表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
367/553

前線目指してまっしぐら。

「ジュース、おいしい……」

 冷房の効いたドームフロアの床に転がりながら、子供たちはジュースを飲み干す。

「幸せー」

 溶けちゃいそうという形容がまさにぴったりの光景。

「やっぱり見張りが少人数で済むのは有り難いよな」

 オリヴィアたち商会スタッフに感謝だ。

 一緒に運用に参加していたので、彼らはこの船の欠点がよく分かっていた。普通の船なら問題にならない案件も、この船では最大の懸案と化していた。

 この船の正規クルーの数が船の規模に比べて圧倒的に少ないのだ。しかも子供ばかり。

 子供ばかりだからこそ、外部の者をあまり入れたくないわけでもあるのだが。

 そのせいで全方位をカバーするように見張りを立てると、搭乗員が全員出払ってしまうことになる。当然交代要員はいない。

 そこでオリヴィアが取り付けたのが、どこかの倉庫で埃を被っていたソナーシステム。

『認識』スキルを擬似的に音響で再現するものだが、反響して戻ってきた音波を再構成して映像化するところで挫折していた。

 元々は暗い夜道で利用する目的で発案されたものだが、実際に開発するには至らなった。でかい装置を担いで夜道の散歩に出るくらいなら、ランタン一個の方がマシだったからだ。

