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到着すれども姿は見えず

「出たな、売れ残り!」

 先日の祭りで売れ残ったピザの材料を大量に積み込んでいたことを僕は知っていた。それが早くも登場。

「毎日ピザでいーよ」

「わたしも」

「パスタもあるから。辛い奴」

「アラビアータ?」

「『燃えるイフリートパン』の辛子ソース。作り過ぎて余った奴」

「『燃えるイフリートパスタ』か!」

「イフリートは入ってないよ」

「あんなでかいの入るかよ!」

「肉だよ、肉!」

「わかってて言いました」

「デザートは?」

「プリン」

「最近、手、抜いてるよね」

「まとめて作り過ぎたんじゃない?」

「まあ、今回のプリンはバケツプリンだけどね」

 ニコレッタがニヤリと笑った。

「……」

 全員、警戒を強めた。

「みんなで崩して食べましょう。クリームとフルーツたくさん載ってるわよ」

 フィオリーナが手を叩く。

「手抜き最高!」

 雰囲気がバラ色に染まった。

 子供たちは一品がテーブルに置かれるのを、まだかまだかと待ち焦がれた。

 そして……

「こ、これは! 地獄の間違いでは……」

 全員が後退る。

「お姉ちゃん。バケツのサイズ…… ちゃんと考えようよ」

 それはとても子供九人で食べ切れるサイズではなかった。モップも浸かるでかいバケツに並々と…… しかも生クリームたっぷり。見ただけで胸焼けしそう。

 黙って見ていた大人たちもヘモジもオリエッタも、果てはピューイとキュルルまで参加して、なんとか食べ切った。


 この間も船はずっと全力疾走していた。

 窓の外の景色はあまり代わり映えしなかったが、着実に前進していた。

 マップ情報は修正に次ぐ修正が行なわれた。主に到達時間の変更であった。

 だが、それだけ全力で動いていたにもかかわらず本日、魔石の消費は二個だけに収まっていた。現在、この船のすべてのソケットには闇の魔石が装着されている。

 反応炉に使う分が用意できなかったのはつくづく残念だが、この調子だと特大魔石一個で間に合ってしまうかな。

「精霊石残しておくと、持って行かれる気がする」

「大丈夫よ。買い取れないから」

「そもそも反応炉付いてる船なんてないし」

「よかった。変な船で」

「変って言うな」

「だって変だもん」

「でも格好いいから」

「一番、格好いいから!」

 ありがとう。ニコロ。ミケーレ。技術畑のお前たちなら分かってくれると思ったよ。

「でもあのエアインテークは直した方がいいと思う」

「毎回、幌掛けるの面倒臭いし」

「……」

 善処します。



 予定時刻。最短記録を叩き出して僕たちは目的地に到着した。

「…… あれ?」

「ちょっと、場所ここで合ってんでしょうね?」

 全員がテーブルに集まり地図を覗き込んだ。これまで進んできた航路を再確認。投影機の縮尺を変えながら、こちらも確認。

「合ってるはずだけど……」

「人っ子一人いないじゃないの!」

「明かりあるよ」

「どこ!」

 今度は窓に全員張り付く。

「どこだ?」

「どこよ!」

「あっち」

「地平線の方」

「行ってみましょう」

「トーニオ、転舵!」


 僕たちは夜の帳のなか、ただ一つ灯る焚き火の明かりに船を横付けした。

「おー、早かったなぁ」

 そこにはガーディアンが載った運搬用の小舟が一隻と三人の親父がいた。

「あのー。ここって『銀団』の前線キャンプじゃ……」

「ああそうだ。でも前線キャンプは移動したんだ。俺たちはそれを知らせるための伝言役だ」

「移動した?」

「急だったんでな」

「砦に知らせを向かわせたんだが、会わんかったか」

「ええ、残念ながら」

「お前らだけか?」

「後続は後から来ます。明日の昼ぐらいですかね」

「砂嵐があったにしては早いな」

「ここにも来ました?」

「いいや、ここには来なかった。北の空がそれっぽかったからな」

「なるほど」

「移動先を教えてやる。下りてこい」

「今、行きます」

 イザベルと二人、キャンプに降り立った。


「移動はいつ?」

「終ったのは昨日だ。うちらとつばぜり合いしていた敵の拠点が、三日ぐらい前か、南部に呼応するかのように突然、兵を引き上げ始めてな」

「最初は何かの罠だと警戒していたんだが……」

「距離的には、ここでやり合ってたくらいだ、そう遠くない場所だ」

 地図を指した。

 敵の拠点を表わす表記にバッテンが付いていた。

「段階的に移動して、昨日全部移し終えたところだ。残るは俺たちだけだな」

「いてくれて助かりました」

「そう言ってくれると俺たちも貧乏くじ引いた甲斐があったってもんだ」


 この先はガーディアンで何度か飛んだことがあるけど、案内の尻に付いていっただけだから、詳しく覚えているわけではない。

 僕たちは夜明けを待って出発することにした。

