クーの迷宮(地下43階 イフリート戦)序盤からがんばる
前回分、投稿したつもりだったのですが…… 錯覚してました。m(_ _)m
今回分(12/20)も本日定刻通り投稿します。
申し訳ございません。
翌朝、精霊石を目にして「すげー」を連発する子供たちと朝食を済ませて、迷宮へ向かった。
「ふえー。ここが四十三層」
真っ赤に燃える世界だ。
「うわっ……」
「転んだら火傷しそう」
なだらかな坂を上る。
敷き詰められた火山灰が先日の積雪のように足跡を残す。
「雪とどっちがいい?」
「まだわかんないでしょ」
「暑い方が楽かな」
「俺は涼しい方がいい」
尾根を一つ越えて少し行った所で、ヘモジがコースを変えた。
子供たちは見えない壁に頭突きする。
「痛っ!」
言う程痛くないだろう。
「何これ?」
おでこをさする子供たち。虚空を撫でる。
「進入禁止エリアだ」
「ナーナ」
「ヘモジの後に付いて行きな」
「足元緩い」
坂が急になったせいで、足が取られるようになった。
突然大きな揺れが起こった。
「きゃっ」
マリーが足を掬われた。
咄嗟にニコレッタとヴィートが支える。
「!」
大噴火だ。
眼前の山から立ち昇る火柱、灰色の煙。その隙間から覗く黄金色の溶岩流。
先刻、頭突きした見えない壁の方にドクドクと、沸々と流れていく。
子供たちは立ち尽くす。
敵は魔物だけにあらず。
「これが四十三階層……」
「凄いね」
感慨無量のようだ。
「ナーナ!」
敵が出現した。
「マミー?」
「なんでこんな所に?」
「あれが『ファイアーマン』だ」
急な坂を上りきった所で出くわした。
こちらを見付けると、自ら火種に身をさらし燃え上がる。
子供たちも呆然。
そして敵は狂ったように駆けてくる!
「何あれーッ!」
本日の戦闘担当は子供たちなのでヘモジはスルーする。
子供たちは慌てて迎撃態勢に入る。
「火属性フロアだけど。弱点属性でやった方がいいのかな?」
ほっとする間もなくこれだ。
「相談したでしょう! やってみりゃわかるって!」
「見るからに火には強そうだけどな!」
正解は弱点属性。水攻めだ。
火属性の攻撃はフロア効果で強化されるが、敵は見たとおり火耐性に優れている。
要するにこのフロアの魔物にはプラスマイナスゼロということだ。
弱点属性の攻撃もフロア効果で減衰。だが、そこは弱点。与えるダメージは増加する。故にこちらも、単純に考えるとプラスマイナスゼロということになる。
属性環境が偏向していて、敵も同属性耐性を持っている場合、総じてそういうことになる。
考慮に入れるべきは「弱点とは何か」である。
『ファイアーマン』の場合、火が消えると攻撃性が緩まるという点だ。これは属性とは無縁だ。
どうすれば戦闘が楽になるのか。安全に倒せるのか。
戦いを優位に進めるファクターは何も攻撃力だけではないのだ。
火蟻は相変わらずだし、火蜥蜴は冷やしてやれば動きが鈍る。
そもそもフロア属性に関係ない属性で安定的に狩りをするってのも一つの手だ。
要は感じる側の気分次第。
子供たちも火を消すことが肝要だと判断したようだ。
『ファイアーマン』は再び夢遊病者のようになり、近付く前にすべて葬られた。
「鏃持ってきたけど使えないね」
坂だらけのこんな所で使ったら……
「紛失すること間違いなしだ」
イフリート戦用の備えだろうが、あそこでも使わない方がいいだろう。なくしてもいいなら構わないが。
「うわー。燃えてる」
峠から見下ろす世界はあちこちで燃えていた。
そして下り坂に点在する炎の玉は既に点火詰みの『ファイアーマン』御一行様だ。
「気合いを入れていくぞ!」
「おーッ」
「あ、気付かれた」
「当たり前だ! 声、大き過ぎだろッ」
どこまで本気なんだか。
子供たちは猛烈な勢いで迫ってくる『ファイアーマン』を次々撃破した。
圧倒的な飽和攻撃。
水をぶっかけられてやる気をそがれた『ファイアーマン』に抗う術はなかった。
「あー、魔石が転がっていっちゃった!」
ささやかな抵抗であった。
ようやく最初の分岐に辿り着いた。
「好きに選んでいいぞ」
「師匠はどっち進んだの?」
「外周コース」
「じゃあ、中に行こう」
「下見した意味がないじゃないか」
「地図情報が集まるでしょ」
それはそうだが……
細かい揺れが度々起こる。
最初は身構えるが、慣れるとただの脅しだとわかる。本番は大抵いきなりだ。
「『レッドスライム』!」
思ったより出番が早いな。
魔法使いにはさしたる障害にはならない。
「ごり押しだ。ごり押し」
次々殲滅していく。
近接戦闘だと敬遠されがちな相手だが。
「固めてしまえば問題ない」
そのドヤ顔は誰のまねだ?
