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嵐の前の…… 慌ただしさ?

「これをタロスが……」

 巨人にとっても天井高の部屋がたくさんの柱に支えられながら眼前に広がっていた。

 現在、僕たちは放棄された敵拠点の地下六、七層辺りにいた。

「全部で十三層あります」

 案内を引き受けてくれたのは以前お会いしたベルタさん。姉さんの側近だ。

「本能なのか、計算尽くなのか……」

 地下十三階の物件はなだらかな勾配によって、でたらめに繋がっていた。

 入り組んだ長い洞窟の途中に適当に大きな空間を十三個繋げた様でいて、最下層は見事に拠点のど真ん中を射貫いていると言う。

「でたらめに見えますが、破壊したときの影響をしっかり考慮しているものと思われます」

 柱の太さも所によって太かったり細かったり、数も多かったり少なかったり、平行であったりなかったり、均整を端から取る気のない異形であるが、これらすべてを計算尽くでやっているなら凄いの一言だ。

「本能のなせる技か。確かに最下層が崩れると、周りの階層を巻き込んで一帯が陥没する……」

 まだ下層には至っていないが、手書きの地図を見ただけでもなんとなく意図がわかる。

「ナーナ」

 ヘモジが早く下りようと急かした。

「一緒に行きます?」

 造りが同じならもう道案内は不要だが。

「よろしければ」

「じゃあ、一緒に乗って貰えます? 狭いけど」

 帰りのことを考えて、ベルタさんもヘモジが操る『ワルキューレ』に同乗して貰った。

 そして乗ってきた機体はお仲間に任せることに。


 僕たちは光源を漂わせ、奥へと進んだ。

 なるほど。隠し通路は結構分厚い壁に塞がれていたらしい。掘り返した残土が下層にはまだそのまま残されていた。

「そう言えば、増援の船団のことは聞いてます? こっちに来ないように言わないと」

「それなら大丈夫です。彼らには最終的に包囲殲滅戦に参加して頂きますので、離れた位置に隠れていて貰う予定になっています」


 さすがに暑くなってきた。

 結界の外では、もはや呼吸は困難。それにもまして有毒ガスが漂い始めていた。

 僕たちは縮こまりながら進んだ。

「うーわッ。赤いわー。赤い」

 最下層の床は溶岩で真っ赤っか。黒い地面もヒビが入っていて乗ったら沈みそうだった。

「あの…… よく考えたら『太陽石』回収しちゃったら、自爆テロ完遂しないんじゃないですかね?」

 ゴール間近でそのことに思い至った。

「妖精族は起こさないで持ち帰って、別の場所に敵を誘引します。自爆攻撃に人員を無駄に裂くことはしないでしょうから、殲滅は容易だと思われます。あとはタイミングを見計らって破壊を偽装します」