 こちらで見張りを立てることにして、三人の親父たちには熟睡して貰うことにした。

 追いついてくる船がないことは予想できたし、各方面に伝令が出されたのが昨日、一昨日となれば、今夜、ここに到達する船は余程運のない船ということになる。



「本隊は数日前に移動したらしい。今夜はここで一泊して明朝、日の出とともに出発する」

 僕はドームフロアに戻って、説明した。

「ソナーの索敵範囲を最大にセット。襲撃はないと思うけど、一応、準戦闘配備だ」

「砲塔、出しておきます?」

「そうだな。それとガーディアンを何機か甲板に上げておいてくれ」

「誰の?」

「わたしとイザベルの機体を。標準装備でいいわ」

「はーい」

「ナナナ」

「あんたたちは寝なさい」

「えー」



 予想通り敵の襲撃はなかった。

 僕は後をラーラに任せ、欠伸しながら自室に戻った。

 船は移動を開始。

 この船の速さなら、半日もあれば移動先に到着できるだろう。



「ナナーナ」

 ほっぺたに小さな手。

「時間か」

「ナナナ」

 個室を出ると、そこはもう操縦室の裏手。

 操縦席に座るトーニオが目に入った。

「おはようございます」

「おはよう」

 僕の行き先は食堂だ。

 メインの主柱に絡み付く蔓のような螺旋階段を下り、フロアに降り立つ。そして巨大な窓から外を見る。

 見たことがあるような、ないような、いつも通りの砂漠の景色が広がっている。

 甲板に上げたはずのガーディアンの姿が見当たらない。

 ラーラが突然、階段下から現れて僕は驚いた。

「びっくりした」

「驚いたのはこっちよ! 何びっくりしてんのよ」

「偵察に出てると思ったから」

「いつの話よ。とっくに帰ってきたわよ。機体は格納庫。ほら」

 窓の外に、子供たちの一番機となぜか僕の機体がエレベーターに乗って迫り上がって来るのが見えた。

 ヘモジがこちらに手を振る。

「!」

 さっき僕を起こしにきたばかりだろうに。いつの間にそんなところに。

「一時間に一回飛ばしてるわ。これで四組目よ」

 一番機はジョバンニか。

 二機仲よく発進位置に付いた。

 僕は食堂横の洗面にまず向かい、顔を洗った。

 そして、冷めた食事を……

 温まっていた。

 擦れ違ったラーラを思い出した。

 自然と手が合わさる。感謝して。

「いただきます」



 一息ついて、フロアに戻ってきたら、子供たちが全員出払っていた。

 全員、せまい展望室に上がっていた。

「何やってんだか」

「ソナーの視界に入ったんですよ。目標地点が」

 トーニオが言った。

 僕は投影機を覗いた。

 すると結界に囲まれているせいだろう、半円がいくつも重なったポイントが盤面の隅に見えた。

 展望室では「見えた」「見えない」だの騒いでいる。

「便利ですよね」

「方角がはっきり分かるだけでも有り難いよな」

「不安が軽減されますもんね」

 感覚の優れた獣人でも、この距離はやっとだろう。

 船はまっすぐ目標を目指している。

 でも、返す返すも不思議でならない。なぜこの時期にタロスは引いたのか?

 膠着状態は長いスパンで考えれば、タロスに優位に働くはず。

 なぜならこの世界に魔素が充満するほど、奴らは進化の度合いを早めるからだ。

 第二形態。重力魔法を操る新種。そして船の運用…… 五十年の歴史を見ても、ここ一年の敵の変遷は目まぐるしい。

 逆に今まで何をしていたのだと、思わざるを得ない。迷宮は何もクーが最初ではない。あちらの世界から運び込んだ魔石の数も尋常ではないはずだ。魔素は人類の営みと共に増え続けてきた。

 だが、爺ちゃんたちが訪れたあの頃からタロスに大きな進化はなかった。

 必要なかったとも言えるが、その余力が消えてなくなったとも思えない。

 とは言え、こちらも敵の力を削ぐために今日まで戦い続けてきた。余力など端からないのかもしれない…… が。

 この後退が、新たな変化の兆候でないことを祈るばかりだが…… 南と中央…… 偶然ではあるまい。

「姉さんに会ったら、単独で少し突っ込ませて貰うか……」

 僕は今回持ち込んだ『万能薬』の大瓶の数を思い浮かべた。


「ガーディアン飛んでくるよー」

 カテリーナが言った。

「偵察だろう。光信号見逃すな」

「はーい」

 しばらく待っていたのだが、何も言ってこなかった。

「?」

「なんだろうね? この間は」

 船はどんどん近付いていくが、応対がまるでない。

 止まれとか、どこから入れとか、誘導はないのか?

「光信号!」

「ようやくか」

 結局、減速を重ねて、停止を余儀なくされた。

 いよいよ、辛抱仕切れなくなったこちらの姫様が、文句を言ったら、ようやく動き始めた。

「付いてこいって」

「微速前進。ヨーソロー」

 トーニオの声と共に船が動き出した。



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