。転送の達人がいてくれて」

 僕たちは顔を見合わせた。

「そう来たか」

「一時はどうなるかと思ったけど」

「取り敢えず、無事でよかったよ」

 明日のために僕は姉さんを見送った。


「あ、そうだ」

「ん?」

「あんた、また新しいガーディアンを造ったんですって?」

 だ、誰がばらした!

「明日、現状視察したいから、ちょっと貸して頂戴ね」

「商品化する予定はないからな!」

「操縦はヘモジちゃんにお願いしようかしらね」

 ドスンと何かが床に落ちた音がした。

「じゃあ、お休みなさい。良い夢を」

 肩の荷が下りた。まさにそんな感じだった。重荷がドスンと肩から落ちたような気がした。

「ふーっ」

 深い溜め息をつく。

「そうは言っても全員眠るわけにはいかないんだけどね」

 僕は操縦席に座り、本日最後のピンガーを打つ。

「周囲警戒、異常なし」



 ドーン!

 空気を震わす鈍重な低音が空に響き渡る。

 巨大なキノコ雲。

「うわー(棒)」

 運び出した壺をまとめて吹き飛ばしたのだった。

「こりゃ、凄い」

 作業員たちの手が一斉に止まり、全員、青空を見上げた。


「北の群れが南下中?」

「斥候の情報だと例の囮部隊がこちらに向かってきているそうです」

「今更?」

「作戦失敗の報は届いていないのか?」

「システマチックに動いてるんでしょうか?」

「単に情報が届いていないだけだろう。作戦は継続中…… まだ何かあるのか…… 司令部は?」

「既に承知しています。が、迎え撃つには数が足りません。今回はドラゴンタイプも含まれています」

「南に向かった連中はいつ戻ってくる?」

「風が明後日向いてますからね。もう二日は掛かるんじゃないかと」

「下手したら鉢合わせになるな」

「連絡は密に取るように進言しろ」

 僕は周囲に聞き耳を立てながら、新拠点の要塞化に着手していた。

「やりたい放題、たーのしーッ」

「ヴィート、手を抜くなよー」

「抜くわけないじゃん!」

「ちょっといい? リオネッロ」

 ラーラが早朝の御前会議から戻ってきた。


「穴?」

「地下まで貫通する穴を開けて欲しいんですって。修理ドックにしたいそうよ」

 いくらタロスが使っていた洞窟だからって。

「でかい船は無理だろう?」

「だから頼んでるのよ」

「そういうことか」

「最下層の埋め立ては済んだのか?」

「今やってるところ」

「じゃあ、残土はそっちに放り込むか。作業員を退避させてくれる?」

「わかった。詰め所に知らせてくる」

 やっていることは南部の壁造りと変わらなかった。

 なのに、なんでこんなに開放的な気分なんだろうか。

「師匠、平地作業終ったよ。もっとツルツルにする?」

「雨の日滑ると困るから程々でいい」

「ここ砂漠だよ」

「大型船の重さに耐えられるくらい固くしたら、次の作業に移ってくれたまえ」

「オベリスクはどこに建てるの?」

「あれはハイエルフさんの仕事。手出し無用だ」

「土台、造れって言われたよ」

「どこに?」

「それを聞いてるの!」

 やんちゃな子供たちがよりやんちゃに駆け回る。

「マリー。土台造り、こっちだってーっ!」

「はーい。今行きまーす」



「リリアーナ様、帰って来ないわね」

「『ギャラルホルン』もな」

「ナーナ」

「お前も行けばよかったのに」

「ナナナナナッ!」

 日が高くなってきたので、日陰で休み休み作業する。

「それにしても開けっぴろげだな。大丈夫なのか、ここ?」

「次の戦場までの距離を考えると、この辺りが最適らしいわよ」

 ラーラが言った。

「姉さん、投影装置、買うって?」

「『パオロに言われちゃ、買うしかないわねー』だって」

「すいません。溶接機、借りていいですか?」

 モナさんが、臨時で造った修理工房から出てきた。

「溶接棒の在庫ないよ」

「ええ? もうないんですか?」

