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クーの迷宮(地下44階 クラーケン戦)クラーケン戦は嵐と共にやってくる

遅れましたm(_ _)m

 早朝、船は岩礁地帯に迷い込んでいた。

 僕は座礁してもいいように船体を分厚い氷壁で覆った。

 この段階でもう船なんてお飾り状態。

 流氷の上に載った御輿である。

 ヘモジは朝からその氷を砕いて積み上げ、かまくらを拵えていた。

「言えばパウダースノーにしてやるのに」

 眠い目を擦りながら僕はヘモジを呼んだ。

「朝飯にするぞ」

 朝はロールパンにジャム。昨日のコーンポタージュの残りだ。

「ナナナ」

「お餅、食いたい?」

「あるけど。網はないぞ」

「ナーナンナ」

 魚を串刺しにした鉄串をチラつかせた。

「かまくらで食いたいわけね」

「ナーナ」

「ちょっと待ってろ」

 缶詰のなかにあったお汁粉を見て、思い至ったようだ。

 でもこれ開けると絶対半分以上余るよな。保存箱に入れて倉庫送りにするか。

 ここは氷塊で作った凸凹だらけのかまくらに免じて、許してやろう。


 缶の中身を鍋に移し替えて囲炉裏に掛けると、非常食用の餅をヘモジの元まで持っていく。

 ヘモジは勝手に簡易コンロに火の魔石を嵌めて、既に室内を暖めていた。

 暖房器具じゃないんだけど意外に温まる。

「ナーナーナ」

 餅は任せて、僕は甲板に戻る。

 ヘモジはチーズフォンデュでもするかのように、餅を串刺しにして、コンロに立て掛け、遠火で焼き始めた。

 お汁粉はすぐに温まったので、オリエッタと一緒に氷塊に下り立った。

「座礁しても知らないよ」

 オリエッタが警告する。

 でも座礁することは想定済み。座礁したら氷を溶かして脱出すればいいだけだ。そのための余白が氷壁なのだ。

「食事中は止まっててもいいくらいだ」

 オリエッタ用のさいの目に切った餅が真っ先に焼き上がった。焦げも多くなってしまったが。

 ヘモジは自分用にチョイスした大きめの餅がなかなか焼けないことにやきもきした。

「欲を出すからだ」

 見るに見かねた僕は魔法を使って内側に火が通るのを助けた。

 汁粉も冷め始めたので、温め直した。


「いただきまーす」

「ナーナンナー」

 ようやく朝食に有り付いた。

 空いたコンロで昨日の『アローフィッシュ』を炙る。

「甘々」

「ナーナ」

 オリエッタはニチャニチャ食べにくそうだが、ご満悦である。

 ヘモジは大きな餅を一つペロッと食い尽くし、二つ目を慎重に味わっていた。

「お餅あと幾つ食べる?」

「ナーナ」

「ん」

 ヘモジはあと二つ食べると言った。

 オリエッタは両手を広げて量を示した。

 僕もあと一つ食べたくなったので、三つ半、串に刺して火にくべた。

 焼いた『アローフィッシュ』は少し摘まんだだけで、ほとんど食べ残した。やはり薪でじっくり焼かないと物足りなかった。

 なので海にポイした。魚の餌の餌ぐらいにはなってくれるだろう。

 残った『アローフィッシュ』の半身はこの後、天日に干す予定…… だったのだが、空が曇りだした。

「嫌な予感」

 遠くでゴロゴロ言い出した。

「こりゃ、嵐が来るな」

 そう言いながらも僕たちが食事を中断することはなかった。

 船を岩礁地帯に留め置いたのだ。

 進めば大波に揺られて大変なことになるが、この辺りの浅瀬を凍らせて陣地を形成してしまえば楽にやり過ごせると考えたのだ。

 大波も広範囲に張り巡らされた氷面を越えてくる頃にはさざ波になっている。

「んんッ!」

 僕たちは餅を喉に詰まらせそうになった。

 それは嵐のなかに強大な魔力を見付けたからだ。

「ナーナンナ!」

 捨てた『アローフィッシュ』の臭いに釣られてやってきたって、それはないだろう?

「……」

 が、こちらを捕捉しているのは間違いなさそうであった。

「朝はもう少しゆっくりしたいんだけどな」

 船旅になれてきたところなのに、旅は終わりか。

 嵐の到来が早いか、クラーケンが早いか。

 ほぼ同時到着。

 流氷の壁に大波が押し寄せる。

 軋む氷塊。

 そこにワーム程もあるうねうねが、乗り上げてきた。

「砕けるぞ!」

 結構分厚くしたのに、重さに耐えきれずにヒビが入った。

 足ごと固め直す!