ドラゴン装備の前には焼けただれた床も壁もお構いなしだ。
順調に最初の洞窟を過ぎる。
そして突然の大揺れ!
ドンという衝撃と共に通り抜けてきた洞窟の上方で噴火が起きた。
溶岩が迫ってくる!
「ナーナッ!」
ヘモジが先陣を切る。
「待って」
「ほら、頑張れ」
さすがに子供用には設計されていない。
溶岩流がどんどん迫ってきて、進入禁止エリアが増えていく。それに比例して行動範囲が狭まっていく。
下流にいた僕たちは高台を目指すが、距離は遠のくばかり。
流れの方が速いか。
谷間を流れる溶岩流がもうそこまで!
年長組が年少組の手を引く。年少組は必死に付いていく。
押し寄せる侵入禁止エリアが不意に後退した。
何が起った!
周囲が影に覆われた。
上だッ!
「なっ!」
さすがにここはテコ入れするしかない!
が、散らばり過ぎて転移は無理。結界を全力で展開―― しようとしてやめた。
溶岩流との間に大きな岩と土砂が転がり落ちてきて、谷間に栓をしたのだ。
時間が稼げた。
が、再び狭まる進入禁止エリア。
堰き止められるのも一時ということか。
「集まれ、転移する!」
全員、なんとか谷を越えることができた。
子供たちは息も絶え絶え。暑さも相俟って、一気に体力をそがれていた。
「やばかった」
ゼーゼーと息をする。
「ずっとこんな感じ?」
「いや、タイミングが悪かっただけだ。普通はもう少し余裕がある」
最初の判断がまずかった。駆け出すより先に子供たちの足を考慮に入れるべきだった。
「魔物よりやばいかも……」
ただでさえ喉の渇く環境で、子供たちは水筒の中身を喉に流し込んだ。
息を整えると、僕たちは再び歩み始める。
そして順調に二つ目、三つ目の分岐をこなしていった。
「一旦戻るぞー」
「外に出ちゃうの?」
「非常食の方がいいか?」
子供たちが首を振る。
「戻ってきたら、ここまで転移させてやるって」
「今日中に攻略できる?」
「その予定だけど」
聖堂とイフリートを同時攻略しようとすると、足が出ることはわかっている。だから本日は残業も考慮している。
だからこそ一旦帰って、しっかり腹を満たす必要があるのだ。
「後、大変なのはランタンの欠片集めと城砦突破だけだ」
「イフリート戦は?」
「それは別格」
子供たちを一箇所に集めて、僕はゲートを開いた。
「はぁあ。涼しい」
「涼しく感じる」
「この間と逆だね」
「身体壊しそう」
「ほら、帰るぞ」
「おいしい、ご飯が待っているー」
「お前は元気だね」
「子供から元気を取ったら何も残んないだろ!」
「いや、普通は残るわ」
「残るよ」
「残るよな」
「薄っぺらい奴だなぁ。お前は」
ジョバンニはヴィートの頭をグリグリこね回す。
笑顔が戻ったな。
あの噴火以来、カチコチだったからな。
昼食はパンに各種ジャム。ヘモジの特製サラダに肉の串焼き。スープは缶詰のコンソメスープ。デザートはシンプルプリン、生クリーム載せだ。
「今日はもう終わりでよくない?」
そうは問屋が卸さない。
「水筒の補充もよし!」
午後の部、再開である。




