合流するも……
「こんなに連射したのは初めてですからね」
「一案ですけど、砲塔内部を常に冷やしておくのはどうでしょう?」
「それでなんとかなります?」
「砂漠の熱風で冷やすより、冷気を溜めておいて熱交換して凌いだ方がいいと思います。どの道、何発も連射するものではないですし。大掛かりな改修をするのもどうかと」
「じゃあ、砲塔が収まっているブロックごと断熱して、常に熱交換できる仕組みを構築しますか?」
「吸気はインテークからバイパスすれば外装に穴を開けずに済みます」
「放熱は甲板に?」
「そうですね…… 砲塔をデッキアップしたとき、排気ができるようにギミック噛ましましょうか?」
食事を挟んで、光弾の熱量測定を行なうことにした。
魔力を無駄にすることはわかっていたが、必要な実験だと割り切った。
「タロスの船みたいに自爆したら困るしね」
子供たちも頷いた。
「自爆は魔力の逆流が原因だけどな」
「知ってて言いました」
日中の一番暑い時間帯に五発連射して温度上昇を見た。
水銀柱を各部に設置してモニタリングをしたが、空気を循環させてやればなんとかなることがわかり安堵した。
「夜に冷気を溜めて、明日もう一度実験だ」
翌日は無風状態が続いた。
僕たちの船には関係ないが、後続の帰還には影響が出そうで、気が重くなった。
後続の連中はもっと胃が痛いことだろう。
僕たちは光弾の蓄熱問題に対処していたおかげで時間があっという間に過ぎていった。
「夜の冷気だけでもなんとかなったわね」
子供たちも外気を浴びて汗だくだ。
既存の砲台のように人が砲台に張り付いていたら、毎度こんな具合なんだろうなと思うと、随分ハイソな船だったんだなと気付かされる。
「熱交換ができてる間は温度上昇も緩やかでしたけど、一度限界を超えると、その後はやはり下がりづらいですね」
「取り敢えず、自然換気だけでも五発は連射できることはわかった」
「壊す気なら十発は撃てる!」
ヴィートが拳を握る。
「光弾を十発も打ち込む状況なんて、考えたくないわ」
ラーラが言った。
「ニコロが全弾外すとか?」
「えー、そりゃないよ」
「五発目辺りで交代させるから大丈夫だ。安心しろ」
皆、ゲラゲラ笑った。
「みんなご苦労様。おやつは奮発したから両方食べていいって」
フィオリーナにそう言って出されたのは大きなあんパンとクリームパンだった。
「二個食べていいの!」
「みんな頑張ったから、ご褒美よ」
「やった!」
子供たちは飛び跳ねて喜んだ。
「保存箱に入ってるから大丈夫なんだけど、心理的にそろそろね……」
ラーラがぼそっと呟いた。
「お茶なんにする?」
「アイスティー」
「アイランは?」
「作り置きはないよ。お昼に飲んじゃったし」
「ウーバジュースなら冷えてるよ」
「じゃあ、それで」
子供たちはドームフロアの絨毯の上で、他のおやつも持ち寄って、楽しい一時を過ごした。
「夜が明けたら開戦だ」
怯えるくらいなら奮い立て! と言わんばかりに吠えた。
「しっかり寝て、明日に備えよう」
「まだ夜じゃないよ」
「六時間以上先だね」
その夜、子供たちは絨毯の上で眠った。
ひとりで抱えるには大き過ぎる不安だった。
「タロス、発見! 雑兵、三」
「は?」
「なんでこんな所を走ってるんだ?」
「襲撃しますか?」
「落とせ」
「了解」
三体の雑兵が砂漠でマラソンしていた。
「なんなの一体?」
今日に入って既に三件目だった。
『弾ちゃーく。今!』
商会のクルーのマネをしたマリーの合図と同時に、三体のタロス兵が砲台の餌食になった。
『ほんと外さないよねー』
『勿体ないから、普通の矢使う?』
『一発で吹き飛ばすのと、一体ずつ仕留めるのと、どっちが安上がりなんだろうね』
『普通の矢だとたまに盾で防がれるしね』
「こーら、おしゃべりしない。聞こえてるわよ」
『あ。伝声管開けたままだった!』
目標に近付くにつれ、この手の兵士の数も遭遇する機会もどんどん増えていった。
砲台だけでは対処できずに、ガーディアンを出す機会も増えてきた。
「ピンガー打て!」
「二時の方角、三部隊発見! 手前から四、四、六。距離二千です」
『わたし出ちゃっていいの?』
『どうぞ。試したいんでしょう。手前は任せるわ』
『討ち漏らしても援護して上げるから』
モナさん、ラーラ、イザベルの豪華トリオだ。
甲板に現れる『ニース』。
常に進化を遂げる巨体が配置に就こうと肩を揺らす。
『飛行石』導入のおかげで足取りが若干軽い。
二機の赤いエスコートが左右に付いた。
「格好いい」
子供たちの羨望のまなざしは相変わらずだった。
足の遅い『ニース』のために、船は現在急接近中である。
『ガーディアン発見!』
戦闘が継続中であることがわかる。
三機編成が通過する。
援軍を含めた包囲殲滅戦が、予想より広範囲に行なわれていることを知る。
投影装置に張り付いて戦況確認。
「砦、関係ないじゃん」
子供たちも呆れる戦域の広さよ。
「何がどうなってる?」
重力魔法の爪痕は見えない。
敵はなぜか散開している。増援の影がないことから察するに行軍してきた様子はない。となるとやはり第二形態によるゲート移動があったと考えるべきだろうが……
目標からズレるにしてもこれはあんまりなんじゃないだろうか?
