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終結と予感

 一方、渓谷の先で防壁代わりになっていた主力船団は密集が解けずに混乱を来していた。

 それを尻目に出現してくるタロスは牙を剥き出しにして吠えまくる。

 狩りの時間だと言わんばかりに異様に興奮していた。

 あたかも勝利を確信しているかのように。

「第二形態を狙え!」

「ナーナ!」

 操縦をヘモジに代わって貰い、僕は魔法で集団に対応した。

 ヘモジは後方の第二形態の首を狙う。

 抜刀されたソードが巨大な斧を弾きながら、目標に迫る!

 そして第二形態の姿が視界の片隅に入った瞬間、胴体から離れた首が空高く舞い上がった。

「ゲート消失を確認」

 閃光が空を斬るように走った。

「なんだ!」

 次の瞬間、北側のゲートが雑兵諸共吹き飛んでいた。

「光弾だ!」

 我らが『ダイフク』であった。

 一撃で北側の敵兵力を大きく削ぎ落としたのだった。

 慌てふためくタロスの群れ。

 自分たちの決戦兵器が敵に使われるとは思っていなかったのだろう。

『ダイフク』は他の船より一段高い所を弧を描いて飛んでいた。

 強力な魔法がタロスの群れの上にこれでもかと投下された。

「味方の上に落とすなよ」

 手の空いている子供たちが横槍を入れていることは明らかだった。

「ナーナーナ……」

「鼻乾きそう……」

 ヘモジとオリエッタもその戦果に呆れる。

 商会クルーが操っているであろう三連装砲台も、容赦なく群れを削っていった。

「こんな強力な船を造った覚えはないんだけどな……」

 端から見てると殲滅速度が他の中型船と段違いなんだが。

「ナーナ」

 砲台の数はわずかだが、連射速度と命中精度、装填の合間の魔法攻撃がそう見せるのか。

 前線からやってきたガーディアン部隊によって、対角にあったゲートも消失した。

 取り敢えず、これですべてのゲートが消失した。

 だが、もう追加がないとは言い切れない。

「どこかに『太陽石』があるはずだ! オリエッタッ!」

「あそこ! あそこ! 地下にあるッ!」

 僕は周囲の混乱を余所に、魔法で大地の表面の砂を取り払った。

 そしてオリエッタが示す地点に大穴を穿った。

 するとそこにはどこかで見たような地下洞窟があって、さらに下を穿つと、例の祭壇のような物が置かれた空間が現れた。

 ここは砦の建設予定地と石切場の中間地点。

「罠だ」

 完全に嵌められた。


 僕は飛び降り『太陽石』に『万能薬』を振り撒いた。

「起きろォ!」

 石はミントのときと同様の変遷を経て、妖精の形に次々姿を変えていった。

 そして快感に打ち震える妖精族がワラワラと石の塊からこぼれ落ちるのだった。

「全員起きたか! 寝てる奴はいないか!」

 言葉がわからないのか、つぶらな瞳でじっとこちらを見上げている。

「仲間に会わせるけど、今は戦闘中だ。言ってることわかるか?」

 何人かは頷き、残りは首を振った。

 ミントとはすぐ会話が成り立ったんだが、こちらの緊張が伝わっているのか、警戒されているようだ。

「兎に角、タロスと戦闘中だ。今は隠れてろ!」

『ホルン』に回収された僕にワラワラと妖精族が付いてきた。

「まあ、地下にいてもしょうがないからな」


 既に出現してしまった敵と、増援のガーディアン部隊との間で激しい戦闘が繰り広げられていた。

 が、飛行能力と安全地帯のあるこちら側が、襲撃の失敗に怯える連中より優勢だった。

 くしくも僕たちが建築した防壁の強固さが証明される形となった。

 結界がなくてもビクともしなーい。

 が、一方で僕たちが携わらなかった側は既に崩れかけていた。結界ありきの仕様だったので止むを得ない結果だが、こうも明暗がはっきり分れると…… 工兵たちの腕が疑われてしまうな。

