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自重しててもにじむ才能 

「いつ頃、終るの?」

 カテリーナが小声で聞いてきた。

「今、三分の一だから…… 午後みんなで頑張ったら片面終っちゃうんじゃないかな」

「みんな一緒にやれたらいいのにね」

「できないことはないんだけど…… いざって時は結界を張るぐらいはしないといけないからな」

「お姉ちゃんたちも連れてくればよかった」

 カテリーナが言った。

「副団長に人回して貰おうかしら?」

 ラーラが顎に手を当てる。

「それを言うなら『ビアンコ商会』ではなくて?」

 聞き慣れた声に皆一斉に振り返った。

「オリヴィア!」

 そこにはいつもの彼女がいた。

「やっほー。みんな頑張ってる?」

「なんだ? 上機嫌だな」

「さっき、大きな商談がまとまったところなの」

「言ってくれればスタッフ貸すわよ。あんたたちを交代勤務させるなんて、損失以外の何物でもないものね」

「代わってくれるの!」

「お代は頂きますけどね。て言うか、この船にいる方が落ち着くんですけど」

 そういうことになった。

 子供たちは俄然やる気になって、お昼ご飯のケバブサンドをいつもよりたくさん食べた。

「野郎共、野次馬たちを見返してやるぞ!」

「オーッ!」

「何? なんかあったの?」

「ちょっとね。いじめられちゃったのよね」

「鬱憤溜まってるのよ」

「それはしょうがないんじゃない? 誰も思わないわよ。こんな子供たちが土魔法の達人だなんて」



 午後はオリヴィアのおかげで、子供たち全員で作業に当たることになった。これは大いなるレクリエーションだ。

 子供たちが全員フィールドに現れただけで、高みの見物をしていたギャラリーが騒ぎ出した。

 それもそのはず、彼らは僕たちが休憩中にこっそり、僕たちの作業状況を確認していたのだった。僕たちの後の細かい作業を彼らがやるわけだから、やるなとは言わないが。

 適当に造ってるとでも思ったのだろう。作業ピッチがダントツだったから。

 他のパーティーは石切場から材料を運んでいる最中で、まだ整地作業も行なっていなかった。

「じゃあ、上下四段に分れて進めるぞ。一スパンに一人ずつな。終ったら順に下段から入るんだぞ。上ばっかりやりたがるなよ。後、水分はしっかり取るように」

「一人余るけど」

「僕は師匠と一緒に終ったところを仕上げていくよ」

 トーニオが言った。

「りょうかーい」

「師匠、もっと固くしちゃ駄目?」

 ミケーレが僕に尋ねた。

「なるべく均一に仕上げて欲しいんだけど」

「なんか緩過ぎてモヤモヤするんだよな」

 ヴィートが眉間に皺を寄せて言った。

 日頃、迷宮で障壁代わりに使っている壁の強度は今回必要ないんだが。

「慣れって怖いね」

「僕もちょっと不安かな」

 ジョバンニもニコロもできればそうしたいようだ。

「これだけ分厚い壁なんだから、いらないといえばいらないんだけど」

 ニコレッタも男子に迎合する。

「好きにしろ。頑丈にして怒る奴はいないよ」

「材料足りなくなるよ」

「取ってくる。場所空けときな」

「おっしゃ」

「了解」

 僕はもう一度石切場に向かうことになった。


 そして一仕事して戻ってみれば、壁の上で競争が始まっていた。

「急げや急げ」

「急ぐのはいいけど、手を抜くんじゃないわよ」

「わかってるよ!」

「次の段、行きまーす」

「これってさ、下の段の方が不利だよね」

「ポイント制にする?」

 年長組は相手にしてないようだが、年少組は楽しんでいた。

「ほーら、手が止まってるわよ」

「一番下は一・五点、次の段は一・三点。残りは一点。こら、ウロチョロしない」

「忘れ物取りに来たの!」

 フィオリーナはマリーの邪魔な尻を叩いた。

「ニコロ、余計な足場造らないでよ。頭ぶつけるじゃないの」

 ニコレッタが頭をさすっていた。

「届かないんだよ!」

「チビじゃしょうがないよな」

「うるさいな。ジョバン兄ッ!」

「チビの遠吠え」

「ジョバンニ!」

「ごめん、ごめん」

「浮かれるのも大概にしろよ。反対側に落ちたら死ぬんだからな」

 恐ろしい勢いで作業が進んでいった。

 仕上げ作業をしている僕とトーニオはどんどん離されていった。

 今回の監視役はモナさんだ。

 モナさんは基本何も言わない。気になったら口を出す程度だ。日除けのために造った壁にもたれかかって、子供たちの作業をじっと見守っている。

「角まで来たよー」

「こっからどうすんの?」

「ちょっと待って。図面確認するから」


「師匠、あれ」

「ん?」

 僕とトーニオのあずかり知らないところで作業は延長された模様。

 壁が直角に曲がり始めた。

「今日のノルマ超えてますけど」

「真ん中まではやっていいことになってるから、いいんじゃないか」

「材料がないんじゃないですかね。ほら、ヴィートがこっち来る」

「材料持ってくるのか?」

「早くして! 追い付かれちゃう!」

「まだ競争してんのか?」

 トーニオと苦笑いする。

「ここ頼むな」

「はい」


 僕は転移して、再び岩の塊を転送した。今回は手頃な大きさを確保できなかったので、小さい塊を三つだ。

 それをさらに細分化して急いで基礎の上に並べていく。子供たちはがっつくように塊を奪っていった。


「ありえねぇ」

「な、なんなんだ。ありゃ」

「まだ一日も経ってねぇっていうのに」

「工程表は四日間で組んでたんじゃなかったか?」