「なるほど」

「派手な狼煙を見た敵は勇んでやってくることでしょう。我々は被害を受けた体で撤退を偽装しつつ、後退して機会を窺います」

「うまくいけばいいですね」

「失う物は特にありませんので」

「妖精族を救助してしまえば、仮に元の鞘に戻ったとしても、敵は以前の様に増援できませんからね」

「どこからか『太陽石』を運んでこない限り、ジリ貧になりますね」

「そうなると南部の壁建設も重要に思えてくるな」

「ナナーナ!」

『太陽石』の塊を発見した。

 タロスの手のひらサイズの団子岩が、黒い地面の中央にある祭壇の様な場所に鎮座していた。

 妖精族の被嚢状態である『太陽石』は、溶鉱炉並みの高温でのみ、ようやく死滅が可能な存在であるが、このなかも充分過ぎるほど熱い。過酷だ。

「ナナーナ」

「着地するなよ。溶けたら困るから」

 勿論、冗談である。

 結界がある限り、熱の伝播はない。とは言え、熱源に直接触れているのと、空気の層を挟んでいるのとでは魔力消費量が段違いだ。

 ヘモジは『ワルキューレ』を溶岩窟に飛び込ませた。

 そして『太陽石』の上でホバリング。

「『万能薬』を口に含んで……」

 目でヘモジに合図する。

「転移するぞ!」

 自分を中心とした半径内のすべてを丸ごと切り取った。



 次の瞬間、青空が頭上に広がっていた。

 目の前には先ほど通った地下への入口があった。

「完璧」

 ドスンと土煙が上がった。

「ナ」

「落ちた……」

 足元に落っこちたのは『太陽石』と丸く切り取られた床だ。

 僕は地面に降りると冷やしながら『太陽石』とそれ以外とを切り分けた。

 ベルタさんのお仲間たちが集まってくる。『太陽石』を運ぶための箱をガーディアンにぶら下げて。

 そして同行してきた生きた妖精族が、石の確認をする。

「……」

 頷いた。

 どうやらしっかり『寝言』を吐いているようだ。


 ベルタさんの指揮の下『太陽石』は姉さんたちが事前に用意したダミー空間に運ばれた。そこで敵の潜入を待つようだ。

 僕たちも偽装工作に参加したかったが、先に進むよう促された。

 でっかい花火を見るために、頑張って早めに切り上げてくることにしよう。



「補給はいらないって?」

「南部に移動した本隊の方が必要だろうからって」

 ラーラが観葉植物に霧を吹いていた。

「それで、わたしたちの行き先に変更はないのよね?」

「ないぞ。僕たちはこのまま南下する」

「敵の狙いって結局なんなの?」

「この中央が突破されたと仮定したら、敵はどう動くと思う?」

「そうね…… 大陸を斜めに突っ切って、そのまま南下か、まっすぐ西進か…… いえ、南下ね!」

 そうだ。敵の狙いはあくまで南部の海峡だ。

「海を渡れないタロスが殲滅以外の理由で大陸中央を抜く意味はない。むしろそのときは南部の一団を挟撃する絶好のチャンス。どちらも狙えるなら、より大きな実りを採るはずだ」

「大陸の深部にまで進んだ南部の船団は補給路を断たれて、孤立するわね」

「蚊帳の外だと思われた北進部隊が、勝利の鍵となる」

「なかなかやるわね」

「姉さん、それがわかってて、船団のほとんどを移動させるんだもんな」

「お互い前線をいじくり倒して身を切らないと、膠着状態が打開できないのはわかるけど。無茶するわよね。ここでどれだけ敵を足止めできるかが本来、勝負の鍵になるんでしょうけど、サービスし過ぎよ」

「この拠点を取って、浮かれているところを演出したいのさ」

「侵攻速度とか、大丈夫なんでしょうね?」

「この船にとっては最高のシチュエーションだろう?」

 貰った情報を地図に落とし込んだものを見下ろす。

「姉さんの謀略がうまくいけばよし」

「失敗しても南に足掛かりはできる。失うのは精々この拠点だけね」

「その頃はここもただの廃墟さ」

「強行軍になるわね」

 武者震い。

 ラーラも幼かったあの頃の様に頬を赤く染めて、そのときを待つ。

 僕たちは昼食を取り終えると、舵を南東に切って増援部隊の後を追い掛けた。

 新型を飛ばして敵にちょっかいを出す機会はなかったが、楽しみは本番まで取っておくとしよう。



 全速前進。船の耐久度が証明される中『銀花の紋章団・天使の剣』のしっぽを捉えたのは二日後の朝。

「合流する?」

「状況が知りたいわ。光通信」

「イザベル、行きましょう」

 ラーラがイザベルと階段を下りていった。

「返信来ました。『旗艦スパーダ・ルンガロッサにて待つ』以上です」

「ラーラ姉ちゃん、聞こえた?」

『聞こえたわよ』

 目の前のエレベーターから二機の赤い『スクルド』が迫り上がってくる。

「どれが旗艦だろう?」

赤い剣(ルンガロッサ)て、言うんだから赤いんでしょう』

『上から見える?』

『見えなーい』

『近付けば誘導してくれるでしょう』

『先行くわよ』

 イザベルのワインレッドの機体が飛び立った。



「独立して動いていいって?」

「足の速さが違うから、先に行って到着まで掻き回してこいって。なんなら殲滅しちゃっていいって」

「もしかして副団長、乗ってた?」

「よくわかったわね。いたわよ、ミセス、アドルナート副団長」

「それより『スパーダ・ルンガロッサ』て『スパーダ・ディ・アンジェレ』の姉妹船だったのね。まさか同型艦が建造されてるなんて知らなかったわ」

「被らないように運用してるって言ってたから、リリアーナ様と一緒にいると滅多に見られないのよ。最強の冠は伊達じゃないわね」

「この船も結構大きいと思ってたけど…… あれ見ちゃうとちっちゃいわね」

「ちっちゃい言うな」

「乗ってる人数が全然、違うじゃん」

「ガーディアンも七十機は積んでるしな」

「うちら何機?」

「ラーラ姉ちゃん、イザベル姉ちゃん、モナ姉ちゃん、師匠、ヘモジ……」

 マリーが指折り数える。

「八機かな?」

「でも帆船じゃないし。風任せじゃないし!」

「スピードでは負けないから!」

「あんなでかい船に負けちゃ駄目でしょ」

「しかし、免罪符が貰えたのは有り難い」

「ちょっと! 子供たちがいるんだから無茶しないでよ」

「なぁに、迷宮でやってることと同じさ。敵はただのミノタウロスだ。お前たちならガーディアンを使わずとも素手で倒せる」

「新種とかいること忘れてない?」

「それこそ優先して排除しないと」

「問題は巨人と張り合える足がないことだよね。ガーディアン三機しかないし」

「多勢に無勢」

「基礎を鍛えないと『身体強化』も限界あるからな」

「まあ、船の結界の内側で戦う分には何も言わないわよ」

 実際のところ、観測や見張りで手一杯だろうな。

 僕たちの船は船団を離れて、ひた走る。

 会敵予定時間は翌朝七時……

「朝食、食べてから臨めそうだな」



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