「くぉーらッ! 造ったばかりの壁なのに。傷付けたら、許さないぞ!」

「ぶっ殺ーす」

「斧で叩いてんじぇねーぞ、こらぁ」

「首もぐぞ、こらぁ!」

「しっぽ、燃やすぞ、こらぁ!」

「切り刻んでやるからね。こらぁ!」

「ナーナ……」

「恥ずかしい……」

 あー、みんな。聞こえてないと思って好き勝手叫んでるんだろうけど、獣人の耳には届いてるからな。

「もう少し上品にいこうよ」

 て言うか、もう味方に笑われてるし。

 笑いがこぼれてきたということは余裕が生まれてきたということであるが。


 斜面を諦め、回り込もうとするタロス兵を重装のガーディアンが押さえ、空からひたすら狙撃する。

 そこにようやく転舵してきた前線の大型船団から砲撃が開始され、終演に。

 勝負あったな。


 僕たちは外周で戦闘を続けている『ダイフク』に戻った。

 商会の船団を護衛船団と共に優先的に守っていたようだ。

 甲板に下りた『ホルン』が、妖精族の宿り木になった。

 さっきまで起動していたから魔力の残滓があるのだろう。

「ナーナ?」

 妖精族が頷く。

 全員いるようだ。

「どうするの?」

 オリエッタが聞いてくる。

「まずは食事と風呂だな。顔色の悪い奴がいるから風呂に『万能薬』を垂らしてやるといい」

「わかった」

 子供たちが駆けてきたので、妖精族の世話を頼んだ。


「ラーラ、オリヴィア、この船は予定通り、ここを離れるぞ」

「なんでよ!」

 ふたりは一瞬反対したが、子供たちに連行されていく大量の妖精族を見て、ふたりは理解した。

「罠だったの?」

「姉さんが…… 危ないかもしれない」


 想定が甘かった。

 と言うより、思考を誘導された可能性がある。

 手の込んだ地下空間。そこに大量の壺。そこから導き出される次なる一手……

 誰もが同じことを考える。

 だが、そのすべてがブラフの可能性が出てきた。

 もし献身的な隠密行動など端から想定していなかったのだとしたら。

 奴らは道標からポイントをズラして転移する術を持っていた。あるいはこの短期間で獲得したのか?

 兎に角、地下からこっそりなどという戦術ではなく、新種と第二形態の大量投入で一気に面制圧してくる可能性が出てきたのだ。

 地下のあれこれは道標である『太陽石』を目覚めさせることなく敵に維持させておくことを目的とした策略なのではないかと、勘ぐってしまう。

 仮にこちらの短気で処分されたとしても、転移ができなくなるだけの話だ。転移できれば、めっけもの程度の案件なのかもしれない。

「でも優秀な敵の指揮官なら攻撃は当然、二方面同時となるはず」

 もう手遅れかもしれない……

 移動手段が転移なら、戦力がどこにあってもタロスは飛んでくる。北の端を彷徨っていようと。すべてが計画の内ならば、備えていよう。

 中央に残っているのはここにある戦力の五分の一にも満たない。

 おまけに副団長率いる『銀団』の主力は湧き潰しに前線のさらに先に出向いていて、連絡が取れない。

 そのおかげで襲撃に巻き込まれずに済んだともいえるが。

 オリヴィアに伝言を残して、僕はこの場を離れる決定をした。

 抗争が下火になったところで、オリヴィア一行を彼女たちの母船に移して、僕たちは離脱する。

『銀団』の指揮船とパオロ・ポルポラのいる『デゼルト・アッレアンツァ』の『箱船』にも「中央に戻る」と光通信を入れた。

 僕たちは一時間後、妖精族と物資の一部をオリヴィアに預けて、舵を北に切った。



「こっちの迎撃作戦が失敗しても『クー』の砦からの増援もある。前線を押し下げれば、すぐ落ちるようなことにはならないだろう」

 被害はそれなりに出るだろうけど。

「懸案は最初の一撃目が新種による重力魔法になるかどうかね」

「亜空からいきなりあれを放たれたら…… いくら姉さんでもどうしようもないだろうな」

「そう言えば、どうやって倒したの? 新種、現出してなかったでしょう?」

 さすが、遠くにいても『無双』を扱うラーラにはわかったか。

「『一撃必殺』が使えたんだ」

「偶然?」

「最近、転移に磨きが掛かってたから、そのせいかもしれない」

「転移先の状況が見えるようになったっていう?」

「証明はできないけど、多分」

 他に思い当たらない。

「フィオリーナ、魔石残量はどうなってる?」

「全部満タンです。問題ありません。『精霊石』はほとんど減ってないです。『闇の魔石』は全部空っぽになっちゃいましたけど。今は替わりの石で稼働中です」

「『闇の魔石』は今みんなで補充してるから!」

 マリーが口を挟んだ。

 補充と言っても、即充填はできないので、身に付けておくか、その辺に転がしておくだけなのだが。

 裏技として『万能薬』に漬けておくという手もあるのだが、それをやった子供たちは夫人に怒られ、デザートやおやつを一日カットされたのだった。

「船の損傷はないわよ。頑丈な船よね」

 モナさんがジョバンニとヴィートを連れて階下から戻ってきた。

「ドラゴン戦を想定した船だからね」

「それより折角、造ったのに盾、使わなかったんですね」

 格納庫で傷一つない綺麗なままの盾を見たのだろう。

「使う機会がなかった」

 肝心な新種相手に『一撃必殺』が通用してしまったから、現出まで耐えるプロセスがいらなくなってしまったのだった。タロスの船もいなかったから光弾対策も必要なかったし。

「ラーラ姉ちゃん、そろそろお昼だよ」

「もうそんな時間?」

 食事当番がラーラと一緒に厨房へ向かった。

 僕は砲台の状態や物資の在庫状況について、モナさんから報告を受けた。

「光弾が配備されている第一砲塔で若干、蓄熱問題が起きています。子供たちが魔法で冷やしてくれたので今は問題ありませんが。改善が必要です」



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