 船上においては獣人の目と鼻と耳があれば、大抵のことは間に合うしな。

 そういったわけで画期的な発案だったが、飛空艇時代においてさえ脚光を浴びることはなかった。

「映像を再現するこのシステムが凄いよねー。なんでかわかんないけど、立体的に見えちゃうもんねー」

 ミケーレが頬を赤らめ丸いパネルにすがりつく。

 盤面に置かれた二枚のガラスの間に敷き詰められた粒子の層が、ピンガーを打つ度にその形を変え、周辺の情報を俯瞰するかのように見せてくれるのだった。

 これにより操縦席にいながらも、船の周辺状況が手に取るようにわかるようになったのだった。実際、子供の座高では腰を浮かせて覗き込む必要はあったが……

「場所を取るのが難点なのよね」

 オリヴィア曰く、アイデアはあったが、置き場所に困っていたという。

「操縦席から見えなきゃ、意味ないからな」

 操縦席がそもそも主柱の枝の先端の限られたスペースにあったので、どうしようもなかったのだ。

 が、吉報がもたらされた。

 僕たちが『飛行石』を入手したという知らせだ。

 ガーディアンに取り付けた分以外は使い道がなかったので、子供たちにお願いして在庫を譲って貰った。

 そして操縦席が載った枝を途中から枝分かれさせて、見下ろす位置に装置を取り付けることにしたのである。

 当然、力学的に問題が起きた。

 そこで『飛行石』の登場である。

『飛行石』を原料にした輪っかを造り、その内側に装置を納めて宙に浮かせたのである。

 さらにその指輪の周りにプラットホームを設置し、操縦者の視界を塞がないように、配置したのだ。

 力学的にはあり得ない構造だが、それ故、子供たちの評判は上々だった。

「なんか格好よくなった」

「盆栽みたい。枝が横にびにょーって伸びた感じ」

「山羊爺ちゃんちの盆栽か! そう言われると…… あー、盆栽にしか見えなくなった!」

「オリヴィアもさぞ鼻が高いでしょうね」

 プラットホームが立体的になったおかげで、よりそれらしくなった。

「将来ここがモデルルームになりそうで怖いわ」

「あれなら落っこちても平気だね」

「落っこちるのは駄目!」

 カテリーナをフィオリーナがたしなめると、笑いが起きた。

 我が家の莫大な投資が技術の発展に寄与できたのなら、ありがたいことである。

 因みに粒子の発明者は爺ちゃんだ。

 見事なマッチポンプ。

 現在、探知範囲は主砲の射程範囲の一・五倍程度にとどめている。

 縮尺を大きく取ると周囲の地形と照らし合わせづらくなるので、程々にだ。オリヴィアたちが初期設定してくれた縮尺でもある。魔力も無駄になるし。

 ピンを打つタイミングは操縦者に任せることにした。

 オリエッタが欠伸している間は基本大丈夫なので、図柄は前回ピンを打った映像のままになっていた。

 鼻提灯が膨らんだら作動させればいいだろう。

「動いてる物を勝手に検知してくれると有り難いんだがなぁ」

「結局、最後は人の目よ」

 そういうことで、通常航行時において、見張りは展望室だけとなった。

 結果、子供たちは揃って双六を楽しむ時間ができたわけだ。



「いやー、こりゃ、言い訳がつらいね」

 僕たちの船は日暮れ前に遅れを取り戻してしまった。

 後続は夜通しになるだろうが、さて、こちらはどうすべきか。

 多数決で早寝早起きが採用された。

 ここまで闇の魔石を四つ空にした。寝る前に全員で補充して、程よく疲れたところで皆個室に引っ込んだ。



 翌朝、はためく帆の音に起こされた。それは船団が近付いてくる音だった。

 僕は操縦席から飛び起きる。

 獣人の耳を持つが故か…… 他の家人はまだ夢のなかにいた。

「オリエッタ、起きてるか?」

 展望室にいるはずのオリエッタに声を掛けた。

『起きてる』

「船団、見えるか? 距離は?」

『ちょっと左にずれてる。数はいっぱい』

「あっちは風任せだからな。邪魔にならないようならいい」

『遠いから大丈夫』

「なんか飲むか?」

『暖かいの』

「了解」

 僕は厨房でミルクを水筒に入れると、オリエッタ専用の器と自分のコップを持って展望室に向かった。


「お、ちょうど日の出が拝めるな」

 オリエッタが返事の代わりに欠伸する。

 僕は器をテーブルに置くと、魔法で温めながらミルクを注いだ。

 地平線に船団の勇姿が見えてきた。

「追い付かれる前に出すか?」

 ミルクをのんびり飲みながら、日が昇ってくるのを待った。

「ちょっと、当番はどこ行ったのよ」

 下からラーラの声が聞こえた。

「ここだ、ここ」

 扉を開けた。

「なんで、そっちにいるのよ!」

「船団が追い付いてきたんだ」

 ラーラはこちらではなく、装置の方に向かった。

「まだ映らないだろう。地平線から出てきたばかりだからな」

「だから、これと体感との違いを知りたいのよ」

「動力は切ってないから勝手にどうぞ」

 装置に映る範囲と自分の感覚とを摺り合わせたかったらしい。

「映った!」

 ピンガーを打って、そう叫ぶと、ラーラは急いでこちらに上ってきた。

 そして僕とオリエッタの間に割り込んできた。

 帆に描かれたエンブレムがなんとなくわかる距離まで船団は近付いてきていた。

「よし、船を出すか」

 僕は下に降りた。

 ラーラの摺り合わせが終れば、ここに長居する理由はない。

 魔石をチェック。

 ずっと止めてあったのだから、減るはずもない。

「機関、始動。『浮遊魔法陣』出力伝達。高度十…… 二十…… 三十…… 姿勢制御、異常なし。西風、風速一メルテ。問題なし。『補助推進装置』作動確認。発進スタンバイ完了。直進、微速、ヨーソロー」

 子供たちを起こさないように緩やかな発進を心掛けた。

「いやー、でかい船なのにスムーズな立ち上がり。馬力あんなー。我ながら感心」

「ナナーナ」

 ヘモジも起きてきた。

 そして投影装置の縁に立って盤面をじーっと睨み付けた。

 僕はピンを打って、最新の状況を映し出してやった。

「ナナナ!」

「味方だよ。追い付いてきただけだ」

「ナーナンナ」

 なんだ、つまらないという仕草をして展望室にのそのそ上がっていった。

 入れ替わりにラーラが下りてきて、そのまま船内の見回りに。

 さすがに眠くなってきた。

『ナーナ』

 展望室から知らせがきた。

 目印の岩山を発見したらしい。

 僕は周囲を見渡した。ついでに投影装置の盤面も。

「こっちで縮尺変えられるんだよな」

 操縦席の操作パネルに追加されたレバーをいじると、映し出された映像が拡大したり縮小したり。

 画像を引きで見たら、それらしき歪な段差を見付けた。

「あっちか」

 映像と実際の方角は一致している。

 しばらくして、はっきり肉眼で捉えた。

 砂丘ではない小山に緑が苔のように生えていた。

 地図を見て、船の向きを変える準備をする。

 タッキング不要のこの船はやることが少なくて助かる。

「転舵よーい」



 仮眠明け、遅い朝食をひとり寂しく食堂で取る。

 子供たちは今日も元気だ。騒ぎ声がここまで聞こえてくる。

 子供たちはモナさんと一緒に船内を飛び回り、砲塔の稼働テストをしているようだった。


 食事が済むと、僕は格納庫に下り、ロングレンジライフルの改造作業を再開した。

 移動中にのんびり完成させればいいやと思っていたのに、移動が順調過ぎて、余裕がなくなってきた。

 名前なんだっけ? 『ホルン』…… 嗚呼、『ギャラルホルン』。機体の色は白地に若竹色に落ち着いた。金色が入るとなんとも上品…… 美術工芸品のようだった。さすがモナさん。と、その他大勢。

「気に入った」

『ワルキューレ』のような派手さはなくなったけど、その分優美な感じがいい。脇に刺したソードの鞘の金と黒とのコントラストがまた…… 渋い! 盾に描かれたエンブレムの色鮮やかさが、これまたいいアクセントになっている。戦場に出すの勿体ないわ。

「師匠。お昼だよー」

「うーい」

 気付いたときにはもうお昼。さっき朝飯食ったばかりなんだけど……

 僕は立ち上がり、迎えに来たニコロの後に続いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 白地に若竹色で、金色が入る・・・ユニコーンガンダムのNTーDモード(最大覚醒時)かな?(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