「うちの機体のメンテ分しか基本積んでないからね」

「箱であったじゃないですか!」

「魔力が通しづらいからメーカー変えるって、言ってたの自分じゃなかった?」

 イザベルも汗だくで出てきた。

「休憩、休憩」

「しまった! 倉庫に降ろしたんだ」

「ちょっとお姉さん、しっかりして下さいな」

「ミスリル用でいいなら、僕の修理キットに予備があるかも。溶接棒なんて滅多に使わないから」

「普通の人間は簡単にミスリル加工できないんです」

「うちの子たちはやるぞ」

「損出を出しまくっていいなら、わたしにだってできます!」

「『ホルン』の収納ボックスに…… あ!」

 今、出払っているんだった。

「『ワルキューレ』の方にもあったかな?」

「ナー?」

 モナさんとイザベル、ニコロとミケーレは、人手が足りないというので、臨時の修理工房を開いていた。

 扱うのは壊れたガーディアンのみだ。

 フリーランスか、なんらかの理由で母船で修理が行えなくなった連中の機体の依頼を主に請け負っている。

 姉さんは簡単に言っていたが、被害の大きさを見る限り、先の戦況はかなり切迫したもののようだった。

「オプションの組み込みはやってません。今は応急修理だけです」

 通りすがりに尋ねられたので、モナさんが応対した。

「資材届けてくれるって」

 詰め所に聞きに行ってくれていたニコロとミケーレが戻ってきた。

「助かった」

 かくして僕たちの日常は忙殺されるのだった。

「そろそろ砦に帰ってもいいですかね?」



「なんでこうなった?」

 南部の要塞より遙かに強固な城が眼前にそびえていた。

「みんなノリノリでさ」

「気が付いたら…… 物見櫓が……」

「あれ。櫓って言わないよね?」

「…… おっきな櫓?」

「どう見たって巨大な塔だろうが!」

「なんでああなっちゃったの?」

「だから、みんながノリノリで……」

「タロスの塔のハニカミ構造を取り入れたら、できちゃったの」

「ハニカム構造な」

「姉さん帰ってきたら…… どんな反応するかしらね?」

「聞かないで」

「まあいいんじゃない。結界内に収まってるんなら」

「……」

「首謀者はどこの馬鹿なのかしら?」

「僕たちじゃないよ! 僕たちは手伝ってただけだし」

「ハイエルフのお兄さんたち…… かな?」

「わたしたちからしたら全員おじさんだけどね」

「そういうこと言ってるんじゃないの!」

「ご、ごめんなさい」

「せめて結界内に収まるように調整しておくことね」

「何かしら使い道あるだろう」

「灯台か、通信塔かしらね」

「わたし、知ーらない」

「ナナーナ」

「うちの責任にならないなら、よし!」

「こら、駄目師匠」

「誰が駄目師匠だ!」

 イザベルとモナさんが完了報告に向かった先から戻ってきた。

「リリアーナ様、帰ってきたわよ」

「なんか言ってた?」

「馬鹿は一人で充分だって」

「誰のことだ?」

「さあね」

「リオさんに依頼ですって。光弾の砲台六門、用意して欲しいって」

「さすがリリアーナ様。あの塔の使い道を即決したみたいね」

「とばっちりはいつもこっちだな」

「頼りにされてるのよ」

「注文は却下。砲身は造れないからな。敵から鹵獲した物があればいいんだけど。タロスの船は勝手に自爆しちゃうからな」

『ダイフク』に載っているのはゲートキーパープレゼンツの迷宮産だけどな。

 タロス製がどこまで使えるかは僕にもわからない。

 アールヴヘイムにおいて、大戦時の遺跡からいくつか回収されたとは聞いているが……

 さすがにここまで送れとは言えない。

「今南下してきてる敵のなかに、船がいればいいんだけどな」

「どうやったら鹵獲できるか考えておきましょうか」

「じゃあ、今日の作業は終了ってことで」



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