「あいつら一番暑い時間も動いてたからな」

「他の奴らはまだ着手すらしてねぇんだそ」

「適当に造るにしたって、あの速さはないだろう」

「適当なんかじゃねーよ。昼休みに確かめたけどよ。寸法は正確だし、強度だって半端なかった」

「俺のミスリルの剣が刃こぼれしそうだったからな」

「いや、欠けてただろう」

「糞ー、新品だったのにッ!」

「なんにしたって子供が造るもんじゃねーよ、ありゃ」

「あのガキ共、一人残らずマジでとんでもねぇ」

「ほんとに凄いのはあいつだ。師匠とか言われてたろう」

「そうだ! あの野郎、一体何者なんだ」

「あんな大質量をいとも容易く転送なんかしやがって。アールヴヘイムでもあんなことできる奴はいねぇぞ」

「レジーナにだって、できやしねー」

「そりゃ、そうでしょう」

「ああ?」

「なんか知ってんのか? サリー」

「彼は子供たちに師匠って呼ばれてるんでしょう? 孫弟子の師匠って言ったら、レジーナ様の直系ってことじゃないの。この地にいる直系なんてリリアーナとその甥御君ぐらいしかいないじゃないの」

「以前、新型のガーディアン売りに来てた奴だ。『ロメオ工房』のマイスターやってたんじゃなかったか?」

「ってことは……」

「英雄の孫、お貴族様だろうな」

「はぁああ?」

「おいおいおいおい! そいつが代表を譲る女って……」

「あんたがアマ呼ばわりした彼女?」

「……」

「突風に感謝しなさいよ」

「う…… そだろう。冗談じゃなかったのか?」

「だから言ったじゃねぇかよ! なんで聞かねぇんだ」

「ほんと、人の話し聞かないわよね」

「なんでこんな所にいる!」

「知らないわよ」

「なんなんだ、あいつら? マジで化け物の集まりか?」

「魔道士クラスが十人も…… 戦場でも滅多にないことよね」

「どう見たってただのガキだぞ」

「俺の息子より年下だよな」

「やべぇえ。本当にやべぇ」

「あんた語彙足んないわね」

「うるせぇ。リリアーナってのはあの坊主より凄いんだろう? 舐めてたぜ」

「『銀団』…… ギルドランク一位は伊達じゃねーな。やっぱすげーや」

 などという会話が後方の船の甲板の上でなされていた。

 子供たちにも聞かせてやりたかったが、耳のいい僕にしか聞こえてなかった。

「師匠、何ニヤけてんの?」

「ああ、後ろの馬がお前たちを褒めてたんだ」

「ほんと?」

「なんて?」

「小っこいのに頑張っててかわいいってさ」

「はー」

「案外いい野次馬だな」

 ヴィートとニコロが頷いた。

「おーい」

 マリーとカテリーナがギャラリーに手を振る。

「恥ずかしいからやめなよ」

 ミケーレが止めようとする。

「かわいいって」

 マリーとカテリーナは嬉しそうに笑った。

 あー、ごめん。かわいいは嘘だ。

 さすがに化け物扱いされてるとは言えないからな。


 しばらくして大量のガーディアンが飛んできた。それぞれが壁になる石の塊を抱えていた。

 日暮れまで後一時間。一気に並べてしまおうというのだろう。

 子供たちは造り掛けの壁の上から、別パーティーの作業風景をしばし眺めた。

 夕日を浴びた子供たちのシルエットが、やけに格好よく僕の目に映った。


「よーし。最後、スパンを揃えて終わりにするぞ」

「はーい」

「誰が一番?」

 ヴィートが言った。

「途中でわかんなくなった。多分二十点ぐらい」

 マリーは答えた。

「えー、もっとだよ」

 カテリーナが言う。

「そうかな?」

「なんで数えてないんだよ!」

「だって、休憩とかあったし。手伝って貰ったりもしたもん。手伝って貰っても自分のポイントにしていいの?」

「それは……」

「自分は数えてたのか?」

「うっ……」

 ジョバンニに聞かれてヴィートは黙り込む。

「いろんなことしてたから正確には……」

「僕は二十六点。みんなに何度も手伝って貰ったから、二十四点ぐらい?」

「僕は二十五点。でもマリーとかを少し手伝ったかな」

 ニコロとミケーレはさすがだ。

「それじゃわかんないよ!」

「一番になったら何かいいことあるのか?」

 振り向けば腕組みした副団長様がいた。

「普通じゃないとは思ってたけど……」

 遠くにいる別のパーティーの進捗状況と見比べ、その圧倒的な差に呆れた。

「師匠が素材を転送してくれたからね」

「こんなもんだよね」

「勝手にやってよければ、とっくに終ってたよ」

「壁だってもっと高くできたし」

 全員が頷いた。

「今日はもう日が暮れる。作業を終えて後片付けだ」

 手を叩いて撤収を急がせた。

「この調子だと、明日の分担は増えるだろうな」

「増えるって言ったって、もう正面一面だけでしょう?」

「そう言えるのはお前たちぐらいなもんだ。普通は嫌な顔するもんだ」

「それより、花火が見たいんで早めに帰りたいんですけど」

「北に向かった連中はまだ進路を変えてない」

「まだ欺瞞行動中ですか」

「停滞はしているらしい」

「じゃあ、そろそろ?」

「タイミングとしてはいい感じだな」

「副団長は行かないんですか?」

「行きたいんだがな。前線の湧きポイントが気になる。そいつを潰してからだ」

「被害は?」

「南部は三割。うちはガーディアンが何機かお釈迦になったぐらいでほぼ無傷。上々のできだ」

「ドラゴンタイプがあまりいませんでしたからね」

「北進中の一団に集中配備されてるんだろう。この後の行動は迅速を要するからな」



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