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急襲! 実証試験してる場合ではないのだが。

 壁建設二日目。

 夜の涼しい合間に他のパーティーの建設作業は進んでいた。

 子供たち程ではないが、進捗は思った以上で、やはり選抜されただけあって優秀と言えた。

 が、こちらも昨日以上にがんばるつもりである。

 本日は朝から全員出動。白蟻の如き勢いで昨日余った岩を侵食し、形を整え、さらに圧縮を加えて壁を築いていく。

 その間に僕は大急ぎで追加を石切場から運んだ。

「師匠、遅ーい」

 朝の涼しい内に作業が終ってしまいそうな勢いだった。

「ちょっと『銀団』さん」

 気の弱い現場監督に呼ばれた。

「うちのギルマスから、やることがなくなったら好きにさせろと言われておるんですが」

 既に額に汗していた。

 正面の残りの半分も僕たちがやってもよかったのだが、大人の事情もあってそれはやめておくことにした。

 他に何か、という話になった。

 そこで誰にも邪魔にならないということで、僕は壁の下の天然の断崖を強化、造成する作業を受け持つことにした。

 壁には油を流したり、石を落としたりする定番の仕組みも組み込んでいいというので、子供たちは俄然やる気になった。

「ガーディアン持ってくる!」

 急斜面での仕事だ。足場を築いていてはそれこそ日が暮れる。

「どの様式にする?」

 行ったついでに僕の本棚から築城の資料を持ち出してきた模様。

「鼠返しは付ける?」

「バリスタの迎角も考えないと」

「普通の石じゃタロス落ちてくれないよね」

「有効な大きさの石を置くとなると嵩張るんじゃないか?」

「それもう岩だから」

「吐出口がそのまま弱点になりそうだから駄目ね。下方向に特殊弾頭が使えるようにだけしておきましょう」


 考えた挙げ句、鼠返しの段差を一段設けただけのシンプルな物が採用された。

 昨日造った壁の傾斜に合わせて勾配を設けるだけなので、渓谷側から見ると、どこまでが崖の斜面で、どこからが人工の壁なのかわからない仕様だ。

 一番から三番まで子供たちのガーディアンが総出動した。

 僕もヘモジの操縦する『ワルキューレ』で参戦だ。

 今回は問答無用なので全員が全力で壁を拵える。

 一機に付き三人が搭乗し、一人が操縦を、残りふたりが作業に従事した。

 ガーディアンが壁に張り付くと、ふたりが全力で岩場の凹凸を消していく。

 フラットな斜面がどんどん広がっていく。

「うおりゃあああ! 最大出力全開だぁ!」

「ああーッ、駄目だよ。ジョバンニ兄ちゃん!」

 広範囲が一気に魔力に包まれた。

 そして手を触れた位置を中心に広範囲にわたって陥没した。

「押し込み過ぎだよ!」

「凹んじゃったじゃんか!」

「余計な仕事増やさないでよ」

「馬鹿やってないで、真面目にやんなさいよ」

「もう、横着するんだから!」

「お前だって凹ませてるじゃねーか」

「焦ったら負けだから」

「膨らんだとこ押し戻す?」

「ここはやった本人に任せて、わたしたちはあっちをやりましょう」

「お前ら全然押し込みが足らないぞ。ちゃんと目印の糸見てやってるか? 糸と平行になるようにするんだからな」

 整地した斜面の迎角が段々緩くなってきて、若干傾斜が付いた目印の糸とぶつかりそうになっていた。

「ほら、見ろ! 俺が凹ましたぐらいがちょうどよかったんじゃねーか!」

「だったらもっと上からやり直しなさいよ!」

「ねー、操縦代わってよ」

「まだ時間じゃないでしょ!」

「お前ら、半端な物造ったらおやつ抜きだからな」

「えーッ」

「横暴だ」

「やればいいんだよ! やればッ! それが嫌なら飯も抜きだ!」

「ちょっと、トーニオ。なんか変なスイッチ入ってない?」

「最終的な手直しを誰がすると思ってんだ!」

「今朝、焼きたてパン食べられなかったから、怒ってんだよ」

「最後まで寝てたのが悪いんじゃん」

「髭親父のせいだよ」

「余分に焼いたはずだけど。なんで足りなくなっちゃってんのよ」

「誰、余計に食べたの!」

「親父が食い過ぎたんだよ」

「おじさん、焼きたては二個しか食べてないよ。ちゃんと見てたもん」

「誰だ! 僕の分、食った奴は!」

「大人げないわね」

「ナナーナ」

「試食で、いくつか食べてなかったかって?」

 初参加のオリエッタがヘモジの言葉を通訳した。

「あ」

「あ!」

「ああ」

「フィオリーナ!」

「マリー!」

「カテリーナ!」

「僕が寝てる間にそんなにおいしいことを!」

「お前は黙れ!」

 ミケーレがとばっちりを受けた。

「あー、もううるさいな!」

「ねー、操縦代わってよ」

「まだ時間じゃないって言ってるでしょ!」

「もうとっくに過ぎてるよ!」

「お前ら騒ぐのはいいけど、明日帰るんだからな。終んなかったら徹夜だからな」

 僕も一言、苦言を呈しておいた。


 万能薬を薄めたアイランをちびりちびり飲みながら、子供たちは壮大な泥遊びをした。

 わいわいガヤガヤ。

 途中、副団長率いる『銀団』の船が先の湧き潰しに向かった船団を援護するため支援に出てしまったときは、子供たちも一瞬、浮き足だったが、気を取り直した後は却って砦を頑強にする気満々になっていた。


