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続、休日を過ごす

「ナーナナー」

「眩しい」

 限界高度まで一気に上昇。

 推力をカットして滑空に入ると思いきや、そのまま半回転ロールして急降下。

 仰向けのまま落下しながらライフルを上方へ向けて発射。そのまま横滑りしながら、後方宙返り。推進装置に点火して軌道を大きく変える。

 ドラゴンと架空の追いかけっこを始めた。

 三人揃って三半規管が人並み以上だからなんともないが、吐くから普通。

 地上が迫ってくると緩やかに減速、滑るように地面に接近。終ったと安堵した瞬間、直角に回避行動。足の裏の新機構を使って砂を巻き上げながらホバーリング。右に左に蛇行の連続。

 二次元で無茶する方が怖い。

「あわわわわっ」

「しゃべるな。舌噛むぞ」

 ヘモジは盾とブレードを振り回しながら、副腕も使って中距離武器を取る。

 くるくる旋回しながらブレードでヒットアンドアウェイ。その合間に銃弾を撒き散らして牽制する。

 お前、今、何と戦ってる?

 機動性の上限が上がった分だけ無茶しやがる。


 そして脳内の敵集団が必死に抵抗を続けていたそのとき、機体はピタリと停止した。

「ナナ?」

 一瞬で魔石、丸々一個使い切りやがった。

 僕は魔力を操縦桿から直接通した。

 ヘモジはブレードをシャキンと収納、悦に入った。

「ナーナーナ」

「盾いらなかったって」

 あれだけ無茶しておいて言うか!

「八方美人の機体は役に立たないって言うけど…… できが良過ぎたな……」

 確かに、重力魔法や光の砲台に対抗するための盾だから、雑魚敵掃討にはいらないと言えばいらないけど、ヘモジとのセットはやば過ぎる。

 でも、これで「近接仕様にしてやるから、ひとりで『ワルキューレ』に乗れ」なんて言うと、駄々を捏ねるんだよな。

 わざわざ小人になって、ガーディアンを動かしてる時点で普通じゃないんだが。一緒にいたいという一念だけは身に染みて感じられるから。

「魔石交換したら、帰るぞ」

「ナーナ」

「しっぽ、折れそう……」


 敵に遭遇できるんじゃないかと、淡い期待を抱いていたが、姉さんの防衛ラインは完璧に機能していた。

「もう、前線まで出るしかないな。仕方ない。お腹空いたし」

「ナーナ」

「帰ろ、帰ろ」

 魔石を浪費した程の成果はなく、僕たちは帰路に就いた。

 嗚呼、首が痛い。



 ほぼ無傷だった機体は、ヘモジの最後の無茶によってガタガタになっていた。

 特に盾を持つ腕は空気抵抗をもろに受けて、クラックまで入っていた。

「軽くなっても、空気抵抗まではな……」

 学習機能もオーバーワークが過ぎて、たまに計測不能状態に。

 実戦では結界を張るから、ここまでひどいことにはならないだろうが。安全率を考えると、持ち堪えてくれないと困る。

「飛行形態をもっと考慮したデザインにしないと駄目ってことか」

「高速移動中は盾固定で」

「ナーナ」

「お前が無茶しなきゃいいだけなんだけどな」

「ナーナンナ!」

「そりゃ、そうだけど」

 確かに、最悪を想定しての実験でなければやる意味がないのはわかる。

 ドラゴンの群れに襲われるとか、無茶するシーンはいくらでもあるからな。

 全力で飛び回っても壊れない、それでいてドラゴンの狡猾さをも上回るスペック。その両立ができてこそのガーディアンだ。

「あ、そっか」

 剣を抜く以外何もしていない副腕が一本余っていた。高速での飛行中は副腕にサポートさせればいい。ちょうど盾側だしな。



 学校を終えた子供たちが詰め掛けた。

 ピューイとキュルルも一緒だった。ペタペタと滑らかな床を叩きながら倉庫内を闊歩し始めた。

 食べ物は保管してないぞ。

「見せて、見せてー」

 囲いを無視して子供たちは飛び込んできた。

「おー」

「なんかすげー」

 お、お褒めの言葉?

「盾かっけー。俺たちの機体の盾も尖らせようぜ」

「うちらの盾はフライングボードだから無理」

「伸びる足なくなっちゃったね」

「あれはあれでかっこよかったのに」

 え、そうだったの?