 もう一本の足が黒く、雨が吹きすさぶ空から降ってきた。

「ナーナァー」

 ミョルニルのフルスイングで弾け飛んだ。ほぼ同時に冷凍した足の根元を切断したら、荒れ始めた海のなかに消えた。

 海原が水平線ごと大きく揺れる。

 僕たちの巨大な氷の足場が悲鳴を上げる。

 オリエッタが走る。

 クラーケンは回り込んで別の場所から上陸を試みる気である。浅瀬のせいで、あちらは接近しづらそうであった。

 が、大波と共に別のぶっといのが氷に足を掛けてきた。吸盤で滑る表面も何のその。

 氷の地面が大きく沈む。代わりに海のなかから姿を現したのは。

「お久しぶり。そしてさようなら」

 急所を遮る物が多過ぎて狙いを定めるのも面倒だから、氷上に足を掛けて、そのまま凍ってしまってにっちもさっちもいかなくなった足を一蹴りして、頭なんだか腹なんだか、兎に角、目と目の間を中心に『衝撃波』を放った。

「ナーナンナ」

 ヘモジの一撃でも同じ結果になっただろうが、巨大なヌメヌメした肉の塊のでき上がりだ。

「足は一本あればいいな」

 土産は先程、切断した物だけで充分。後は嵩張るだけなので魔石に変える。大体、でか過ぎて、うちの倉庫に入るかわからない。

 魔石が海の底に沈んでしまっては勿体ないので、全身氷漬けにして海面に浮かせた。

 嵐のせいで、揺れるわ、軋むわ。流氷の一部にするのも一苦労だ。

 乗り上げてくる大波が、作業を煩わせる。

 大波も凍らせた。

「まったくもう」

 壁を高くして周囲を安全地帯に変えている間に肉が消えた。

 巨大な空洞ができた。

 ヘモジが壁を叩いて穴を開ける。

「クラーケンの抜け殻だ」

 オリエッタも興味津々、型抜きした氷の空洞に足を踏み入れた。

 一番深い所に緑柱石の如き輝きを発した特大魔石を発見した。

「思ったよりでかいな」

 精霊石まであと一歩といったところか。やはり足一本分と引き換えでは高く付いたか。爺ちゃんの『楽園』があれば、全部肉にしてもよかったんだけど。

 やはりあっち方面の修行も必要かな。

 あっち方面を習得すると、便利である半面、状況的に使われそうで嫌なんだよな。何せ、あちらの世界と意識的にではあるが行き来が可能になるんだから。ギルド通信なんて目じゃないから。

「重くて持ち上がらない」

 そりゃオリエッタには無理だろう。ヘモジはどうした?

「ナナーナ!」

 斜面がきつくて登れないって?

 なるほど足の先まで落ちたようだ。

 僕はふたりと魔石を転移させた。

「残る課題は出口だけになったな」

 気が楽になった。とは言え、出口が見付からないことには次のフロアには行けない。

「ひどくなってきた」

 雨が激しくなってきたので、僕たちは船に戻ることにした。

「雨が上がるまで、何もできないね」

 嵐になったら普通、船乗りは大変なことになるのだが、もはや氷の大陸に乗り上げた船のようにビクともしなかった。

「寒ッ」

 寒いのが難点だな。

 かまくらからコンロを回収し、船室で暖を取りながら嵐が過ぎるのを待つ。

「ナナナ」

「快適、快適」

「しっぽ焦げるぞ」

 温めたコーンポタージュでほっとする。

「ナーナ」

 ヘモジが餅をまた焼き始めた。

「ナーナンナ」

「またお汁粉?」

「海苔を巻いた奴がよかった」

「僕はきなこがいいな」

 どちらも持ち合わせがなかった。醤油は調味料セットに入っているが、海苔がない。

 それでも在庫の餅はあっという間になくなってしまったが。

「昼はいらないな」


 クラーケンが出現したということは、この周囲のどこかに出口があると考えるのが定石である。

「晴れたら岩礁地帯を隈なく見て回ることにしよう」

「クラーケン倒したら帰りたくなった」

「ナーナ」

 楽しみがなくなったからとは言い様だが。

 たまたまなのか。

 嵐とセットでやって来たというのは、難易度が跳ね上がったということではないのか。世界が傾くような大波のなかで、強風吹き荒れるなかで…… 遠距離攻撃が封じ込められるのではないか。

「近距離も駄目、遠距離も駄目となると」

 クラーケンと遭遇して、逃げられるとも思えないし……

「たまたまだったのかな」

 普通なら脱出一択の状況だったのかもな。

「ここまで来るパーティなら、状況を打破する必殺の一手ぐらい持ち合わせてるんだろうけど」

「ナーナ」

「ええ? スープ空になった?」

 まさか二日も経たずに全部飲み干すとは……

 ふたりのお腹が…… 水風船のようにたるんたるんになっていた。

「やることもないし」

 カードを片手に僕たちは嵐が過ぎるのを待った。



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― 新着の感想 ―
[一言] 接着する為の糊? 海藻の海苔? お餅に巻くなら海藻の方?
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