 そしてブンブン飛び回るガーディアンによって、壁の完成を待たずに足元の断崖絶壁はほぼ造成が完了するのであった。

「後は好きにやって貰いましょう」

 フィオリーナの言葉に全員頷いた。

 絶句する大人たち。

 砦の防壁建設の基礎工程は八割方完了してしまった。後は砲台やバリスタの設置など細かい作業だ。

 もう僕たちの出番はない。

 程よく疲れた身体に甘いデザートが染み渡る。

 夕日が差し込むメインフロアの絨毯の上、シュークリームに舌鼓を打つ子供たち。

 明日の朝、僕たちはここを去る。

「もうちょっと派手にやりたかったよな」

「地味だったわね」

「ラーラまで何言ってんのよ。充分衝撃的だったわよ」

 オリヴィアのスタッフとも今夜でお別れだ。


 翌朝、轟音と共に飛び起きた。

 全員が寝間着のまま個室から飛び出した。

 夜勤の商会スタッフが慌てている。

「機関始動! 高度上げ! 集団を脱する!」

「主砲、魔力充填!」

「面かーじ!」

「何が!」

 近くにいた船が弾けた。

「なんだ?」

 船のあった場所に巨大な斧が突き刺さっていた。

「斧?」

「タロス!」

「結界最大出力!」

 後ろからの攻撃だ。

「くそッ」

「ガーディアンを出す! ラーラ、後は任せた!」

「早く行って!」

 ヘモジとオリエッタが僕の肩にしがみ付く。

「衝撃、来ます!」

 投影装置を覗いていたスタッフが声を上げた。

「新種か!」

 僕は階段を下りて格納庫に向かう。

 衝撃が襲う。

「『ホルン』だ!」

 ヘモジとオリエッタが操縦席に。僕は固定台のロックを解除する。

「ナナーナ!」

「うちは問題ない」

 だが、他の船は支援船だ。どこまで結界に注力しているか。

 距離によっては重力魔法の餌食になっているはずだ。

「……」

 エレベーターが遅い。

『視界良好とは言えないけど、行って!』

 ラーラが窓の向こうで叫んでいる。子供たちも全員、寝間着姿のまま窓に張り付いている。

「このときのために用意したようなもんだからな」

 僕たちは空に飛び出した。

 最初に目に飛び込んできたのは、後方の石切場付近に配していた巨大なドック船が灰色の世界に飲み込まれるところだった。

 砦は既に重力圏内だった。

「ロングレンジライフル、魔弾装填!」

「ナナナ」

 重力魔法のおかげで、雑兵は後方にはまだ転移してきてはいなかった。ただ砦を中心に南北に開いたゲートからはゾロゾロと出現してきていた。

 が、完成したばかりの防壁が早速、雑兵を足止めしていた。

 おかげで被害が一方的にならずに済んでいた。

「新種はどこだ?」

「あっち!」

 雑魚の相手はしていられない。僕たちの狙う相手は後方に潜んでいる新種だ。

 この重力魔法を早急に止めなければ、砦の建設予定地上空にいる船団は何もできないまま飲み込まれてしまう。

 目の前の空間が歪み、砂塵が縦横無尽に吹き荒れている。

 敵は肉眼ではもはや捉え切れない。

 そもそも重力魔法発動時は亜空に逃げ込んでいるから、本体は捉えようがない。

 が、本体を倒さなくても魔素の流れを乱してやれば、魔法を止められることは実証済みだ。

「!」

 偶然か?

『一撃必殺』がなぜか敵を捕らえた。

 考察している暇はないので、検証は置いておいて、僕は『魔弾』を撃ち込んだ。

 灰色の世界が一気に後退して、青空が広がった。

「ナナナ?」

 ヘモジとオリエッタが敵兵を探す。

 すると巨大な穴の中心に新種の骸が転がっていた。

「ナナナ!」

 行き場を失っていた船団が後方に流れていく。

「次はあれ!」

 オリエッタが叫んだ。

「第二形態!」

『ギャラルホルン』を全力でポイントに急がせた。

 が、それは二箇所だけにとどまらなかった。

 大穴の空いた、今まさに船団が脱出に向かっている後方にも一つ、新たに出現していた。

「誰だ。戦力がないなんて言ったのは!」

 ゾロゾロと三方のゲートから湧き出してくるタロス兵はまだ増殖を続けていた。



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