「なんか折れちゃいそう」

「大丈夫だよ。『飛行石』で軽くなってるから。それに全身ミスリル骨格だし」

 解説ありがとう。さすがミケーレ。詳しいな。

「そうだ! 軽くしたら、盾尖らせられるじゃん。うちらも『飛行石』使って改造しようぜ」

「言っておくけど、三等分だからね」

 三機とも改造するのか?

「気楽に言わないでよ。『飛行石』は貴重品なんだから」

「迷宮のもっと奥に行けば、もっと手に入るんだよね?」

「厳しい条件があるけどな」

 爺ちゃんは『楽園』があったからいくらでも回収できたけど、普通はそうはいかない。

『飛行石』が掘れる浮島は、それぞれが吊り橋だけで繋がっている。

 つまり吊り橋のロープが耐えられる重さ分しか、人は乗れないし、浮島自体『飛行石』で浮いているわけだから、それを持ち出したらどういうことになるか。浮島では掘り起こした残土でさえ、重要なファクターとなるのだ。

 おまけに転移結晶で奈落に落ちる前に脱出することがセオリーと化す程、時間的にもシビアな作業となる。

 何より怖いのは、島の重心がズレて、それが吊り橋で支えられる許容範囲を超えたとき、いきなり天地がひっくり返ることだ。

 爺ちゃんは回収した『飛行石』と同じ重さ分の残土も回収していたので、島の沈下は緩やかなものだったが、重心の調整は常に気に掛けていた。

 そもそもその重心捜しが難しい。

 それぞれの浮島は互いに引っ張り合ってバランスを保っている。停止しているからといって安定している状態なのか、そもそも怪しいのである。

 大抵、ロープが切れた途端、コロンである。

 常識で考えるなら質量の大きな島を狙うことが、安全の第一歩となるわけだが、そこは迷宮。

 我が家では、大きな島には設定自体ないものと割り切っていた。

 鉱脈があるのは突然消えても、全体に影響を及ぼさない程度の、おまけのように付随している小さな島だけだと。


 下層も下層だし、誰でも行ける場所ではないから、事故報告は少ないが。たまに欲深な商人が手を出して失敗する。

 そもそも、そこまで行ける冒険者にお金に困っている奴などまずいない。むしろ欲しい物は金を出して買う側の人間だ。誰が好き好んで時限爆弾付きの穴掘りに興じるものか。

 当然、依頼をしてもふっかけられるのが関の山。

 損を覚悟でやるならいいが、損して平気な商人はまずいない。損を回収する気満々で無茶をする。

 討伐は冒険者に任せるしかないが、作業は脱出用の魔石など使ったこともない、冒険とは無縁の安上がりな一般鉱夫を交えた、それなりの規模のものとなり、大抵、訳もわからぬ内に、島と一緒に転覆するのだ。

 坑道のなかにいた連中はコブができる程度で済むかもしれないが、地表にいた者は突然、投げ出される。そして運が悪ければ……

 せめてこの手の荒事に慣れた人材を採用すべきだが、予算がそれを許さない。

『飛行石』を回収する作業であるから、島の落下は必然。時間との戦いになるわけだが、そんな緊張状態で、変わり続ける島の重心にまで気が及ぶだろうか? そもそも重心の位置を追えるのか?


 なぜ、昔から『飛行石』は存在するのに、市場にあまり出回らないのか?

 それは爺ちゃんのような特別なスキル持ちでなければ、割に合わないからだ。

 それも適当に掘って、ロープが軋みだしたらおさらばするぐらいの気楽さでなければ。

 やはり大量に持ち出そうと思うと、同じ重さ分だけ重石が必要になるのがネックだろう。

 爺ちゃんのように現場で残土を重石代わりに使うことも可能だろうが、一度に転移を完了させなければ、そして脱出できなければ状況は変わらない。

 転送を頼む魔法使いもただじゃない。金塊を重石に使ってさえ、何倍もの体積が必要とされるのだ。それを転送させようというのだから、さすがに欲で目のくらんだ商人も偉いことに手を出したと気付くだろう。

 鯨を餌に小魚を釣るようなものだ。安定しない足場の上で、鯨を竿の先に吊す段階で無茶だとわかるはずだ。

 今の僕なら浮島ごと回収できるけどね。

 転送先に飛んで行ってしまわないように屋根を設ける必要はあるけど。

 しっかりした地面の上で、のんびり作業するのが一番である。が、それはまだ先の話だ。



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