姉さんが何かしたのか?
僕たちは敵の背中を追い掛けながら合流を計った。
「ヘモジには最良の日だな」
『ワルキューレ』で飛び回り続けている。
『ホルン』には早々に見切りを付けたようだ。
「『ホルン』には強力なテコ入れが必要だな」
「ヘモジ戻ってきた!」
頭上から急降下していきなり目の前に下り立った。
『ナナナーナ』
「何言ってるか、わからん」
「お腹空いたって」
オリエッタが通訳してくれた。
ようやく味方の船団と交差した。
と同時にタロスの姿を見ることがなくなった。
砦までまだだいぶ距離があるが。
僕たちは『箱船』を探した。
そして不自然な位置から動かない『箱船』を見付けた。
子供たちの悲痛な声を聞いた。
『スパーダ・ディ・アンジェレ』の鋭い船首が頭を垂れ、地面に突き刺さったまま動けずにいるのだった。
目下、二隻のドック船がクレーンで船を引きずり出しているところだった。
「魔法使いは出払っているのか? ちょっと行ってくるか」
「僕も行く!」
「わたしも!」
僕は止めなかった。
僕たちは総出で、横付けした甲板に飛び出した。
そして転移、大きく傾いた『箱船』の甲板に降り立った。
「男子禁制」はこの際、目をつぶって頂こう。
僕たちは一列に並んで、杖を天にかざした。
挨拶代わりに僕たちは甲板の上に覆い被さった土砂を押しのけるべく、土魔法を発動した。
見る見る内に船首部分の土砂が消え、船が軋み始めた。と言いたいところだが、なぜか周囲の土砂は押し固められたかのように圧縮されていて、質量が半端ないことになっていた。
わずかに表面を浚っただけの子供たちも不思議がる。
既に作業に当たっていた魔法使いが何事かとこちらを見遣る。
彼女たちは表面の砂の排除だけで魔力切れを起こしていたようで、休憩中のようだった。
格好を付けた分だけ恥ずかしい……
既に押しのけた分量だけで別の船が埋まりそうだった。
後は土塊を残すのみだが…… 見た目の何十倍もの重量を内包しているように思えた。
今こそ、伝家の宝刀『万能薬』を使うときではないのか?
指揮系統はどうなっている?
副団長がいないことはわかっているが……
そもそも魔力回復のためだけに使用許可は下りないか。
「小分けしてませんけど『万能薬』です! 使ってください!」
僕は周囲に向かって叫んだ。
大瓶持ってきておいてよかったー。
恥の上塗りは回避できそうだった。
復活した魔法使いたちの手によって船首が穴から抜け出せたのは、それから二時間後だった。
『浮遊魔法陣』が機能し始めた。
甲板の上の残土にヒビが入る。
「離れろ! 何かに掴まれ!」
僕たちは大急ぎで綺麗な甲板部分まで退避した。
クレーンのタワーが首を振り、ワイヤーが緩んでいく。
ぶわっと足元が持ち上がり、船が水平を取り戻した。
「大瓶が綺麗になくなったな」
全員がしゃがみ込んだ。
「壁造りより疲れた……」
子供たちもうな垂れた。
「なんでだよー」
「しょうがないだろう。あの船は男子禁制なんだから!」
「マリーとかはいいのに! 理不尽だ」
「ナナナ」
ヘモジは安堵している。
こちらが作業中、こいつはジュース片手に涼んでいた。
「まだ安心できないからね。この船もこのまま空にしてはおけないんだから」
現在、ラーラとイザベルと無理を言って付いていった女子たちの帰還待ちだ。
一抹の不安が残るのは、姉さんが結局、現れなかったことだ。
いつもなら真っ先に出迎えてくれるところなのだが。
抱き付かれず安堵しているヘモジも心なしかソワソワしていた。
死んではいないとのことだったが…… 何もなかったわけではなさそうだった。
「何があった……」




